映画通信シネマッシモ☆映画ライター渡まち子の映画評


【本音で語る新作映画レビュー】
シネマッシモでは、映画レビューはネタバレなしのヒントあり。映画を見る前と見た後と、2度読んで楽しめます。
映画評サイトもこのブログで4代目になりました。すべての映画好きを歓迎します!
(点数は100点が、★は5つが満点)
シネマッシモとは、シネマ(映画)とマッシモ(イタリア語でmax,最大)とを組み合わせた造語。
どうぞゆっくり楽しんでください \(^▽^)/

◎ 今週の気になる映画 ◎
「ドリーム」「亜人」「僕のワンダフルライフ」etc.

ユリゴコロ

ユリゴコロ (双葉文庫)
カフェを営む亮介の平穏な日常は、父が余命宣告され、さらに婚約者の千絵が失踪するという事態で、突如崩れ去ってしまう。失意の亮介は、父が住む実家で“ユリゴコロ”と書かれたノートを発見。そこには、人間の死でしか、生きていくための拠りどころを感じられない殺人者・美紗子の告白の物語がつづられていた。繰り返される殺人、友人の自殺、自分を心から愛してくれる男性・洋介との出会い…。これは創作か、事実か。誰が何のために書いたのか。なぜ自分はこれほどまでにこのノートに惹きつけられるのか。そんな時、亮介のもとに、千絵とかつて同僚だったという女性が、千絵の伝言を持って現れる…。

人間が死ぬ瞬間を見ることを唯一の心の拠りどころとして殺人を繰り返す女の壮絶な人生を描くミステリー「ユリゴコロ」。原作は沼田まほかるの同名小説で、いわゆる“イヤミス(読後にいやな気分になるミステリー)”と呼ばれるジャンルだ。映画は、亮介が読む手記の中の過去の物語と、亮介と父、失踪した婚約者・千絵らの現在のパートが交錯しながら、進んでいく。

殺人でしか心が満たされないという設定上、かなり凄惨な描写が登場するが、同じく死に取りつかれた美紗子の友人・みつ子のリストカットといった、殺人とは少し違う流血場面も相当に生々しい。ミステリーなので詳細は明かさないが、ノートに引きこまれる前半が心をザワつかせる異様なサスペンスなのに対し、後半は一気にラブストーリーに傾き、トーンダウンする感は否めない。さらに終盤には衝撃の事実が用意されているが、これが、あまりに偶然に頼る設定なのが、気になった。とはいえ、終始、暗い情念を感じさせるヒロイン役の吉高由里子は熱演だし、心に深い傷を抱えながら美紗子を愛し抜く洋介を演じる松山ケンイチもいい。サイコ・スリラーから純愛ラブストーリー、そして家族愛のドラマへ。テイストの変化がこの作品の個性だろう。
【60点】
(原題「ユリゴコロ」)
(日本/熊澤尚人監督/吉高由里子、松坂桃李、松山ケンイチ、他)
(流血度:★★★★☆)
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チェイサー



シングルマザーのカーラは、いつも訪れている公園で一瞬だけ目を離したすきに、4歳の息子フランキーを何者かに連れ去られてしまう。車で必死で追いかけるが、犯人は誰かわからず、まともに取り合ってくれない警察は当てにならなかった。息子を絶対に取り返すと誓ったカーラは、たった一人でフランキーを探し出し、取り戻そうと決意する…。

アメリカで社会問題になっている児童誘拐を題材にしたアクション・スリラー「チェイサー」。子どもを誘拐された親がどんな犠牲を払っても我が子を取り戻すというストーリーは「96時間」に似ているが、本作の母親カーラは、元凄腕スパイや元CIA特殊工作員などではない、平凡なウェイトレスなのだ。だが我が子を愛する気持ちと絶対に取り戻すという強い決意は「96時間」の最強の父親に勝るとも劣らない。息子を乗せた犯人の車を自分の車でひたすら追いかけるだけという展開は、一見メリハリがないように思えるが、次から次へとトラブルが巻き起こり、一瞬も目が離せなくなる。このテの追跡劇では必須の小道具のスマホを使わせない設定が、なかなか新鮮で、まさに身一つでの戦いだ。

オスカー女優でボンドガールも務め、ゴールデンラズベリー賞も受賞するという変幻自在(?)の美女ハル・ベリーも50歳を超えてさすがに老けたが、それでもほぼノーメイク、鬼の形相でも、やっぱり美しく、狭い車内での一人芝居に近い演技も迫力たっぷりだ。犯人はいったい何のためにカーラの息子を奪ったのか。その理由は、終盤に明かされる。アメリカでは18歳未満の児童誘拐事件は、年間約80万人、1日当たり2000人超ともいわれているそう。ヒロインの受難は、誰にでも起こりうる身近な出来事なのだということを知れば、アメリカの闇ともいえるその恐怖はリアルなものになる。カーラが地元の警察で、沢山の行方不明になった子どもの顔写真を見て絶望の表情を浮かべた後に、愛する息子を守るためには自分が動くしかないと決意する一瞬に、母の強さを見た。
【65点】
(原題「KIDNAP」)
(アメリカ/ルイス・プリエト監督/ハル・ベリー、リュー・テンプル、セイジ・コレア、他)
(母は強し!度:★★★★★)
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ナミヤ雑貨店の奇蹟

「ナミヤ雑貨店の奇蹟」オリジナル・サウンドトラック
2012年。少年時代を養護施設で過ごした敦也、翔太、幸平の幼馴染3人は、ある理由から悪事を働き、逃げる途中に廃屋のナミヤ雑貨店に身を隠す。そこは、かつて悩み相談を請け負っていて、郵便受けに投げ込まれた手紙に店主が真剣に答えてくれることで知られていた。すでに店は廃屋になっているが、その晩、敦也らは店に32年前に書かれた手紙が届けられたことに気付く。その郵便受けは1980年につながっていたのだ。3人は戸惑いながらも、当時の店主・浪矢雄治に代わって返事を書きはじめる。やがて手紙のやりとりから雑貨店と3人との意外な共通点が見えてくる…。

現在と過去が手紙を通してつながっていく時空を超えたファンタジー「ナミヤ雑貨店の奇蹟」。原作は、人気ミステリー作家・東野圭吾の小説だ。不思議な郵便受けに投函される手紙を通して現在と過去がつながるファンタジーというと、ハリウッドでもリメイクされた韓国映画のラブストーリー「イルマーレ」がすぐに思い浮かぶが、本作は恋愛要素はほとんどなく、複数のエピソードによって過去と現在が次々につながる、人間ドラマだ。ミュージシャン志望の青年、金持ちの愛人になろうとする若い女性らの悩みに答える形で、雑貨店店主と、敦也らを含む、施設の人々の人生が交錯する。やがて、それぞれが手紙に書かれた答えから自分の生き方を導き出した末に、あたたかい奇蹟が訪れる。

キーとなるのは、山下達郎の主題歌「REBORN」。この歌の歌詞が映画のストーリーとメッセージに絶妙にフィットした演出が上手い。大分県豊後高田市でロケした、昭和の香りの街並もノスタルジックだ。虚実がミックスする物語は、無論、ご都合主義も多いのだが、廣木隆一監督の演出は概ね自然体だ。ただ人気アイドルの山田涼介の顔のアップがやたらと多いのは少々気になる。一方で、重要な役を演じる子役の鈴木梨央ちゃんの好演(名演と呼びたい)が光っていた。登場人物は、2012年も1980年も、共に人生の岐路で迷う人々だ。そんな彼らの背中をそっと押すのが店主役の名優・西田敏行。“白い手紙”という最高難易度の相談に店主がくれた答えが、すべての人々の希望に思えた。泣ける話というより、ほっこりする話として楽しんでほしい。
【60点】
(原題「ナミヤ雑貨店の奇蹟」)
(日本/廣木隆一監督/山田涼介、西田敏行、尾野真千子、他)
(泣ける度:★★☆☆☆)
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スクランブル



頭脳派の兄アンドリューとメカニック担当の弟ギャレットのフォスター兄弟は、高級クラシックカー専門の強盗団だ。ある日、世界に2台しかない1937年型ブガッティを強奪するが、持ち主が残忍なマフィアのモリエールだったため、二人は囚われてしまう。兄弟は、自分たちの命と引き換えに、モリエールと敵対するマフィアのクレンプが所有する1962年型フェラーリ250GTOを盗んでみせると提案。わずか1週間の猶予しかない大仕事に、アンドリューの恋人で凄腕ハッカーのステファニーをはじめ、天才的な女スリ、爆発のスペシャリストらで、急きょ、寄せ集めのチームを組むことに。モリエールの親戚や、インターポールの捜査官らが入り乱れる中、クレンプに計画を知られてしまう。兄弟は崖っぷちに立たされるが…。

高級クラシックカー専門の強盗団が仕掛ける名車強奪作戦を描くクライム・アクション「スクランブル」。内容は、カー・アクションというよりも、巧妙な犯罪映画にして、大どんでん返しを用意したクライム・エンタテインメントだ。とはいえ、このテの映画のお約束“高級車と美女で目の保養”を忠実に守り、物語はあくまでも軽いノリ。犯罪劇もどこかのんびりとコミカルである。高級車を強奪するに当たっての兄弟の美学は、誰も思いつかないような驚愕の手口で完璧に盗んでみせること。もっとも、最初のブガッティ強奪では、あっさりとモリエールに捕まってしまうので、そのモットーが発揮されるのは次のフェラーリ強奪計画という筋書きである。

兄アンドリューを演じるのは「ワイルド・スピード ICE BREAK」にも出演しているスコット・イーストウッド。ルックスも父クリント・イーストウッドに似ているがアクションが得意なのも父親譲りのようで、ほとんどのシーンをスタントなしで熱演している。犯罪アクションとしては平凡な出来栄えだが、劇中に登場する高級クラシックカーの数々は、ポルシェ、BMW、アルファロメオ、ジャガーなどなど、マニア垂涎のものばかり。物語の発端となる車、1937年型ブガッティと1962年型フェラーリはさすがにレプリカだが、その他は、ほとんどが実際のコレクターが好意的に貸し出してくれたものだそう。車に詳しい人はもちろん、そうでない人も、走る芸術品とまで言われる名車を眺めれば、しばしの至福というものだ。
【60点】
(原題「OVER DRIVE」)
(仏・米/アントニオ・ネグレ監督/スコット・イーストウッド、フレディ・ソープ、、他)
(名車勢ぞろい度:★★★★★)
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あさひなぐ

あさひなぐ 公式映画原作本 弱き者の武道 (ビッグコミックススペシャル)
二ツ坂高校に入学した東島旭は、偶然出会ったなぎなた部の真春の強さに憧れ、運動音痴ながら入部を決める。“練習は楽”という誘い文句とは真逆の、過酷な練習に耐えながら、同じ1年生の将子やさくら、先輩で、圧倒的な実力者の真春らと共に、インターハイの全国大会を目指すことに。やがてインターハイ予選を迎えるが、ダークホースのライバル校に敗れてしまう。3年生が引退し、新しくなったなぎなた部は、山奥の尼寺での地獄の合宿を経て、ひと回り成長するが、思いがけない出来事によって部員の心はバラバラになってしまう…。

なぎなたに打ち込む女子高生たちの成長と友情を描く青春ストーリー「あさひなぐ」。原作はこざき亜衣による人気コミックだ。部活動を通してティーンエイジャーの成長と友情を描く内容はテッパンなのだが、何しろ、なぎなたというスポーツが、そのビジュアルも含めて大変興味深く描かれている。日本の伝統的な武器及び競技を指すなぎなたは、江戸時代に武家に嫁ぐ女性の護身用として用いられていたそう。そういう歴史のため、女性競技者が圧倒的に多いが、今は男性競技者も増え、世界選手権も開かれているのだそうだ。劇中に登場する、なぎなたの技や基本動作はとても美しく、迫力がある。

なぎなたというスポーツが、1対1でありながら、チームで競うスタイルであることから、同じ部活動ものの映画「ちはやふる」で描かれた競技かるたの戦法やテクニックとどこか共通するものを感じる。その熱気や魅力、個人の力とチームの力のバランスやジレンマもまた、よく似ている。実際、へたれで運動音痴の旭は、ゼロからはじめたなぎなたの虜になって自分自身の殻を破り、エース格の真春は、チームの一人として戦う意味を学んでいくのだ。部員それぞれのキャラも個性的で楽しい。人気アイドルグループ、乃木坂46のメンバーが出演する、いわゆるアイドル映画ではあるが、素材の面白さや、できるだけ代役を使わずに頑張ったというなぎなたシーンの迫力、随所に散りばめられたコミカルな演出のおかげで、意外なほど楽しめるスポ根青春映画に仕上がっている。
【65点】
(原題「あさひなぐ」)
(日本/英勉監督/西野七瀬、白石麻衣、西野七瀬、他)
(成長度:★★★☆☆)

西遊記2 妖怪の逆襲

Journey to the West: The Demons Strike Back [Blu-ray]
妖怪ハンターの三蔵法師は、病を押して、孫悟空、猪八戒、沙悟浄とともに天竺に向け旅をしていた。道中、孫悟空が、美女に化けては人間を喰らう蜘蛛女たちを退治したが、三蔵法師は孫悟空の手荒いやり方を非難。理不尽さに腹を立てた孫悟空が、三蔵法師を始末しようとチャンスをうかがう中、一行は比丘国へ到着する。比丘国の王は、常軌を逸した気分屋で、三蔵法師は、子どものようなこの王の機嫌を損ねてしまう。困った三蔵法師は孫悟空に助けを求めるが、状況は悪化するばかりで窮地に陥ってしまう…。

アクションファンタジー「西遊記 はじまりのはじまり」の続編「西遊記2 妖怪の逆襲」。続編とはいうものの、キャストはほぼ入れ替わっていて、前作から引き続き登場するのはスー・チーくらいだ。前作で監督したチャウ・シンチーは、続編は作らないというのがモットーだそうで、本作では監督はせず製作にまわっている。とはいえ、メガホンを取るのはシンチーの恩師で、香港のスピルバーグの異名をとる大御所のツイ・ハーク監督なので、それなりの豪華さはあるのだ。「人魚姫」のリン・ユンを起用するなど、女性キャラにも華やかさがある。ただ、肝心の映画の中身の方がさっぱりいただけない。

「西遊記 はじまりのはじまり」は相当にブッ飛んだ内容だったが、それまでの西遊記のイメージをブチ壊す設定は本作でも健在なのだ。だが、笑いという点では、最初から最後までスベりまくりで、まったくノレない。ストーリーも、仲間割れしては妖怪退治の繰り返しで単調すぎる。アクションだけは何とか見せ場を作っていて、美女蜘蛛女とのバトルや、クライマックスに、孫悟空が、映画では有名なあるキャラにも似た“大変身”を見せるなど、ヴィジュアル面はにぎやかだ。だが、西遊記特有のシンプルな楽しさが感じられないのはいかがなものか。ほとんどやけっぱちにしか見えないエンドロールの後が一番面白いのだから、あまりにやるせない。続編と思わず、単独の作品と思えば、かろうじて納得できる映画だった。
【45点】
(原題「JOURNEY TO THE WEST: THE DEMONS STRIKE BACK」)
(中国/ツイ・ハーク監督/クリス・ウー、ケニー・リン、スー・チー、他)
(続編度:★☆☆☆☆)
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ハイジ アルプスの物語

Heidi
ハイジは、アルプスの大自然の中で、頑固だが優しい祖父のアルムおんじと暮らしていた。ある日、ハイジは、足が悪く身体が弱いため車椅子生活を送る大富豪のお嬢様クララの話し相手として、大都会フランクフルトに行くことになる。明るく素直なハイジの励ましもあってクララは次第に元気になっていき、ハイジとは固い友情で結ばれていった。一方でハイジは、祖父が待つアルプスの山の暮らしが恋しくなる…。

世界中で愛されているヨハンナ・シュピリの児童文学を実写映画化した「ハイジ アルプスの物語」。日本では、名作アニメ「アルプスの少女ハイジ」があまりにも有名だが、実は過去に何度も実写映画化されている。今回は本国スイスでの実写化で、アルプスの雄大な大自然の描写がとりわけ素晴らしいのが特徴だ。ジブリアニメが50話以上の回に分けて、それぞれのエピソードを詳細に描いたのに対し、本作は、原点に回帰した“ダイジェスト版ハイジ”として手堅い作りである。

何と言っても素朴で元気なハイジがとても魅力的なのだ。ポスターで見た時は普通の少女に見えるが、スクリーンの中でイキイキと動く姿にたちまち魅了された。名優ブルーノ・ガンツが演じるおんじもイメージにぴったりである。少し意外なのは、悪ガキすぎるペーターと、美人すぎるロッテンマイヤーさんだろうか。アルプスの暮らしは、もはや憧れを通り越してファンタジーに近いが、それでも現代人に、大自然への畏敬の気持ちを思い起こさせる。おなじみの白パンのエピソードもいいが、ゼーゼマン家の召使のセバスチャンのさりげない優しさがいい。そして、クライマックスには、クララに起こる奇跡が待っていて、分かっているのに目頭が熱くなる。何しろ原作は不朽の名作。奇をてらわず、原作に忠実に映画化した本作は、人が本来持つ優しさや善意を全力で肯定するものだ。大人も子供も、素直に共感できる作品に仕上がっている。
【65点】
(原題「HEIDI」)
(スイス・独/アラン・グスポーナー監督/アヌーク・シュテフェン、ブルーノ・ガンツ、イザベル・オットマン、他)
(原点回帰度:★★★★★)
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奥田民生になりたいボーイと出会う男すべて狂わせるガール

「奥田民生になりたいボーイと出会う男すべて狂わせるガール」オリジナル・サウンドトラック
雑誌編集者コーロキは、“力まないカッコいい大人”奥田民生を崇拝する33歳。おしゃれライフスタイル雑誌編集部に異動になり、慣れない高度な会話に四苦八苦しながらも仕事に励んでいた。そんな時、仕事で出会ったファッションプレスの美女・あかりにひとめぼれする。コーロキは彼女に釣り合う男になろうと必死になるが、空回りばかり。天然で自由奔放なあかりに振り回され続けるコーロキは、いつしか身も心もズタボロになっていく…。

奥田民生に憧れる雑誌編集者が男を狂わせる美女に翻弄され、もがき苦しむ様を描くラブ・コメディー「奥田民生になりたいボーイと出会う男すべて狂わせるガール」。原作は、漫画家でコラムニストの渋谷直角の人気コミックだ。「モテキ」の大根仁監督の作品は、なぜか雑誌や漫画、写真誌などの編集部を舞台にしたものが多いが、本作もしかり。おしゃれで流行に敏感、ポップな感性やサブカルへの知識など、イマドキ感を散りばめて華やかだが、基本的には、ダメ男の成長物語というテッパンのストーリーだ。うだつのあがらない編集者は、男を翻弄するファム・ファタールに恋したことで自分を見失い、恋愛の地獄を見ることになる。

男たちは、愚かで常軌を逸し、女たちはしたたかでキュートという構図は、確かに面白い。恋愛の歓喜と地獄が人を成長させるというのも、真理だろう。だが、そもそも狂わせガールことあかりは、水原希子でいいのか?!とちょっと首をかしげるのは、私だけ? 好みの問題? 確かにエロくて可愛い小悪魔なのだけれど…。演技力、天然キャラ、コメディーセンスと、すべてにおいて、天才コラムニストを演じる安藤サクラの存在感の方が何倍も強烈だった。奥田民生の楽曲が全編にわたって効果的に流れ、歌詞はなるほど深い。だが、コーロキの奥田民生愛が感じられず、長い長いタイトルも含めて、すべてが表層的な作品になってしまったのが残念だ。
【45点】
(原題「奥田民生になりたいボーイと出会う男すべて狂わせるガール」)
(日本/大根仁監督/妻夫木聡、水原希子、新井浩文、他)
(ボーイ・ミーツ・ガール度:★★★★★)
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あさがくるまえに

フランス北西部の都市ル・アーヴル。夜明け前に友人とサーフィンに出掛けたシモンが交通事故に遭う。知らせを受けて病院に駆け付けた両親は、息子が脳死と判定されたことを告げられる。動揺する両親は、医師から移植を待つ患者のために臓器の提供を求められ、激しい戸惑いを隠せない。だが臓器移植が可能な時間は限られていた。その頃、パリでは心臓疾患患者のクレールが臓器提供を待っていたが、もう若くはない彼女は、他人の命と引き換えに延命することの意味を自問自答していた。そんな時、担当医からドナーが見つかったという連絡が入る…。

心臓移植をめぐって葛藤する人々の24時間を描いた人間ドラマ「あさがくるまえに」。原作は、メイリス・ド・ケランガルのベストセラー小説だ。脳死と判定された息子の臓器提供の選択を迫られる両親、生きるには心臓移植しか選択肢がないのに移植をためらう中年女性、限られた時間の中で奔走する移植コーディネーターなど、複数の人間が思い悩む様を描く群像劇だが、同時に心臓という真の主人公を軸とした、骨太な生と死のドラマでもある。映画は、心臓を提供する側、受ける側、それぞれの家族の思いを丁寧にすくい取りつつ、繊細な映像でみずみずしさを醸し出す。それでいて、医療現場や手術の描写は異様なほどリアルなのだ。観客は、この不思議なバランスの中にある感動に、心を奪われてしまうだろう。

女性監督のカテル・キレヴェレは、本作で、愛する人の死後、残された者たちが、どうやって生へアプローチするかを描いている。視点は常に生者の側だが、そこには逝ってしまったシモンへの愛情が確かに横たわっているのだ。夜明け前の青い空気の中、少年が海に向かう冒頭の場面は、悲しいほどポエティックで、見終われば、寄せては返す波の先にある生命の源のような海が、深い意味を帯びる。俳優たちは皆好演だが、移植コーディネーターのトマを演じるタハール・ラヒムがとりわけ素晴らしい。約束通りシモンに波の音を聞かせたトマが、夜明けの道をバイクで走る場面は、美しく忘れがたい。トマは医療現場で働くスタッフだが、物語の中では、死者と生者をつなく天使のような存在なのだ。キレヴェレ監督の作品を見るのは、本作が初めてなのだが、その才能は疑う余地はない。医療ものや社会派ドラマに傾かず、あくまでも一人一人の心情に寄り添うポートレイト的な手法と、卓越した映像センスが、この映画を高いレベルに引き上げている。
【85点】
(原題「REPARER LES VIVANTS」)
(仏・ベルギー/カテル・キレヴェレ監督/タハール・ラヒム、エマニュエル・セニエ、アンヌ・ドルヴァル、他)
(再生度:★★★★★)
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オン・ザ・ミルキー・ロード



隣国との終わりなき戦争が繰り広げられる東欧の某国。コスタは、毎日、ロバに乗って、銃弾をかいくぐりながら、前線の兵士たちにミルクを届けていた。ある時、コスタは、ローマからセルビア人の父を捜しに来て戦争に巻き込まれたという絶世の美女と出会い、互いに一目で惹かれあう。だが彼女は村の英雄ジャガの花嫁になることが決まっていた。そんな中、かつて彼女を激しく愛した多国籍軍の将校が送り込んだ特殊部隊によって、村は襲撃され、愛すべき村人は皆殺しに。偶然村を離れていて助かったコスタは、花嫁を連れて決死の逃避行を繰り広げるが…。

ミルク運びの男と美しい花嫁の愛の逃避行とその顛末を描く奇想天外な物語「オン・ザ・ミルキー・ロード」。世界三大映画祭を制した鬼才エミール・クストリッツァ監督は、過去にも時折、俳優として名演技をみせてきたが、自分の監督作品に主演するのは、今回が初めてだ。約9年ぶりとなる新作は、いかにもクストリッツァ監督らしい、にぎやかな作品で、のどかで平和な暮らしと残酷な戦争とが隣り合わせのドタバタ喜劇が、沢山の動物たちを交えて、繰り広げられる。人間も動物も、戦争も平和も、生も死も、すべてがゴッタ煮。スパイスは、おなじみのバルカン・サウンドの陽気な音楽。沸騰した鍋からあふれんばかりの大暴走のラブストーリーが展開する。これぞクストリッツァ・ワールドだ。

ストーリーの先読みが不能なほど物語はカオス状態なのだが、悲劇的な内戦を経験した旧ユーゴ出身のクストリッツァがたどり着く結末は、人間の愚かさや戦争の悲惨を容赦なく突きつける、破壊的な描写だった。それでもこれは、紛れもなく愛の寓話である。美貌のモニカ・ベルッチ演じるワケありの花嫁も、壮絶な過去を持つコスタも、もう若くはない。だが共に地獄を見てきたからこそ、彼らの愛の逃避行は、この上なくピュアだ。劇中、象徴的に描かれる蛇やハヤブサ、花嫁が難民キャンプで繰り返し見る旧ソ連映画「鶴は翔んでゆく」、ラストに登場する、黙々と石を運ぶ僧侶。すべてが平和への祈りに通じている。
【70点】
(原題「ON THE MILKY ROAD」)
(セルビア・英・米/エミール・クストリッツァ監督/エミール・クストリッツァ、モニカ・ベルッチ、ミキ・マノイロヴィッチ、他)
(カオス度:★★★★★)
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◆ペンネーム:渡まち子
◆映画ライター、映画評論家
◆こんなお仕事やってます:
新聞、雑誌、インターネットで、映画評、映画コラム、DVD紹介などを執筆。他にも、映画コメンテーターとしてラジオ出演、大学での公開講座や企業主催の映画セミナーなど、映画に関する幅広い仕事をこなしながら活動中です。
◆青山学院文学部史学科卒業。西洋史が専攻で、卒業論文はベネチア史。学んだことを生きている間に有効に活かせるのだろうか…と、かなり心配。
◆エトセトラ:
古今東西の映画をこよなく愛す、自他ともに認めるシネフィル(映画狂)です。時に苦言を呈すこともあるその映画批評の基本は、映画へのあふれる愛情と自負しています。どんなダメ映画でも必ずひとつはあるイイところを発見するのが得意技。大のサッカー好きで、欧州リーグからJリーグまでTPOに合わせて楽しんでます。
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