ミスト
通常、恐怖は黒で表すが、白い霧のビジュアルは新鮮だ。田舎町で不気味な霧が発生、その中に潜む謎の生物により人々が追いつめられていく。怖いのは霧の中の“何か”より、恐怖で常軌を逸する人間の方という設定は秀逸。だが狂気が主題なら怪物は不要だし、モンスター・パニックにしては印象が弱い。むろんホラーではない。原作者も絶賛の衝撃の結末が話題だが、はたしてそうだろうか?ダラボンらしくない後味の悪さが好きになれない。【65点】
(シネマッシモ評価:★5つが満点)サバイバル度:★★★★
(原題「The Mist」)
(アメリカ/フランク・ダラボン監督/トーマス・ジェーン、マーシャ・ゲイ・ハーデン、ローリー・ホールデン、他)
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ペパーミント・キャンディー
ペパーミント・キャンディー
韓国映画「光州5・18」では、光州事件の全貌が描かれている。この事件は、1980年5月18日から27日にかけて、韓国の光州市で発生した民主化運動弾圧事件。韓国の歴史の中でも特に悲劇的な傷跡を残す出来事と言っていい。
光州事件を、初めて“正面から”描いた「光州5・18」だが、それ以前にもさりげなくこの事件について触れている映画は、いくつかある。その中の1本が、イ・チャンドン監督、ソル・ギョング主演の「ペパーミント・ジャンディー」だ。
物語の主人公は、全てを失くして自殺しようとする男ヨンホ。病床にある初恋の女性を見舞う3日前に遡るのを発端に、ストーリーは、時間を逆行するというユニークな構成で描かれる。事業では成功するものの妻の浮気を知る。警察が国家に隷属していると知りつつ刑事になる。苦く痛烈な思いをする徴兵時代。愛する人と未来に対して輝く夢を語った20歳の頃。これは、自殺寸前の中年男が、最後に希望に満ちた若者へと変わる皮肉な仕掛けだ。
主人公が人生の敗北者であることは、映画冒頭ではっきりと分かる。なぜこうなったのかということを時間を遡って語っていくのだが、主人公ヨンホの人生を狂わせるきっかけになったのが、徴兵時代に経験した光州事件という設定だ。一兵士だったヨンホは、戒厳令下の中、暗闇の中で負傷し、誤って発砲。不可抗力で女子高生を射殺してしまう。平凡で前向きな青年だった彼の心に、この出来事は、大きな傷となって残ってしまい、その後、自暴自棄の人生をおくることになってしまうのだ。
「光州5・18」は民衆の側に立ったドラマで、何の説明もなく丸腰の市民や学生に発砲した軍は、匿名性の強い無個性な人間たちとして描かれる。だが「ペパーミント・キャンディー」の主人公のように、何が何だかわからないまま命令を受けた若者も大勢いたに違いない。事実、当時の軍事政権によって、厳しいマスコミ統制が行われていたため、一部の例外を除いて、外国メディアはおろか、韓国国民にも事件について詳しく説明されることはなかった。長い間、光州市民は暴徒と考えられていたというから、まさしく悲劇だ。両方の作品を見ると、いかにこの事件と時代が不当なものであったか理解できる。
主人公が徴兵される前に勤めていた工場で作っていたのがペパーミント・キャンディー。純粋さと希望の象徴に思える。時間を遡るという個性的な演出法が印象に残る作品だったが、事件を正面からとらえた「光州5・18」が世に出た後ならば、逆に本作の演出意図も伝わりやすくなろう。一人の男の人生を語る形で、韓国の近・現代史をたどり、同時に現代へとつながる民主化への苦い流れを検証しているのだ。
ちなみに本作は、日本のNHKと韓国の共同制作で、韓国の日本文化開放後、両国が最初に取り組んだ記念すべき作品だということも付け加えておきたい。
出演は、ソル・ギョングほか、ムン・ソリ、キム・ヨジン、他。
(1999年/日本・韓国/イ・チャンドン監督/原題「Peppermint Candy」)
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光州5・18
韓国も自国の歴史の闇を描ける時代になった。1980年5月18日の光州事件を初めて真っ向から描く映画だ。当時、暴徒とされた光州市民が、実は軍によって不当に殺害された犠牲者だった事実はあまりに悲痛。韓国映画らしいメロドラマ仕立ては少々辟易するが、それでも未来を奪われた人々の涙は真実だ。同じ国民同士で殺し合う悲劇と共に、国際社会に事件が伝わらないもどかしさがつらい。花嫁だけが笑っていない写真が全てを物語る。【65点】
(シネマッシモ評価:★5つが満点)衝撃度:★★★★
(英語原題「MAY 18」)
(韓国/キム・ジフン監督/キム・サンギョン、イ・ヨウォン、イ・ジュンギ、アン・ソンギ、他)
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ハンティング・パーティ
悲惨な実話を社会派エンタテインメントとして飽きさせずに見せた手腕を評価したい。物語は、紛争地帯のサラエボで重要戦争犯罪人を追うジャーナリストたちのスリリングな追跡劇だ。“スレブレニツァの虐殺”事件は未だに未解決。映画は、どこまでが真実かは想像するしかないが、欠点だらけの主人公のいいかげんさとガッツの割合が絶妙だ。報道がテーマのバディ・ムービーとして楽しんだ後、人権とは?とゆっくり考えるのもいい。
【65点】
(シネマッシモ評価:★5つが満点)堅苦しさ度:★
(原題「THE HUNTING PARTY」)
(アメリカ/リチャード・シェパード監督/リチャード・ギア、テレンス・ハワード、ダイアン・クルーガー、他)
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隠し砦の三悪人 THE LAST PRINCESS
この映画の唯一の見所は、オリジナルをトレースするだけでなく現代風にアレンジしたところ。侍と2人の若者が、金塊と姫君を守りながら冒険を繰り広げる娯楽活劇だ。何をやっても文句が出る黒澤映画リメイクには、これくらいの気概を持ちたいもの。ロマンスを盛り込むなど不必要な脱線はあるが、松本潤を主役にするならこれも仕方ないか。知名度の高い名作に手を出すなら独自性が勝負だ。森田版「椿三十郎」に比べたらよほど好感が持てる。【60点】
(シネマッシモ評価:★5つが満点)スピード感度:★★★★
(日本/樋口真嗣監督/松本潤、長澤まさみ、宮川大輔、阿部寛、他)
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映画レビュー「最高の人生の見つけ方」
◆プチレビュー◆
名優二人の絶妙な掛け合いが最高。人生にはやりたい事とやらねばならない事がある。 【75点】
家族想いの自動車整備工カーターと独身の大金持ちで傲慢なエドワードは、病院で偶然相部屋になる。何から何まで正反対の二人だったが、共に余命6ヶ月と分かると意気投合。“バケット・リスト”を手に旅に出る…。
バケット・リスト(棺おけリスト)とは、死ぬ前にやっておきたいことを書き出したもの。若くて元気な頃は楽しい空想だが、老いて死を目前にしたらそれは本気で“やるべきこと”になる。カーターが作ったこのリストに同室のエドワードが勝手に項目を付け加えたことから、1枚の紙切れは動きだした。ちなみに、大富豪がなぜ豪華な個室ではなく相部屋なのかという謎の答えは、映画を見て確かめてほしい。その病室では、家族や親戚が次々に見舞いにくるのがカーター。エドワードはと言うと見舞い客は秘書ただ一人だ。この状況で二人がどんな人生を送ってきたかを見事に語る。ロブ・ライナー監督が久しぶりに才能を発揮したヒューマン・ドラマは、笑いと涙の老人バディ・ムービーだ。
老人といっても普通のじいさんじゃない。渋い名優フリーマンとハジけた怪優ニコルソンである。癌で半年後に死ぬ運命の人間を、愉快に演じて笑わせ、泣きの芝居など微塵も見せない。そのくせ、映画なのに、二人が逝った後の寂しさはどうだろう。私はそれほどカーターとエドワードという老人二人が大好きになっていた。欧州、アフリカ、インド、香港。リストに書かれた夢を次々にかなえる彼らの豪勢な旅に、確かに自分も立ち会った。
そのバケット・リストには、そもそもどんなことが書かれているのか。スリルと冒険と愛に満ちた“やり残したこと”が好対照で面白い。例えばカーターは「見ず知らずの人に親切にする」。一方、エドワードは「スカイダイビングをする」。精神的な満足と物質的な興奮。こんな二人が徐々に歩み寄り、変化するのが好ましい。特にエドワードがふざけて書いた「世界一の美女にキスをする」が叶えられる瞬間は、目頭が熱くなる。金儲けばかりに気をとられていたエドワードはカーターの人間性に触れ、価値ある人生を取り戻したのだ。
変わったのはエドワードだけじゃない。勤勉実直なカーターも、実は若い頃、夢をあきらめたことへの苦い後悔がある。家族のために尽くした人生は立派なものだが、チャレンジを恐れたのもまた事実。そんな彼がアフリカでライオン狩りをするときの顔の、なんと楽しそうなことか。カーターは自分に贅沢を与えることに挑戦した。それがどんなに大切なことかは彼の笑顔が教えてくれる。
もちろん末期ガン患者が、医者や家族の意見を無視して世界旅行だなんて…と思う人もいるだろう。でも、それが伝統的にポジティブなアメリカ映画の良さだと思う。名優たちの適度に肩の力の抜けた演技はたまらなく魅力的。その証拠に、人が二人も死ぬ映画だというのに、こんなに溌剌(はつらつ)としているではないか。壮大な景色の向こうで、彼らは今も笑っている。
(シネマッシモ評価:★5つが満点)生涯の友度:★★★★★
□2007年 アメリカ映画 原題「THE BUCKET LIST」
□監督:ロブ・ライナー
□出演:ジャック・ニコルソン、モーガン・フリーマン、ショーン・ヘイズ、他
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パーク アンド ラブホテル
汚れた日常の上のファンタジー。ホテルの屋上の公園とは、そんな異空間だ。寂れたラブホテルの女性オーナーと、3人の女性との交流を静かに描く物語。PFF出身の熊坂出監督は、セリフと表情を最低限に抑えて、登場人物の心の傷を見つめている。りりィ演じる、無愛想だが情にあつい主人公の、人との距離感が独特でいい。08年ベルリン映画祭最優秀新人作品賞と聞くと大仰だが、ぶっきらぼうで静かな作品。でも確かな個性を持っている。
【65点】
(シネマッシモ評価:★5つが満点)女性映画度:★★★★
(日本/熊坂出監督/りりィ、梶原ひかり、ちはる、神農幸、他)
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スウェーディッシュ・ラブ・ストーリー
ロイ・アンダーソン監督のデビュー作は1969年製作で北欧版「小さな恋のメロディ」と呼ばれているが、実際はかなりビターなドラマだ。初公開時の邦題は「純愛日記」。15歳のペールと14歳のアニカの初恋は瑞々しいが、並行して描かれる周囲の病んだ大人たちの描写が痛々しい。少年たちもやがてこんな大人になるのかと、もの哀しさが漂う。「ベニスに死す」の美少年ビョルン・アンドレセンが端役で映画デビューしているのでファンは必見だ。【60点】
(シネマッシモ評価:★5つが満点)垢抜けない度:★★★★★
(原題「A SWEDISH LOVE STORY」)
(スウェーデン/ロイ・アンダーソン監督/アン=ソフィ・シーリン、ロルフ・ソールマン、バーティル・ノルストレム、他)
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あの空をおぼえてる
テーマは愛する者の喪失と家族の再生。娘の絵里奈を事故で亡くし立ち直れない父親と、両親を元気付けようと奮闘する息子の繊細な思いを描く。在りし日の絵里奈の明るさが過剰すぎて白々しさが漂うのが難点。冨樫森監督は子供を描くのが上手いのに、死という重い設定が演出の腕を鈍らせたか。オルフェウスの挿話も活きてない。何より展開が冗長でテンポが悪い。唯一、新しい命を宿した母親が強くあろうと懸命な姿に説得力があった。【45点】
(シネマッシモ評価:★5つが満点)泣ける度:★★
(原題「WENNY HAS WINGS」)
(日本/冨樫森監督/竹野内豊、水野美紀、広田亮平、小日向文世、他)
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「旅先でビール」で旅気分
大型連休も今日でひとまず終わり。今年は曜日の並びが良くなかったですね。
とはいえ、並びが良くても、人が大勢一気に移動する時期の旅行が苦手な私としては、GWは遠出はしないと決めてます。そんなとき思いついたのが、擬似旅行。
そうだ、旅の本を読もう。
旅先でビール
ということで、手にとったのが、旅行エッセイ「旅先でビール」。著者は評論家の川本三郎氏です。この作家の本は、映画関係は、職業柄、結構読んでいるんですが、旅に関するものを読んだのは初めて。これが、実にイイ感じの1冊でした。
読んでいて気分がいいとはまさにこういう本を言うんでしょう。
国内の小さな旅が、5月の薫風のようにつづられています。
私としては、超映画ツウで一級の映画評論家の氏が、さりげなく盛り込む映画ネタが読んでいてワクワクものでした。例えば、京都の大徳寺に清水宏監督のお墓があるとか、ホウ・シャオシェン監督の「珈琲時光」に登場するのは群馬県の上信電鉄の根小屋(ねごや)駅だとかという“映画的マメ知識”が添えられているのが嬉しくて。随所に表れる、日本の美しい風景への、あたたかいまなざしも好ましい。同時に、鋭い洞察力にしばしば驚かされます。
何より気に入っているのは、氏の文章の“やさしさ”でしょうか。
ちなみに常日頃、私が基準として考える「頭がイイ人の文章」というのがあって、それは、「難しいことを、やさしい言葉で、短く述べる」ということ。氏の作品は、この条件をパーフェクトに満たしているのです。しかも面白い。
川本三郎氏は、映画評論以外にも文芸評論や随筆など著書多数。プレス資料などにも多く寄稿されているので氏の文章に触れる機会は多いのですが、映画以外の、特に旅や町歩き系のエッセイには、間違いなくハマってしまいそう。激しくマイ・ブームの予感です。
そういうわけで、明日からは「旅先でビール」の続編(姉妹編?)のような扱いの「東京暮らし」に取りかかる予定。ウン、これもきっと素敵な一冊に違いありません。
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