映画通信シネマッシモ☆映画ライター渡まち子の映画評


【本音で語る新作映画レビュー】
シネマッシモでは、映画レビューはネタバレなしのヒントあり。映画を見る前と見た後と、2度読んで楽しめます。
映画評サイトもこのブログで4代目になりました。すべての映画好きを歓迎します!
(点数は100点が、★は5つが満点)
シネマッシモとは、シネマ(映画)とマッシモ(イタリア語でmax,最大)とを組み合わせた造語。
どうぞゆっくり楽しんでください \(^▽^)/

◎ 今週の気になる映画 ◎
「沈黙」「ザ・コンサルタント」「マギーズ・プラン」etc.

パシフィック・ウォー

USS Indianapolis: Men Of Courage [Blu-ray + Digital HD]
太平洋戦争末期の1945年。マクベイ艦長率いるアメリカ軍の巡洋艦インディアナポリス号は、極秘任務を下される。それは、戦争終結を目的とした原子爆弾をテニアン島に輸送する任務だった。日本軍の猛攻をかいくぐりながら、何とか目的地に到着し任務を終えたマクベイ艦長と兵士たちは、次の任務地へと向かって出航する。だが、橋本少佐率いる日本軍の潜水艦から発射された魚雷が艦を直撃し、インディアナポリス号は沈没。生存者たちは太平洋を漂流することになる…。

原子爆弾の材料輸送の極秘任務を遂行した海軍巡洋艦インディアナポリスの艦長と兵士たちの過酷な運命を、史実をベースに描く「パシフィック・ウォー」。太平洋戦争の知られざる事実を描く戦争アクション…といった宣伝文句だが、本作は、アクション映画というより、むしろサバイバル映画。インディアナポリス号は、日本の魚雷によって沈没し多くの兵士が命を落とすが、かろうじて生き残った者たちには、飢えと渇き、そして獰猛な鮫たちが襲い掛かるのだ。もはや鮫映画と言えるほど、その状況はすさまじい。極限状態での人間ドラマ、とりわけ、一人でも多くの部下の命を救おうと奮闘するマクベイ艦長の苦悩のドラマは見応えがある。だがしかし。非常に残念なのは、あまりにもCGがお粗末なのだ。ハリウッド発の映画で久しぶりにこんな粗雑なCGを見たが、低予算映画の悲しさなのだろう。マクベイ艦長を演じるニコラス・ケイジをはじめ、役者陣(日本からは竹内豊が参加)は意外なほど好演している。軍艦インディアナポリスの役割と悲劇は知っているが、その後の軍法会議のいきさつは日本ではあまり知られていないはず。むしろ、裁判劇にすれば面白い作品になったかもしれない。ちなみに鮫映画の金字塔「ジョーズ」では、インディアナポリス号の生き残りという設定のキャラクターがいたことを、付け加えておく。インディアナポリス号の受難は、鮫の恐ろしさを広く知らしめた事件だったのだ。
【50点】
(原題「USS INDIANAPOLIS: MEN OF COURAGE」)
(アメリカ/マリオ・ヴァン・ピーブルズ監督/ニコラス・ケイジ、トム・サイズモア、竹内豊、他)
(サバイバル度:★★★★☆)
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疾風スプリンター



チーム・レディエントは、エース選手のチョン・ジウォンが引っ張る自転車ロードレースの強豪チーム。そこにチウ・ミンとティエンがアシストとして所属することになる。2人は互いにエースの座を目指しながらアシストとして力をつけていき、ジウォンを加えた3人は友情を深めていく。台湾各地で連戦を繰り広げる彼らだったが、ある日、チーム・レディエントは資金難により運営困難に。ジウォン、ミン、ティエンの3人はそれぞれ別のチームに所属することになり、各チームのエースとなって、ライバルとして戦うことになる…。

自転車ロードレースの世界を舞台に、激しく競い合うライバル同士の友情と成長を描くドラマ「疾風スプリンター」。日本でも、自転車競技は、人気漫画の影響もあって注目度を増しているが、迫力の競技シーンをとらえた実写映画である本作もまた、自転車ロードレースの魅力をたっぷりと伝えてくれる。個人戦に見える自転車競技は、実際はチームで戦うスポーツで、ごく簡単に言うと、一人の爆発的なパワーを持つエースを、複数のアシストがさまざまなテクニックでサポートするスタイルだ。ダンデ・ラム監督の演出はスポーツ映画の王道ともいえるもの。タイプの違うライバルたち、同じ女性に想いを寄せる三角関係、栄光、挫折、再起、そして、確かめ合う男の友情と、テッパンの作りで、安心感がある。その分、目新しさはないが、それでもこの物語に胸が熱くなるのは、競技のシーンが並外れて素晴らしいからだ。ラム監督がこだわったレースシーンは、大掛かりな街頭ロケ。俳優たちは山や砂漠を含む過酷な場所での撮影にスタント無しで挑んでいる。そのおかげで、レースの迫力はスクリーンのすみずみまであふれている。天性爛漫な性格で野心家の天才型チウ・ミン、身体に問題を抱えながらも真面目な努力型のティエン、クールなエースのジウォンと、キャラクターのメリハリも効いている。演じる俳優のイケメンぶりがそれぞれタイプが違うので、ストーリーを追いやすいのもいい。ラム監督にしてはさわやかすぎるのがちょっと意外だが、タイトル通り、疾風のようなレースに魅了されるスポ根映画だった。
【65点】
(原題「TO THE FORE」)
(香港、中国/ダンテ・ラム監督/エディ・ポン、チェ・シウォン、ショーン・ドウ、他)
(臨場感度:★★★★☆)
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NERVE/ナーヴ 世界で一番危険なゲーム

NERVE
地味な女子高生ヴィーは、勢いで始めたオンラインゲーム“ナーヴ”に挑戦する。そこでヴィーは、同じプレイヤーで魅力的な男性イアンと知り合う。課題克服型のナーヴは、最初は少しのスリルを味わう程度のものだったが、次第にミッションはエスカレートし、暴力性を帯び、生死をかけたものに変貌していく。課題をクリアするたびにポイント(賞金)を手にし、大胆になっていくヴィーだったが、イアンの意外な顔があらわになり、親友との友情にもヒビが入ってしまう。それでもナーヴにのめり込むヴィー。生き残る道は、危険なミッションをやり遂げるしかなかったが…。

危険なオンラインゲームを通してネット社会に警鐘を鳴らすサイバー・サスペンス・スリラー「NERVE/ナーヴ 世界で一番危険なゲーム」。ネット依存や匿名性、モラルの欠如など、この映画が言わんとすることは実にわかりやすい。その意味では目新しさはないのだが、スマホを片時も離せない生活や、ユーチューブやSNSへの依存などは、他人事ではない人も多いはずだ。地味で目立たない女の子が、注目され人気者になることで快感を覚え、賞金を得て、大胆に変化するという設定も“あるある”だ。映像や音楽などはスピード感が満載で、描き方が非常に刺激的なので、若者たちの共感も得やすいだろう。オンラインゲームの中の世界を青と紫の色彩で表すのもスタイリッシュでいい。最初は、知らない人とキスをする、高級服を試着するなど、他愛無いものだった課題が、やがて命がけの領域へ。無責任な要求でエスカレートする視聴者は、匿名性を帯びているだけに、他人の不幸を娯楽としてとらえる危険なネットユーザーなのだ。参加型ゲームはすでに現実世界でも大人気。映画は極端な世界を描くが、私たちは案外この危険なナーヴのすぐそばにいるのかもしれない。
【60点】
(原題「NERVE」)
(アメリカ/ヘンリー・ジュースト、アリソン・シュルマン監督/エマ・ロバーツ、デイヴ・フランコ、エミリー・ミード、他)
(同時代性度:★★★★★)
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天使にショパンの歌声を



1960年代、カナダ・ケベック。とある寄宿学校は、音楽教育に力を入れコンクールで優勝者も出す名門校だったが、修道院による学校運営の見直しと、予算不足との理由で閉鎖の危機に瀕していた。校長のオーギュスティーヌは音楽の力で世論を動かし、何とか学校を存続させようと奔走する。そんな時、彼女の姪のアリスが転校してくる。アリスは家庭環境のせいで心を閉ざし問題ばかり起こしていたが、天性のピアノの才能があった。オーギュスティーヌは何とかアリスに音楽の素晴らしさを教え、心を開かせようとするが…。

音楽の名門校が廃校の危機を音楽の力で乗り切ろうとするヒューマン・ドラマ「天使にショパンの歌声を」。教育も含め、近代化への変革期にあった1960年代のカナダ・ケベックが舞台だ。雪深い場所に立つカトリック系の寄宿学校は、浮世離れした世界だが、祈りや教育の場にも確実に変化が必要とされていて、そこで生きる女性たちも、古い因習や大きな権力に立ち向かうことになる。60年代といえば、世界的にフェミニズム台頭の時代だが、女性の自由、権利、社会進出には、まだまだ大きな困難が立ちふさがっていたのだ。学校では、変わろうと懸命なものたちもいれば、伝統にしがみつくものもいる。だがいつの時代も、未来を担う子供たちは変化に対応しながらしなやかに生きていて、大人たち、本作で言えば、教師である修道女たちに、未来を見据える力をあたえているのだ。寄宿学校に住む少女たちには帰る家がないものも大勢いる。その悲しみ、それを乗り越える強さを、ピアノ曲や合唱曲で表す演出が、胸にしみた。監督は「天国の青い蝶」などのレア・プール。ハリウッドのご都合主義的映画とは一線を画し、時に苦い現実をつきつける場面も。天才少女役のライサンダー・メナードの素晴らしいピアノ演奏、劇中に登場するショパンをはじめとする名曲の数々が心に残る。
【60点】
(原題「LA PASSION D'AUGUSTINE」)
(カナダ/レア・プール監督/セリーヌ・ボニアー、ライサンダー・メナード、ディアーヌ・ラヴァリー、他)
(女性映画度:★★★★☆)
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試写室だより 1月上旬

試写室だより全国的に強烈な寒波がきてるこの週末!特に北日本、特に受験生の方々、大丈夫でしょうか?くれぐれも体調管理にはご注意ください〜!

最近見た主な映画は以下。年始なので、ほとんど見てない状態ですが…(汗)

「相棒IV」「ラ・ラ・ランド」などなど。

1月上旬は、恒例のベス・ワスの発表をしたんですが、試写室仲間の同業者からツッコミが!

ベスト映画だけど、「オデッセイ」、忘れてない?

あ〜、そうでした!
これ、2016年公開だけど、試写で見たのが2015年末だったから、すっかり忘れてた…。こっそりとベストムービーに追加しております (;^_^A


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本能寺ホテル

映画「本能寺ホテル」オリジナル・サウンドトラック
流れに身を任せて生きてきたOL繭子は、会社の倒産をきっかけに恋人の恭一と結婚することになり、彼の実家の京都へと向かう。京都の路地裏にたたずむレトロな宿・本能寺ホテルに宿泊することになるが、そのホテルのエレベーターに乗ると不思議な世界へ迷い込み、気が付けばなぜか1582年の本能寺へとたどり着いていた。繭子は現代と1582年を行き来しながら、織田信長や森蘭丸と交流し、次第に信長の人間性に惹かれていく…。

平凡なOLが天下統一目前の織田信長と出会い、今もなお多くの謎に包まれた歴史の大事件“本能寺の変”に遭遇する歴史ミステリー「本能寺ホテル」。過去とつながる不思議なホテルに滞在したヒロインは、戦国時代と現代を行き来するが、タイムスリップものの常として、未来から来た人物が過去を変えていいのか?という命題にぶつかってしまう。最初は暴君だと思った信長の、人間的な魅力を知った繭子は、信長に本能寺で起こる出来事を伝えていいものかと悩むが、それに対する信長の対応が、これまた人間の大きさを表していて、その後に起こった秀吉の中国大返しがなぜ可能だったのかという疑問の答えに結びつく展開はなかなかうまい。信長が好きだったというお菓子・金平糖や、これを持てば天下人になれるという茶入など、歴史の面白アイテムが散りばめられているのも楽しい。特にやりたいこと、なりたいものもなく漠然と生きてきた繭子が、本能寺の変直前の信長に会うという強烈な体験によって、内面が変化し成長するところが一番の見所…と言いたいところなのだが、このヒロイン、まるでキャラが立っておらず魅力に乏しいのだ。歴史に詳しい、もしくはまったくの歴史オンチなら、話もコミカルになっただろう。また、自分の意見もさしてない性格なのに、突如、信長にタンカを切ってみたりと、性格に統一性が見られない。つまりこの主人公に感情移入できないのだ。むろん演じる綾瀬はるかのせいではなく、脚本に問題があるのだろう。少々安易な成長物語に仕上がってはいるが、現代のパートでは、京都巡りの趣もあるので、ライト感覚の歴史ものご当地映画として楽しみたい。
【50点】
(原題「本能寺ホテル」)
(日本/鈴木雅之監督/綾瀬はるか、堤真一、濱田岳、他)
(成長物語度:★★★☆☆)
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ネオン・デーモン

Neon Demon [Blu-ray]
モデルを夢見て、田舎から大都会ロサンゼルスにやってきた16歳の美しい少女ジェシー。すぐにモデル事務所と契約し、チャンスを手にしたジェシーは、一流カメラマンやデザイナーを魅了するようになる。だが、ライバルたちは異常なまでの嫉妬でジェシーを引きずり降ろそうとする。やがて自らの激しい野心に目覚めたジェシーは、ファッション業界の裏側に渦巻く邪悪な毒に染まっていく…。

田舎から出てきた純真な美少女が弱肉強食のファッション業界で自らの闇に目覚め、のしあがっていく「ネオン・デーモン」。物語の大筋をこう説明すると、ポール・バーホーベン監督の「ショーガール」を連想しそうだが、本作の監督は「ドライヴ」「オンリー・ゴット」で観客を驚かせてきたデンマーク出身の鬼才ニコラス・ウィンディング・レフンだ。単純なサクセス・ストーリーで終わるはずがない。美を競うモデル業界を背景に描かれるのは、嫉妬と狂気。人間の価値は、外見の美にあるときっぱり言い切るセリフがあるが、美のためなら命さえも惜しまないファッション業界ならば、当然の“常識”だろう。悪趣味スレスレの幻想的でエキセントリックな映像や、ヒロインの激変、彼女がたどる驚愕の運命など、すべてが過剰で強烈だ。「マレフィセント」のエル・ファニングが最高にハマっていて、ピュアな美少女がダークサイドに堕ちていく過程も、とらえどころのない繊細な演技をみせて、説得力がある。この危険な映画こそ、デーモン(悪魔)の化身。メイク係のジェナ・マローン、モーテルの管理人のキアヌ・リーヴスらの怪演も見逃せない。好き嫌い、賛否両論、大いに結構と言わんばかりに、堂々と観客を挑発する異色作だ。
【60点】
(原題「THE NEON DEMON」)
(米・デンマーク・仏/ニコラス・ウィンディング・レフン監督/エル・ファニング、カール・グルスマン、ジェナ・マローン、他)
(エキセントリック度:★★★★☆)
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アンダーワールド ブラッド・ウォーズ

アンダーワールド ブラッド・ウォーズ [Blu-ray]
長老の命を奪ったために、仲間から追われる日々を過ごすヴァンパイア族の女処刑人セリーン。力を拡大したライカン(人狼)族の猛攻を受けて劣勢を強いられたヴァンパイア族は、兵士養成のためセリーンを部族に呼び戻す。その特別な血ゆえにヴァンパイア族、ライカン族両方から命を狙われる、行方不明の娘イヴを守るため、セリーンは部族に戻るが、そこには罠が待ち構えていた。北のヴァンパイア一族に協力を仰いだセリーンは、急襲したライカン族の長マリウスと死闘を繰り広げ、窮地に陥るが…。

ヴァンパイア族とライカン族の、世紀を超えた闘いを描く人気シリーズの最新作「アンダーワールド ブラッド・ウォーズ」。毎度おなじみの戦いが描かれるが、処刑人セリーンは、愛したマイケルを失い、娘イヴとも生き別れ、孤独な逃亡生活を送っている。双方の部族から狙われながら、長老の一人トーマスの息子デビッドだけが味方という危機的状況の中、同族であるヴァンパイア族の悪女が権力に取りつかれ、セリーンを執拗に狙うという展開だ。新作とはいえ、物語に新鮮味はまったくないし、闇の中で戦うという設定上、画面全体がとにかく暗い。モノクロの画面と雪と氷の映像はクールだが、さすがに今回は暗すぎる。だが、だからこそ、セリーンがある方法で新しい力を得てからの、白を基調とした画面が美しく映える。といっても、この新しい力を手に入れるプロセスの描き方がかなり雑だ。水がポイントなのはわかるが、あまりにもあっさりとしているので拍子抜けしてしまった。本作のヒロイン、ケイト・ベッキンセイルは、タイトなスーツに身を包んで、相変わらずセクシーだが、キャストに海外TVドラマで人気の俳優が多数出演しているので、ファンにはたまらないだろう。特に悪女役のララ・パルヴァー(「SHERLOCK/シャーロック」のアイリーン・アドラー役)はなかなかハマッている。物語はまだまだ続きそうな予感。中でも、娘イヴの存在が今後の展開にどうからむかが気になるところだ。
【55点】
(原題「UNDERWORLD: BLOOD WAR」)
(アメリカ/アナ・フォースター監督/ケイト・ベッキンセイル、テオ・ジェームズ、トビアス・メンジーズ、他)
(クール度:★★★★☆)
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アイヒマンを追え! ナチスがもっとも畏れた男

1950年代後半の西ドイツ・フランクフルト。検事長フリッツ・バウアーは、ナチス戦犯の告発に執念を燃やし奔走していた。しかし、政治の中枢に元ナチス党員が深く入り込み、捜査はなかなか進展しない。そんな時、数百万人のユダヤ人を強制収容所に送ったナチス戦犯で、逃亡中のアドルフ・アイヒマンが偽名でアルゼンチンに潜伏しているとの情報をつかむ。バウアーは危険を顧みず、イスラエルの諜報特務庁・モサドに極秘情報を提供し、アイヒマンを逮捕してドイツ国内で裁こうとするが…。

ナチスの最重要戦犯アドルフ・アイヒマン捕獲作戦の影の功労者でユダヤ人のフリッツ・バウアーの孤独な戦いを描く社会派サスペンス「アイヒマンを追え! ナチスがもっとも畏れた男」。アドルフ・アイヒマンに関しては、劇映画や記録映画で何度も描かれてきたが、彼の逮捕に貢献したフリッツ・バウアーの執念を描く本作は、戦後のドイツの暗部と深い遺恨を浮き彫りにする点が特筆だ。戦後は、ナチスは裁かれて、新しいドイツが誕生したイメージを持っていただけに、政治や経済、司法の場に返り咲いた元ナチ党員がたくさんいて、ドイツ国内外に巣食うナチス残党がバウアーをことごとく監視・妨害していたという事実を、本作で初めて知った。バウアーの戦いは、想像をはるかに超えて、孤独で困難なものだったのだ。アイヒマンが結局イスラエルで裁判にかけられたのは多くの人が知っているが、バウアーは、これは復讐ではなく、新しいドイツを作る若者たちが真実を知る権利があるという信念で行動している。だからこそ、ドイツ国内で裁判にかけることに最後まで執着していたのだ。物語は、暗い歴史ドラマだが、国家反逆罪に問われかねない方法で、アイヒマンを追い詰める語り口が非常にスリリングで、飽きさせない。ただ一人信用できる部下カールは、実は同性愛者のバウアーと同じ性癖の持ち主。あまりのストレスからか、美しいクラブ歌手の誘惑に勝てず罠にはまるが、そんな彼が、正義と信念に目覚める瞬間は、感動的である。ドイツ映画は、常にナチスの新事実を描く作品を作り続けるが、過去の歴史を風化させまいとしているのだろう。それがどれほどむごい歴史の恥部だとしても目をそらさない姿勢が、あの国にはある。ちなみに、アイヒマンを描いた多くの作品の中で「アイヒマン・ショー」と「ハンナ・アーレント」を、本作と併せて観れば、より深く歴史を理解できるのでおすすめだ。
【70点】
(原題「THE PEOPLE VS FRITZ BAUER」)
(ドイツ/ラース・クラウメ監督/ブルクハルト・クラウスナー、ロナルト・ツェアフェルト、リリト・シュタンゲンベルク、他)
(歴史秘話度:★★★★☆)
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僕らのごはんは明日で待ってる

僕らのご飯は明日で待ってる
無口で他人に無関心な高校生・葉山亮太は、明るく率直なクラスメイトの上村小春と、体育祭の競技“米袋ジャンプ”でコンビを組んで出場し、見事一位を獲得する。直後に、小春から告白されてとまどう亮太だったが、つきあいはじめ、次第に彼女に惹かれていく。やがて大学生になった二人は距離を縮めていくが、ある日突然小春が別れを切り出す。理由が分からない亮太は思いを伝え続けるが、小春はまったく取り合わない。実は彼女には亮太に言えない秘密があった…。

正反対の性格のカップルが食を通して愛を育み、やがて家族になるまでの7年間を描く恋愛映画「僕らのごはんは明日で待ってる」。原作は瀬尾まいこのロングセラー人気小説だ。いろいろな意味で、予想外の映画である。まず、胸キュンの学園ラブストーリーとは違う。ネクラの亮太と明るい小春の性格の温度差がかなりあるので、ベタついた恋愛描写はほとんどない。終始さっぱりしているのだ。さらにタイトルにごはんとあり、食を通して親しくなっていく展開なのに、いわゆるグルメ映画とはほど遠い。何しろ、登場するのは、ファストフードのケンタッキーフライドチキン(おいしいので個人的には大好きだが…)、おしゃれでもグルメでもないファミレスなど。丁寧に作ったカフェ風の食事などとは縁遠いものばかりだ。しかし市井昌秀監督は、佳作「箱入り息子の恋」でも主人公たちに吉野家で食事させていた。食とは、格好つけるものではなく、日常の大切な営みなのである。終盤、小春の秘密を知った、社会人になった亮太が、気持ちを抑えられず、あるものを小脇に抱えてトンデモない行動に出る。良い子は決してマネしてはいけないが、ついに自分の殻を破って行動するネガティブ・亮太の疾走は胸に迫った。中島裕翔、新木優子、共に好演。米袋ジャンプで始まり、白いごはんを食べるシーンで終わるこの映画、さすがに漫才出身という異色の経歴の市井監督だけあって、オチが綺麗にまとまっている。
【65点】
(原題「僕らのごはんは明日で待ってる」)
(日本/市井昌秀監督/中島裕翔、新木優子、美山加恋、他)
(グルメ映画度:★★☆☆☆)
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◆ペンネーム:渡まち子
◆映画ライター、映画評論家
◆こんなお仕事やってます:
新聞、雑誌、インターネットで、映画評、映画コラム、DVD紹介などを執筆。他にも、映画コメンテーターとしてラジオ出演、大学での公開講座や企業主催の映画セミナーなど、映画に関する幅広い仕事をこなしながら活動中です。
◆青山学院文学部史学科卒業。西洋史が専攻で、卒業論文はベネチア史。学んだことを生きている間に有効に活かせるのだろうか…と、かなり心配。
◆エトセトラ:
古今東西の映画をこよなく愛す、自他ともに認めるシネフィル(映画狂)です。時に苦言を呈すこともあるその映画批評の基本は、映画へのあふれる愛情と自負しています。どんなダメ映画でも必ずひとつはあるイイところを発見するのが得意技。大のサッカー好きで、欧州リーグからJリーグまでTPOに合わせて楽しんでます。
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