映画通信シネマッシモ


映画通信シネマッシモは、2018年4月をもって、終了しました。

ブログ終了にあたり、たくさんのあたたかいコメントをお寄せいただき、本当にありがとうございました。
皆さまの映画ライフに少しでもお役に立てたならこれほど嬉しいことはありません。
長い間のご愛顧に心より感謝いたします。

デイヴィッドとギリアン 響きあうふたり



幼少期より厳しい父親から英才教育を受け、天才ピアニストとして広く世に知られたデイヴィッド・ヘルフゴット。若くして成功を手にした彼だが、やがて精神を病み11年間もの間、音楽やピアノを奪われて病院で闘病生活を強いられる。ワインバーのピアノ弾きとして社会復帰した彼は、運命の女性ギリアンと出会い、彼女の愛と支えによって、コンサートを再開。ピアニストとして再び花開いていく。そんなデイヴィッドと、妻ギリアンの現在の姿をカメラを追っていく。

第69回アカデミー賞作品賞などにノミネートされた名作「シャイン」の主人公のモデルとなった天才ピアニスト、デイヴィッド・ヘルフゴットと愛妻ギリアンに迫るドキュメンタリー「デイヴィッドとギリアン 響きあうふたり」。「シャイン」から20年もたって作られた本作だが、デイヴィッドとギリアンがいかに深い絆で結ばれているか、そしてデイヴィッドがいかにピュアな人間かを、二人の映像やインタビュー、周囲の人々の証言を交えて、あたたかいまなざしで丁寧に描いたドキュメンタリーだ。

「シャイン」のその後の二人は、自分たちのペースで音楽に向き合っている。誰とでもハグやキスをするデイヴィッドの、時に奇行にも思えるふるまいが周囲をとまどわせても、ギリアンはどこまでも彼に真摯に向き合っていて、その変わらぬ姿が感動的だ。「感謝こそ、人生を幸せに生きる秘訣よ」とのギリアンの言葉が深い。ソウルメイトという言葉は彼らのためにあるような気がしてならない。ちなみに、劇中で一番驚いたのは映画「シャイン」の主役は、当初アメリカではトム・クルーズ主演で進められたという秘話。監督がジェフリー・ラッシュでなければ映画化しない!と断固として譲らなかったそうだ。おかげで私たちは名作に巡り合えた。これこそ感謝!である。
【60点】
(原題「HELLO I AM DAVID!」)
(ドイツ/コジマ・ランゲ監督/デイヴィッド・ヘルフゴット、ギリアン・ヘルフゴット、他)
(二人三脚度:★★★★★)


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北の桜守

映画「北の桜守」オリジナルサウンドトラック
1945年、樺太で暮らす江蓮てつは、日ソ不可侵条約を破棄したソ連の侵攻にさらされ、2人の息子と一緒に命からがら北海道の網走まで逃げ延びる。凍てつく寒さ、飢え、極貧の中を「もう一度家族4人そろって桜を見よう」との夫の言葉だけを頼りに、必死で生き延びた。1971年、アメリカで事業に成功した次男の修二郎は、日本に帰国し、北海道へと帰ってくる。年老いた母てつを一人にしてはおけないと、一緒に暮らし始めるが、母子は思いあうがゆえにすれ違い、てつは一人網走に戻ろうとする。記憶が混濁し認知症を発症した母に寄り添おうと決意した修二郎は、二人で北海道各地を巡り、共に過ごした記憶を拾い集めていく…。

北海道を舞台に、戦中から戦後の激動の時代を生き抜いた親子の姿を描くヒューマン・ドラマ「北の桜守」。日本を代表する大女優・吉永小百合が主演を務め、「北の零年」「北のカナリアたち」に次ぐ北海道の大地を舞台にした“北の三部作”の集大成だ。今回は「おくりびと」の滝田洋二郎が監督を務め、戦中に北海道で起こった悲劇的な歴史も織り込みながら、親子の絆を描いている。

激動の時代を死にもの狂いで生きた母子の物語の中で、戦争の圧倒的な暴力性を表すのに、劇中劇として演劇という手法をとっているのが画期的だ。引き揚げ時の混乱、集団自決事件など、史実に基づくそれらの出来事が、独特の語り口で挿入される。この象徴的な演劇スタイルに違和感を感じる人も多いだろう。意外なことに、吉永小百合は舞台経験がなく、これが“初の舞台経験”だそうだ。正直、30代を演じるにはさすがの美人女優も無理があるのだが、映画出演120本を迎える大女優の尽きないチャレンジ精神に、尊敬の念を覚える。ひとつ残念なのは、タイトルにある桜守(地域に根ざし、1年を通じて桜の樹木の保護育成に携わる人のこと)の仕事について、深く描かれなかったこと。桜はあくまで幸福のイメージというのなら、別のタイトルでも良かったのでは。いずれにしても吉永小百合ありきの感動作に仕上がっている。
【60点】
(原題「北の桜守」)
(日本/滝田洋二郎監督/吉永小百合、堺雅人、篠原涼子、他)
(親子愛度:★★★★★)


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去年の冬、きみと別れ

映画 去年の冬、きみと別れ ビジュアルブック (幻冬舎文庫)
気鋭のルポライター・耶雲恭介は、婚約者・百合子との結婚を控え、野心的な本の出版を目指していた。狙っているのは天才カメラマンで1年前に世間を騒がせた猟奇殺人事件の容疑者・木原坂のスクープ。木原坂は盲目の美女モデル・亜希子を殺した犯人として逮捕されるが、姉の朱里の尽力で事件は事故扱いとなり釈放されていた。謎めいた木原坂の真実を暴くために耶雲は彼に接近するが、出版社の担当編集者の小林は危険な噂が絶えない木原坂に近づきすぎないように何度も忠告する。しかし取材にのめり込んだ耶雲は、気が付けば百合子まで巻き込んで、抜き差しならない罠に堕ちていた…。

ある殺人事件の真相を追うルポライターが危険な罠にはまっていく様を描くサスペンスドラマ「去年の冬、きみと別れ」。原作は芥川賞作家、中村文則による同名小説だが、映画化にあたり、核となる部分は残しながらも、大胆な改変が加えられている。天才カメラマンの周囲には、モデルの焼死事件、親殺しの疑い、異常な執着や嗜好など、さまざまな疑惑があり、謎が謎を生む展開だ。実は物語そのものに、ある重大なトリックが仕掛けられているて、それは中盤以降に明かされる仕組みだ。小説の章立てのように語られる本作だが、そこには、順番通りではない大きな理由がある。

ミステリーなので、詳細は明かせないのだが、テーマは復讐と愛だ。もちろん、無理な設定はいくつもあり、ツッコミどころも多いのだが、これはあくまで純愛サスペンス。ラストにタイトルの意味が明かされ、愛する人のために、すべてを賭けたということなら納得できよう。原作ファンは映画版ならではのトリックを、原作未読の人は、思い切り騙される快感を味わってほしい。
【50点】
(原題「去年の冬、きみと別れ」)
(日本/瀧本智行監督/岩田剛典、山本美月、斎藤工、他)
(ドンデン返し度:★★★★★)


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坂道のアポロン

映画「坂道のアポロン」サウンドトラック&ジャズ演奏曲集
横須賀から、親戚が住む長崎県佐世保市の高校に転校してきた薫は、真面目な秀才だが、学校でも家庭でも居場所を見つけられずにいた。だがひょんなことから不良生徒の千太郎、千太郎の幼なじみで町のレコード屋の娘・律子と親しくなる。千太郎とは友情を育み、律子に淡い恋心を抱いた薫は、二人を通じてジャズと出会い、その魅力に取りつかれる。しかしそんな幸せな日々は、ある事件をきっかけに変わってしまう…。

高校生たちの友情と恋、ジャズとの出会いを描く青春ラブストーリー「坂道のアポロン」。原作は小玉ユキの名作コミックで過去にアニメ化もされている。本作全体を覆うノスタルジックな空気は、成長して医者になった薫の回想形式の語り口、昭和40年代という時代背景、異国情緒あふれる長崎・佐世保の風情などが要因だ。長い原作ものの実写映画化の常で、有名なエピソードをつなぎあわせ、駆け足で進む感じは否めないが、少なくとも、高校時代の薫、千太郎、律子の3人のキャラクターは丁寧に描かれている。

居場所がない薫や、複雑な出自を秘めた千太郎の抱える孤独を癒すのが、律子の明るさとジャズだ。青春映画と音楽の組み合わせは数多いが、ジャズという難しいジャンルに果敢に挑んだ、出演者たちに拍手を送りたい。吹替えなしで挑んだというセッションシーンは迫力たっぷりで、印象的に使われる名曲“モーニン”、“マイ・フェイバリット・シングス”などの曲のチョイスもいい。少女マンガにしてはあっさりとした絵柄の原作マンガのイメージを壊すことなく、青春のキラキラ感は残しながら、さわやかに仕上げた三木孝浩監督の手腕を評価したい。友情と恋がほぼ同じ重さで存在できた“あの頃”の輝きがまぶしい青春映画だ。
【65点】
(原題「坂道のアポロン」)
(日本/三木孝浩監督/知念侑李、中川大志、小松菜奈、他)
(ノスタルジー度:★★★★☆)


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ボチボチ更新!のお知らせ 2018.3.7

お知らせ「映画通信シネマッシモ」管理人の映画ライター・渡まち子です。
いつも当ブログを訪問していただき、ありがとうございます。

アカデミー賞発表が終わり、てんこもりの仕事もひとまず終了(ほっ…)。と思った途端に、体調崩しました。もともと風邪気味だったんですが、こじらせました(トホホ…)

…ということで、シネマッシモの映画レビューは、3月は“ボチボチ更新”状態になりますので、ご了承ください。平日はサボりますが、週末は頑張って更新します。何卒ご容赦を m(__)m

気が向いたら、平日もたまーーに何か記事を書くかも?
とりあえず、ボチボチ更新のお知らせでした (;^_^A


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オスカー、決まりました 2018

コラム2018年度 第90回アカデミー賞が、日本時間の3/5に決定しました。
主要部門の受賞結果は以下。

作品賞:「シェイプ・オブ・ウォーター」
監督賞:ギレルモ・デル・トロ「シェイプ・オブ・ウォーター」

主演男優賞:ゲイリー・オールドマン「ウィンストン・チャーチル ヒトラーから世界を救った男」
主演女優賞:フランシス・マクドーマンド「スリー・ビルボード」
助演男優賞:サム・ロックウェル「スリー・ビルボード」
助演女優賞:アリソン・ジャネイ「アイ,トーニャ 史上最大のスキャンダル」

外国語映画賞:「ナチュラルウーマン」」(チリ)
長編アニメーション賞:「リメンバー・ミー」

作品賞は、今年は9作品がノミネート。最優秀作品賞を受賞したのは、「シェイプ・オブ・ウォーター」。すでに日本でも公開中なので、ご覧になった方も多いのでは?

オスカーは、シリアスなドラマが有利で、コメディーやミュージカルは弱いとされてきました。そんな中、ファンタジー要素が強い「シェイプ・オブ・ウォーター」が受賞したのは、画期的なことです。これからは、ファンタジーでも、怪獣映画でも、アメコミヒーローものでも、どんなジャンルでもアカデミー賞のチャンスがあるということ。これってすごいと思いませんか?

女性の権利問題や移民、ジェンダー問題なども含めて、政治色が強い近年のアカデミー賞ですが、全員が黒いドレスを着なくても(注:ゴールデン・グローブ賞での女性のパフォーマンス)、映画の作品そのもので多様性を示してくれた。このことがとても素晴らしく、センスがあると感じました。

それから、日本関係では、なんと、なんと!メイクアップ&ヘアスタイリング賞で日本人メイクアップアーティストの辻一弘氏が見事受賞となりました(大拍手〜っ!)。この人は過去にも「もしも昨日が選べたら」(06)、「マッド・ファット・ワイフ」(07)で同賞にノミネートされている実力者。3度目の正直で受賞になりました。この部門での日本人の受賞は初なので、本当に誇らしいです。

今年は昨年のような誤発表というトンデモないハプニングもなく、まずは無事に受賞式が終わって良かったです(笑)。それにしても、昨年の作品賞プレゼンターの、ウォーレン・ビーティとフェイ・ダナウェイの二人が再び登壇したのには大笑いしました。さすがはアカデミー賞、どこまでもエンタテインメントです!

アカデミー賞は映画界最大の祭典。
作品はこれから順次日本でも公開されます。楽しみに待ちましょう!
いかがでしょうか。順当?サプライズ?ぜひ感想をどうぞ。


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さよならの朝に約束の花をかざろう

映画『さよならの朝に約束の花をかざろう』オリジナルサウンドトラック
人里離れた土地に住み、ヒビオルと呼ばれる布に日々の出来事を織り込みながら静かに暮らすイオルフの民。10代半ばで外見の成長が止まり、数百年の寿命を持つ彼らは“別れの一族”と呼ばれている。イオルフの少女マキアは仲間といても孤独を感じながら暮らしていた。そんなある日、イオルフの長寿の血を求めてメザーテ軍が攻め込んでくる。イオルフ一番の美女レイリアは連れ去られ、マキアがひそかに想いを寄せていた少年クリムも行方不明になる。何とか逃げ出したマキアは虚ろな心で森を彷徨ううちに、親を亡くした赤ん坊のエリアルを助けることに。少年から大人へと成長するエリアル、少女のままのマキア。流れる時の中で、二人の絆は変化していくが…。

外見が10代のままの少女と年老いていく少年の深い絆を描くアニメーション「さよならの朝に約束の花をかざろう」。「あの日見た花の名前を僕達はまだ知らない。」シリーズや「心が叫びたがってるんだ。」で脚本を担当した岡田麿里が初監督に挑んだファンタジーアニメだ。数百年の寿命を持つ一族、彼らの血を狙っての闘い、主人公の長い長い旅路、周囲の人々の人生模様。物語は想像以上の広がりを持っていて、連続ドラマで詳細に描いた方がいいのでは…とさえ思う内容だ。裏を返せば、劇場映画では語りきれず駆け足になってしまっている印象を受ける。

他者が歳をとるのに自分はそのまま、あるいは歳をとるスピードが異なるという不思議な設定は、過去にも「アデライン、100年目の恋」や「ベンジャミン・バトン」で描かれているが、それらの実写作品が異なる時間軸の中での出会いを意識しているのに対し、本作は、別れをテーマにしている。だがその別れの本当の意味は、芳醇な時間を共に過ごした、素晴らしい記憶なのだ。流れゆく時間の中で刻まれた永遠の一瞬。複雑で深淵なテーマながら全体的に柔らかい印象を受けるのは、アニメーションという手法ならではだろう。加えて、本作の透明感のある色彩と美しい光の描写のおかげだ。細部まで作り込まれた丁寧なビジュアルが心に残る美しいアニメーションだ。
【60点】
(原題「さよならの朝に約束の花をかざろう」)
(日本/岡田麿里監督/(声)石見舞菜香、入野自由、茅野愛衣、他)
(透明感度:★★★★★)


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ダウンサイズ

近未来。爆発的な人口増加で食料・資源不足が深刻になり、人間を縮小することで問題を解決する人類縮小技術が実用化された。片田舎に住む平凡な男ポールは、身長を13cmにすれば資産は82倍、レジャーランドと呼ばれる特別エリアで豪邸に住めると知って、妻オードリーと共に夫婦で小さくなることを選択する。さまざまな準備を経て、晴れて14分の1のサイズになったポールだったが、そこで思いもよらない事実を知らされる…。

人類縮小計画に参加した男が直面する思いがけないドラマを描く「ダウンサイズ」。人間を小さくすることで、食糧・資源不足や住宅問題、経済格差などの問題を解決するというのは、突拍子もないようでいて妙に説得力がある。さらに人を縮小するにあたり、全身の毛を剃ったり、歯などの金属の詰め物を取り除いたりの手順も細かくて、これまたリアル。小さくなってからの暮らしもまた詳細に描かれていて面白い。身長13cmになったポールは、予想外の事態によって孤独に暮らすことになるが、そこで出会うのは、怪しげな隣人や、過激なベトナム人女性活動家(現在は清掃員)らだ。彼らとの出会いが、ポールを思いもよらない運命へと導いていく。

アレクサンダー・ペイン監督は、「サイドウェイ」や「ネブラスカ」などで、市井の人々のささやかだがかけがえのない幸福を丁寧に描いてきた。本作もまた、人生とは、幸福とは、という問題を提示している点は共通している。だが人類縮小計画というユニークな設定がいかされているのは前半で、後半は縮小の問題ではなく、貧困や政治・経済、環境問題へとどんどん話が広がっていき、ついには終末論へと飛躍していくので、どうにも違和感を感じてしまう。これ、何のお話でしたっけ??という疑問がわいてくるではないか。マット・デイモンは好演だが彼が演じる主人公に魅力が乏しいのも残念。いっそ、2つの別々の映画に分けた方が良かったのでは?とさえ思う。そんな不満を払拭するのは、英語が不自由ながら強い意志を持ったベトナム人女性活動家役のホン・チャウの魅力だ。彼女の名コメディエンヌぶりを発見できたのは、本作の最大の収穫だった。
【65点】
(原題「DOWNSIZING」)
(アメリカ/アレクサンダー・ペイン監督/マット・デイモン、クリストフ・ヴァルツ、ホン・チャウ、他)
(詰め込みすぎ度:★★★★☆)


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15時17分、パリ行き

15時17分、パリ行き (ハヤカワ・ノンフィクション文庫)
2015年8月21日、アムステルダムを出発しパリへと向かう高速国際鉄道タリス内で、イスラム過激派による乗客全員をターゲットにした無差別テロが発生した。偶然その列車に乗り合わせていたアメリカ空軍兵スペンサー・ストーンとオレゴン州兵アレク・スカラトス、二人の友人の大学生アンソニー・サドラーの3人は、瞬時に判断しテロリストを制圧、被弾した乗客の命を助ける。ごく平凡な若者である幼なじみの3人が、とっさにこのような行動が出来たのは、なぜか。その理由は、彼らが出会った小学校時代までさかのぼる…。

巨匠クリント・イーストウッドが無差別テロを未然に防いだ3人の若者の姿を描く「15時17分、パリ行き」。近年のイーストウッドの作品は実話の映画化が多い。本作もまた実際に起こった事件を描くが、何と言ってもこの映画のリアリズムは、事件の当事者たち3人が本人役で出演していることだ。本作には、演技未経験の主役たち、事件の当事者が再現するドラマ、高速鉄道タリス内での撮影など、さまざまな実験的要素が含まれている。

ただし、この映画はテロを未然に防いだヒロイックなアクション映画ではないのだ。何しろ物語は、小学校の幼なじみの3人の出会い、友情、夢や挫折を詳細に描き、久しぶりに出会った3人が憧れのヨーロッパ旅行で遊びほうける様子を延々と映すのである。映画は、ごく普通の青年たちの青春ロードムービー風に進んでいくが、そんな平凡な若者がとんでもない事態に遭遇し爆発的な力を発揮する瞬間には、地道に生きてきたことが“助走”となると教えてくれる。変わらぬ友情や、誰かの役に立ちたいというささやかな願いが、結果的に英雄的行為につながっていく。この語り口が上手い。当事者たちは演技未経験だが、3人の存在感は素晴らしかった。映画はしょせん光と影の幻影にすぎない。だがそこには確かに“現実”が映り込んでいる。本作は、80代後半になろうとする老巨匠が今も映画のチャレンジャーであることを示している。
【70点】
(原題「THE 15:17 TO PARIS」)
(アメリカ/クリント・イーストウッド監督/アンソニー・サドラー、アレク・スカラトス、スペンサー・ストーン、他)
(リアリズム度:★★★★★)


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ブラックパンサー

ブラックパンサー・ザ・アルバム
アフリカの秘境にあるワカンダ王国。そこは発展途上国と思われているが、本当の姿は世間から隔絶された超文明国だった。ワカンダで産出される鉱石ヴィブラニウムが高度なテクノロジーを可能していたが、同時にそれは世界を破滅させるほどのパワーを秘めていて、歴代の王は、悪用されないように鉱石の存在を極秘にしていた。父王の急死により、国王とブラックパンサー、二つの使命を引き継いだティ・チャラは、謎の男エリック・キルモンガーや武器商人ユリシーズ・クロウらがヴィブラニウムを狙ってワカンダに潜入しようとしていることを知る…。

国王とヒーローの二つの顔を持つマーベルのキャラクターが活躍するアクション超大作「ブラックパンサー」。国家元首として自国の利益を守るか、あるいはヒーローとして技術と富を共有し人類を守るか。この葛藤は、まさしく現代アメリカを鏡に映したものではないか。さらには、国家や正義のために血のつながりを持った敵と戦わねばならない展開は、ギリシャ神話をも思わせる。ブラックパンサーの決断は、正義と政治の両方に深く関係し、その影響力は計り知れない。黒人を主人公にしたヒーローものは、ブラックスプロイテーション映画の系譜だが、この物語の同時代性を見れば、本作が人種を超えた普遍的なテーマを扱っていると、すぐに気付くだろう。

とはいえ、黒人特有の秀でた特性を活かすことは忘れていない。彼らのルーツを思わせるアフリカの鼓動のような音楽、しなやかな体躯を活かしたアクション演出はブラックパンサーと敵手エリックの動きを流麗に見せている。暴れっぷりがハンパない、美しい女性キャラにも目を奪われた。監督のライアン・クーグラーは「クリード チャンプを継ぐ男」でもアクションに冴えを見せたが、大胆な長回しを用いるなど、むしろ長編デビュー作「フルートベール駅で」にも通じる作家性をスーパーヒーロー映画に持ち込んだセンスを評価したい。マーベルのヒーローは、神だったり大富豪だったり、緑色の大男に変身する科学者だったり…と、誰もが一風変わっているが、ブラックパンサーはその中でも別格だ。希少鉱石ヴィブラニウムはキャプテン・アメリカの盾(シールド)にも使われていて、ブラックパンサーは次回のアベンジャーズにも参戦する。だが本作の優れた点は、この1本単体でも物語がしっかりと構築されていることだ。美しく強靭な黒ヒョウの活躍を見逃してはならない。
【75点】
(原題「BLACK PANTHER」)
(アメリカ/ライアン・クーグラー監督/チャドウィック・ボーズマン、マイケル・B・ジョーダン、ルピタ・ニョンゴ、他)
(重厚度:★★★★☆)


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