映画通信シネマッシモ☆映画ライター渡まち子の映画評


【本音で語る新作映画レビュー】
シネマッシモでは、映画レビューはネタバレなしのヒントあり。映画を見る前と見た後と、2度読んで楽しめます。
映画評サイトもこのブログで4代目になりました。すべての映画好きを歓迎します!
(点数は100点が、★は5つが満点)
シネマッシモとは、シネマ(映画)とマッシモ(イタリア語でmax,最大)とを組み合わせた造語。
どうぞゆっくり楽しんでください \(^▽^)/

◎ 今週の気になる映画 ◎
「ジャスティス・リーグ」「火花」「ギフテッド」「光」etc.

ニュースの天才

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◆プチレビュー◆
悪事に手を染めるクリステンセンの姿に「スター・ウォーズ」のアナキンがダブる。ダーク・サイドに堕ちるのは本望か。もしやSWの隠れ宣伝映画か?

名門雑誌「ニューリパブリック」の人気ジャーナリスト、スティーブン・グラスは若干25歳の若者。他の一流誌からも執筆の依頼が舞い込む彼の記事は、日常的な話題ながら刺激に富み、見事に読者を魅了していた。しかし、実は彼の記事の多くは、捏造(ねつぞう)記事。そのことは、同僚にも気付かれていなかったが、やがて、他誌の記者により追求を受けることになる…。

クリントン元大統領のおかげで、政治とゴシップがごちゃまぜになってしまった90年代末。合衆国大統領専用機に唯一置かれている政治誌の、実在の人気ジャーナリスト・スティーブン・グラスの栄光と転落を描いた物語が本作だ。

グラスという人物の顕著な特徴は、その幼児性。社内をソックスのまま歩き回り、女性社員に非常にマメマメしく気配りをしながら、甘えてみせる。記事捏造の事実が明るみに出ても彼は「ごめんなさい」と言えば済むと思っている。さらには編集長が自分をかばってくれないことをなじる始末だ。発達した知性と未発達の精神を同時に抱えたグラスを演じるクリステンセンが、実にハマり役だった。

グラスの周囲の女性たちがどこまでも彼をかばおうとするのが、男性の観客には腹立たしいかもしれない。クリステンセンが美形だから?まぁ、それもあるが、実際は彼らにもジャーナリズムの本質から逸脱したところに楽しみを求める気持ちがあったのではなかろうか。実だけではおもしろくない、虚もまじえてしまえ!という気持ち。人間は快楽に弱い。実際90年代末のアメリカは政治さえも娯楽に近かった。そのツケが9.11テロだと思う。

グラスの言い分は「愛されたかった。自分が書いた記事を通して」というもの。愛というオールマイティの言葉が付けば、なんとなく格好がつくあたりが空恐ろしくもある。真実であろうが作り物であろうが、読者というものは刺激を求め、そして必ず飽きる。グラスは一種の犠牲者なのだろう。断じて同情は出来ないが。

□2003年 アメリカ映画  原題「SHATTERED GLASS」
□監督:ビリー・レイ
□出演:ヘイデン・クリステンセン、ピーター・サースガード、クロエ・セヴィニー、他

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ポーラー・エクスプレス

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◆プチレビュー◆
急行北極号はどうしてこんなに危険なコースばかりを走るのか?など、あれこれと突っ込みながら見るのもまた楽しい。声で登場するトム・ハンクスは、少々出すぎじゃないのか?8歳の少年を彼がやる意味はあまりないと思う。

サンタの存在が信じられなくなってしまっている主人公ヒーロー・ボーイ。彼はある晩、不思議な列車に導かれ、サンタが住むという北極へ冒険の旅に出る。列車の中には知ったかぶりの少年や、自分に自信が持てない少女、途中で列車に乗ってきたひとりぼっちの少年などの仲間がいた…。

一足早く届いたクリスマス・ムービーは、トム・ハンクスが声優で一人5役に挑戦したファミリー・ムービー。パフォ−マンス・キャプチャーという人間の動きをCG化する技術によってこんな芸当が可能になったわけだが、ハンクスの声は一発で彼だと判ってしまう。彼に「列車に乗るのを決めるのは君自身だ」と言われては、乗らないわけにはいかない。

メッセージは「信じることの大切さ」。サンタは信じる人の心の中にいつも住んでいるという定番通りのものだ。行きつく先が判っているので、道中に起こる数々のアドベンチャーが見所。随所に歌が盛り込まれ、いつのまにか、見ている私たちも北極へ向かっているような気分になる。映像は期待通り見事なものだ。

他愛ない季節ものの映画と言われればそれまでだが、冒頭、白い雪煙の中から急行北極号(ポーラー・エクスプレス)の巨大な姿が画面に登場するとき、興奮を覚えるのは間違いない。映像の持つ力強さを身体で感じさせてくれる一瞬である。絵柄は原作の絵本に忠実なようで、シュールすぎる感もあるが、すぐに慣れるので心配無用だ。

映画そのものは、大人向けのクオリティだと思うが、大人になっても子供の頃の信じる気持ちを大切にと訴えているわけではない。むしろ、子供は子供らしくあるのが幸せだと、大人に向かって諭しているように感じてしまうのだ。今のような時代だからこそ、響くメッセージかもしれない。

クリスマス・ムービーに限らず西欧の物語の根底に流れるのは、キリスト教精神だ。まぁ、キリスト教徒でなくてもサンタやエルフの存在は語られて知っているし、なによりプレゼントというのは大人も子供も嬉しいもの。例え、鈴の音色がとっくに聞こえなくなってしまっている私たちにも。

□2004年 アメリカ映画  原題「The Polar Express」
□監督:ロバート・ゼメキス
□出演:(声)トム・ハンクス、ノーナ・ゲイ、ピーター・スコラリ、他

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春夏秋冬そして春

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◆プチレビュー◆
驚異的に美しい映像は、撮影監督ペク・ドンヒョンの力によるもの。小動物を寓意的に用いるのが常だが、今回は残酷描写が少なくてホッとした。

緑深い山中の湖に浮かぶ小さな寺に、年老いた僧侶と少年が住んでいる。いたずらから生命の尊さを知った少年は、やがて成長し同年代の少女との恋と欲望を経験して、寺を出奔。彼女の裏切りを知って殺人を犯し、再び寺に戻った頃には壮年となっていた。そして季節は再び巡り来る…。

世の中には、例えそれが物理的な機能を成していないとしても尊重すべき存在があるらしい。この映画の中で、それは“扉”だ。水中に浮かぶ大門と、寺の内部の小さな扉。どちらも周囲に壁はなく、空間を遮るものは何一つないのだが、その扉を通るのは、人間の基本的な礼儀と思える。少年僧が道を踏み外すとき、彼は扉を通らない。このようにキム・ギドク作品では、セリフは少ないが物語を導くシンボルがすこぶる印象的に登場するのだ。この監督の作品にアートを感じるのはそのためだろう。

寺の四季を人生の四季になぞらえていく手法が誌的である。無邪気な殺生から重荷を背負う春、恋と欲望に目覚める夏、裏切りと罪の苦しみを知る秋を経て、悟りの冬へと向かう。そして季節は再び春になり、同じ過ちが繰り返される。人はそう簡単に解脱できるものではないようだが、それでも生の営みは愛おしい。

儒教社会の韓国では仏教は少数派だ。歴史上、弾圧されたこともあって、仏寺はほとんど山奥にある。山中の寺で起こる出来事はまるでこの世ならぬ神秘的な雰囲気さえ漂わす。映像はオリエンタルな美の極地で、さぞかし西欧でウケるだろうと思われるもの。私は何度も映像に見惚れたが、湖上の寺がゆっくりと動く場面の美しさは格別だ。漢字を解する日本人には、文字の美しさと同時に意味まで理解できるので、ちょっと優越感も。

今までのキム・ギドク作品が残酷描写や性描写で挑発的な作風だったことを思えば、本作はまるで方向を変えた癒しの映画のようにも思える。しかし、静謐な画面の中で紡がれる物語は結構生々しいもので、随所に“らしさ”が伺えた。現在、世界中から高く評価され、飛ぶ鳥を落とす勢いのキム・ギドク監督。私にとって、次回作が最も期待される監督の一人である。

□2003年 ドイツ・韓国合作映画  英語原題「Spring,Summer,Fall,Winter… and Spring」
□監督:キム・ギドク
□出演:オ・ヨンス、キム・ジョンホ、ソ・ジェギョン、他

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らくだの涙

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◆プチレビュー◆
地味だが秀作のドキュメンタリー映画。一種の音楽映画と考えても興味深い。劇中で歌われる音楽には歌詞はなく、動物によって異なるひとつの言葉を繰りかえすもの。ちなみにらくだはHOOSだそう。

広大なモンゴルの大自然。春はらくだの出産の季節だ。若い母らくだが白い子らくだを産み落とすが、難産の苦しみのショックからか、母らくだは子育てを放棄してしまう。このままでは子らくだは死んでしまうかもしれないと心配した遊牧民族の大家族一家は、遠い町から音楽家を呼んでくるのだが…。

ミュンヘン映像映画学校を優秀な成績で卒業した、モンゴル人とイタリア人の二人の監督が共同で作った癒しのドキュメンタリー映画だ。4世代同居の大家族を周囲に見つけるのは難しいが、子育て放棄を含む幼児虐待は、珍しいことではない。母らくだは、子らくだを蹴ったり、噛みついたりするのに、子らくだはそんな目に遭いながらも母らくだを慕って哀しい声を上げる。「何とかせねば…」とスクリーンをみつめながら、思わずリキむ。

自分が産み落とした子らくだに愛情を持つことができない母らくだのために、一家が連れてきたのは、馬頭琴の演奏家だった。音楽によって母らくだの心を癒す“伝説の演奏療法”だ。らくだセラピー。いたって大真面目である。家族全員で見守る。私たち観客も一緒に見守る。そこに奇跡が訪れる。素朴で素直な感動がとてもいい。

らくだの母子が主役なのだが、同時に描かれる遊牧一家のあたたかな暮らしが魅力的だ。音楽家を呼びに幼い兄弟が町におつかいにいく様子は、ドキドキもの。テレビやゲームに夢中になりながらも、なんとか“任務”をこなす姿に、思わずガッツポーズだ。らくだは遊牧民にとって、貴重な財産であると同時に、大切な家族でもある。らくだの異変を見ても、彼らは決してうろたえたりはしないのだが、母らくだの心を癒すという行為は真剣そのものだ。

ドキュメンタリーなのだが、きちんとしたストーリーがあり、映画としての骨組みの確かさを感じさせてくれた。自然破壊が世界レベルで進んでいる今、このような映像を見ておくことはとても貴重な体験に思える。自然と伝統が共存する世界は威厳に満ちていた。愛情の喪失と再生の珠玉の一篇で、私は大いに気に入っている。

□2003年 ドイツ映画  英語原題「The Story of Weeping Camel」
□監督:ビャンバスレン・ダバー、ルイジ・ファロルニ
□出演:オーガンバータル・イフバヤル、オドゲレル・アユーシ、母らくだ、子らくだ、他

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オールド・ボーイ

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◆プチレビュー◆
物語の源は、逆恨みじゃないのか?という疑問も一瞬頭をよぎったが、衝撃度はピカイチ。原作は日本のマンガだ。残酷シーンが多数登場するので、気弱な人には勧められない。

平凡な人生をおくっていたオ・デスは、ある日、理由も判らず監禁される。その期間は15年にも及び、自殺することさえ許されない。突如、解放されたオ・デスは、自分をこんな目にあわせた人物に復讐することを誓うが…。

浴びるほど映画を見る毎日のせいで、少々の作品には驚かなくなっている。行儀のいい映画に出会うたびに、そこそこ感動はするものの「心をわしづかみにしてくれるような映画はないものか…」と密かに思うのだが、この作品こそまさにそれだ。“好きな映画”かと問われると違うような気がするが、見終わって何日も後を引く。

韓国映画界を代表する実力派チェ・ミンシク、ソフトなイメージを180度変えてクールな敵役を演じるユ・ジテ、キュートなカン・ヘジョン。主な登場人物は3人だけだ。テーマは復讐。15年監禁するという設定もすごいが、解放されてからの展開はもっと強烈だ。韓国映画特有の過剰でマンガチックなアクションシーンも、この作品の場合あまり違和感を感じない。いや、むしろピッタリくるのだ。

復讐が表側のテーマなら、裏側のテーマは人間の罪。人は知らず知らずのうちに誰かを傷つけながら生きているのだろうか。監禁部屋の浮世離れしたインテリア、クラシック音楽の絶妙な使い方など、けっこうアートの要素も感じられる。なぜ監禁したのか、なぜ解放したのか、自分と犯人のつながりは何か。次々に登場する謎は、観客に一瞬も気を抜くことを許さない。ミステリーの果てにたどり着く事実に絶句するのは必須だ。

緘口(かんこう)令が出されているので、ネタばれできないのがツラい。詳しいことは言えないが、安易な気持ちで鑑賞すると、痛いメにあう。昨今の韓国映画の底力を感じるスゴイ1本だ。これだから、映画はやめられない。

□2003年 韓国映画  英語原題「OLD BOY」
□監督:パク・チャヌク
□出演:チェ・ミンシク、ユ・ジテ、カン・ヘジョン、他

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コラテラル

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◆プチレビュー◆
J.フォックスが南の島の絵葉書を渡す場面が泣かせる。技術面ではデジタル・ハイビジョンでの撮影が夜の場面に効果を発揮している。

夜のロサンゼルス。タクシー運転手マックスが乗せた一人の客はヴィンセントと名乗り、大金でマックスを専用運転手として一晩雇う。ヴィンセントは実はプロの殺し屋で、その夜のうちに、5人の人物を殺す仕事を請け負っていた…。

いわゆる巻き込まれ型サスペンスだが、この物語は主人公と犯人の距離が異常に近いのが特徴だ。何しろ一晩一緒に車中で過ごすことになるのだから。タイトルのコラテラルとは巻きぞえの意味。本作での不運な犠牲者は、平凡なタクシー運転手だ。

そもそもこの物語、最初から設定に無理がある。ヴィンセントは完全主義でプロの殺し屋だ。プロの仕事には普通プロの、つまり裏社会のドライバーを雇うもの。いきあたりばったりなど、ありえない。さらに殺人現場をマックスに目撃されたなら、彼を殺して次のタクシーに乗れば話は早い。しかし殺し屋はそうしないのだ。これは二人の男が運命的に結ばれてしまった話と解釈できる。彼らは無意識にお互いを必要とした。単純な犯罪劇ではないのだ。

初の悪役であるトム・クルーズは確かに頑張っている。厳密に言うと「タップス」で不良を演じ、「インタビュー・ウィズ・バンパイア」で冷徹な吸血鬼を演じているので“初の”とは言えないのだが。しかし、本作でも彼のスターのオーラは凄かった。役になりきる俳優が演技派と呼ばれる今の時代に、いつでもどこでもトム・クルーズであることはむしろ素晴らしいことではないか。比較するのは気がとがめるが、かつてG.クーパーやC.グランドがそうだった。トムはどこを切ってもクルーズなのだ。まるで、金太郎飴のようなヤツ…。彼こそ最後の“ハリウッド・スター”である!

監督のM.マンは骨太な男のドラマが大のお得意だ。さらに凝った映像で知られ、本作でも随所にスタイリッシュな映像美が光っている。冒頭に登場する夜のLAを俯瞰で捕らえたショットは、素晴らしい。映画の中によく登場するLAの街だが、美しいと感じたのは初めてだった。

恋愛要素が皆無のこの映画の中で、車中での、検事のアニーとマックスとの会話はひとときのやすらぎの時。実はこの出会いは後に効いてくる。殺し屋のヴィンセントにとっても、タクシー・ドライバーのマックスにとっても、人生と自分自身を見つめる決定的な夜の幕が開く。その幕はどんな形で降りるのか。最近、続編やリメイクばかりで退屈していたが、なかなか骨のあるオリジナル脚本だ。ハード・ボイルドタッチのサスペンスだが、心理劇として楽しめる。

□2004年 アメリカ映画  原題「COLLATERAL」
□監督:マイケル・マン
□出演:トム・クルーズ、ジェイミー・フォックス、ジェイダ・ピンケット・スミス、他

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2046

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◆プチレビュー◆
数字を含んだタイトルというのは実にソソられる。名手C.ドイルのカメラも相変わらず冴えている。ぜひ「花様年華」を見てから鑑賞を。

1967年の香港。作家のチャウは過去の恋人が忘れられず、刹那的な生活を送っている。ある日、日本人の恋人と別れて傷ついた女性に出会い、二人をモデルにした恋愛小説「2046」を書き始める。物語は2046年の近未来を舞台にし、主人公はチャウの分身とも言うべき、愛を探す男だった…。

この映画をSFと位置付けるのはちょっと早計だ。殆どの舞台は60年代の香港で、未来的な要素よりノスタルジックな雰囲気が濃い。小説家である男は昔愛した女を忘れられず、煮え切らない。そんな彼の脇を様々な女たちがすり抜けてゆく。そう、これは「花様年華」の後日談なのだ。カーウァイ作品とチャン・イーモウ作品の常連俳優たちの連合軍に、キムタクが居心地悪そうに混じっている。

日本版、カンヌ版と騒がれ、キムタクの出番の分量が話題になっているが、そんなことは重要ではない。そもそもトニー・レオンやコン・リーのようなカリスマ俳優の横でキムタクの存在など刺身のツマのようなものじゃないか。これで世界進出と言えるのか?!但し、世間で言われている、彼が日本語しか話さない設定は、さしてマイナスにはならない。なぜなら、この映画、我々には全て同じに聞こえるがみんなバラバラの言語を話しているからだ。北京語、広東語、日本語。異なる言語を映画の中でミックスさせる試みは初めてではないが、カーウァイの感覚の鋭さを感じさせる。

問題は、人気女優陣の出演配分だ。編集段階で全ての女優に気を遣ったのか、まるでメリハリがない。カジノでのエピソードなどぐっと短い方がよほど効果的だ。何しろ出るのはコン・リーである。例え一瞬でも観客の記憶に焼きつくはずなのに。

色々とケチを付けているが、実は私はこの映画、世間の低評価にもかかわらず、かなり気に入っている。その理由の大部分が「花様年華」が好きだからという単純なもので、お恥ずかしいが、音楽の効果も大きかった。カーウァイは俗にサウンド派と呼ばれるほど音楽センスがいいのだ。ちんたらちんたらしたストーリーに、けだるいメロディがリフレインし、映像は隙あらばスローになる。観客の脳は一種のマヒ状態で、それがすこぶる快感に。“酔う”とはこういう状態を言うのだ。今回はお得意のラテン系ムードミュージックにオペラのアリア。実に私好みなのであった。

音と映像に過去の記憶が混じりあう、映画という総合芸術のキモの部分がこの映画にはある。もっとも、そのような小賢しい理屈を乗り越えて“好み”という個人的な部分にストレートに訴えかけてくるのが映画が持つ底力なのだろう。

□2004年 香港映画  原題「2046」
□監督:ウォン・カーウァイ
□出演:トニー・レオン、チャン・ツィイー、木村拓哉、他

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モーターサイクル・ダイアリーズ

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◆プチレビュー◆
ラストにアルベルト本人や、いかだのマンボ=タンゴ号の写真が登場し、感動を誘う。エンド・ロールが終わるまで是非見て欲しい。しかし、馬より遅いバイクとは、相当なオンボロに違いない。よくまぁ、無事で…。

23歳の青年医学生エルネストは先輩のアルベルトと共に中古のバイクで南米大陸を横断する旅に出る。喘息持ちで病弱なエルネストには無謀とも思える計画だった。南米の豊かな自然と、貧困に喘ぐ人々を目の当たりにしたその旅は、青年エルネストの人生観を確実に変えるものとなる…。

エルネスト・ゲバラ・デ・ラ・セルナ。後のチェ・ゲバラの青春時代を描いたこの作品は、彼の著書「チェ・ゲバラ モーターサイクル南米旅行日記」が原作だ。チェ・ゲバラといえば、軍用ベレーをかぶった姿がお馴染み。世界的に有名な革命家の若き日々を描くロード・ムービーは、新鮮で純粋な青春映画だ。

私たちは、後にキューバ革命の闘士となり世界中の革命に影響を与えるゲバラの運命を、その死も含めて既に知っているのだが、ここでは彼の革命家としての姿はいっさい描かれない。ゲバラの一番有名な部分をバッサリ切り捨てることで、この映画は潔い伝記映画となっていて、無名の一青年の瑞々しさが映し出されていると思う。特別なヒーローではなく、他の人よりも少しだけ熱い心を持った無鉄砲な青年に、誰もが等身大の親しみを覚えるだろう。

革命を愛という言葉で解釈した彼の原点が垣間見えるようなエピソードが続くが、同時にゲバラの複雑な魅力も感じられる。十人十色と俗に言うが、この人の場合“一人十色”とでも言おうか。ハンセン病の治療に情熱を注ぎ、自分のための最後の薬を瀕死の老婆に与えるのも彼なら、後に反革命分子を何百人も処刑するのも同じ彼だ。厳しくも美しい南米大陸の大自然の中で見た、ラテン民族特有の陽気な気質と厳然として存在する階級差。ゲバラ個人と南米の持つ複雑さが重なって見える。この旅のインパクトは、青年エルネストの中に革命家チェ・ゲバラを静かに芽生えさせた。

製作はロバート・レッドフォード。政治的になりがちな人物を繊細に処理し、魅力ある映画を誕生させた。W.サレスを監督に選ぶ識別眼にも感心させられる。旅はしばしば人間を変えるが、ゲバラという革命家の誕生のきっかけが旅だったのは興味深い。世界が変わる日を夢見て革命に身を投じた“永久的な”革命家ゲバラは、生涯、留まることを知らない人生をおくった。魅力的な旅は同じ場所にいることを決して許さないのだ。

□2003年 イギリス・アメリカ合作映画  原題「THE MOTORCYCLE DIARIES」
□監督:ウォルター・サレス
□出演:ガエル・ガルシア・ベルナル、ロドリゴ・デ・ラ・セルナ、ミア・マエストロ、他

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父、帰る

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◆プチレビュー◆
ビリー・ボブ・ソーントン似の父親にハーレー・ジョエル・オズメント似の二男。長男を演じたウラジーミル少年は撮影後、不慮の事故で亡くなったそうだ。合掌。似た主題の作品で「パパってなに?」というロシア映画もあるので見比べて見るのも一興。

アンドレイとイワンの兄弟の前に、家を出ていた父が12年ぶりに帰ってくる。家長然とする父に、母や祖母も何も言わない。父はまた、突然、兄弟と車で湖まで小旅行をすると言い出す。力強い父親を恐れながらも慕う兄と、反抗する弟。横暴な態度を取り続ける父は、この旅で兄弟に何を伝えようとしているのか…。

芸術作品を重視するベネチア映画祭でグランプリ受賞の、謎めいたこのロシア映画。鑑賞時には十分に覚悟が必要だ。何しろ説明らしきものは殆どない。12年ぶりに帰ってきた父親が何をしていたのか、何故帰ってきたのか、そもそも本当の父なのか。観客の私たちは二人の兄弟と同じ謎を突きつけられたまま物語に付き合うことになる。父親の過去、電話の相手、箱の中身。映画は何も答えない。

旧ソ連の巨匠タルコフスキーを彷彿とさせる映像は、水を意識し、寒色系の風景を印象的に用いている。森、湖、雲。静謐という言葉がふさわしい映像で、しばし見惚れる。ただし、本作はサスペンス仕立てなので、タルコフスキー映画のようにヒーリング感覚にひたるわけにはいかない。監督のズビャギンツェフは映画界では全くの新人だが、TVやCMの製作出身。現代ロシアの息吹を感じさせるのは、物語をロード・ムービーにしたことでもうかがえる。

劇中で多用されるのはキリスト教のモチーフだ。父と神が同義で捉えられているのが象徴的。ロシア正教が男性主権であることも無関係ではないだろう。父は命令という形で教育を施すが、粗野で横暴で、威圧的なこの父が、同時に魅力的なのは事実だ。映画は彼の存在を許さないが、それが神や父の否定にはつながらない。強さを前にした人間のあり方を問うている。ここがこの作品の奥行きだと思う。

小旅行から戻った兄弟は以前と同じ少年ではいられない。少年時代は終わったのだ。今やロシアだけでなく国家規模で世界を覆う感覚が、父親、すなわち絶対的な権力の不在だ。何の説明もなく不親切とも思えるこの作品に、無視できない深みを感じるのは、そのせいかもしれない。全てを明確に説明する映画を好む人には不向きだが、映画に真剣に向き合う気概がある人には勧めたい。

□2003年 ロシア映画  原題「VOZVRASHCHENIE」
□監督:アンドレイ・ズビャギンツェフ
□出演:ウラジーミル・ガーリン、イワン・ドブロヌラヴォフ、コンスタンチン・ラブロネンコ、他

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モンスター

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◆プチレビュー◆
社会性はあるものの、話そのものは単純な構造。監督デビュー作としては上出来だ。実在のアイリーン・ウォーノスは2002年に死刑執行されている。少々ブサイクな外見(!)でも娼婦として商売できることにも驚く。

1986年フロリダ。生きることに絶望した娼婦アイリーンは自殺を考えるが、飛びこんだバーで同性愛者のセルビーと出会い、恋に落ちる。しかし、自分に暴力を振るう客を殺害してしまったアイリーンはセルビーを連れてあてのない逃避行へ。その後も殺人を繰り返すようになる…。

実際に映画を見て、シャーリーズ・セロンのあまりの変貌ぶりに驚いた。実物のアイリーン・ウォーノスに似せるため、特殊メイクを施しているが、13キロも増量させた体のだらしなさといったらない。肌はボロボロ、眉はなく、口もとは無愛想に曲がっている。言われなければセロンだとは気付かない。美貌は見事に消し去られていた。

不幸な家庭環境から娼婦としてしか生きる道がなかった女性アイリーン。アメリカは連続殺人鬼の宝庫だが、女性はさすがに数が少ない。映画はアイリーンが殺人鬼になるべく袋小路に追い詰められる様子を描くことで、米国社会の暴力性と偏見も追求している。アイリーンの犯した犯罪は許されることではないし、自業自得の部分も大きいが、物語が進むにつれてアイリーンの孤独が大きく浮き彫りにされていく。

主人公の不幸をあえて一つあげるとするならば、愛することを知ってしまったことだろうか。自分を蔑まずに受け入れてくれたセルビーには、全く生活能力がなかった。一緒にいたいと願うことが罪を重ねることになる切なさ。ひ弱で子供のようなセルビーが、いつの間にかアイリーンを支配していくようになる恐ろしさ。セルビーは最終的にアイリーンを裏切る。そのことをアイリーン自身、承知なのがあまりに哀れだ。

この映画は、肉体改造を含めたシャーリーズ・セロンの圧倒的な熱演を抜きにしては語れない。モンスター(怪物)とはいったい何を意味するのか。社会や家庭には様々な問題が横たわる。そして、人間とは、罪を犯しながらも愛を求める矛盾した存在なのだ。社会の残酷さと人間の歪んだ心こそがモンスターの正体だ。

□2003年 アメリカ映画  原題「MONSTER」
□監督:パティ・ジェンキンス
□出演:シャーリーズ・セロン、クリスティーナ・リッチ、ブルース・ダーン、他

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プロフィール
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◆ペンネーム:渡まち子
◆映画ライター、映画評論家
◆こんなお仕事やってます:
新聞、雑誌、インターネットで、映画評、映画コラム、DVD紹介などを執筆。他にも、映画コメンテーターとしてラジオ出演、大学での公開講座や企業主催の映画セミナーなど、映画に関する幅広い仕事をこなしながら活動中です。
◆青山学院文学部史学科卒業。西洋史が専攻で、卒業論文はベネチア史。学んだことを生きている間に有効に活かせるのだろうか…と、かなり心配。
◆エトセトラ:
古今東西の映画をこよなく愛す、自他ともに認めるシネフィル(映画狂)です。時に苦言を呈すこともあるその映画批評の基本は、映画へのあふれる愛情と自負しています。どんなダメ映画でも必ずひとつはあるイイところを発見するのが得意技。大のサッカー好きで、欧州リーグからJリーグまでTPOに合わせて楽しんでます。
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