映画通信シネマッシモ☆映画ライター渡まち子の映画評


【本音で語る新作映画レビュー】
シネマッシモでは、映画レビューはネタバレなしのヒントあり。映画を見る前と見た後と、2度読んで楽しめます。
映画評サイトもこのブログで4代目になりました。すべての映画好きを歓迎します!
(点数は100点が、★は5つが満点)
シネマッシモとは、シネマ(映画)とマッシモ(イタリア語でmax,最大)とを組み合わせた造語。
どうぞゆっくり楽しんでください \(^▽^)/

◎ 今週の気になる映画 ◎
「打ち上げ花火、下から見るか?横から見るか?」「ベイビードライバー」etc.

ビューティフル・マインド

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◆プチレビュー◆
懸命に生きた一組の夫婦。老いたときの2人がまたイイ。実話の重みを感じた。

1947年、冷戦下のアメリカ。天才数学者ジョン・ナッシュは斬新な経済理論を発表し、希望の研究所へ。ずば抜けた頭脳の持ち主である彼に国防総省の諜報員が接近し、極秘任務を依頼するが、ナッシュは危険な任務の重圧で徐々に精神を病んでいく。現実と幻覚の区別が付かなくなってしまう夫を、妻アリシアは懸命に支えるが…。

実在の人物の苦難に満ちた半生を描くとなると、単なる感動作に落ち着くのが普通。しかし、「ビューティフル・マインド」は人間ドラマであると同時に、実に巧妙なサスペンス。組み合わせの妙とでもいうのか、ストーリーとして飽きさせない。

アインシュタイン並の精鋭が集まる名門プリンストン大学の大学院に入学した頃のジョン・ナッシュは、授業など出ても無駄とばかり独自の理論の研究に没頭するが、頭に浮かぶものが形にならず思い悩む。研究所で出会い、生涯ナッシュを支えて共に人生を歩む妻アリシアとの静かで幸せな日々もつかの間、彼の前に謎の諜報員パーチャーと名乗る男が現われる。数学理論は国防に利用され、天才ナッシュは、対ソ防諜活動の一環として、暗号解読の極秘任務につくことに。危険な任務はナッシュの精神を蝕み、ついには精神分裂症と診断される。妄想、幻覚、幻聴…。本人の苦しみはいかばかりか。壊れていく天才の壮絶な姿を熱演するラッセル・クロウが、あまりにも上手い。現実と幻想の境をさまよう主人公という難役を、見事な演技で表現している。

サスペンスタッチの物語が始まるのは、ナッシュの思考に狂気が忍び込んでくるところから。これがどこからか見ている観客はまるで気付かない。観客が主人公と同じ不安を共有する演出は巧み。そして、そこからの軸は、アリシアと二人で病気と闘うナッシュの苦悩の日々だ。妻は夫を信じて支え続ける。夫ナッシュも自分の病気を内包しながら、いつしか自分が修めた学問を何かの役に立てたいと願い、再び大学に足を向ける。夫婦愛と人間の心の葛藤をサスペンス仕立てで展開させるとは!

クライマックスはノーベル賞授賞式。老いた夫婦の姿で、彼らが二人三脚で懸命に生きてきた事を現わす場面には、心から感動だ。何かを求め続ける意志の強さは、どんな困難をも克服する。ラストのナッシュのスピーチは、愛すること、信じることが、人を人生の勝者にしていて、それこそが真理なのだと訴えている。

数をアートとしてとらえ、映画ならではの方法で天才の思考を映像化しながら、人間ドラマとして1本の映画に仕立て上げていた。苦悩の数学者ジョン・フォーブス・ナッシュ・ジュニア。辛く長い闘病生活を経てノーベル賞という栄光にたどりつく彼の軌跡と夫婦の物語が感動を呼ぶ。

□2001年 アメリカ映画 原題「A Beautiful Mind」
□監督:ロン・ハワード
□出演:ラッセル・クロウ、ジェニファー・コネリー、エド・ハリス、他

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ブラックホークダウン

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◆プチレビュー◆
ノンストップで繰り広げられる戦闘シーン。爆風を感じさせる映像が続き、すさまじい。

1993年、国連の平和維持活動の一環として、米軍は東アフリカのソマリア内戦鎮圧に参加。その作戦とは、ソマリアの軍事独裁政権の指揮官数名を捕獲するというもので、周到に計画された特別作戦はわずか1時間で終わる予定のものだった。しかし、特命を受けた軍用ヘリ“ブラックホーク”が墜落、作戦に誤算が生じ、兵士たちは敵地に取り残されてしまう。砲火と銃弾の雨にさらされながら決死の脱出を試みるが…。

戦争映画の良し悪しを決めるのは、視点をどこに置くかをしっかりと定め、一度決めたら最後までグラつかせないことだ。あれこれ詰め込むと焦点は必ずボケる。スコット監督は、この映画の視点を戦闘そのものを描くことに定めた。その徹底ぶりは見事で、ソマリアでの15時間に及ぶ壮絶な市街戦を、飛び交う銃弾や吹き飛ぶ人間の体でリアルに再現。戦場の恐怖を情け容赦なく描写する。観ている観客も強引に戦場へ放り込まれ、否が応でも極限状態を体験することになる。

怒涛のように襲い掛かる戦闘シーンは、まさに待ったなし。兵士たちが味わう緊張は人間の限界を完全に超えていて、その熾烈な戦いの間に少年は男になり、兵士たちの心も成長するが、同時に戦争と勇気の本当の意味をも知る。何のために戦うのか?答えは爆風に舞う砂埃の中ではつかみとることができない幻のようなものだった。あられのような銃弾の中に米軍の慟哭が響く悲劇を突きつけられて、胸が痛い。

俳優の顔の印象が極めて薄い。いかなる犠牲を払っても仲間を救うというドラマ性はあれど、やはり、この作品の主役は戦闘そのものだ。事実の再現こそが最も雄弁なメッセージという監督の思いが伝わってきた。

リドリー・スコット監督は、もともとはCM制作からスタートした人。今では、CMやミュージックビデオ出身の監督は珍しくないけれど、彼はいわゆる先駆者的存在だ。美術学校に7年も通ったというだけあって、過去の作品を見てもその美意識は際立っているが、できるだけドキュメンタリータッチの映像を心がけたという本作でも、海岸を飛ぶヘリやこぼれ落ちる銃弾など、随所に彼の美的センスが光っていた。

戦争に勝者はいない。誰もヒーローになることなど望んでいない。時として、結果としてそうなるだけなのだ。命を落とした仲間の亡骸の前でのこの言葉は重い。ソマリア内戦への米国の介入は、客観的に見て完全な失敗。ベトナム戦争以来、アメリカが経験した最大の銃撃戦であったことを付け加えておこう。

□2001年 アメリカ映画 原題「Black Hawk Down」
□監督:リドリー・スコット
□出演:ジョシュ・ハートネット、ユアン・マクレガーサム・シェパード、他

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シャンプー台のむこうに

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◆プチレビュー◆
イギリスの田舎っぽさがグッド。ジョシュのひょうひょうとした持ち味が生きた作品。

かつて美容師選手権で2度優勝を果たした父フィルと理髪店を営むブライアン。父子を捨てて駆け落ちした母親とは同じ街に住んでいるが10年以上絶縁状態だった。一流美容師になるために選手権に出場したいブライアンのもとに、母シェリーがやってきて家族での出場をもちかけるが…。

話自体は先が読めるし、ご都合主義のところもあるけれど、なぜか全然気にならない。いろんな要素をほどよく配したバランスの良さがいいのか、上手にまとまっている。田舎町に似合わないド派手なヘアコンテストのパフォーマンスで笑わせるかと思えば、ガンを宣告された母親をとりまく家族のそれぞれのわだかまりを描いて涙を誘う。笑いと涙、家族愛、そして音楽とステージ。「フル・モンティ」でオスカー候補になったS.ボーフォイの脚本だけあって、しっかりツボを抑えていた。

“女”とかけおちした妻に逃げられた、寡黙で頑固な父親フィルを好演するアラン・リックマン。本当の主役は彼だ。複雑な思いで別れた妻との再会を果たすことになる。そのときのセリフがいい。「せめて男と逃げるべきだった…」「男はあなたで十分なのよ。」泣かせるではないか!そしてこのフィルが伝説のハサミ師として蘇るコンテストの最終日。もっと誇張されたフィルのハサミさばきの妙技が見たかった。

忘れちゃならないのは市長を演じるウォーレン・クラークの可笑しさ。田舎で初めて開催される全英美容師大会に、最初はオドオドしていたものの、大会の盛り上がりとともにノリノリでハジける姿が爆笑もの。最後には歌も披露してくれるサービスもあり、思わず拍手だ。

美容師としてのプライドと家族の絆を取り戻す個性的な人々が織り成す人間模様。ヘアコンテストを通して絆を取り戻していく、ちょっと風変わりな家族の再生の物語は、小品だが味がある。見終わったあと心が温かくなるのがうれしい。

□2000年 イギリス映画 原題「Blow Dry」
□監督:パディ・ブレスナック
□出演:ジョシュ・ハートネット、レイチェル・リー・クック、アラン・リックマン、他

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ピアニスト

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◆プチレビュー◆
有名な、トイレから引きずり出してのキスシーンがすごい。作品のインパクトは最高だ。

中年になった今も厳格な母親に支配され、名門音楽院のピアノ教授として生きるエリカ。恋やおしゃれとは無縁の彼女の前に、若く才能溢れる青年ワルターが現われ一途に求愛する。しかし、エリカには人には言えない秘密があった…。

題名の「ピアニスト」。この何やら美しく甘いタイトルが、誤解を生みそうで心配だ。中年女性と若い青年の年の差を越えたラブ・ストーリーとか、厳格な母親の支配のもとに育った女性が自立していく物語…と思うととんでもないメにあう。

40をとうに過ぎた中年女性のエリカ先生は人生の全てをピアノに捧げて生きてきた。恋や娘らしい服装までも禁じた母親の支配すら生活の一部となっている毎日だが、どうやら本来の夢であったコンサート・ピアニストにはなれず、名門とはいえ音楽院で未来のピアニストを育てる教授という意に沿わぬ職業についている。更に女の細腕ならぬ細い指でアパートの支払いを背負い、芸術とは程遠い経済面の苦労も覗かせる。ストレスの塊のような日々を送るエリカ先生は、ポルノショップや覗き趣味でバランスを保っているからアブナイ。

そこに登場するのがワルター青年。若く美形で音楽の才能にまで恵まれている彼が、なぜイジワル中年女教師のエリカ先生に恋したのかはこの際問題ではない。二人に妥協点はあるのか?エリカ先生の非常識ワールドにワルターが足を踏み入れるのか、それとも中年女エリカ一世一代の決心でフツーの世界の住民となるのか…。愛し方を知らないエリカ先生よ、歪んだ心を抱えてどこへ行く…。まったく展開が見えないストーリーに引きずられて、ラストまでいってしまう。シューベルトを始めとする格調高い調べと共に、激しくもエグい世界が展開。そして余りにも唐突にやってくるラストシーン。

外面的にはSで内面的にはMの中年女性という難役をこなしたイザベル・ユペール。彼女の演技力の高さには驚くが、この役を引き受ける、座った根性がすごい。

母親との確執で深く病んだ心は、他人と関係を結ぶ方法を知らない。彼女が理解できるのは支配と服従のみ。それを愛に当てはめようとする悲喜劇がこの映画のポイントだ。映画の描く結末に観客は頭を抱えること必至。途中で思わずヒイてしまいそうになるのを我慢して見続けたら、気が付いたらハマッていた。そんな作品だ。カンヌの審査員も驚きのあまり3冠を与えてしまったのでは…。

原作はドイツの女性作家エルフリーデ・イェリネクの小説。ほとんど自伝だそうだが、これがホントの話なんて怖すぎないか?他人とうまく関係を結ぶことができない女性の心の闇を浮き彫りにしたこの映画、嫌悪感や違和感を通り越し、観客を引きずり込む、恐ろしくも奥が深い作品だ。

□2001年 フランス・オーストリア合作映画 原題「La Pianiste」
□監督:ミヒャエル・ハネケ
□出演:イザベル・ユペール、ブノワ・マジメル、アニー・ジラルド、他

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地獄の黙示録・特別完全版

地獄の黙示録 特別完全版 [DVD]地獄の黙示録 特別完全版 [DVD]
◆プチレビュー◆
これぞ不動のマイ・ベスト・ムービー。何度観ても心が騒ぎ、恍惚感を味わってしまう。

ベトナム戦争が泥沼化していた60年代末。カンボジアの密林の奥地に失踪し、私兵集団を率いて自ら王として君臨する脱走将校カーツ大佐の暗殺指令を受けた米軍のウィラード大尉。哨戒艇で川を遡り、戦場をひた進む彼は、その途中で戦争によって狂気に陥ったさまざまな人間に出会う。戦場の矛盾を自問しながら次第に任務を越えてカーツへの共感とも尊敬ともつかぬ固執に捕らわれていく。そして密林の果てにウィラードが見たものとは…。

79年に「ブリキの太鼓」と分け合う形でカンヌでグランプリを獲得した、コッポラの問題作が、53分の未公開映像を加え監督自らの再編集で、より解りやすく完全な形で蘇った。傑作か駄作かと大論争を呼んだ難解な作品だが、今の世相だからこそ加えられるシーンも多く、改めて観た今、文句なしの偉大な作品であると確信する。特命を帯びた男の視点から戦争の狂気を浮き彫りにしていく、今までにない切り口。戦争映画という枠ではくくれない、一種寓話的で哲学的なこのロードムービーの最大のテーマは“欺瞞”。戦場で繰り広げられる様々な偽善や嘘を鋭くえぐっていく。

あまりにも有名な映画だが、その一方で難解さもピカいち。しかし、この完全版で追加されたエピソードによって、より深く人間性が掘り下げられ、かなり理解しやすくなっている。今回初めてこの映画をご覧になる方もいらっしゃるかと思うが、完全版を見てから、オリジナルを見るのもまた鋭さを味わえておもしろいだろう。追加されたシークエンスは大きく分けて、仏人入植者のシーン、慰問のプレイメイトたちのその後のエピソード、カーツ大佐の会話、そしてサーフボードを盗むコミカルな場面の4つ。特にフレンチプランテーションの場面は長く、こんな大切なシーンがカットされていたのかと驚かされた。仏人との食事の場面とカーツ大佐の追加シーンでは、アメリカがいかに無意味な闘いを繰り広げたかが容赦なく語られる。また女性キャラクターの登場も完全版の特徴のひとつ。仏殖民農園で出会う幻のように美しい未亡人とウィラードはつかのまの愛をかわすが、これは戦争映画ではかなり珍しい甘美で奇妙なラブシーンで、ウィラードがいかに心を病んでいるか、そして、アヘンの幻覚の中とはいえ、彼が一瞬生きている感覚を味わう興味深い場面だ。「殺すあなたと愛するあなた。」「生きている。このことが大切なのよ。」このセリフの重要性に注目だ。演じるのは「ルシアンの青春」のオーロ−ル・クレマン。プレイメイトの米人女性のセクシーさと仏人未亡人の官能性の対比もおもしろい。

観ている私たち全てを船に乗せ、旅へと導くこの映画の主人公はウィラード大尉。彼はほとんど感情を表に出さない男で、オーバー・ヴォイスのナレーションを通じてやっと観客はこの人物の内面を知ることができる。最初のキャスティングではこの役はハーヴェイ・カイテルだったのだが、撮影途中での主役の交代という荒業をやってのけたコッポラ監督の目は正しく、端正な容貌と低く冷淡な声を持つマーティン・シーンの演技は、やはり彼しかいないと思わせた。オリジナルではニコリともせず一度も笑顔を見せない彼だが、完全版では笑うシーンがあり、ウィラードも旅の最初は“まとも”だったことを表している。彼は旅の途中で出会う、極端なまでにデフォルメされた人物たちをいつもあきれて見つめるが、心は常にうつろで、冷笑的。もちろんベトナムの矛盾や軍の偽善にも気付いている。それでいて戦争という枠の中でしか生きられない自分。だからこそカーツの心情が彼には理解できる。特にベトナム人をのせた船を衝動的に攻撃する場面で、虫の息の若い女性に容赦なくとどめをさすシーンはショッキングで、観客が感情移入できる主人公という大原則をくつがえしている。しかし、ウィラードは、自分で攻撃しておきながら、病院に運ぼうとする偽善が許せない。前半に登場するキルゴア大佐は三度のメシよりサーフィンが好きで、波乗りしたさに爆撃を加え、村を焼き払っておきながら女子供を懸命に助けたりする狂気の人物。このキルゴアから逃げながらサーフボードを盗むエピソードも嘘と矛盾に対するウィラードのささやかな抵抗とみることができる。この旅は実はウィラードの自分探しのオデッセイアでもある。そして、任務の果てにたどり着いた先で出会うカーツは、自分自身という皮肉。

「ゴッド・ファーザー」で名声を確立したコッポラが人生を賭けて制作した一大叙事詩は、映画制作そのものが狂気と化したものだった。遅れに遅れる撮影日程、キャスティングの紆余曲折、未曾有の台風による撮影機材の損壊、内容に難色を示した米軍の協力拒否、長期のフィリピン・ロケによる疲労と病気、ストレスと心臓発作で緊急入院し生死の境をさまよった主役のM.シーン、ダイエットに失敗し、原作すら読まずに撮影に現われたM.ブランドのわがまま、決まらないエンディングとコッポラの焦燥、そして膨れ上がるスケールと製作費。これらの数限りない障害が、結果として画面に異様なまでの迫力を生み出すことになる。さらに、果てしなく続く編集作業が待ち受けて、遂に未完成のまま出品されたカンヌ映画祭。賞を獲得したものの、世界中で巻き起こった論争は今も続いているが、この特別完全版はそれらにコッポラ自身が出したひとつの答えなのだ。

全てが卓越したこの映画だが、特に音楽の巧みな選曲には唸る。冒頭とカーツの殺害場面で流れるドアーズの「ジ・エンド」や有名な「ワルキューレの騎行」の迫力、実父カーマイン・コッポラによる効果的な音楽の数々は、才能ある監督は往々にして音楽センスがいいと改めて納得だ。事実、名作と呼ばれる作品には必ずといっていいほど、すばらしい音楽が寄り添っている。更にこの映画の魅力は、終盤になればなるほど冴え渡る悪魔的に美しい映像。世界で最も才能のある撮影監督の一人ヴィットリオ・ストラーロによる映像は、ダビンチが描く風景のように深遠で重厚。彼が絵画の国イタリア出身であるのは必然なのだ。当然のように本作でアカデミー撮影賞を受賞している。

オリジナルは数えきれないほど観たが、完全版の解りやすさの要因は間違いなく字幕にある。ご存知、戸田奈津子氏だが、この映画を真に深く理解していないと、これほど的確な訳はできない。映画字幕は、直訳すればいいというものではないのだ。素直に脱帽である。

ウィラードとカーツの本質は同じと気付けば、この難解なラストも見えてくる。父と子のような、ひいては同一人物のような彼らは戦争の中でしか生きられない。カーツは完全に正気ではなく、ウィラードもおそらく正気ではない。但し、戦争の欺瞞を冷めた目で見ながら理性を残している所がウィラードの悲劇だ。カーツの命を絶ち、彼の後継者として密林の王になる選択を捨て、もとの場所へと戻るウィラードは、武器を手放し、原住民の武装を解除して去っていく。このエンディングはオープニングへとループしていく。

原作はオーソン・ウィルズも映画化を試みたジョセフ・コンラッドの「闇の奥」。密林では故郷を思い、故郷では密林に恋焦がれる。橋を架けては壊す繰り返し。戦争を止めてはまた始める人間。過ちを繰り返す人間の愚かしさをベトナム戦争という狂気のショーで私たちに魅せるのが「地獄の黙示録」という映画だ。観るほどに血が騒ぐ不思議な陶酔感。洗練されている。この表現が最も近い。鑑賞するのではなく、体感する映画だ。戦争の狂気を描き、1979年にカンヌでグランプリに輝いた怪作の見事な復活を見よ。これほど優れた映画にめぐり合う事はめったにない。まさに傑作にして怪作だ。

□2000年アメリカ映画 原題「Apocalypse Now REDUX」
□監督:フランシス・フォード・コッポラ
□出演:マーロン・ブランド、マーティン・シーン、ロバート・デュバル、他

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アメリカン・スウィートハート

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◆プチレビュー◆
登場人物は実はみんな結構いいヤツだ。ノーテンキなラブストーリーもたまにはいい。

大スターの姉グエンの付き人キキは、姉の別居中の夫であるエディに密かに思いを寄せている。映画のヒットのために2人のヨリをもどそうとする宣伝マンに頼まれ姉を説得するキキ。やがてまっすぐなキキの想いは優柔不断だったエディを真実の愛へと導いていく…。

やっぱりジュリアはこうでなくちゃ。大輪の花を思わせる笑顔と、思わず好感を持ってしまうコミカルで親しみやすいキャラクターは彼女の十八番(おはこ)だ。華やかな芸能界でサエない暮らしを送る付き人という意外性もいい。そしてその地味な彼女が次第に恋に目覚め生き生きと成長し、ついには幸せに…。ジュリアの王道、ここにあり!

ハッピーエンドは明白なので、映画界の裏側を描く業界の内幕モノとして楽しもう。映画をあてるためには手段を選ばない宣伝マン役のビリー・クリスタルがとにかく可笑しい。犬とのやりとりがまた傑作。キキをこきつかいながらもどこか憎めないわがまま女優を演じるキャサリンも好演だ。この人、案外コメディに向いてるかも。そしてフラフラと優柔不断なエディを演じるジョン・キューザックも、時々キレながら熱演だ。この微妙な配役が笑いを呼ぶ。

キキは昔は太っていたという設定なので、肉襦袢を着たデブのジュリアが登場するのが見ものだ。変人監督役のクリストファー・ウォーケンの怪人ぶりもハマりすぎでコワイ。いわくつきの劇中劇が、結果として2人を結びつけるキューピッドとなる展開もしゃれている。

恋愛騒動よりも業界騒動。セレブの暮らしぶりも見ていて楽しい。切ない恋心を胸に秘め…と一見しおらしいジュリアだが、言うべきことはきっちり言わせてもらう!というところが爽快だ。あの大きな口でのヤケ食いも迫力あり。さえない生活を送る女性が恋に目覚め成長していく業界物ラブストーリー。ラブコメディはジュリアが最も輝く場所なのだ。

□2001年 アメリカ映画 原題「AMERICA'S SWEETHEARTS」
□監督:ジョー・ロス
□出演:ジュリア・ロバーツ、キャサリン・ゼタ=ジョーンズ、ジョン・キューザック、他

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レクイエム・フォー・ドリーム

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◆プチレビュー◆
一種のモダン・ホラーにも見える。コッテリと濃厚な悪夢を堪能した感じだ。

TVが唯一の楽しみの孤独な未亡人サラはお気に入りの赤い服を着たいがためにダイエット・ピルを飲み始める。サラの一人息子ハリーは恋人マリオンとのささやかな夢を語り、友人と共に麻薬売買に手を染め、自らも常用者に。薬、麻薬、TV…。中毒に陥り絶望と破滅への道を転げ落ちる彼らの行く末とは…。

分割されたスクリーンの独特の感覚。スピーディに移り変わる風景。臓腑に響く音楽。麻薬でトリップする映像が繰り返し登場し、血液中の薬物が吸収される様子や目まぐるしく開く瞳孔のクローズアップが畳み掛けるように観る者に襲い掛かる。ジェットコースターのような悪夢の映像の応酬だ。様々な撮影方法で表現される幻覚や妄想は強烈で、クスリが切れたときの恐怖がひしひし伝わってくる。

人間誰しも、寂しさ故に、満たされたい、愛されたいと願うもの。その気持ちを満足させるための手段を間違えてしまうといったいどうなるのか。中毒。これがこの映画のテーマだ。人間がボロボロになっていくさまを、これほどまでにリアルに残酷に描いた作品はめったにない。しかもその転落していくきっかけは日常のほんのささいな出来事が発端なのだから、それはまさに肌に密着した恐怖感と言えるだろう。

登場人物たちはごくごく平凡な人たちばかり。孤独な老女サラを演じるE.バースティンの熱演は壮絶だ。彼女が瘠せたい一心でダイエットの薬を服用する場面は、医療不信に陥りかねない。

麻薬を扱った映画はこれまでにも沢山あったが、この映画の特徴はあくまで日常を基準に描いていること。平凡な人間がささいなきっかけで堕ちていく。その果てに待つのは永遠に続く苦しみなのだと厳しく語っている。物語は3つの季節に分かれて構成されていて、希望と可能性に満ちた夏、現実に気付く秋、厳しさを知る冬と続くが、春がないのは、彼らに救いがないことを意味している。人が何かに依存し、中毒に陥った行く先に待ち受けている底なし沼に春は来ない。そして彼らは地獄に落ちてもなお、空しい夢を見続ける。死ぬなどという安らぎは、決して許されないのだ。

この作品を観てもなおドラッグをやろうという子供が果たして何人いるだろうか?!恐ろしい薬物中毒。その壮絶さと転落、さらに中毒に陥った人間の最期をしっかりと見据えよう。彼らに救いはないのだから。

□2000年 アメリカ映画 原題「Requiem For A Dream」
□監督:ダーレン・アロノフスキー
□出演:ジャレッド・レト、ジェニファー・コネリー、エレン・バースティン、他

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砂の女

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前衛的なアート・ムービーの巨匠、勅使河原宏による不条理劇。

夏のある日、砂丘地帯に昆虫採集にやってきた高校教師は、日が暮れて砂丘の集落にある一軒の家に泊まることになる。砂の穴の底にあるその家には、なまめかしい後家が住んでいた。教師はやがて村の男たちから穴に閉じ込められたことに気付く。もがきながらも、何とか砂だらけの家から脱出しようと試みるが…。

安部公房が描く原作が持つシュールな展開もさることながら、映像となったことで立ち上がる異様な気配に圧倒される。村の人々は、常に砂をかきだすことで成り立つ集落の掟に従って、男を労働力として雇い入れたのだ。しかも、砂という同一の敵によって固く団結していた。村は村長によって社会主義に似た制度で支配されている。やがて主人公は後家と肉体関係を結び、さらに穴から水が湧き出る事実により、穴の内と外の価値観が反転していく。

モノクロの映像による前衛的なアート作品だが、物語の根底には、文明にとらわれた現代社会への痛烈な批判がある。個性派名女優の岸田今日子の熱演が光るこの映画は、カンヌ国際映画祭審査員特別賞をはじめ、国内外の多くの賞を受賞した。

(出演:岸田今日子、岡田英次、三井弘次、他)
(1964年/日本/勅使河原宏監督/原題「砂の女」)

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オーシャンズ11

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◆プチレビュー◆
豪華すぎる組み合わせ。もっとも印象的なのはキャストだけで、目新しさはない。

保釈中の窃盗犯オーシャンはラスベガスの地下にある大金庫から大金を強奪する前代未聞の犯罪計画を構想。さっそく仲間を集める。一癖も二癖もある犯罪のスペシャリストが集まり、厳重なセキュリティ・システムを破る計画は、実は、オーシャンの別居中の妻を取りもどす作戦でもあった…。

ストーリー自体は目新しいところはどこにもない。計画して、偵察して、接触、潜入、トリックかまして金庫を破る。ただそれだけだ。定番ともいえるベタな犯罪劇を、こうまでおもしろく見せるのは、やはり、キャストと監督の腕の見せ所か。わかっちゃいるけど楽しいのだ。

ソダーバーグだから出演しました、と俳優達に言わせるだけあって、この監督のセンスはすばらしい。テンポ良く進む犯罪劇は2時間があっという間に感じる。ダサい映画は作らない!と日頃から公言してる監督だけに、映画ならではの醍醐味を、スタイリッシュで小気味良く魅せてくれる。

もともとはフランク・シナトラ一家が出演した60年代の「オーシャンと11人の仲間」をリメイクしたもの。往年のファンの方は懐かしく感じられたのでは?粋なユーモアと伊達男を演じさせたらこの人の右に出る人はないというジョージ・クルーニーを中心に据えて、笑いとスリルの遊び心満載で再登場。こんな楽しいお遊びができるのもオスカー監督の余裕の表れか。

何しろ最初から話は見えてるから、人間描写がどうこうというかったるい部分はいっさいナシだ。クルーニーは「オー・ブラザー!」に引き続き、刑務所上がりで女房に逃げられる役。そのクルーニーの右腕で計画の細部を組み立てるラスティーにブラピ。彼らにはほれぼれだ。この2人に比べたらマット・デイモンはまだまだひよっこで、頼りない。他のメンバーもそれぞれに重要な役柄をになうスペシャリストではあるけれど、キャラクターのセンスという点ではやっぱり見劣りする。だいたい、金庫破り程度の犯罪に11人は多すぎるんじゃないのか?!

オーシャンの離婚寸前の妻テスには、今やオスカー女優のジュリア・ロバーツ。彼女への未練がオーシャンを空前の犯罪へと駆り立てる。だがここがミスキャストなのだ。彼女の魅力は行動してこそ。あの大きな口で、いっぱい笑って、いっぱい泣いて、自分の手で勝利と幸せをつかみ取る。そんな役でこそロバーツの魅力がいきるのに、このテスときたら単なる職場の花なのだ。こんなに魅力が薄いロバーツは初めてみた。お人形みたいな役ならば、ジュリアでなくてもいい。彼女が通るだけで胸が高鳴り犯罪もいとわない。まさに究極のファム・ファタル。例えばシナトラの恋女房だった絶世の美女エバ・ガードナーだったら、A.ガルシアの答えも違ってたと思うゾ。

□2001年 アメリカ映画 原題「Ocean's eleven」
□監督:スティーブン・ソダーバーグ
□出演:ジョージ・クルーニー、ブラッド・ピット、マット・デイモン、他

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息子の部屋

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◆プチレビュー◆
地味で静かで結論をはっきり描かないので、映画の良さは伝わりにくい。

幸せな日々を送っていた精神分析医ジョバンニ一家を突然襲う、長男アンドレアの水難事故死。失意の日々を過ごす残された家族の心は次第にバラバラになっていく。そんな折に、ある少女から息子宛に手紙が届く。

グランプリという最高賞にしては物足りない小粒な作品と感じる人が多いはずだ。美人で優しい奥さん、いい子に育った子供達、医者である自分の仕事はすこぶる順調。幸せというより、平凡だ。それが、息子アンドレアの死によって、妻は虚脱状態、夫婦の仲もぎくしゃくし、大切な弟を失った娘はやるせない気持ちをバスケットの試合中に暴力をふるうことで表す。家族がいかに傷ついているかを日常の些細なことから描く視点が丁寧で、悲しみの深さを物語っていく。何より、父親であるジョバンニが苦悩する姿の描写が秀逸。精神科医である彼は今まで患者の悩みを聞く立場。生来の温和で仕事熱心な性格から、面倒な患者にも理性的に対応するが、息子の死が彼の心に負わせた傷はあまりにも大きく、診療中にこらえきれず嗚咽してしまう。これはジョバンニが初めて患者の真の心の痛みを体験する場面で、非常に印象的だ。

出口のない悲しみで押し潰されそうな家族はいったいどうなるのか?今は亡きアンドレア宛に一通の手紙が届く。それは昨年の夏に出会ったガールフレンドからのもの。劇的とは程遠い静かで控えめな演出は、会話も淡々として語り合うほどの思い出もない。しかし、アンドレアからもらったという数枚の写真には、幸福な息子の笑顔があった。

海岸にたたずむ家族の姿は、その後の人生と希望を暗示している。寄り添うでもなく、離れるでもなく、微妙な距離を保ちながら海辺に立つ家族は、息子の淡い恋の相手を知ることで、ようやく彼の死を受け入れる気持ちになる。家族の死という計り知れない悲しみを、忘れたり克服したりするのではない。事実を受け入れて内包したまま生きていく無意識の決意がここにある。耐え難いほどの悲しみに見舞われても、昨日と同様に朝日は昇り、海はそこにある。家族にセリフはなくても、それでも人生は続くのだと、映画は語りかけている。今までと同じように新しい1日がやってきて生きていかねばならない“残酷さ”。その中に身をおくことでしか、生き抜く術はない。

耳に残る印象的な音楽はブライアン・イーノの「バイ・ディズ・リバー」。傷ついた家族の絆と再生を静かに描くこのイタリア映画は、劇的な醍醐味とは無縁ながら、丁寧なリアリティが光る佳作だ。

□2001年 イタリア映画 原題「La Stanza del Figlio」
□監督:ナンニ・モレッティ
□出演:ナンニ・モレッティ、他
□カンヌ国際映画祭パルムドール受賞

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