映画通信シネマッシモ☆映画ライター渡まち子の映画評


【本音で語る新作映画レビュー】
シネマッシモでは、映画レビューはネタバレなしのヒントあり。映画を見る前と見た後と、2度読んで楽しめます。
映画評サイトもこのブログで4代目になりました。すべての映画好きを歓迎します!
(点数は100点が、★は5つが満点)
シネマッシモとは、シネマ(映画)とマッシモ(イタリア語でmax,最大)とを組み合わせた造語。
どうぞゆっくり楽しんでください \(^▽^)/

◎ 今週の気になる映画 ◎
「スター・ウォーズ/最後のジェダイ」「ユダヤ人を救った動物園」etc.

アイ、ロボット

アイ,ロボット 通常版 [DVD]アイ,ロボット 通常版 [DVD]
◆プチレビュー◆
感情を持つロボットものの映画としては、「ブレードランナー」がイチオシ。人間が機械化する逆パターンとしては「ロボコップ」が代表。共存を哲学的に描いたのは押井守の「イノセンス」。やっぱりロボット映画はSFの大看板だ。

2035年のシカゴ。ロボット三原則の提唱者であるラニング博士が謎の死を遂げる。捜査を担当するスプーナー刑事は、ある出来事以来、ロボットに対して不信感を持っていた。スプーナーは、博士を殺したのはロボットのサニーではないかと疑うが、事件の裏には企業の巨大な陰謀が隠されていた…。

感情を持つロボットという設定は、SFでは古典とも言えるもの。それだけ人気で興味深いテーマなのだ。SFの巨匠アイザック・アシモフの短編「われはロボット」を原作とするこの映画は、ロボットと共存する近未来を舞台に、アクション、サスペンス、ドラマと複数のジャンルをまたぎながら展開する。扱いようによっては、人間の存在意義を問う深遠なテーマにもなるところを、しっかりエンタメ作品に仕上げるのがやはりハリウッドだ。

主人公のスプーナー刑事を演じるウィル・スミスは製作総指揮も務めている。そのせいか、ロボット嫌いのトラウマは少々優等生すぎる感も。さらに、全裸のシャワーシーンなど、不必要なサービスショットもあり、笑わせてくれる。だが、コンバースのスニーカーを「2004年モノだぜ」と自慢してアナログ感覚を醸し出し、近い未来はさもありなんと思わせるなど、意外に細かい芸も披露する。

SFでは未来社会を視覚化するビジュアル・センスがものを言う。その点、このロボットの造形はシンプルでなかなか良い。メタリックなロボットの大群は、かなり不気味。表面よりも筋肉構造で擬人化する技術に注目だ。監督のプロヤスはエジプト生まれのオーストラリア育ち。クールな映像センスが持ち味の人である。

感情を持つ究極のロボット、サニー。サニーは本当に殺人を犯したのか。もし、そうなら、いったい何のために?スプーナー刑事の上司が言う「人間が人間を殺していた時代が懐かしい」というセリフが意味深い。テクノロジーの暴走というありがちなテーマではあるが、そう遠い世界の話ではないのだから、この際、大真面目に鑑賞するのもいいだろう。

□2004年 アメリカ映画 原題「I, ROBOT」
□監督:アレックス・プロヤス
□出演:ウィル・スミス、ブリジット・モイナハン、ジェームズ・クロムウェル、他

人気ブログランキング用バナー

←この記事が気に入ったら、ポチッとクリックしてもらえると嬉しいです\(^o^)/

アイ,ロボット@ぴあ映画生活

ヴィレッジ

ヴィレッジ [DVD]ヴィレッジ [DVD]
◆プチレビュー◆
ヒッチコックよろしくスクリーンに登場するのがシャマランの得意技。今回は映画の終盤にチラリと登場。後姿だがガラスに顔がうっすらと写る。盲目のアイヴィーを演じたB.D.ハワードは「ビューティフル・マインド」のロン・ハワード監督の娘だ。

1897年のペンシルヴァニア州。深い森に囲まれたその村では、外界とは完全に孤立した暮しが営まれ、数十人の村人はまるで大きな家族のように暮していた。村には厳密な掟が存在したが、瀕死の恋人ルシアスを助ける薬を手に入れるため、不思議な力を秘めた盲目の少女アイヴィーが、町に向かって遂に森へと足を踏み入れる…。

超自然現象やゴースト、異星人などに執着するシャマラン監督。そのこだわりを映画に盛り込むのはいいが、作品の質にバラツキがあるのがたまにキズだ。「シックス・センス」で世界中を熱狂させたかと思えば、「アンブレイカブル」「サイン」と、観客を連続してスベらせる。彼の新作に身構えてしまうのは仕方がない。でも、期待してしまうのもまた事実なのだ。

シャマラン流の仕掛けは二段構えになっていて、村人が守る3つの掟と森に住むという“彼ら”の正体が第一の謎である。最初の謎は正直言って肩すかしだが、最後の謎には驚かされる。楽園とも思える特殊なコミュニティの存在と、それが崩れる予感がテーマだ。“村”と“町”の真実が明らかになったとき、物語は深みを増す。謎解きの楽しみのため余計な解説は止めておこう。

映画の出来とは別のところで話題になっているのが、この映画のオチにまつわる盗作問題。秘密主義で知られた映画だけに波紋は大きいようだ。だが、映画に関して「このネタはあの小説やこの映画で見たことあるゾ!」と鬼の首でも取ったように騒ぐのは、ナンセンスだと私は思う。第一、殆どの映画の物語は、過去にどこかで使われているのだ。そんなことより大切なのは、映画としてどれだけ訴求力を持つかではないだろうか。最初であることより最良であることを目指すべきなのだ。

コケオドシもたっぷりの娯楽作でありながら、見終われば社会性も込められていたとは驚く。人間が築くユートピアを、神や自然は許すだろうか。そして、そのユートピアは真の幸福を生むのだろうか。この作品、シャマランに似合わず、案外深い映画なのかもしれない。もっとも彼のデビュー作はいたってヒューマンな「翼のない天使」だったことを思えば、“似合わない”と評するのは失礼かもしれないけれど。

□2004年 アメリカ映画 原題「The Village」
□監督:M.ナイト・シャマラン
□出演:ホアキン・フェニックス、エイドリアン・ブロディ、ブライス・ダラス・ハワード、他

人気ブログランキング用バナー

←この記事が気に入ったら、ポチッとクリックしてもらえると嬉しいです\(^o^)/

ヴァン・ヘルシング

ヴァン・ヘルシング [DVD]ヴァン・ヘルシング [DVD]
◆プチレビュー◆
地味ながら演技力のある英国美人女優ベッキンセール。だが、この人のハリウッドでの映画選びは大いに疑問。3人のドラキュラの花嫁のセクシー度は、歴代ドラキュラ映画では随一だ。

19世紀。ローマ法王庁の秘密組織に属するモンスター・ハンターのヴァン・ヘルシングは、ドラキュラ退治のためトランシルバニアへ。そこで、おぞましい怪物たちと戦い続ける一族のアナ王女と出会う。ヘルシングは彼女とともに熾烈な闘いに挑んでいくのだが…。

ユニヴァーサル映画の歴史を華麗に彩る有名モンスターたちが勢揃いする様は、さながら歌舞伎の顔見世興行を思わせる。吸血鬼、フランケンシュタイン、狼男。これに前菜感覚でジキルとハイドも加わってくる。モンスターたちを蘇らせ、さらにそれぞれに微妙なつながりを持たせたところが本作の新しさだ。もちろん最新のVFX技術をたっぷり駆使し、アクションシーンは盛り沢山である。

主人公の凄腕モンスター・ハンターであるヴァン・ヘルシングは、従来の老教授ではなく、若くセクシーな人物に設定。扱う武器も19世紀にもかかわらず、殆ど現代と同様の派手で破壊的なものだ。マカロニ・ウェスタン風のファッションに身を包んで大いに暴れまくる。演じるヒュー・ジャックマンは好演で、過去の記憶がなく自らの出自に秘密を持つ悩めるキャラは「Xメン」のウルヴァンリン役でも得意としたところだ。

ストーリー自体はいたって大味で、古き良き冒険活劇ものの痛快さに満ちている。肩肘はらずに楽しむ作品なのだ。残念なのは、アナ王女を演じるケイト・ベッキンセールにアクションのセンスが全く感じられないこと。圧倒的な身体能力で史上最強の美女であるはずが、ヘマばかりやっている。迫力があるのは異様に濃いアイメークだけでは、なんとも寂しい。明らかにミス・キャストだ。アナの兄役でバレエ界の貴公子のウィル・ケンプにも、さしたる見せ場が用意されてないのも惜しい。

しかし、全体を覆うダークなテイストを始め、美術の美しさは必見だ。特にドラキュラ伯爵が開く舞踏会のシーンは、シルク・ド・ソレイユの幻想的なパフォーマンスに思わず見惚れるはず。モンスター同士の微妙な繋がり、ヴァン・ヘルシングの秘密、さらなる大冒険…。描き残しは山ほどあれど、謎解きは次回作でのお楽しみというわけか。

□2004年 アメリカ映画 原題「VAN HELSING」
□監督:スティーブン・ソマーズ
□出演:ヒュー・ジャックマン、ケイト・ベッキンセール、デヴィッド・ウェンハム、他

人気ブログランキング用バナー

←この記事が気に入ったら、ポチッとクリックしてもらえると嬉しいです\(^o^)/

ぼくセザール 10歳半 1m39cm

ぼくセザール10歳半 1m39cm スペシャル・エディション [DVD]ぼくセザール10歳半 1m39cm スペシャル・エディション [DVD]
◆プチレビュー◆
セザールの家族はユダヤ系という設定。ステレオタイプではあるが、ケンカしながらも家族の絆が強いユダヤ系一家が上手く表現されている。サラ役の少女は監督の実の娘。我が子を“学校一の美少女”にする親バカが微笑ましい。

ちょっと太めなのが悩みのセザールは10歳半。子供扱いされるのが嫌いなのに、大人はちっとも判ってくれない。セザールのパパが何の仕事をしてるか判らないけど、長い出張に行くと言う。これはきっと“出張”なんかじゃない…!セザールの勘違いは思わぬ誤解を生み、彼はたちまち学校のヒーローになってしまうのだが…。

私たち大人だって、10歳半だった時代があったはずだ。でも、あまりに遠い昔のことなのですっかり忘れてしまっている。映画はカメラをセザールの身長の1m39cmに固定することで、見ている観客も次第に子供の視線を共有する仕掛けになっている。世間を見上げ、天上は大きく高い。大人からは常に見下ろされる。なんだか不愉快?!最初はどこか違和感があるが、この目線だからこそ見えるものもある。

何でも出来る親友モルガンへの劣等感や、あこがれの美少女サラへの恋心など、ほのぼのエピソードが満載。他愛ないことも、子供たちにとっては全てがスペシャルな出来事。前半はセザールの父親が長い出張に行くのを“逮捕”されたと誤解することから起こる珍騒動、後半は親友のモルガンの父親を探しに、地元パリから言葉も通じない英国への冒険の旅。ロンドンではゴダールの映画でお馴染みのアンナ・カリーナが、彼らの“お助けウーマン”として登場するという嬉しいサービス付きだ。

映画はセザールのナレーションで進行するが、これは子供の価値観というより、大人がうやむやにしてしまっている知覚の再現だ。笑いを誘う鋭くも切実なセリフが全てみずみずしい。プクプクした頬のセザールの頭の中では「10歳の女の子に、男は中身だってことを判らせるのは簡単じゃない」なんていうセリフが深刻に横たわっているのだ。

この映画では、誰もが、生意気で不安で背伸びして生きていた10歳半の自分に出会えるはずだ。セザールとサラとモルガン。その後の彼らの成長はどうなるの?久しぶりに続編が見たいと感じる作品である。トリュフォーの「大人は判ってくれない」のポジティブ・バージョンとでも呼びたい楽しい1本だ。

□2003年 フランス映画 原題「MOI CESAR 10ANS1/2 1m39」
□監督:リシャール・ベリ
□出演:ジュール・シトリュク、ジョゼフィーヌ・ベリ、アンナ・カリーナ、他

人気ブログランキング用バナー

←この記事が気に入ったら、ポチッとクリックしてもらえると嬉しいです\(^o^)/

華氏911

華氏 911 コレクターズ・エディション [DVD]華氏 911 コレクターズ・エディション [DVD]
◆プチレビュー◆
ゴダールはこれを見て「ブッシュはこれほどバカではない」と言ったそうだが、この映画をこのままうのみにするほど「観客はバカではない」。日本でこんな映画が生まれる日はいったいいつの日やら…。

9.11テロの後、イラク戦争へと突入したアメリカ。マイケル・ムーアは、2000年からブッシュの足跡を追っていた。大統領選挙時の様子、テロ勃発直後の対応、ビン・ラディン一族とのつながりやイラク戦争の舞台裏など、驚きの映像を登場させ、ブッシュ政権の疑惑を明白にしていく。

本作に対し、政治的に偏った作品で映像メディアによる情報操作だという非難の声もあるだろう。だが、作者の主義主張が表れるのが映画というものだ。M.ムーア監督ははっきりとブッシュ批判のスタンスに立っているのは周知の事実。全ての映像はブッシュ政権の“悪”の部分だけをおもしろおかしく繋げて構成されている。編集も抜群に上手い。音楽の使い方、テロップの入れ方、どれをとっても笑いのツボにはまる、超絶エンタテインメント作品だ。だが、内容的には笑いごとではすまされない。

ブッシュが清廉潔白な政治家などとは誰も思っていないが、映し出される映像は全て驚愕するものばかりだ。9.11テロで多くの人命が失われたのは紛れもない事実。しかし、その報復とも言えるイラク戦争のからくりを見せられて愕然とした。映画は、9.11テロとイラク戦争の無関係性を描くことで、ブッシュ政権の懐を突く形だ。テロ勃発を聞いた大統領が、数分間何もしない映像だけでも見る価値がある。

前半はブッシュの無能さを活写して笑いを誘い、後半は戦争で犠牲になる命を米国、イラクの両方から描いていく。息子を失った愛国者の母親の姿には、多くの人が胸を熱くするだろう。戦争の意義や戦う国がどこでも、失われた命の尊さは同じなのだ。一方で、まるで企業の勧誘のように若者を軍隊に誘う様子を映した映像は無視できない。入隊するしか道はないような人間を犠牲にする戦争の側面が、淡々と記録されている。戦争が既に失業対策の一部であることの恐ろしさに気付かねばならない。

賛否両論必須の、話題の記録映画である。と同時に、観て、楽しんで、考える“お得な”映画なのだ。これが世界をリードする国のひとつである米国の実態かと思うと気が滅入るが、これほど現政権に対して批判的な作品が、公開され支持される“自由”が存在する国であることも覚えておこう。アメリカ国民が大統領選挙で出す結果が、この映画の結末だ。

□2004年 アメリカ映画 原題「Fahrenheit 911」
□監督:マイケル・ムーア
□出演:ジョージ・W・ブッシュ、他

人気ブログランキング用バナー

←この記事が気に入ったら、ポチッとクリックしてもらえると嬉しいです\(^o^)/

父と暮せば

父と暮せば 通常版 [DVD]父と暮せば 通常版 [DVD]
◆プチレビュー◆
戦争レクイエム3部作は全て素晴らしい出来なので、機会があれば是非見てほしい。宮沢りえは方言のセリフをやらせると本当に上手い。

広島の原爆投下から3年後。一人暮らしの美津江の前に父・竹造の幽霊が現われる。愛する人々を一瞬で失い、一人生き残ったことに負い目を感じる娘を心配してのことだ。美津江は原爆の資料を集める木下青年に好意を抱いているのだが…。

日本映画界のベテラン黒木和雄監督の“戦争レクイエム三部作”の完結編に当たる本作は広島が舞台。前2作は、長崎の原爆投下の前日を描く「TOMORROW/明日」、監督の出身地の宮崎県を舞台にした「美しい夏キリシマ」だ。直接的に戦闘を描くのではなく、市井の人々の心情と痛みを丁寧にすくいとることによって、戦争への憤りを浮き彫りにする手法は3作ともに共通している。

父と娘の、まるで漫才のような掛け合いがユーモラスな前半と、深く鋭く戦争の傷跡をえぐっていく後半のメリハリが鮮烈だ。ほとんど二人芝居で、まるで演技合戦のような濃密な空気が漂う。恋愛に後ろ向きな娘の美津江を演じる宮沢りえの繊細な演技は特に素晴らしく、自分は幸せになってはいけないと思い込む気持ちと幸福になりたいと願う相反する心情が、見事に表現されている。その中には、被爆女性の結婚へのとまどいと不安もあり、見るものの胸を締め付けるだろう。

井上ひさしの秀作戯曲を出来るだけ忠実に映画化したというだけあって、非常に演劇的香りの高い映画だ。やや説明調で大仰なセリフや、限定された空間での長いやりとりなど、多分に演劇の要素があるが、だからこそ、原爆の一瞬の閃光や緑の林など、時折挿入される映画的演出が効果を挙げている。特に、家の上部が原爆ドームへと続くラストシーンは、さすがはわざわざ映画化するだけのことはあると唸るほど美しい出来栄えだ。

父親の幽霊をすんなり受け入れる状況から、この父の存在が娘の心から生まれ出た幻であることは映画の冒頭で理解できるだろう。幸せになってはいけないと、将来のある若い女性に思わせるほど、苛烈であった原爆投下の地。死ぬのが当たり前で生き残ることの方が不自然な状況という異常性を理解した上でなお、死んだものの分まで生きてほしいと願わずにはいられない。見終われば、父も娘も家さえも全てが幻影のような浮遊感漂う幽霊譚なのだが、この作品の反戦メッセージは何よりも強く深い。

8月6日は広島の、8月9日は長崎の原爆記念日。年月は経ってしまったけれど、広島や長崎の原爆について、無関心でいられる人などいないはずだ。

□2004年 日本映画
□監督:黒木和雄
□出演:宮沢りえ、原田芳雄、浅野忠信、他

人気ブログランキング用バナー

←この記事が気に入ったら、ポチッとクリックしてもらえると嬉しいです\(^o^)/

ディープ・ブルー

ディープ・ブルー −スタンダード・エディション− [DVD]ディープ・ブルー −スタンダード・エディション− [DVD]
◆プチレビュー◆
あまりに素晴らしい映像体験に幸せを感じる映画。しかし、同名タイトルでレニー・ハーリン監督のサメ映画があるので、混同は必須。副題を付けるなどの配慮が欲しかった。

イギリスBBCが7年の歳月をかけて製作した、海洋ドキュメンタリー。世界約200箇所のロケ地を巡りながら、海とそこに生きる生物の知らせざる姿を追う。音楽はベルリン・フィルが担当し、壮麗な音で映像をより効果的に引き立てている。

地球上の生物の98%を育むという海。ブルーが基調の映像が好感を持たれるのか、海を題材にした記録映画は昔から人気のジャンルだ。過去にもジャック・イブ・クストーの「沈黙の世界」「太陽のとどかぬ世界」やレニ・リーフェンシュタールの「原色の海」など、興味深く美しい作品が存在した。しかし本作は、その映像の貴重さ、美しさ、構図の見事さなどにおいて群を抜いている。単なる記録映画を超えて、アートと呼べる芸術作品なのだ。

イギリスのBBCは自然ドキュメンタリーの分野では実績と実力を併せ持つ。90分間魚の映像を流すという、およそ商業的とは言えないプロジェクトを見事にまとめてみせた。最高のスタッフが最大の努力を払った結果で、文句なく感服してしまう。膨大なリサーチ、長期にわたる撮影、200箇所にものぼるロケ地…。きまぐれな自然を相手に、忍耐と情熱で、感動の瞬間を捉えることに成功している。また、照明をはじめとする撮影機材と技術的進歩が基となっているのは言うまでもない。

ボール状に群れるイワシの大群、クジラの親子とシャチの攻防、ペンギンの決死のスクラム、愛らしい北極クマ。ユーモアと自然の厳しさが混在する。トロピカルで美しいさんご礁の危険な習性、自ら発光し生き延びた幻想的な深海生物。海底火山の周囲にさえ、微生物が存在する。見所を挙げたらきりがないほど。美しくも壮絶な弱肉強食の世界に、ただただ見惚れて酔いしれる。

静かで静謐な営みとダイナミックな生命が交錯する海。美しい映像は十分すぎるほど心を癒してくれるが、それだけではない驚きと喜びが作品の中に満ち溢れている。いとも軽やかに空間を移動して容易には体験できないものを映像化し、劇場にいる観客に現実をしばし忘れさせる。映画とは、つきつめるとこのような興奮の体現かもしれない。こういう作品こそ“映画”と呼びたい。

□2003年 イギリス・ドイツ合作映画  原題「DEEP BLUE」
□監督:アラステア・フォザーギル、アンディ・バイヤット
□出演:マイケル・ガンボン(ナレーション)

人気ブログランキング用バナー

←この記事が気に入ったら、ポチッとクリックしてもらえると嬉しいです\(^o^)/

キング・アーサー

キング・アーサー [DVD]キング・アーサー [DVD]
◆プチレビュー◆
ぶ厚い氷の湖に敵を誘い溺死させる大迫力のバトルシーンは見応えあり。ランスロット役のヨアン・グリフィスは眉目秀麗なので、今後人気が出そうだ。終盤、女戦士と化すグウィネヴィアの露出度過多の衣装に唖然。

紀元415年。戦乱が続くブリテンで、ローマ軍の司令官アーサーは仲間である“円卓の騎士”とともに最後の任務を遂行する。これで自由の身になるはずが、残忍なサクソン族と戦うことに。さらには、運命の女性グウィネヴィアに出会う…。

例えコうるさい批評家から、くだらない、大味だと口汚く罵られようとも、興行的成功を収めてきっちり周囲を黙らせる。一般大衆の嗜好を単純化して理解し、その要求に明確に答えてみせるのが製作者ジェリー・ブラッカイマーだ。彼の目標はメガヒットを飛ばすこと。判りやすい。だが、今度ばかりは墓穴を掘ったのではなかろうか。

アーサー王伝説といえば、西欧では極めてポピュラーなもの。伝説には様々なものがあり、どれも魅力的な英雄や胸躍るロマンスに満ちている。今回はこのアーサー王伝説を、従来の中世ではなく、文献に基づいてリサーチしぐんと古い5世紀に設定。魔法をはじめファンタジー色はほとんどない。アーサーがローマとブリテンの両方の血を引き、アイデンティティーに悩むなど、新解釈をぶつけてきた。自らの中に眠る救世主としての資質に目覚めるあたり、マトリックスを彷彿とさせるではないか。

だが、西欧ファンタジーの基とも言える物語にチャレンジするというのに、こうまで人物描写がおざなりなのはいかがなものか。アーサーとグウィネヴィアはともかく、円卓の騎士などはほとんど名前の紹介程度だ。おまけに、欧州各国の実力派俳優を揃えたとはいえ、ビッグ・スターがいないので地味な印象は否めない。

日本ではアーサー王伝説は、魔剣エクスカリバーや聖杯伝説など断片的に知られているのが現状なので、本作の新解釈は、伝説を改めて知り頭の中を整理する意味では興味深い。だが、本家イギリスをはじめとする欧州の観客は、はたしてどう感じるか。自らの歴史に深く刻まれた英雄譚へのこの薄っぺらなアプローチを、快く受け止める者は少ないはずだ。

□2004年 アメリカ映画  原題「KING ARTHUR」
□監督:アントワン・フークワ
□出演:クライブ・オーウェン、キーラ・ナイトレイ、ヨアン・グリフィス、他

人気ブログランキング用バナー

←この記事が気に入ったら、ポチッとクリックしてもらえると嬉しいです\(^o^)/

テッセラクト

テッセラクト [DVD]テッセラクト [DVD]
◆プチレビュー◆
期待したほど物語に斬新さはなかったのでちょっと残念。今の時代、観客が驚くような“新しい”手法というのはなかなかない。アレックス・ガーランドの原作小説の方が案外おもしろいのかも。

バンコク、午後5時47分、うらぶれたホテル。停電が起こり、時計が止まる。英国人の運び屋ショーン、瀕死のタイ人の女殺し屋、盗みの常習犯のベル・ボーイの少年。一見、何の関係もなさそうな様々な人々の運命が交差し始める。

タイトルのテッセラクトとは、数学用語で四次元立方体を意味する。三次元(キューブ)までは図にして見せることが可能だが、四次元は視覚化不可能。つまり神の視点というわけだ。映画では同時刻に様々な人物が別々の事件に遭遇する。登場人物はお互いの存在や係りには気付いておらず、観客だけがその繋がりを理解し、組み立てることができる。人生の断片がパズルのようにひとつの結末に収束する斬新な構造だ。

…などと言うが、落ち着いて考えれば、このテの手法は難解な学術用語に例えるほど目新しいものではない。何のことはない、Q.タランティーノの「パルプ・フィクション」と同様のスタイルなのだ。最近ではA.G.イニャリトゥの「21グラム」もこのタイプだろう。ただ、本作では手法が徹底していることと、断片化された映像の斬新さで観客をひきつける。

英国人の麻薬の運び屋ショーンの不安が全ての事件の引き金となる。同じホテルに泊まっている女性心理学者、ベルボーイのタイ人少年、マフィアのボス、女殺し屋。複雑に絡み合った彼らの運命は、ラストの悲劇的結末へとなだれこむが、その物語は劇画調になったり、ドキュメンタリー・タッチになったりと目まぐるしい。観客は、頭を整理しながらストーリーを組み立てつつ追わねばならないので集中力が必要だ。その意味で、見るものの知性を刺激する映画と言える。

不安を煽るように多用される極端なクローズ・アップの映像と、猥雑なバンコクの街の空気をすくい取る色彩感覚。観客に挑戦するような怪作と呼ぶべきだろうか。監督のオキサイド・パンはタイ人で、舞台もバンコクだが、スタッフの半分は英国人。製作は日本だ。セリフの大半が英語なのは国際市場を視野に入れてのこと。ハリウッド以外の地域の幅広い国際協力で映画が作られている事実は見逃せない。

□2003年 タイ・英国・日本合作映画  原題「The Tesseract」
□監督:オキサイド・パン
□出演:ジョナサン・リース・マイヤーズ、サスキア・リーヴス、アレクサンダー・レンデル、他

人気ブログランキング用バナー

←この記事が気に入ったら、ポチッとクリックしてもらえると嬉しいです\(^o^)/

ウォルター少年と、夏の休日

ウォルター少年と、夏の休日 コレクターズ・エディション [DVD]ウォルター少年と、夏の休日 コレクターズ・エディション [DVD]
◆プチレビュー◆
原題のセカンドハンド・ライオンズとは、映画の中でも登場する年老いた中古のライオンを意味する言葉。この原題のままでも味があったと思う。女性キャラの魅力が少々薄いが、登場人物の男気に免じて許そう。

自分勝手な母親の都合で、会ったこともなかった二人のおじさんとひと夏をすごすことになった少年ウォルター。何から何まで風変わりな二人の老人にとまどいを覚える彼だったが、屋根裏で古い写真をみつけ、若き二人の大冒険を知ることになる…。

マイケル・ケインとロバート・デュバルの二人のオスカー俳優が上手いことは言われなくても判る。しかし「シックス・センス」で天才子役ぶりをいかんなく発揮したハーレイ・ジョエル・オズメント君は、俳優として難しい年齢にさしかかり、はたして大丈夫だろうかと本当はちょっと心配した。しかし、彼の演技は実に堂々としたもので、ケインとデュバルに全くひけをとらない。声変わりこそしたけれど、やはりこのコは凄い役者だ。

お話は一種のファンタジー仕立てになっていて、偏屈な二人の老人と少年が、お互いに一緒に暮らすことで共鳴しあう姿を描く。しかし、ケインとデュバルのやんちゃなことといったらどうだろう。セールスマンに銃をぶっ放し、不良にケンカを教える。アメリカ映画界には生涯現役の“元気ジジイ”俳優が沢山いるので、うらやましい限りだ。歳はとっていても実にかっこいい。

砂漠の王女と恋に落ち、数々の危機を乗り越える大冒険はまるでアラビアン・ナイトのよう。現在の変人の姿と大きく隔たった老人二人の昔話は、母親の嘘に絶望していた少年の心に火を灯した。さらに“大金を隠し持っている”というウワサが謎めいていて、このことの真偽がウォルターと観客の注意を引き、物語を牽引する役目を果たす設定が上手い。映画に取り込む“ホラ話”は大きければ大きいほどいいもんだ。

少年は何かを信じることの大切さを、二人の老人は自分たちがまだ、誰かの役にたつ存在であることを知る。愛に飢えた少年のひと夏の成長物語という定番のスタイルを踏襲しているが、少年が老人たちに与えた影響も大きかった。強く正しい大人の男の物語は、それが全て真実ではなかったとしても魅力的なもの。こんな夜伽話をしてくれる大人が、今の世の中にどれだけいるだろうか。

□2003年 アメリカ映画  原題「Secondhand Lions」
□監督:ティム・マッキャンリーズ
□出演:ハーレイ・ジョエル・オズメント、マイケル・ケイン、ロバート・デュバル、他

人気ブログランキング用バナー

←この記事が気に入ったら、ポチッとクリックしてもらえると嬉しいです\(^o^)/

シネマッシモにようこそ
◇ シネマッシモについて ◇

このブログが気に入ったら、ポチッとクリックお願いします♪
にほんブログ村 映画ブログ 映画評論・レビューへ

映画レビュー用BRバナー
インフォメーション


映画ライター渡まち子が運営するセカンド・ブログ「映画の中に猫がいる」もよろしく!【猫目線】で語る映画評で、のんびり、まったり運営中です(笑)。 猫好きの方、映画好きの方、ぜひ遊びにきてください。相互リンクも募集中!
こちらからどうぞ!
おすすめ情報
作品検索はこちら
Google
WWW を検索
このブログ内を検索
コメント(承認済)
映画レビュー(長文)索引

    
    
    
    
    
    
    
  
    

A−Z
0−9
カテゴリ
お仕事受注
映画評やコラムの執筆、講演など、映画に関する仕事を承ります。連絡はメールでお気軽にどうぞ。

 メールはこちらから↓
cinemassimo555★jcom.home.ne.jp
(★を@に変更して下さい)

執筆やラジオ出演など、メールと電話で対応可能な場合は、全国から仕事を受注していますので、まずはお問合せください。
プロフィール
プロフィール more
◆ペンネーム:渡まち子
◆映画ライター、映画評論家
◆こんなお仕事やってます:
新聞、雑誌、インターネットで、映画評、映画コラム、DVD紹介などを執筆。他にも、映画コメンテーターとしてラジオ出演、大学での公開講座や企業主催の映画セミナーなど、映画に関する幅広い仕事をこなしながら活動中です。
◆青山学院文学部史学科卒業。西洋史が専攻で、卒業論文はベネチア史。学んだことを生きている間に有効に活かせるのだろうか…と、かなり心配。
◆エトセトラ:
古今東西の映画をこよなく愛す、自他ともに認めるシネフィル(映画狂)です。時に苦言を呈すこともあるその映画批評の基本は、映画へのあふれる愛情と自負しています。どんなダメ映画でも必ずひとつはあるイイところを発見するのが得意技。大のサッカー好きで、欧州リーグからJリーグまでTPOに合わせて楽しんでます。
おすすめ情報
おすすめ情報

おすすめ情報

楽天市場
おすすめ情報

Archives
相互リンクについて
相互リンクについて

  ↑ 必ずお読みください。
タグクラウド
  • ライブドアブログ