映画通信シネマッシモ☆映画ライター渡まち子の映画評


【本音で語る新作映画レビュー】
シネマッシモでは、映画レビューはネタバレなしのヒントあり。映画を見る前と見た後と、2度読んで楽しめます。
映画評サイトもこのブログで4代目になりました。すべての映画好きを歓迎します!
(点数は100点が、★は5つが満点)
シネマッシモとは、シネマ(映画)とマッシモ(イタリア語でmax,最大)とを組み合わせた造語。
どうぞゆっくり楽しんでください \(^▽^)/

◎ 今週の気になる映画 ◎
「打ち上げ花火、下から見るか?横から見るか?」「ベイビードライバー」etc.

シベリアの理髪師

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◆プチレビュー◆
ジュリア・オーモンドはなぜかモテモテの役が多い。この映画では彼女の魅力が十分に生かされている。

ロシアという国の壮大さは、計り知れないものがあり、ちっぽけな島国である日本に住む我々の創造を遥かに超える。それは旧ソ連が崩壊し、数多い国に分裂した今も変わることはない。そんなロシアの帝政時代を背景に描く壮大で繊細な映画が本作。

時は1905年。モーツァルトを悪く言うのを許せず、息苦しいマスクを付け続ける青年。なぜ、そこまでこだわるのか?物語は回想形式で始まる。とある使命を受けてモスクワへ向かうアメリカ人女性ジェーンと士官学校候補生のアンドレイは汽車の中で偶然出会い、アンドレイはジェーンに一目で恋をしてしまう。しかし、アンドレイの上官のラドロフ将軍もジェーンに恋したことから、物語は複雑に。オペラのフィガロの結婚に添うような展開だ。ジェーンの明るくさっぱりとした性格は皆をとりこにするが、次第に、森林伐採の機械の開発費用を得るためにアメリカから呼ばれた彼女の暗い過去が見え隠れする…。

最初はコミカルな展開だが、ストーリーが終盤になるにつれ、スリリングに、そして悲劇的になっていく。たわむれの恋はやがて真実に。初めての愛に気付くジェーン。アンドレイのひたむきな思いはいつしか悲劇を呼び起こし、最後に明かされるジェーンの秘密。はたして、シベリアの地での二人の再会は…。

ロシアを舞台に壮大なスケールで描くラブロマンス。オペラをモチーフに使い、帝政時代の華麗な衣装も見ものだ。仕官学校生たちの美しい友情。春祭りの高揚。冬の広大なロシアの圧倒的な大自然。

本作品で自ら皇帝役で出演している監督のニキータ・ミハルコフは、現代ロシアを代表する監督で、世界中の数々の賞を受賞している。自らも裕福で芸術を愛する環境で育った彼は、帝政時代を好んで描き、優雅で格調高い映画作りが特徴。彼の作品には、ロシアとロシア人への愛情が溢れていて、この作品でも、酔って馬鹿騒ぎをしたり、身の破滅と知りながら暴力に走ったり、無実の人間を有無を言わさずシベリア送りにする残酷な権力等、ロシア人の欠点を多く描くが、それでも欠点だらけのロシアを愛し、そのロシアは最終的には強くさえあると密かに訴えているようだ。その証拠に、この粗野なロシアは、打算で生きるアメリカ女に純粋な恋を選び取らせる力を持っているではないか。

どこまでも広く厳しいタイガの自然が美しい。そこで生きるロシア人のたくましさ。このタフネスが日本人にあるだろうか?

□1999年 ロシア、フランス、イタリア、チェコ合作 原題「The Barber of Siberia」
□監督:ニキータ・ミハルコフ
□主演:ジュリア・オーモンド、オレグ・メンシコフ、他

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望郷

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◆プチレビュー◆
古典中の古典。ラストシーンは映画史上に残るもの。映画好きなら見てないと恥ですゾ。

アフリカはアルジェの、迷路のような街カスバ。この一角に逃げ込めば決して捕らえられることはない。パリで犯罪を犯して今はカスバの王となっているペペ・ル・モコは、警察がどんなに躍起になってもカスバから出なければ捕らえられることはないと知っていた。ある時、パリの観光団がカスバを訪れ、その中に際立って美しい女性ギャビーを発見する。まさしくパリの女のギャビーもこの異郷の地のフランス人のボスに強烈な魅力を覚え、二人の間に情熱が燃えた。警察はこのときとばかり、ペペの情婦の嫉妬をあおり、ギャビーの愛人をたきつけてペペをカスバの外へおびきだす。逆上するペペ・ル・モコ。ギャビーを失うことは彼の心の中のパリを失うことを意味する。危険を承知でカスバの石段を踏み出すペペ。逮捕されるのを知りながら。愛人とともにフランスへ戻る汽船の甲板で灼熱の恋に燃えたカスバの街をみつめるギャビー。彼女にとってはしょせんあの恋も吹き抜ける風にすぎない。警察の罠に落ちたペペ・ル・モコが鉄格子越しにギャビーの名を叫ぶ。だが、同じ瞬間、頭上の煙突が吠える。驚いて耳をふさぐギャビー。ペペの叫びは空しく断ち切られた。そしてペペは…

邦題の名タイトルとして知られるこの映画は、戦前のフランス映画の傑作。モノクロ(戦前なので当り前だが)の陰影ある画面が効果的だ。映画史上の古典なだけあって、名セリフ、名シーンにあふれ、ペペがギャビーを抱きしめて言う「メトロの匂いがする」は有名。パリから逃れてこの異郷の街に住むジャン・ギャバンは、海の向こうのパリを思ってメトロの匂いが懐かしいと呟く。ギャビーを追ってカスバの階段を駆け下りるシーンは幻想的で美しい。鉄格子越しにギャバンが絶叫するラストはあまりにも有名で、映画史に残る名ラストシーンと言われている。

技巧派ジュリアン・デュヴィヴィエ監督は、なぜか本国フランスでの人気はいまひとつで、むしろ日本で熱心な支持者が多いことで知られている。「望郷」はロマンスとスリルを巧みに盛り込んだ展開が見事。もはや古典なので語り尽くされているが、やはり長い映画史の中で残っていくのは頷ける。映画のお勉強のためにも是非。

□1937年 フランス映画 原題「Pepe le Moko」
□監督:ジュリアン・デュヴィヴィエ
□主演:ジャン・ギャバン、ミレーユ・バラン、他

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母の眠り

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◆プチレビュー◆
あまり好きなタイプの作品じゃないのに泣かされた。やっぱり名女優メリルのせい?

エレンの母の死には、謎があった。検事に証言をするエレンの疲れた表情から映画は始まる。NYでジャーナリストとして多忙な日々を送るエレンは、末期ガンに倒れた母の看病のために、仕方なく帰郷。美人で頭もよく、仕事にも野心的なエレンにとって、大学教授で作家の父は常に偉大な存在だが、母は平凡な専業主婦、小さな町の婦人会がつきあいの全てという、軽い嫌悪さえ感じる存在だ。にわか主婦業と慣れぬ介護に四苦八苦して暮らす日々。都会から取り残される焦燥感。そんな娘の姿を静かに見つめる母。最初は全てに不満だったエレンだが、やがて平凡な専業主婦に見えた母の生き方を改めて見直すことに。母が今まで、報われることのない家事労働を、ただ愛する家族のために行ってきたことに初めて気付く自分。あこがれだった父の身勝手。その父も母を失うことを思って苦しんでいる。父を非難する娘に対して、結婚とは、夫婦とは何かを訴える母。その言葉は、幸せになるには、ないものねだりではなく今を愛せばよいのだと告げていた…。

街のクリスマスツリーは、婦人クラブの一員として母も飾付けに参加したもので、母の人生のささやかな栄光の輝き。そして皆、知っているのだ。これが家族で迎える最後のクリスマスになるということを。遂に衰弱しきった母は、この苦しみに耐えられないと訴える…。

家族という身近なテーマを扱いながら、ストーリーを奥深いものにしているのは、やはりメリル・ストリープの上手さだろう。冒頭で「オズの魔法使い」の仮装で登場するのには正直驚いたが、たとえ、こんなナリをしていても貫禄があるのは大女優ならでは。豊かな愛で家族を包む母親の優しさと繊細さを演じて、本作でアカデミー賞にノミネートされている。

理想通りではないけれど、それら全てを受け入れて新しい人生の一歩を踏み出すエレンの成長がうれしい。家族、親子、夫婦、そして介護など、テーマ的にも見所あり。こういう映画はちょっと苦手なのだが、意外にも良くできた作品だ。

タイトルは、劇中の字幕では“わが心の真実”と訳されていた。

□1998年アメリカ映画 原題「One True Thing」
□監督:カール・フランクリン
□出演:メリル・ストリープ、レニー・ゼルウィガー、ウィリアム・ハート、他

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ギター弾きの恋

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◆プチレビュー◆
派手な衣装と軽みのある演技が絶妙のショーン・ペン。アレン映画は古き良き時代を背景にすると好感度が上がる。

実在の、そして自分の好きな人物を描くのは難しい。たいていの場合、その人物に思い入れがありすぎて、監督のひとりよがりに走ってしまいがちだが、この作品はそのあたりを逆にうまく利用している。実話とフィクション、逸話や噂話にいたるまで、ユーモアあふれるストーリーに仕立てている。ウッディ・アレン監督の記念すべき30作目だ。

1930年代、ジャズ黄金期のアメリカ。身勝手で派手好きなエメット・レイは、「世界で2番目」を自称する天才ギタリスト。ギターの才能は天才的だけど、飲んだくれで、女遊びが大好き、演奏をすっぽかすのは毎度のこと。自由なアーティストを気取って自堕落な生活をおくっている。そんな彼がふと知り合った口のきけない純真な女性ハッティ。横暴なエメットに献身的につくす彼女に、やがて心をひかれ、一緒に暮らすようになる。しかし、束縛を嫌い、気ままな生活を求めるエメットはハッティを捨て、上流階級出身の女性ブランチと衝動的に結婚。が、共通点は派手な服の趣味だけという、二人の結婚生活はやがて破局を迎え、再びエメットはもとの気まぐれな暮らしに逆戻りする。虚ろな日々で思い出すのは、ハッティの笑顔。もしや自分は大切なものを失ってしまったのかと、気づくのだが…。

冒頭からジプシージャズが流れ、テンポ良くストーリーが進むのが心地よい。ウッディ・アレン特有の洪水のようなセリフの多さがないのは、音楽がもうひとつの主役であることと、ハッティが口がきけないという設定のせいだろう。役柄上セリフはなく、その分、表情やしぐさだけで、感情を見事に表すサマンサ・モートンは、実は英国の演技派女優で、ショーン・ペンと並んで、この作品でアカデミー賞にノミネートされていた。ウッデイ・アレンは1930年代がお気に入りのようで古き良き時代を背景に描く彼の作品は面白いものが多い。

笑えるシーンもたくさんあるけど、ラストは切ない。才能に溢れていても、社会的には不器用な男と純真な心をもった女との恋の行違いを、ジャズの音色にのせて描くこの映画。約1時間半でさらりと終わるのもいい感じだ。

身勝手な男と、彼につくす女の献身的な姿。なくしてしまって初めて気付く大切な愛。ん?このパターンどこかで…。あぁ、往年のイタリア映画の名作「道」と同じか!頭が弱く純真なジェルソミーナを道端におきざりにし、数年後、彼女の死を知って、自分の孤独に、浜辺でむせび泣くザンパノの姿。このパターン、人生の定番なのだ。後悔は先に立たず。今を大切に生きよう。

□1999年アメリカ映画 原題「Sweet and Lowdown」
□監督:ウッディ・アレン
□主演:ショーン・ペン、サマンサ・モートン、ユマ・サーマン、他

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ゴッド・アンド・モンスター

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◆プチレビュー◆
イアン・マッケラン入魂の演技に注目。この作品は掘り出しモノだ。

99年アカデミー賞脚色賞を含む世界の数々の賞を受賞しながら、当時日本では劇場公開も行われず、ビデオリリースのみ。いわくつきの映画となるとますます観たくなるのが常だ。

戦前のハリウッド黄金期に、フランケンシュタイン映画によって一躍人気監督となり、頂点を極めながらも、同性愛者であるために映画界を追われたジェームズ・ホエール。ハリウッドの伝説の監督の最期の日々を描く。

映画界から謎の引退を遂げた名監督ジェームズ・ホエール。彼は老いと病に直面し、日に日に悪化する精神錯乱に怯えて暮らす。正気を失う前に、誰か自分を抹殺してくれと心に願いながら。謎めいた隠遁生活を送るこの老人の庭師として、ある日、若い青年が雇われる。彼こそが自分の苦悩に終止符を打つ男。どうか自分を解放してくれと、友情と同性愛と死への期待感をもって彼を挑発し、この庭師の男に自分の過去を打ち明け始める…。

最初は結構ユーモラスな場面も多く、隠居中でボケ気味のゲイのじいさんと、若くてマッチョなピチピチ兄ちゃんとのラブストーリーかと思っていると、これが実は違うのだ。エキセントリックなホエールの苦悩の日々がフラッシュバックで巧みに描かれ、庭師の青年ならずともジワジワと監督に心が吸い寄せられる。見終われば、これは孤独な芸術家の挫折と複雑な愛を描いた純度の高い感動作なのだと理解した。

主人公のホエールは常に過去に縛られ、昔を嫌悪する。ゲイであり、祖国イギリスを追われた過去、映画監督として栄光を掴んでいた過去。現在の自分の存在はいったい何のためか?自分の人生の価値は何か?と苦悩する姿が痛々しい。死への恐怖と、過去の栄光と挫折が胸に去来し、心の傷に苦しむ孤独な魂。どうか彼に救いの手を、と願ってやまぬ気持ちが湧き上がる。

ハリウッドメジャーの大作のような、わかりやすい感動はない。しかし、ジェームズ・ホエールという謎の多い実在の映画監督を、実話とフィクションを交えて、映画として上手く仕上げている。ラストは、悲しいようなほっとしたような、実に淋しくせつない空気が漂う。

監督役の、イギリスの名優イアン・マッケランは自らゲイであると宣言し、カミングアウトした後の出演だった。彼のユーモアと狂気が、観る者に訴えかけて、素晴らしい。この役は彼しかいない。アカデミー主演男優賞にノミネートされたのも納得だ。かつて静岡ではファンの署名運動により1日だけの劇場公開も実現したという、知る人ぞ知る幻の傑作が本作だ。

□1998年 アメリカ映画 原題「GODS AND MONSTERS」
□監督:ビル・コンドン
□出演:イアン・マッケラン、ブレンダン・フレイザー、他

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ゴッド・アンド・モンスター@ぴあ映画生活

山の郵便配達

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◆プチレビュー◆
緑のシャワーのような映像。ひとつひとつのセリフに泣かされた。原題は「あの山、あの人、あの犬」の意味。

80年代初頭の中国。現代でも交通手段のない険しい山岳地帯で手紙を配達する一人の年老いた郵便配達人。今、息子に仕事を引き継ぐために、初めて父子二人の旅に出る…。

緑濃い美しい大自然を背景に、素朴だが、味わい深い物語が展開する。寡黙な父の仕事への誇り、村人に信頼された父の姿。留守がちな父に心の隔たりを感じていた息子は旅を通して父の真の姿を知る…。

心温まるエピソードと思い出が交差するストーリーが胸にせまる。盲目の老婆のために手紙を書き、孫から来たと嘘をついて読み聞かせる父。足を悪くした父を気遣い、冷たい川で父を背負う息子。少数民族の美しい娘への淡い恋心。愛犬とともに歩む旅は次第に父子の溝を埋めていくのだった。

飾らない暮らしは、かつて日本にもあった懐かしい風景だ。家族の絆と手紙に込められた想い。それらが美しい映像に映し出され、観る者の心に深い感動を呼び起こす。郵便配達に同行するシェパード犬“次男坊”が愛らしく、まことにいい味を出していたのも好感度が高い理由だ。

“父さん、もう行かなきゃ”“次男坊、聞いたか?あいつ初めて父さんって呼んだよ”このセリフに、どっと涙。“何キロ歩いても誰にも会わない。仙人は退屈だろうね”“空を飛んだりするし、仙人は退屈なんてしないさ”。こんなシブいセリフは滅多に聞けない。

この1作に胸を熱くする。久しぶりに出会ったそんな映画だ。並み居るライバルを押しのけて中国のアカデミー賞の金鶏賞を受賞した傑作。

□1999年中国映画 原題「那山 那人 那狗」
□監督:フォ・ジェンチイ
□出演:トン・ルゥジュン、リィウ・イェ、ジャオ・シィウリ、他

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イレイザーヘッド

イレイザーヘッド 完全版 [DVD]イレイザーヘッド 完全版 [DVD]
◆プチレビュー◆
すごいインパクト!さすがはカルト・ムービーだ。おまけに完全版とは。イレイザーヘッドとは消しゴム付き鉛筆のこと

5年の歳月をかけて自主製作したという、奇才D・リンチの長編デビュー第1作は噂通りの内容だ。この作品でリンチが世界で一躍注目されたというのも納得。

モノクロの画面に繰り広げられる、グロテスクな世界。最初の10分はまったくセリフはなく、何かが起こりそうな不気味な気配でスタートする。舞台はフィラデルフィアの工業地帯。印刷工のヘンリーは恋人のメアリーが生んだ奇怪な赤ん坊の世話のために彼女と結婚することに。しかし、その子供の影響でヘンリーの周囲に不気味な変化が起こり始める。

悪夢か、妄想か。終始流れる不可思議な音楽の中、次第に現実と妄想の区別がつかなくなっていくヘンリーはもはやノイローゼ状態だ。ヘンリーの妄想の中で、頬の腫れた女性が頭から降ってくる精子のような物体を足で無常にも踏み潰し、“天国では全てがうまくいく…”と天使のような表情で歌う。黙示録のごとく唐突にやってくる不条理なラスト。ヘンリーは解放されたのか?それとも悪夢にひきずりこまれたのか?

最初はちょっとルイス・ブニュエル風の風変わりな世界だ。調理されたチキンが踊りだすのはコメディか?子供ができた、結婚せねば、と鼻血を出しながら決意するか?奇妙な風貌の未熟児のようなの生き物はSFか?!

独特の世界観を持つD・リンチ監督は、平凡な日常の裏側に潜む不条理な狂気を描かせると右に出るものない。もはや、ひとつのジャンルを確立している。「イレイザーヘッド」は一部に熱狂的なファンをもつカルトムービーで、ここまでキレてくれると逆にすがすがしいという意見さえある。狂気の世界を堪能するにはもってこいだ。

□オリジナル1976年、完全版1993年、アメリカ映画 原題「ERASERHEAD」
□監督:デビッド・リンチ
□出演:ジャック・ナンス、他

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季節の中で

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◆プチレビュー◆
絵画的映像と、ベトナムの民族衣装、アオザイが美しい。主演のハーベイ・カイテルが総指揮、サンダンス映画祭グランプリ、観客賞を受賞。

いくつかの物語が交差する。舞台はベトナムのホーチミン(旧サイゴン)。蓮の花を摘む仕事をする少女と心に傷をおった裕福な老詩人とのふれあいと別れ。ふと知り合った美しい娼婦に恋するシクロ(人力タクシー)の運転手。片隅で生きるストリートチルドレン。現地女性との間に生まれた娘を探す元アメリカ兵。それぞれの人生がすれ違い、美しい季節は流れていく。

4ヶ月に渡る撮影は全てベトナムロケ。画面からは現地の熱さと湿度を感じさせ、映像の美しさには目を見張る。いわゆる群像劇といえるこの作品。これといった大事件もおこらず、物語は淡々と進む。アメリカ映画にありがちな派手な演出やBGMもほとんどなく、登場人物それぞれの人生が、めぐる季節の中で静かに描かれていく。原題のスリー・シーズンズ(3つの季節)とは、雨季と乾季しかないこのベトナムの、“希望”というもうひとつの季節。

早朝にハスの花を摘み、街に売りに行く少女のエピソードがいい。彼女の、決して豊かとはいえない生活とはうらはらにまっすぐで自分の気持ちに正直に生きる姿が胸を打つ。彼女は、絶望に沈む老人の心を動かし、最期を彼に一筋の光を与える。

蓮の花の美しさが心に残る。「泥の中で美しい花をつける蓮はベトナム人そのもの。迫害や戦争に耐えて立ち直り、輝いている。自分の映画では何らかの形で蓮の花を描いていきたい。」とは、監督の談。劇中で歌われる歌の歌詞でも“蓮の花ほど美しいものはない。白い花と緑の葉。泥の中で育っても泥の臭いがしない。”と歌っている。

元米兵に扮したハーベイ・カイテルが画面をひきしめる。飾らずに自分らしく生きる大切さを学びたい。幻想的で美しい花をちりばめたような画面が随所に繊細な演出を感じさせ、心に残る癒しの作品だ。

□1998年 アメリカ映画 原題「THREE SEASONS」
□監督:トニー・ブイ
□出演:ハーベイ・カイテル、他

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トラフィック

トラフィック [DVD]トラフィック [DVD]
◆プチレビュー◆
オスカー受賞のベニチオ・デル・トロは今後に注目。全員が主役の重みを持つ群像劇だ。

映画は、アメリカの裏社会に根深く浸透する麻薬社会の実態に迫る、かなり硬派な社会派ドラマ。3つの異なったストーリーが同時進行する手法は、ドキュメンタリータッチとでもいいたくなるほど、迫真のもの。アメリカとメキシコを結ぶ巨大な麻薬コネクション“トラフィック”をめぐって、様々な陰謀に満ちた事件が繰り広げられ、じわじわと暴かれていくその闇の実態。問題の根深さに、全ての楽観的な意見を否定するほどアメリカの病んだ部分がうきぼりにされていく様は映画ならではの迫力だ。

個人の力や思いなど無力に近いアメリカの麻薬経済の実態。3つのストーリーが微妙にからみあい、ストーリー展開のうまさをきわだたせる。キャサリン・ゼダ・ジョーンズ扮するヘレナが妊婦という設定を生かして自分の生活と家族を守るためならどんなことでも辞さない女の強さを演じて力強い。彼女がこんなに上手い女優だったとは。夫のM・ダグラスと共演とはいえ、同じ場面には一度も登場しない。

メキシコの警官ハビエル・ロドリゲスに扮する、ベニチオ・デル・トロの上手さと圧倒的な存在感には参った。このラテン系古谷一行殿がオスカーをとるのは納得としても、彼が助演男優賞なら、いったいこの映画の主演は誰だ?全ての役者が主演といいたくなるような秀逸な映画ということか。

しかし、でも、作品賞を逃した理由も理解した。アメリカ人は勧善懲悪が好きだが、この映画はそうじゃない。完全無敵のヒーローは存在せず、誰もが弱い部分を持っている。麻薬戦争はこれからも続くし、家庭内の奥深くまで浸透してアメリカ社会の闇の部分として生き続けるだろう。どんなに正義に燃えた人物がひとつの組織を叩き潰したとしても…。証人のルイスが発する言葉が如実にそれを示していた。「おまえたちは敗戦を認めずに穴にたてこもっていた日本兵と同じだ。麻薬戦争は、とっくにおまえたちの負けなんだよ。」

国家としての働きの前に自分の大切な家族を守りたい…。家庭、仕事、政治、全てに大きな影を投げかける麻薬問題。夜の公園で子供達が野球に興じる姿を見つめるベニチオ・デル・トロが見せる表情には、安堵とも不安とも見て取れる複雑な思いがあった。

メキシコの乾いた砂埃を感じさせる映像。胸にずっしりとした余韻を残し、観客に何かを決めつける見方は決してしない。それは現実を鋭くえぐる上質なリアリティだ。

□2000年 アメリカ映画 原題「TRAFFIK」
□監督:スティーブン・ソダーバーグ
□出演:マイケル・ダグラス、ベニチオ・デル・トロ、キャサリン・ゼダ・ジョーンズ、他

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タイタス

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◆プチレビュー◆
時代交渉無視の衣装が冴える。ヌードも辞さない迫力のジェシカ・ラングが見事だ。

首は切る、手首は切り落とす、舌は切る、喉はかき切る、レイプ、子殺し、人肉食い…と、およそこの世の悪行三昧のほとんどを網羅する。残虐にして美しい映画の原作は、偉大なるウィリアム・シェークスピア。 世界一の文豪原作のこの残酷史劇は、あまりのむごたらしさに作者は別にいるのでは、とまで言われ、舞台で上演されることもめったにない作品である。原作は「タイタス・アンドロニカス」だ。

時代は古代ローマ。歴戦の名将タイタスは敵のゴート族の王族を捕虜にして凱旋する。勝利といっても、自分の25人の子供のうち、21人を戦いで亡くすという大きな犠牲を払ったものだった。タイタスは亡き息子たちの魂を鎮めるため、泣いて命乞いをする母のタモラ女王の懇願もかえりみず、ゴート族の王子の一人を生贄に捧げる。目の前で息子の王子を殺された女王は、「必ずやタイタス一族を皆殺しに!」と、復讐を胸に誓うのだった。生き延びたタモラの策略で、次々に血祭りに上げられるタイタスの子供たち。自らも片手を失い、手負いの獣のようなタイタスが最期に放ったタモラへの血も凍る復讐とは…。

映画というにはあまりにも舞台風だ。時代考証まったく無視のその演出は、古代ローマにおいて、皮のジャケット、ナチス風の演説、ビリヤードやムッソリーニ時代の建物など、ほとんどイメージビデオの様相を呈している。こんな大胆な映画でこそ、「炎のランナー」でオスカーを受賞したミレーナ・カノネロの衣装の腕が冴えるのは言うまでもない。残酷すぎる場面の数々も、まるで歌舞伎のように美しく描かれ、2時間40分を越える長編を堂々とまとめている。残酷シーンは苦手だが、豪華で濃厚な料理を味わった後のような気分は稀有なものだった。

根底をなすのは、父タイタスと母タモラの、それぞれ親としての子供への深い愛情が、むごたらしい暴力を生むという悲劇。現代とつながるようなプロローグとエピローグは演出の上手さを感じさせる。豪華キャストに目を奪われるが、ジョナサン・リース・マイヤースのドラ息子ぶりが印象的だ。

しかし…だ。ローマの知将、歴戦の英雄、皇帝の指名権さえ委ねられる賢者のタイタスが、人生の重大な岐路で2度も決定を誤るか?!そもそも、タモラの息子を生贄などにするからいけないんじゃないのか?!とつっこみを入れたくなるのは私だけではないはずだ。それとも、それほどの人物でも過ちを犯すという、シェークスピアの人間考察の深さだろうか。芸術とは残酷にして美しいもの。つくづく濃い作品だ。

□1999年 アメリカ映画 原題「TITUS」
□監督:ジュリー・テイモア
□主演:アンソニー・ホプキンス、ジェシカ・ラング、ジョナサン・リース・マイヤース、他

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プロフィール
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◆ペンネーム:渡まち子
◆映画ライター、映画評論家
◆こんなお仕事やってます:
新聞、雑誌、インターネットで、映画評、映画コラム、DVD紹介などを執筆。他にも、映画コメンテーターとしてラジオ出演、大学での公開講座や企業主催の映画セミナーなど、映画に関する幅広い仕事をこなしながら活動中です。
◆青山学院文学部史学科卒業。西洋史が専攻で、卒業論文はベネチア史。学んだことを生きている間に有効に活かせるのだろうか…と、かなり心配。
◆エトセトラ:
古今東西の映画をこよなく愛す、自他ともに認めるシネフィル(映画狂)です。時に苦言を呈すこともあるその映画批評の基本は、映画へのあふれる愛情と自負しています。どんなダメ映画でも必ずひとつはあるイイところを発見するのが得意技。大のサッカー好きで、欧州リーグからJリーグまでTPOに合わせて楽しんでます。
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