映画通信シネマッシモ☆映画ライター渡まち子の映画評


【本音で語る新作映画レビュー】
シネマッシモでは、映画レビューはネタバレなしのヒントあり。映画を見る前と見た後と、2度読んで楽しめます。
映画評サイトもこのブログで4代目になりました。すべての映画好きを歓迎します!
(点数は100点が、★は5つが満点)
シネマッシモとは、シネマ(映画)とマッシモ(イタリア語でmax,最大)とを組み合わせた造語。
どうぞゆっくり楽しんでください \(^▽^)/

◎ 今週末の公開映画から オススメの1本! ◎
アメリカ映画「シェイプ・オブ・ウォーター」

父、帰る

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◆プチレビュー◆
ビリー・ボブ・ソーントン似の父親にハーレー・ジョエル・オズメント似の二男。長男を演じたウラジーミル少年は撮影後、不慮の事故で亡くなったそうだ。合掌。似た主題の作品で「パパってなに?」というロシア映画もあるので見比べて見るのも一興。

アンドレイとイワンの兄弟の前に、家を出ていた父が12年ぶりに帰ってくる。家長然とする父に、母や祖母も何も言わない。父はまた、突然、兄弟と車で湖まで小旅行をすると言い出す。力強い父親を恐れながらも慕う兄と、反抗する弟。横暴な態度を取り続ける父は、この旅で兄弟に何を伝えようとしているのか…。

芸術作品を重視するベネチア映画祭でグランプリ受賞の、謎めいたこのロシア映画。鑑賞時には十分に覚悟が必要だ。何しろ説明らしきものは殆どない。12年ぶりに帰ってきた父親が何をしていたのか、何故帰ってきたのか、そもそも本当の父なのか。観客の私たちは二人の兄弟と同じ謎を突きつけられたまま物語に付き合うことになる。父親の過去、電話の相手、箱の中身。映画は何も答えない。

旧ソ連の巨匠タルコフスキーを彷彿とさせる映像は、水を意識し、寒色系の風景を印象的に用いている。森、湖、雲。静謐という言葉がふさわしい映像で、しばし見惚れる。ただし、本作はサスペンス仕立てなので、タルコフスキー映画のようにヒーリング感覚にひたるわけにはいかない。監督のズビャギンツェフは映画界では全くの新人だが、TVやCMの製作出身。現代ロシアの息吹を感じさせるのは、物語をロード・ムービーにしたことでもうかがえる。

劇中で多用されるのはキリスト教のモチーフだ。父と神が同義で捉えられているのが象徴的。ロシア正教が男性主権であることも無関係ではないだろう。父は命令という形で教育を施すが、粗野で横暴で、威圧的なこの父が、同時に魅力的なのは事実だ。映画は彼の存在を許さないが、それが神や父の否定にはつながらない。強さを前にした人間のあり方を問うている。ここがこの作品の奥行きだと思う。

小旅行から戻った兄弟は以前と同じ少年ではいられない。少年時代は終わったのだ。今やロシアだけでなく国家規模で世界を覆う感覚が、父親、すなわち絶対的な権力の不在だ。何の説明もなく不親切とも思えるこの作品に、無視できない深みを感じるのは、そのせいかもしれない。全てを明確に説明する映画を好む人には不向きだが、映画に真剣に向き合う気概がある人には勧めたい。

□2003年 ロシア映画  原題「VOZVRASHCHENIE」
□監督:アンドレイ・ズビャギンツェフ
□出演:ウラジーミル・ガーリン、イワン・ドブロヌラヴォフ、コンスタンチン・ラブロネンコ、他

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モンスター

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◆プチレビュー◆
社会性はあるものの、話そのものは単純な構造。監督デビュー作としては上出来だ。実在のアイリーン・ウォーノスは2002年に死刑執行されている。少々ブサイクな外見(!)でも娼婦として商売できることにも驚く。

1986年フロリダ。生きることに絶望した娼婦アイリーンは自殺を考えるが、飛びこんだバーで同性愛者のセルビーと出会い、恋に落ちる。しかし、自分に暴力を振るう客を殺害してしまったアイリーンはセルビーを連れてあてのない逃避行へ。その後も殺人を繰り返すようになる…。

実際に映画を見て、シャーリーズ・セロンのあまりの変貌ぶりに驚いた。実物のアイリーン・ウォーノスに似せるため、特殊メイクを施しているが、13キロも増量させた体のだらしなさといったらない。肌はボロボロ、眉はなく、口もとは無愛想に曲がっている。言われなければセロンだとは気付かない。美貌は見事に消し去られていた。

不幸な家庭環境から娼婦としてしか生きる道がなかった女性アイリーン。アメリカは連続殺人鬼の宝庫だが、女性はさすがに数が少ない。映画はアイリーンが殺人鬼になるべく袋小路に追い詰められる様子を描くことで、米国社会の暴力性と偏見も追求している。アイリーンの犯した犯罪は許されることではないし、自業自得の部分も大きいが、物語が進むにつれてアイリーンの孤独が大きく浮き彫りにされていく。

主人公の不幸をあえて一つあげるとするならば、愛することを知ってしまったことだろうか。自分を蔑まずに受け入れてくれたセルビーには、全く生活能力がなかった。一緒にいたいと願うことが罪を重ねることになる切なさ。ひ弱で子供のようなセルビーが、いつの間にかアイリーンを支配していくようになる恐ろしさ。セルビーは最終的にアイリーンを裏切る。そのことをアイリーン自身、承知なのがあまりに哀れだ。

この映画は、肉体改造を含めたシャーリーズ・セロンの圧倒的な熱演を抜きにしては語れない。モンスター(怪物)とはいったい何を意味するのか。社会や家庭には様々な問題が横たわる。そして、人間とは、罪を犯しながらも愛を求める矛盾した存在なのだ。社会の残酷さと人間の歪んだ心こそがモンスターの正体だ。

□2003年 アメリカ映画  原題「MONSTER」
□監督:パティ・ジェンキンス
□出演:シャーリーズ・セロン、クリスティーナ・リッチ、ブルース・ダーン、他

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16歳の合衆国

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◆プチレビュー◆
頻発する幼児を犠牲にする犯罪。感情移入は全くできなかった。甘ったれるな、リーランド!自分の価値観を他人に押し付けるな!と、怒りモード全開だ。

平凡な16歳の少年リーランドは、恋人ベッキーの障害者の弟を、突然刺し殺してしまう。逮捕されたリーランドは矯正施設に入れられるが、彼は事件について、とりわけその動機について何も語ろうとはしない…。

少年犯罪を描く映画は数多い。近年ではダルデンヌ兄弟の「息子のまなざし」やガス・ヴァン・サントの「エレファント」などの秀作が思い浮かぶ。そのどれもが罪を犯す少年たちを批判するものではなく、彼らを取り巻く環境や生い立ちを検証するものだ。本作もそのスタイルを踏襲。リーランドという一見普通の青年が、なぜ殺人を犯すに至ったのかを、真摯に追求している。

監督のマシュー・ライアン・ホーグは、実際に矯正施設で教員を務めた経験を持つ。その時の体験が彼にこの映画のメガホンを取らせた。初監督作にして随分手強い題材を選んでいるが、案の定、力量不足のためか映画としての面白味には少々欠ける出来ばえとなった。犯罪にいたる理由を必死に模索するのは好感が持てる。加害者と被害者の家族にも目を向け、犯罪のその後の波紋をも丁寧に描く姿勢もいい。だが、肝心の主人公リーランドに魅力が乏しいのではお話にならない。製作も兼ねるK.スペイシーが父親役で出演しているが、彼だけが演技が上手すぎて浮いているのも残念だ。

善良で、知的で、優しい人間リーランド。彼は愛する人間に醜い世の中を見せたくなかった。傷つく人間の姿に耐えられなかった。物語は、リーランドの動機を探る教官パールの人生観の変化を同時に描き、僅かな希望の光を見出そうとしているようだ。しかし、リーランドの行動は、世間と折り合いをつける方法を知らない人間の、誤った美意識であり、正当性はどこにもない。自分の感じる悲しみを一方的に他人に被せた果ての犯罪に過ぎず、幼稚で利己的な解釈しかできない彼の思考が問題なのだ。

人一倍哀しみに敏感な人間の存在は認める。事実、世界は悲劇に満ちている。だが、リーランドの行動を肯定するわけにはいかないのだ。美しいだけでは決してない世の中で生きていくことは、ただそれだけで大変なことだ。“生きること”に挑戦している人間の命を奪う権利は誰にもない。この映画はそのことを描き忘れている。

□2003年 アメリカ映画  原題「The United States of LELAND」
□監督:マシュー・ライアン・ホーグ
□出演:ドン・チードル、ライアン・ゴズリング、ジェナ・マローン、他

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アイ、ロボット

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◆プチレビュー◆
感情を持つロボットものの映画としては、「ブレードランナー」がイチオシ。人間が機械化する逆パターンとしては「ロボコップ」が代表。共存を哲学的に描いたのは押井守の「イノセンス」。やっぱりロボット映画はSFの大看板だ。

2035年のシカゴ。ロボット三原則の提唱者であるラニング博士が謎の死を遂げる。捜査を担当するスプーナー刑事は、ある出来事以来、ロボットに対して不信感を持っていた。スプーナーは、博士を殺したのはロボットのサニーではないかと疑うが、事件の裏には企業の巨大な陰謀が隠されていた…。

感情を持つロボットという設定は、SFでは古典とも言えるもの。それだけ人気で興味深いテーマなのだ。SFの巨匠アイザック・アシモフの短編「われはロボット」を原作とするこの映画は、ロボットと共存する近未来を舞台に、アクション、サスペンス、ドラマと複数のジャンルをまたぎながら展開する。扱いようによっては、人間の存在意義を問う深遠なテーマにもなるところを、しっかりエンタメ作品に仕上げるのがやはりハリウッドだ。

主人公のスプーナー刑事を演じるウィル・スミスは製作総指揮も務めている。そのせいか、ロボット嫌いのトラウマは少々優等生すぎる感も。さらに、全裸のシャワーシーンなど、不必要なサービスショットもあり、笑わせてくれる。だが、コンバースのスニーカーを「2004年モノだぜ」と自慢してアナログ感覚を醸し出し、近い未来はさもありなんと思わせるなど、意外に細かい芸も披露する。

SFでは未来社会を視覚化するビジュアル・センスがものを言う。その点、このロボットの造形はシンプルでなかなか良い。メタリックなロボットの大群は、かなり不気味。表面よりも筋肉構造で擬人化する技術に注目だ。監督のプロヤスはエジプト生まれのオーストラリア育ち。クールな映像センスが持ち味の人である。

感情を持つ究極のロボット、サニー。サニーは本当に殺人を犯したのか。もし、そうなら、いったい何のために?スプーナー刑事の上司が言う「人間が人間を殺していた時代が懐かしい」というセリフが意味深い。テクノロジーの暴走というありがちなテーマではあるが、そう遠い世界の話ではないのだから、この際、大真面目に鑑賞するのもいいだろう。

□2004年 アメリカ映画 原題「I, ROBOT」
□監督:アレックス・プロヤス
□出演:ウィル・スミス、ブリジット・モイナハン、ジェームズ・クロムウェル、他

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アイ,ロボット@ぴあ映画生活

ヴィレッジ

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◆プチレビュー◆
ヒッチコックよろしくスクリーンに登場するのがシャマランの得意技。今回は映画の終盤にチラリと登場。後姿だがガラスに顔がうっすらと写る。盲目のアイヴィーを演じたB.D.ハワードは「ビューティフル・マインド」のロン・ハワード監督の娘だ。

1897年のペンシルヴァニア州。深い森に囲まれたその村では、外界とは完全に孤立した暮しが営まれ、数十人の村人はまるで大きな家族のように暮していた。村には厳密な掟が存在したが、瀕死の恋人ルシアスを助ける薬を手に入れるため、不思議な力を秘めた盲目の少女アイヴィーが、町に向かって遂に森へと足を踏み入れる…。

超自然現象やゴースト、異星人などに執着するシャマラン監督。そのこだわりを映画に盛り込むのはいいが、作品の質にバラツキがあるのがたまにキズだ。「シックス・センス」で世界中を熱狂させたかと思えば、「アンブレイカブル」「サイン」と、観客を連続してスベらせる。彼の新作に身構えてしまうのは仕方がない。でも、期待してしまうのもまた事実なのだ。

シャマラン流の仕掛けは二段構えになっていて、村人が守る3つの掟と森に住むという“彼ら”の正体が第一の謎である。最初の謎は正直言って肩すかしだが、最後の謎には驚かされる。楽園とも思える特殊なコミュニティの存在と、それが崩れる予感がテーマだ。“村”と“町”の真実が明らかになったとき、物語は深みを増す。謎解きの楽しみのため余計な解説は止めておこう。

映画の出来とは別のところで話題になっているのが、この映画のオチにまつわる盗作問題。秘密主義で知られた映画だけに波紋は大きいようだ。だが、映画に関して「このネタはあの小説やこの映画で見たことあるゾ!」と鬼の首でも取ったように騒ぐのは、ナンセンスだと私は思う。第一、殆どの映画の物語は、過去にどこかで使われているのだ。そんなことより大切なのは、映画としてどれだけ訴求力を持つかではないだろうか。最初であることより最良であることを目指すべきなのだ。

コケオドシもたっぷりの娯楽作でありながら、見終われば社会性も込められていたとは驚く。人間が築くユートピアを、神や自然は許すだろうか。そして、そのユートピアは真の幸福を生むのだろうか。この作品、シャマランに似合わず、案外深い映画なのかもしれない。もっとも彼のデビュー作はいたってヒューマンな「翼のない天使」だったことを思えば、“似合わない”と評するのは失礼かもしれないけれど。

□2004年 アメリカ映画 原題「The Village」
□監督:M.ナイト・シャマラン
□出演:ホアキン・フェニックス、エイドリアン・ブロディ、ブライス・ダラス・ハワード、他

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ヴァン・ヘルシング

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◆プチレビュー◆
地味ながら演技力のある英国美人女優ベッキンセール。だが、この人のハリウッドでの映画選びは大いに疑問。3人のドラキュラの花嫁のセクシー度は、歴代ドラキュラ映画では随一だ。

19世紀。ローマ法王庁の秘密組織に属するモンスター・ハンターのヴァン・ヘルシングは、ドラキュラ退治のためトランシルバニアへ。そこで、おぞましい怪物たちと戦い続ける一族のアナ王女と出会う。ヘルシングは彼女とともに熾烈な闘いに挑んでいくのだが…。

ユニヴァーサル映画の歴史を華麗に彩る有名モンスターたちが勢揃いする様は、さながら歌舞伎の顔見世興行を思わせる。吸血鬼、フランケンシュタイン、狼男。これに前菜感覚でジキルとハイドも加わってくる。モンスターたちを蘇らせ、さらにそれぞれに微妙なつながりを持たせたところが本作の新しさだ。もちろん最新のVFX技術をたっぷり駆使し、アクションシーンは盛り沢山である。

主人公の凄腕モンスター・ハンターであるヴァン・ヘルシングは、従来の老教授ではなく、若くセクシーな人物に設定。扱う武器も19世紀にもかかわらず、殆ど現代と同様の派手で破壊的なものだ。マカロニ・ウェスタン風のファッションに身を包んで大いに暴れまくる。演じるヒュー・ジャックマンは好演で、過去の記憶がなく自らの出自に秘密を持つ悩めるキャラは「Xメン」のウルヴァンリン役でも得意としたところだ。

ストーリー自体はいたって大味で、古き良き冒険活劇ものの痛快さに満ちている。肩肘はらずに楽しむ作品なのだ。残念なのは、アナ王女を演じるケイト・ベッキンセールにアクションのセンスが全く感じられないこと。圧倒的な身体能力で史上最強の美女であるはずが、ヘマばかりやっている。迫力があるのは異様に濃いアイメークだけでは、なんとも寂しい。明らかにミス・キャストだ。アナの兄役でバレエ界の貴公子のウィル・ケンプにも、さしたる見せ場が用意されてないのも惜しい。

しかし、全体を覆うダークなテイストを始め、美術の美しさは必見だ。特にドラキュラ伯爵が開く舞踏会のシーンは、シルク・ド・ソレイユの幻想的なパフォーマンスに思わず見惚れるはず。モンスター同士の微妙な繋がり、ヴァン・ヘルシングの秘密、さらなる大冒険…。描き残しは山ほどあれど、謎解きは次回作でのお楽しみというわけか。

□2004年 アメリカ映画 原題「VAN HELSING」
□監督:スティーブン・ソマーズ
□出演:ヒュー・ジャックマン、ケイト・ベッキンセール、デヴィッド・ウェンハム、他

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ぼくセザール 10歳半 1m39cm

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◆プチレビュー◆
セザールの家族はユダヤ系という設定。ステレオタイプではあるが、ケンカしながらも家族の絆が強いユダヤ系一家が上手く表現されている。サラ役の少女は監督の実の娘。我が子を“学校一の美少女”にする親バカが微笑ましい。

ちょっと太めなのが悩みのセザールは10歳半。子供扱いされるのが嫌いなのに、大人はちっとも判ってくれない。セザールのパパが何の仕事をしてるか判らないけど、長い出張に行くと言う。これはきっと“出張”なんかじゃない…!セザールの勘違いは思わぬ誤解を生み、彼はたちまち学校のヒーローになってしまうのだが…。

私たち大人だって、10歳半だった時代があったはずだ。でも、あまりに遠い昔のことなのですっかり忘れてしまっている。映画はカメラをセザールの身長の1m39cmに固定することで、見ている観客も次第に子供の視線を共有する仕掛けになっている。世間を見上げ、天上は大きく高い。大人からは常に見下ろされる。なんだか不愉快?!最初はどこか違和感があるが、この目線だからこそ見えるものもある。

何でも出来る親友モルガンへの劣等感や、あこがれの美少女サラへの恋心など、ほのぼのエピソードが満載。他愛ないことも、子供たちにとっては全てがスペシャルな出来事。前半はセザールの父親が長い出張に行くのを“逮捕”されたと誤解することから起こる珍騒動、後半は親友のモルガンの父親を探しに、地元パリから言葉も通じない英国への冒険の旅。ロンドンではゴダールの映画でお馴染みのアンナ・カリーナが、彼らの“お助けウーマン”として登場するという嬉しいサービス付きだ。

映画はセザールのナレーションで進行するが、これは子供の価値観というより、大人がうやむやにしてしまっている知覚の再現だ。笑いを誘う鋭くも切実なセリフが全てみずみずしい。プクプクした頬のセザールの頭の中では「10歳の女の子に、男は中身だってことを判らせるのは簡単じゃない」なんていうセリフが深刻に横たわっているのだ。

この映画では、誰もが、生意気で不安で背伸びして生きていた10歳半の自分に出会えるはずだ。セザールとサラとモルガン。その後の彼らの成長はどうなるの?久しぶりに続編が見たいと感じる作品である。トリュフォーの「大人は判ってくれない」のポジティブ・バージョンとでも呼びたい楽しい1本だ。

□2003年 フランス映画 原題「MOI CESAR 10ANS1/2 1m39」
□監督:リシャール・ベリ
□出演:ジュール・シトリュク、ジョゼフィーヌ・ベリ、アンナ・カリーナ、他

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華氏911

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◆プチレビュー◆
ゴダールはこれを見て「ブッシュはこれほどバカではない」と言ったそうだが、この映画をこのままうのみにするほど「観客はバカではない」。日本でこんな映画が生まれる日はいったいいつの日やら…。

9.11テロの後、イラク戦争へと突入したアメリカ。マイケル・ムーアは、2000年からブッシュの足跡を追っていた。大統領選挙時の様子、テロ勃発直後の対応、ビン・ラディン一族とのつながりやイラク戦争の舞台裏など、驚きの映像を登場させ、ブッシュ政権の疑惑を明白にしていく。

本作に対し、政治的に偏った作品で映像メディアによる情報操作だという非難の声もあるだろう。だが、作者の主義主張が表れるのが映画というものだ。M.ムーア監督ははっきりとブッシュ批判のスタンスに立っているのは周知の事実。全ての映像はブッシュ政権の“悪”の部分だけをおもしろおかしく繋げて構成されている。編集も抜群に上手い。音楽の使い方、テロップの入れ方、どれをとっても笑いのツボにはまる、超絶エンタテインメント作品だ。だが、内容的には笑いごとではすまされない。

ブッシュが清廉潔白な政治家などとは誰も思っていないが、映し出される映像は全て驚愕するものばかりだ。9.11テロで多くの人命が失われたのは紛れもない事実。しかし、その報復とも言えるイラク戦争のからくりを見せられて愕然とした。映画は、9.11テロとイラク戦争の無関係性を描くことで、ブッシュ政権の懐を突く形だ。テロ勃発を聞いた大統領が、数分間何もしない映像だけでも見る価値がある。

前半はブッシュの無能さを活写して笑いを誘い、後半は戦争で犠牲になる命を米国、イラクの両方から描いていく。息子を失った愛国者の母親の姿には、多くの人が胸を熱くするだろう。戦争の意義や戦う国がどこでも、失われた命の尊さは同じなのだ。一方で、まるで企業の勧誘のように若者を軍隊に誘う様子を映した映像は無視できない。入隊するしか道はないような人間を犠牲にする戦争の側面が、淡々と記録されている。戦争が既に失業対策の一部であることの恐ろしさに気付かねばならない。

賛否両論必須の、話題の記録映画である。と同時に、観て、楽しんで、考える“お得な”映画なのだ。これが世界をリードする国のひとつである米国の実態かと思うと気が滅入るが、これほど現政権に対して批判的な作品が、公開され支持される“自由”が存在する国であることも覚えておこう。アメリカ国民が大統領選挙で出す結果が、この映画の結末だ。

□2004年 アメリカ映画 原題「Fahrenheit 911」
□監督:マイケル・ムーア
□出演:ジョージ・W・ブッシュ、他

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父と暮せば

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◆プチレビュー◆
戦争レクイエム3部作は全て素晴らしい出来なので、機会があれば是非見てほしい。宮沢りえは方言のセリフをやらせると本当に上手い。

広島の原爆投下から3年後。一人暮らしの美津江の前に父・竹造の幽霊が現われる。愛する人々を一瞬で失い、一人生き残ったことに負い目を感じる娘を心配してのことだ。美津江は原爆の資料を集める木下青年に好意を抱いているのだが…。

日本映画界のベテラン黒木和雄監督の“戦争レクイエム三部作”の完結編に当たる本作は広島が舞台。前2作は、長崎の原爆投下の前日を描く「TOMORROW/明日」、監督の出身地の宮崎県を舞台にした「美しい夏キリシマ」だ。直接的に戦闘を描くのではなく、市井の人々の心情と痛みを丁寧にすくいとることによって、戦争への憤りを浮き彫りにする手法は3作ともに共通している。

父と娘の、まるで漫才のような掛け合いがユーモラスな前半と、深く鋭く戦争の傷跡をえぐっていく後半のメリハリが鮮烈だ。ほとんど二人芝居で、まるで演技合戦のような濃密な空気が漂う。恋愛に後ろ向きな娘の美津江を演じる宮沢りえの繊細な演技は特に素晴らしく、自分は幸せになってはいけないと思い込む気持ちと幸福になりたいと願う相反する心情が、見事に表現されている。その中には、被爆女性の結婚へのとまどいと不安もあり、見るものの胸を締め付けるだろう。

井上ひさしの秀作戯曲を出来るだけ忠実に映画化したというだけあって、非常に演劇的香りの高い映画だ。やや説明調で大仰なセリフや、限定された空間での長いやりとりなど、多分に演劇の要素があるが、だからこそ、原爆の一瞬の閃光や緑の林など、時折挿入される映画的演出が効果を挙げている。特に、家の上部が原爆ドームへと続くラストシーンは、さすがはわざわざ映画化するだけのことはあると唸るほど美しい出来栄えだ。

父親の幽霊をすんなり受け入れる状況から、この父の存在が娘の心から生まれ出た幻であることは映画の冒頭で理解できるだろう。幸せになってはいけないと、将来のある若い女性に思わせるほど、苛烈であった原爆投下の地。死ぬのが当たり前で生き残ることの方が不自然な状況という異常性を理解した上でなお、死んだものの分まで生きてほしいと願わずにはいられない。見終われば、父も娘も家さえも全てが幻影のような浮遊感漂う幽霊譚なのだが、この作品の反戦メッセージは何よりも強く深い。

8月6日は広島の、8月9日は長崎の原爆記念日。年月は経ってしまったけれど、広島や長崎の原爆について、無関心でいられる人などいないはずだ。

□2004年 日本映画
□監督:黒木和雄
□出演:宮沢りえ、原田芳雄、浅野忠信、他

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ディープ・ブルー

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◆プチレビュー◆
あまりに素晴らしい映像体験に幸せを感じる映画。しかし、同名タイトルでレニー・ハーリン監督のサメ映画があるので、混同は必須。副題を付けるなどの配慮が欲しかった。

イギリスBBCが7年の歳月をかけて製作した、海洋ドキュメンタリー。世界約200箇所のロケ地を巡りながら、海とそこに生きる生物の知らせざる姿を追う。音楽はベルリン・フィルが担当し、壮麗な音で映像をより効果的に引き立てている。

地球上の生物の98%を育むという海。ブルーが基調の映像が好感を持たれるのか、海を題材にした記録映画は昔から人気のジャンルだ。過去にもジャック・イブ・クストーの「沈黙の世界」「太陽のとどかぬ世界」やレニ・リーフェンシュタールの「原色の海」など、興味深く美しい作品が存在した。しかし本作は、その映像の貴重さ、美しさ、構図の見事さなどにおいて群を抜いている。単なる記録映画を超えて、アートと呼べる芸術作品なのだ。

イギリスのBBCは自然ドキュメンタリーの分野では実績と実力を併せ持つ。90分間魚の映像を流すという、およそ商業的とは言えないプロジェクトを見事にまとめてみせた。最高のスタッフが最大の努力を払った結果で、文句なく感服してしまう。膨大なリサーチ、長期にわたる撮影、200箇所にものぼるロケ地…。きまぐれな自然を相手に、忍耐と情熱で、感動の瞬間を捉えることに成功している。また、照明をはじめとする撮影機材と技術的進歩が基となっているのは言うまでもない。

ボール状に群れるイワシの大群、クジラの親子とシャチの攻防、ペンギンの決死のスクラム、愛らしい北極クマ。ユーモアと自然の厳しさが混在する。トロピカルで美しいさんご礁の危険な習性、自ら発光し生き延びた幻想的な深海生物。海底火山の周囲にさえ、微生物が存在する。見所を挙げたらきりがないほど。美しくも壮絶な弱肉強食の世界に、ただただ見惚れて酔いしれる。

静かで静謐な営みとダイナミックな生命が交錯する海。美しい映像は十分すぎるほど心を癒してくれるが、それだけではない驚きと喜びが作品の中に満ち溢れている。いとも軽やかに空間を移動して容易には体験できないものを映像化し、劇場にいる観客に現実をしばし忘れさせる。映画とは、つきつめるとこのような興奮の体現かもしれない。こういう作品こそ“映画”と呼びたい。

□2003年 イギリス・ドイツ合作映画  原題「DEEP BLUE」
□監督:アラステア・フォザーギル、アンディ・バイヤット
□出演:マイケル・ガンボン(ナレーション)

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プロフィール
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◆ペンネーム:渡まち子
◆映画ライター、映画評論家
◆こんなお仕事やってます:
新聞、雑誌、インターネットで、映画評、映画コラム、DVD紹介などを執筆。他にも、映画コメンテーターとしてラジオ出演、大学での公開講座や企業主催の映画セミナーなど、映画に関する幅広い仕事をこなしながら活動中です。
◆青山学院文学部史学科卒業。西洋史が専攻で、卒業論文はベネチア史。学んだことを生きている間に有効に活かせるのだろうか…と、かなり心配。
◆エトセトラ:
古今東西の映画をこよなく愛す、自他ともに認めるシネフィル(映画狂)です。時に苦言を呈すこともあるその映画批評の基本は、映画へのあふれる愛情と自負しています。どんなダメ映画でも必ずひとつはあるイイところを発見するのが得意技。大のサッカー好きで、欧州リーグからJリーグまでTPOに合わせて楽しんでます。
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