映画通信シネマッシモ☆映画ライター渡まち子の映画評


【本音で語る新作映画レビュー】
シネマッシモでは、映画レビューはネタバレなしのヒントあり。映画を見る前と見た後と、2度読んで楽しめます。
映画評サイトもこのブログで4代目になりました。すべての映画好きを歓迎します!
(点数は100点が、★は5つが満点)
シネマッシモとは、シネマ(映画)とマッシモ(イタリア語でmax,最大)とを組み合わせた造語。
どうぞゆっくり楽しんでください \(^▽^)/

◎ 今週末の公開映画から オススメの1本! ◎
アメリカ映画「シェイプ・オブ・ウォーター」

僕のスウィング

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◆プチレビュー◆
何よりも魅力的なのはマヌーシュ・スウィングのサウンド。焼け残ったギターの一部を川に流すシーンが泣ける。

夏休みを裕福な祖母の家で過ごす10歳の仏人少年マックスは、ジプシーの音楽に魅せられギター演奏を習うためにロマ族の居住区に通うことに。そこには黒い大きな瞳のスウィングという美少女がいて、マックスは彼女に淡い恋心を抱く。ジプシー音楽とロマの少女。2つのスウィングと共に楽しい夏を過ごすのだが…。

自らもロマの血をひくトニー・ガトリフ監督は、常に自分の作品にジプシーのルーツを投影させている。愛と死、宿命を描いてきた過去の作品とは趣が異なり、本作は少年と少女の小さな恋物語を軽やかな音楽に乗せて描いた爽やかな作品だ。

マヌーシュとは主にフランス北部に住むロマ(ジプシー)の通称で、ジプシー音楽とスウィング・ジャズを融合させたのが、軽快なリズムのマヌーシュ・スウィングだ。マックスはギターの名手ミラルドに弟子入りするが、ミラルドの技術はまさに神業。全編を彩る演奏を聴くだけでもこの映画を観る価値があると言っても過言ではない。

秘密の抜け道や川での水遊び、木の実や薬草の名前を教わったり、時には恋のおまじないも。マックスにとっては全てが新鮮で永遠に続きそうな幸せな日々だったが、やがて切ない別れの時が訪れる。主役を演じる2人の子役の輝きは言うまでもないが、両性の魅力を備える野生味溢れるスウィングの笑顔が、特に印象的だ。

識字率が低く、社会からも冷遇されてはいるが、ロマの人々の自由で誇り高い暮らしはまぶしいほど。ナチスから受けた迫害を語る場面は、ワン・シークエンスでさりげなく描写される。マックスとスウィングを異文化の象徴とするならば、異なる文化の融合をこんなにも優しく瑞々しく描けるものかと改めて感動を覚えた。

音楽は全ての壁を乗り越える。使い古されたセリフだが、ジプシーとアラブ、欧州各地の演奏家のセッションの場面の素晴らしさは本物で、説教臭さなど微塵もない。仏人少年マックスとジプシーの少女スウィングの可愛らしい初恋物語でありながら、ロマの伝統や歴史をも描き込み、味わいとコクのある一作となっている。

□2002年 フランス映画 原題「SWING」
□監督:トニー・ガトリフ
□出演:チャボロ・シュミット、オスカー・コップ、ルー・レッシュ、他

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ボーン・アイデンティティー

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◆プチレビュー◆
繊細で知的な青年役が多かったマット・デイモンの新境地。アクションも立派にこなしてフェロモン全開だ。女性ファンも急増だろう。

嵐の海で救助された男の背中には銃弾のあとが。その男は記憶が全くなく、皮膚の下に埋め込まれたマイクロチップに、スイスの銀行口座が記されていた。そこで彼は、ジェイソン・ボーンという自分の名を知り、数種のパスポート、多額の現金を発見。驚く間もなく、何者かに命を狙われる。マリーという女性を道連れに逃避行を続けながら自分の過去を探ることになるが…。

「バイオハザード」「ロング・キス・グッドナイト」。これらは皆、特殊な能力を持った人物が記憶を無くすという設定の物語。他の作品が“主人公は何者か?”を一番の謎とするのに対し、本作では、主人公のボーンが実はCIAエージェントだということを観客は最初から知っている。なぜ追われているのか、執拗に命を狙われる理由さえも物語途中で察しがついてしまうのだが、記憶はなくしても、身体が覚えている語学力や戦闘能力を駆使して活躍する様が痛快だ。

今まで繊細で知的な役柄が多かったマット・デイモンが逞しく生まれ変わり、非常に魅力的だ。無駄のない動きで相手を倒し、切れ味のいいアクションを披露する。とはいえ、知性派の名に恥じず、ただ銃をぶっ放すだけではなく、様々な小道具を使って追っ手を振り切るのだ。無線を奪って情報を収集し、ビルの内部の地図を見ながら逃走経路を練り、電話のリダイヤルで敵の正体を探る。銃を使うのを本能的に避けるこの作戦は、単に頭脳戦というだけでなく、主人公の性格付けにも通じている。

記憶をなくした上、命を狙われる。その不安は想像して余りあるが、M.デイモンのどこか頼りなげなルックスがこの役柄にぴったりマッチする。あの幼い顔で、バッタバッタと敵を投げ倒し、激しいカーチェイスやビルの絶壁からのダイブまでも披露してくれるからサービス満点だ。パリの街の複雑な路地や石畳で繰り広げられるカーチェイスの主役は、小回りが効く真っ赤なミニ・クーバー。実際のスピードを考えると逃げ切れるかは甚だ疑問なのだが、この車は劇中のマスコットのような存在だ。

ヒロインを演じるのは「ラン・ローラ・ラン」で鮮烈な印象を残したドイツ人女優フランカ・ポテンテ。彼女が演じるマリーもまた、欧州を放浪しながら自分自身を探している。ポテンテは中性的な雰囲気でとても好演なのだが、マリー自身の役の設定にもうひとひねり欲しかった。いくらなんでもしろうと過ぎるので、足手まといの感は否めない。だから、最後まで行動を共にできず、途中でボーンと離れなければならないのだ。しかし、逃避行の合い間に見せる2人の短いラブシーンはとても秀逸で、ボーンが変装のために、バスルームでマリーの髪を切る場面は印象深い。

主人公は次第に自分が恐ろしい陰謀に加担していたことを知る。かつては非情な任務をこなし優秀なエージェントだった彼が追われることになる原因は、その根本に潜む性格にある。自分自身を認識し、その可能性を知るのは人間の普遍的な願い。主人公ボーンは、記憶を失ったことで、半ば強引に自分探しの旅をするはめになるが、その中で彼が持つ本来の人間らしさが、ボーンを生まれ変わらせようとする。かつての自分を知ってなお、変わろうするひたむきさ。ここに、この映画が従来のアクション映画と一線を画す魅力がある。

□2002年 アメリカ映画 原題「The Bourne Identity」
□監督:ダグ・リーマン
□出演:マット・デイモン、フランカ・ポテンテ、クリス・クーパー、他

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オールド・ルーキー

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◆プチレビュー◆
実話ならではの説得力があるスポーツ・ドラマ。ジム・モリス本人が審判役でカメオ出演している。

野球少年だったジムは大リーガーへの夢を断念し、今は高校で野球部の監督を務めながら、教師として平穏に暮らしている。成り行き上、チームの子供たちとの約束でプロの入団テストを受けることになるが、肩の故障にも拘わらず剛速球を投げる彼にスカウトの声が。家庭を持つジムは、安定した生活と自分の夢との狭間で躊躇する…。

“なせば成る”はアメリカン・ドリームの基本だ。事実、そうやって夢をつかんだ人々の話は、いつの時代も私達の胸を熱くする。この映画の主人公ジム・モリスも、一度あきらめた夢を35歳にしてつかんだヒーロー。映画は、彼の才能や苦闘と共に、ジムを支えて励ました家族の愛を描いている。野球に無理解な父親と、父であるジムをあこがれの瞳で見つめる幼い息子。野球ものと父子ものというハリウッドの伝統の得意技で、気持ちよく泣かせてくれるのだ。

野球部の子供たちに“あきらめるな。夢を追え”と説くジムに、少年が尋ねる。監督自身はどうなの。あんなスゴイ球を投げることができるのに。彼は自分が夢を封じ込めて生きていることは知っているが、一度挫折した野球にもう一度プロとして挑戦することで生じるリスクを思うと踏み出せない。家庭を持つ大人なら当然の迷いだ。

ジムを演じるのはデニス・クエイド。この人はいい意味でオールド・スタイルだ。古き良きハリウッドスターの雰囲気を持つ役者で、その誠実な風貌から、スポーツ選手の役をやることが多い。本作でも、悩みながらも戦い続ける主人公を、温かさと人間味溢れる演技で好演している。電話で息子の宿題を手伝うシーンは印象的だ。

実力派レイチェル・グリフィスが演じるジムの妻ローリーは、最初は彼が野球に再挑戦することに反対するが、きっぷのいいテキサス女である彼女は、遂には悩む夫の背中を押し「あなたの夢は私たちの願い。」とエールを送るのだ。経済的な不安や離れて暮らす寂しさを押し殺す彼女の献身が涙を誘う。

ジム・モリスは努力の人だ。一度は夢に挑戦したが、挫折した経緯を持つ。過去にマイナー・リーグでプレーし、肩の故障で野球を断念したいきさつが、あまりにも省かれているのが気になった。セリフの端々では判るが、ちょっと説明不足なのでは。回想シーンのひとつも挿入すれば、その後の再挑戦と、リスクを負いながら立ち向かう勇気に、より説得力が出たはずだ。剛速球の秘密も知りたいところ。しかし、モリスがメジャーの投手になったことよりも、へなちょこ弱小野球部が地区優勝したことの方が、実は数倍もすごい奇跡のような気がするが…。

年齢を重ね、社会を知れば、夢を追い続けることの難しさを痛感するもの。勇気を持ってメジャーに再挑戦したモリスは、2シーズン投げたあと静かに去っていった。愛する人と喜びを分かち合うことが、史上最年長ルーキーの真の勝利の瞬間だ。実話の重みを感じる1本。チャレンジャーの姿はいつだって輝いている。

□2002年 アメリカ映画 原題「THE ROOKIE」
□監督:ジョン・リー・ハンコック
□出演:デニス・クエイド、レイチェル・グリフィス、ブライアン・コックス、他

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マーサの幸せレシピ

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◆プチレビュー◆
凄腕シェフ自身が食べることに無頓着?!また、人間的に欠陥の多い人物が、一流の厨房のスタッフをまとめることが出来るのかも疑問。でも、そんなささいなツッコミを忘れさせるのが、孤高の天才ジャズピアニスト、キース・ジャレットの素晴らしすぎるメロディだった。

ハンブルグの一流レストランのシェフであるマーサは、料理には人一倍の自信と誇りを持っているが、私生活では不器用な30代の独身女性。彼女は、姉の事故死で8歳の姪リナを引き取ることに。心を開かないリナと、勤め先の料理店に新たに入ってきたイタリア人マリオの2人は、マーサの生活に少しずつ変化をもたらしていく…。

サンドラ・ネットルベック監督はこの作品が長編デビュー作となる。ドイツ映画でグルメものというのは意外だが、女性監督ならではの繊細な視点に溢れる佳作だ。ストーリー自体はありがちで、目新しさはないのだが、その分自然で、予想通りに展開する心地よさを感じてしまう。ドイツ人とイタリア人の気質の対比の設定も定石。だが、“食事は愛する人と食べると幸せになれる。愛がなくては美味しくない。”このメッセージは単純なだけに、強く迷いのない世界なのだ。

マーサは生真面目で誇り高い。完璧主義は彼女の武器で、仕事への情熱が本能を閉じ込める。バランスを保つために、彼女はしばしば厨房の奥にある食料貯蔵庫に一人で閉じこもるのだが、篭城中の彼女の心の城に、姪のリナと陽気なマリオという異分子が乱入。まるで自分自身を見るかのようなリナと、自分とは正反対のマリオだが、結局彼らは、マーサと“幸せ”との仲介者になる。

8歳のリナは母親の死のショックで拒食症に。一方、マーサも料理は作るが自らは食べることに興味がない。この二人が物語が進むにつれ、どのような形で食べ物を口にするようになるかを、彼らの心の変化と共に描くのが上手い演出だ。そこでは、一流レストランで出される色鮮やかで洗練された一皿よりも、スタッフのまかない食や、フライパンから直接食べる行儀の悪さが、なぜか魅力的に映る。

愛する人と一緒に食事をし、共に語らうひと時は最も幸せな瞬間のひとつ。マーサとマリオの食材当てのシーンは、ちょっとエロチックな場面だ。マーサの誇る絶対味覚は、彼女が見ようとしなかった愛情や心のふれあいを何よりも知っていて、彼女がそれを欲していると語る。人生のレシピに欠けていた、ひとさじの調味料か。

残念なのはマーサ、リナ、マリオ以外の人物の人間描写が中途半端なこと。マーサの勤める店のオーナーが彼女をセラピーに通わせるのは、マーサの本質を理解しているから。だからこそ、彼女を街で2番目のシェフと呼ぶのだが、そのオーナーが結局は彼女を助けることもなく、決別を匂わせる形で終わるのが、ストーリーとして腑に落ちない。また、マーサのアパートの階下に住む男性は結局どうなったのか?もっと効果的な役割があっただろうに。

仕事や私生活で既に確立している価値観を変えるのは大変なことだ。映画は、人生の転機を向かえ、自分の小さな世界から出て、現代生活に欠けている愛情や人間らしいコミュニケーションの大切さに気付くヒロインを、優しい視点で描写する。几帳面な性格や仕事ぶりは変わらないだろうが、自分と違う生き方を認める心の柔らかさが、マーサを幸せな人生に導いた。あくまでも小品なのだが、観終わって何とも気持ちのいい作品で、心がほっこり。こんな気分を味わうために、私は日々映画を観ている。

□2001年 ドイツ映画 原題「Mostly Martha」
□監督:サンドラ・ネットルベック
□出演:マルティナ・ゲデック、セルジオ・カステリット、マクシメ・フェルステ、他

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8人の女たち

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◆プチレビュー◆
タイトルはジョン・フォードの遺作「荒野の女たち」(原題「SEVEN WOMEN)が出典か。オゾン流の毒気はやや薄いが、過去の作品を使った遊び心が楽しい。

50年代のフランス。イヴの朝、ある豪邸で館の主マルセルが殺害される。屋敷は、電話線は切られ、大雪に閉ざされた密室状態。身内を中心に8人の女たちが集まっていたが、不倫、妊娠、金銭問題など、全員に殺害の動機があった。長女のシュゾンは、さっそく犯人探しを始めるが…。

やはりオゾン監督はタダモノではない。主役級の女優たちを一堂に集めて作った作品はなんとミュージカル。もちろん正統派ではなくオゾン流だ。50年代のテイストと、往年のハリウッド映画の名女優へのオマージュが満載の本作は、豪華で風変わりな推理劇。シニカルでコケティッシュな感触は一度味わったら、もうやみつきだ。

妻に二人の娘、妹やメイドなど、主に関わる女たちは、皆、殺人の動機が充分。互いの秘密が次々に明かされる過程で、仏を代表する女優たちが、唐突に歌い踊り出す。ドールハウスのようなテクニカラーの屋敷の中では、ミュージカル仕立ての進行も不思議と違和感がない。ファッションも意図的に大仰で、目にも楽しい。しかも8人全員が一人一曲、歌い踊るサービスぶりなのだから嬉しくなる。

オゾン作品と言えば、同性愛や近親相姦、軽いタッチの殺人などがお約束だが、本作でも、思わぬ謎解きの小道具として登場。ポップな中にもちゃんと毒が仕込んであるのだ。いちいち驚いているヒマはない。

大女優から新進気鋭の若手まで、百花繚乱だが、中でも、インパクト抜群なのが女主人の妹を演じるイザベル・ユペール。欲求不満で、家族中に当り散らし、トラウマと心臓病を抱えて暴走中のオーギュスティーヌは、最高に笑える存在。ユペールの確かな演技力が、極上のコミカルさを生んでいる。シットコム(シチュエーション・コメディ)よろしく、笑い声を献上したいほど。彼女の変身後の姿は必見だ。

ミュージカルの不自然さが苦手という人にも、これはかなりお勧めでは。ここまでデフォルメされた展開なら、唐突さがむしろ魅力となる。映画ファンには過去のヒロインのイメージを発見できるお楽しみ付き。メイドのルイーズが大切にしている元の女主人の写真は、故ロミー・シュナイダーではないか!

ラストに明かされる家族の意外な秘密。これは明らかに女たちのドラマなのだ。その証拠に、一家の主の顔は、ほんの一瞬を除いて最後まで画面に登場することはない。美貌とパワー溢れる仏女優たちのノリまくった夢の競演は、映画界の大事件。オゾンの初期の肩書きは“鬼才”。最近ではさかんに“俊英”と呼ばれているが、この人が将来“巨匠”になるのは間違いない。

□2002年 フランス映画 原題「8FEMMES」
□監督:フランソワ・オゾン
□出演:カトリーヌ・ドヌーヴ、ファニー・アルダン、エマニュエル・ベアール、イザベル・ユペール、ヴィルジニー・ルドワイヤン、リュディヴィーヌ・サニエ、フィルミーヌ・リシャール、ダニエル・ダリュー、他

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マイノリティ・リポート

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◆プチレビュー◆
物語は2流SF「ジャッジ・ドレッド」と瓜二つ。司法省の役人のウィットワーが元神学生という設定が全く生かされてないのが疑問。ラストにやや不満が残るが、エンタメ映画としては上出来。

2054年のワシントン。プリコグと呼ばれる予知能力者によって犯罪を未然に防ぐシステムが登場。犯罪予防局のチーフであるジョンは6年前に息子を亡くして以来、仕事に熱中していたが、ある日、プリコグによって、彼自身が全く見知らぬ男を殺す犯行を告げられてしまう。システムに疑問を抱いた彼は、逃亡しながら真相を追うが…。

S.スピルバーグとT.クルーズ。現在のハリウッドでこれ以上贅沢な組み合わせがあろうか。自ずと期待感は高まる。但し、スピルバーグの映画に過剰な期待は禁物で、そのことは、情に流されたSFピノキオ「A.I.」で十分に学習済みだ。結果、無欲で臨んだ本作は、娯楽映画の王道を行くもので、存分に楽しめた。

いったいなぜ自分は見た事もない男を殺すのか。この謎を解き明かす形で映画は進むが、ふいに主人公が陰謀に巻き込まれるのはヒッチコックが好んだ手法。古典をイメージしながら近未来SFのビジュアルで魅せるのが面白い。「犯人は誰か?」ではなく、未来形の「何故、殺すのか?」という逆の考え方で構築する物語は魅力的だ。

カルトな人気を誇るSF作家フィリップ.K.ディックは「ブレード・ランナー」などの作者。ディックの特徴である厭世観はやや薄れているが、無機質な色彩の未来世界のビジョンは、彼の世界を効果的に映し出している。

クセ者揃いの役者の中で、英国人サマンサ・モートンが凄い。プリコグの一人のアガサは、いわば地図のような存在で、事件は彼女の見る未来と過去の映像を頼りに解きほぐされていき、最後には真犯人の場所へと主人公を導く。クルーズに支えられるようにして逃げながら、小さな予言を積み重ねて危機を救う場面がスリリング。犯罪のない理想的なシステムも、予知能力者とはいえ、結局は人間が支えている。

近未来もののアイテムはあまり現実離れせず、今あるものに少しだけ味つけした程度のアナログ的なもの。あまり驚かせてはいけないのだ。しかもこの映画で描く未来は安全な殺人のない世界。もはや武器はセーフティなもので十分なのだが、床を飛び跳ねるスパイダーと嘔吐棒にはやや失笑。しかし、最大の変化は交通システムで、壁を垂直に走る車は見もの。トムもこの部分のアクションには気合が入っている。

この作品のテーマは個人を管理する社会への警鐘と、未来は自分で切り開くものだというメッセージ。今、我々はTVを見るが、未来ではTVが私達を見ている。網膜スキャンで特定した個人向けのスポット広告はそう遠くない未来に現れそう。逃亡中のクルーズにビール会社のCMが呼びかける。「ジョン・アンダートンさん、こんな時こそギネスをどうぞ」。余計なお世話だ。彼は今、それどころじゃない。

□2002年 アメリカ映画 原題「MINORITY REPORT」
□監督:スティーブン・スピルバーグ
□出演:トム・クルーズ、コリン・ファレル、サマンサ・モートン、他

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ハリー・ポッターと秘密の部屋

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◆プチレビュー◆
原作の縛りのせいか、あれもこれもで目移り状態。楽しいけど何にも残らない。原作ファンを満足させ、未読者を楽しませつつ、映画として高い評価と興行成績をあげる…。これは、難事業だ!

ハリー・ポッターは、仲間たちと共にホグワーツ魔法学校の2年生に進級。彼のもとに屋敷しもべ妖精ドビーが現われ“学校に戻ってはいけない”と警告する。やがて新学期を迎えるが、ハリーの周囲で怪事件が続発。不気味なメッセージは、50年間封印されていた“秘密の部屋”の扉が開かれたと告げていた…。

世界的ベストセラー、ハリポタシリーズの第二弾のサブタイトルは「秘密の部屋」。前作同様、ワクワクするようなファンタジックな世界が展開、新しいキャラクターも登場し、楽しい魔法を次々に見せてくれるのだが、作品の出来としては少々残念なものになっていた。

前作は登場人物の紹介が主だったが、今回は、原作を読んでいるか、第1作を見ていることが前提となるような作りになっている。おかげで人物の描写は大幅に省かれた状態だが、だからといって、ストーリー展開がスムーズなわけではない。原作に忠実なあまり、全てのエピソードがおざなりで中途半端になってしまっているのだ。

魔法学校にまつわる秘密、すなわち封印された“秘密の部屋”の謎とともに、ハリー自身の謎もからめて描く構成になっているが、エピソードを盛り込みすぎて、せっかくの新キャラが殆ど生かされていない。とりあえず、登場させただけという印象では時間を割くだけ無駄というものだ。ロンの妹ジニーにいたっては、重要な役なのに、あの扱いはないだろう。原作既読者には不満、未読者にはワケがわからないという、最悪の描写になってしまうとは。

中でも、ハーマイオニーを筆頭に、女性陣に大人気の新任教師のロックハート先生。ハンサムでナルシストで目立ちたがり屋、いざとなったら弱腰の彼を名優のケネス・ブラナーが演じるが、やはりこの役はヒュー・グラントが適役だろうに。長い長いエンドロール・クレジットの最後に、ちょっと笑えるおまけのワンシーンがあるが、これが彼なのも逆に痛々しい。どうせならもっと盛大に“笑い”に徹してほしかった。

とはいえ、もちろん見所はある。ビジュアル面は第1作同様、すばらしく魅力的で、活字ではフォローできない、映像ならではの躍動感が満載だ。空飛ぶ車や、あばれ柳の場面は目をみはる。それからハリーを演じるラドクリフ少年も、役に慣れたのか、堂々とした演技だ。声変わりや顔つきの変化が危惧されたが、彼の演技面での成長は評価すべきだろう。アクションの要素が強いので、終盤、映画的に盛り上がるのも見逃せないポイントだ。

ハリポタシリーズは、巻が進むにつれて長尺化。このまま、全てを忠実に映像化するスタイルは再考せねばならない時期がきている。原作ファンにとってはどれも大切で大好きなエピソードには違いないけれど、活字と映像の違いをそろそろ認識してもよい頃では。1作、2作で、原作へは十分にスジを通した。今後は、映画作品として破綻することのない簡略化への道の模索が必須だ。

□2002年 アメリカ映画 原題「Harry Potter and the Chamber of Secrets」
□監督:クリス・コロンバス
□出演:ダニエル・ラドクリフ、ルパート・グリント、エマ・ワトソン、他

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ゴスフォード・パーク

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◆プチレビュー◆
ジャン・ルノワールの名作「ゲームの規則」を彷彿とさせる内容。観る際は、登場人物の名前より、その性格を把握すると理解しやすい。豪華な家具調度品も必見。

1932年。ある富豪の貴族がゴスフォード・パークと呼ばれるカントリーハウスでパーティを催す。集まった親戚一族やゲスト、彼らに付き添う大勢の使用人。人々が入り乱れる中で、屋敷の主が殺される事件が発生。集まったものは皆、彼に良からぬ思いを抱いていたが、複雑な人間関係は思いもよらない事実を浮き彫りにしていく…。

さすがは群像劇の名手アルトマンだ。両手でも足りない登場人物にイギリス映画界の名優たちを惜しげもなく配し、見事にさばいていく。人間模様も、あれこれ説明などせず、何気ないひと言と、わずかな表情や仕草でサラリと描く。一人一人の人物の思惑を過不足なく描き、会話に真実を隠した脚本はオスカー受賞も納得だ。

英国貴族を描く作品は多いが、本作では貴族よりも使用人の目線で描写するのがユニークなところ。とりわけ様々な約束事のある彼らの生活や仕事ぶりが興味深い。新米のメイドと、英国に不慣れなアメリカ人を登場させて、主人や先輩メイドが彼らに物事を教える形で、観客にイギリス上流階級の暮らしを説明する展開が上手い。

貴族を階上に、使用人を階下に分け、彼らには接点はない…はずなのだが、実は2つの世界は巧妙に交わっている。ハリウッドのプロデューサー付の使用人役ライアン・フィリップが、英国人揃いの俳優の中で、面白い味を出す。彼が上と下を自由に行き来する役なのも巧みな演出のひとつだ。

物語の後半、女中頭のヘレン・ミレンが、良い使用人の資質を述べる場面がある。彼女はそれを洞察力と言い切った。主人が何を望んでいるかを推測し、これから起こる出来事を予測して事前に対処できる能力を持つ人間が優秀な使用人なのだと。誰が、いつ、どこで、何を洞察するか。登場人物の何気ない会話や小道具も見逃さないで。

英国の階級社会の人間のこっけいさや哀れさをシニカルに描き、彼らに押さえつけられた人々の不幸の実態も浮き彫りにする。殺人事件の犯人探しは物語のメインではない。一握りの人物と観客だけが、犯人とその動機を知り、招待客は皆、何事もなかったかのように屋敷をあとにするのがその証拠だ。

アルトマン監督はかなりの高齢にもかかわらずその力は衰えることを知らない。しばらくなりをひそめては、毒のある新作をもって登場。そのたびにアルトマンの復活と騒がれるが、いったい何度復活すれば気が済むのか、この人は。ハリウッド嫌いを公言していても、この才能には誰もが感服するに違いない。(ロバート・アルトマン監督、2006年11月に永眠。)

□2001年 アメリカ映画 原題「Gosford Park」
□監督:ロバート・アルトマン
□出演:マギー・スミス、エミリー・ワトソン、マイケル・ガンボン、他

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チェンジング・レーン

チェンジング・レーン スペシャル・コレクターズ・エディション [DVD]チェンジング・レーン スペシャル・コレクターズ・エディション [DVD]
◆プチレビュー◆
小粒ながらも、見応え十分でまさに掘り出し物。おマヌケ顔のベン・アフ、ちょっと見直した!

見知らぬ二人の男が、無謀な車線変更から起きた接触事故でそれぞれの人生を狂わせる。若手エリート弁護士ギャビン・バネックは重要な書類を紛失、大金がからんだ裁判を逃し、アル中の中年男ドイル・ギブソンは別居中の妻から子供の親権を剥奪されてしまう。お互いを憎悪する二人は、憎しみ合い、凶行に及ぶようになる…。

素晴らしい素材があれば豪華な料理が出来るのは当たり前。しかし、腕のいい料理人は、たとえありふれた材料を使っても、工夫しておいしい一皿を作れるものだ。平凡で日常的なハプニングを素材にした本作は、豊潤な資金力だけが目立つアメリカ映画の本当の実力を見せつけてくれる。

描かれるのはわずか1日の出来事。些細な接触事故から当事者二人が憎み合うのは、誠意のない対応への憤りが発端だ。二人にとって、失ったものはあまりにも大きかった。目には目をのリベンジが凄まじく、激化する報復合戦は互いの命さえも脅かす。相手への怒りから、自分自身を見失い、醜い姿をさらす二人。そんな中、ギャビンは会社の不正の事実を知り、ドイルは自らの人間性の欠点に気付いていく。

個人情報の流出の恐ろしさ、自分さえ良ければという身勝手な保身の考え、アルコール依存症、離婚や不倫など、内包する問題は多様だが、この映画の本質は、トラブルに陥った時、人として正しい行動がとれるかどうかを問うものだ。正義と利益の間で悩み、葛藤の末、許し合う瞬間までの道のりが巧みで興味深い。

主演の二人の他にも、ウィリアム・ハートやトニ・コレット、監督としても有名なシドニー・ポラックなど、魅力的で存在感のある役者が脇を固めているのだが、彼らの背景を描く部分は殆ど省かれている。説明不足で不親切にも感じるが、身近な題材でのアイデア勝負の小品としては、逆に省略部分が潔くも見えた。

劇中に性善説を語る部分があるが、人間は本来、善と悪の両方を併せ持つ存在。映画の登場人物も、悪行の合い間に殊勝に反省したりと曖昧さを見せる。悪意と良心が浮き彫りにされ、その間で悩みながら下す決断が生む善良さが、モラルなのではないか。

人はそれぞれ人生という名の道(レーン)を走っている。走る速度も様々だ。思いどおりの速度で走れない時もある。地位と力で何でも出来るギャビンと、何も持っていないドイル。対照的な二人の男の偶然で不幸な出会いは、彼らに人生の“車線変更”を迫ったが、長い1日を終えた二人は、踏みとどまることの大切さを学んでいた。

□2002年 アメリカ映画 原題「CHANGING LANES」
□監督:ロジャー・ミッチェル
□出演:ベン・アフレック、サミュエル・L・ジャクソン、他

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たそがれ清兵衛

たそがれ清兵衛 [DVD]たそがれ清兵衛 [DVD]
◆プチレビュー◆
これは日本映画の良心。山形県の庄内弁が柔らかで魅力的。お勧めでがんす。

明治維新目前の江戸末期。庄内、海坂藩の下級武士、井口清兵衛は、幼子と老婆を抱え、薄給を内職で補うわびしいやもめ暮らし。金もなく酒にもつきあわず、夕方になると自宅に直行する彼を、同僚は“たそがれ清兵衛”と陰で呼んでいた。そんな彼がひょんなことから剣の腕を買われ、藩内の対立分子を斬る命令を受けてしまう…。

時代劇は一種の様式(スタイル)だ。そこには必ずヒーローがいて、華麗な活躍やラストのカタルシスが用意されている。いい意味でのワンパターンの安心感もあり、それゆえ数々の名作、人気作が多い。日本映画を代表する監督である山田洋次監督が初めて手がけた本格時代劇の本作は、その意味では異色といえる作品だ。

真田広之扮する清兵衛は生活に追われる貧乏侍で、みなりも質素を通り越し薄汚く、風呂にも入らないので、上司から叱られたりしている。暮らしぶりもわびしさそのもので、内職で虫籠を作り、せんべい布団や粗末な食事も痛々しい。それでも、幼い娘を愛しみ、ちょっとボケた老母をいたわりながら平穏に暮らしている。清兵衛は基本的に出世には無関心で、家族で幸せに暮らすことが喜びのマイホーム主義者なのだ。

日頃ぱっとしない人物がここ一番という所でスペシャルな活躍を見せるのは、見ていて胸がすく思いだが、この清兵衛も実は剣の達人。幼なじみで密かに恋心を抱いている朋江(宮沢りえ)の危機を救う場面は痛快だ。しかし、この事件が災いし、藩命ではたし合いをするハメになる。もちろん清兵衛は望まない決闘だが、下級武士はいわば一介のサラリーマン、上司の命令を断れるわけがない。

江戸末期、明治維新の光明はもう目の前に迫っている。そんな時代の波を前にしても愚かな跡目争いを繰り広げる藩は、まるで会社が倒産寸前の不祥事に、社長や重役たちが右往左往する現代社会そのものに見える。城の詰所できっちり働く侍たちは、明日会社が潰れるとしても律儀に働くサラリーマンが透けて見えるよう。悲しい習性と宮仕えの不条理さは昔から変わらないし、上層部のワリを食うのはいつの時代も現場で働く者たちなのだ。

時代考証に1年以上かけ、細部にこだわり抜いただけあって、全編がリアリティ。決闘に臨む清兵衛の身支度を手伝うため走ってきた朋江の髪もちゃんと乱れている。清兵衛の髪を整える場面は濃厚なラブシーンにも似て、愛しい人を死地に送らねばならない朋江の声にならない思いが伝わるよう。武家の女性らしい凛々しさと黎明期特有の新しい価値観の持ち主の朋江は、日本女性の美を体言する存在に思えた。

特筆すべきは殺陣シーンの迫力。敵役を演じるのは前衛舞踏家の田中泯で、これが映画初出演となる。図らずも命のやりとりをする男たちの恐怖やむなしさが見事だ。宮使えの辛さを知る2人が心を通わせる会話と殺陣の緊張感の対比が、独特の“間”を生みだしている。解釈も見る人によりいろいろだろう決着の付け方もいい。

ささやかな希望、哀しみ、そして勇気。実際の侍家業はしんどいものである。リアルさが魅力のこの物語は、清兵衛の娘の遠い日の思い出として綴られている。回想形式は嫌いではないし、それはそれで効果的なのだが、観客と物語の間に距離感が生まれるのが難点。個人的には、通常のスタイルで、より生々しく侍魂のてん末を描いてほしかった気も。

藩命とはいえ命がけの決闘はおそらく主人公の人生のハイライト。しかしそれは愛するもののために闘っただけで、やがて忘れられる歴史の些細なひとコマにすぎない。ヒューマニズムが全体ににじむわりには説教臭さがないのがいい所だ。そのくせ、最後には涙なのだからかなわない。名もない下級武士の心意気をしみじみと描いて清々しい感動を生むドラマは、今後の時代劇の道しるべになりそうな予感だ。

原作は、故藤沢周平の短編「たそがれ清兵衛」「祝い人助八」「竹光始末」の3編。

□2002年 日本映画
□監督:山田洋次
□出演:真田広之、宮沢りえ、丹波哲郎、他

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