映画通信シネマッシモ☆映画ライター渡まち子の映画評


【本音で語る新作映画レビュー】
シネマッシモでは、映画レビューはネタバレなしのヒントあり。映画を見る前と見た後と、2度読んで楽しめます。
映画評サイトもこのブログで4代目になりました。すべての映画好きを歓迎します!
(点数は100点が、★は5つが満点)
シネマッシモとは、シネマ(映画)とマッシモ(イタリア語でmax,最大)とを組み合わせた造語。
どうぞゆっくり楽しんでください \(^▽^)/

◎ 今週の気になる映画 ◎
「スター・ウォーズ/最後のジェダイ」「ユダヤ人を救った動物園」etc.

魔王

魔王 [DVD]魔王 [DVD]
◆プチレビュー◆
名匠シュレンドルフの映画なのに公開スタイルが冷遇されたのが残念。地味だが深い作品だ。原題のogreとは、絵本の中の悪魔として親しまれているキャラクターで、人食い鬼の意味。ベネチア国際映画祭ユニセフ賞受賞。

フランス人孤児のアベルはいじめられっ子で、しかられ役の内向的な少年。大人になってもうまく人とつきあえず、子供と一緒にいる方が心地よい。そんなアベルは、少女の残酷な嘘のせいで、無実の罪で前線に送られる。ドイツ軍の捕虜となったアベルは、その素朴さがドイツ軍の高官に気に入られ、ゲーリング元帥の狩猟館の下働きに、更に幼年学校に移ってからは、未来のドイツ軍兵士となる少年の発掘係に任命される。彼はいつしか子供をさらう“鬼(ogre)”と呼ばれ、恐れられる存在に…。

ナチスドイツ、陰鬱なプロイセンの森、子供をさらう鬼、となんだか暗そうな要素が揃っているが、これは人間の善と悪の二面性を見事に描いた、寓話的で重厚なお伽噺。かつ骨太の文芸作でもある。ナチスドイツの高官ゲーリング元帥を滑稽な存在として描いているところが、フランスで青春時代を過ごしたシュレンドルフらしい。

アベルとは聖書に出てくる人物で、楽園を追放されたアダムとイブの間にできた子供の一人。兄弟カインによって命を絶たれる悲しい運命。残酷さと純真さを併せ持つアベルを演じるマルコビッチは、やはりスゴイ。彼なくしてこの映画は存在しないと監督に言わしめるのが納得。焦点が合っていないのに、そのくせ鋭いあの目つき。表情だけで物語る。子供の心を持つ大人というだけなら、ロビン・ウィリアムズでもOKだが、善と悪の二面性という複雑な役をやらせたら、現在マルコビッチの右に出る俳優はいない。幼い少女の嘘で、ある日突然無実の罪で逮捕されるシーンは、一見すると不条理な展開のように思えるが、アベルが将来犯すであろう罪をもしや彼女は知っているのか。少女はアベルを刑務所へ、そして戦争へと追いやるが、何が無垢で何が残酷なのかは映画ははっきりとは区別しない。ものごとの善悪を区別しないのと同じように。

捕虜のアベルが収容所をこっそりと抜け出してはくつろぐ小屋での、盲目の大鹿との交流のシーンは、幻想的で、特に心に残る。炎と音楽で荘厳に演出するナチスの訓練から、一転して燃え落ちる城。「運命は残酷だが、それでも、いつも僕の味方だ。」アベルの確信はラストでの彼の行動を暗示する。騎馬戦で始まる冒頭のシーンが、主人公の背負うさだめを物語る。運命に守られながら、アベルは凍った沼を進んでいく。

ナチス支配下の激動の時代を背景に、子供の心を持ったまま大人になってしまった男の宿命の旅を描く叙情詩「魔王」。アベルの進む先には光があると信じたい。

□1996年 フランス・ドイツ・イギリス合作映画 原題「The ogre」
□監督:フォルカー・シュレンドルフ
□出演:ジョン・マルコビッチ、アーミン・ミューラー・スタール、マリアンネ・ゼーグブレヒト、他

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コレリ大尉のマンドリン

コレリ大尉のマンドリン [DVD]コレリ大尉のマンドリン [DVD]
◆プチレビュー◆
陽気な男性と聡明な女性の恋はマンドリンの調べが味方。ちょっと楽天的すぎるか?

第2次世界大戦のさなかの1941年、ギリシャ。イタリア軍とドイツ軍の両方の占領下にある美しいケファロニア島に、音楽をこよなく愛するイタリア軍大尉アントニオ・コレリがやってくる。ギリシャ語の通訳もこなし、紳士的で陽気なコレリ。やがて、情熱的な島の娘ペラギアと恋に落ちる。しかし、戦況は急変、イタリア軍の撤退でドイツ軍との同盟も不確かなものに。時代の荒波の中で、本来は敵味方であるはずの2人の愛は、決断を迫られ、戦争の嵐は、国境を越えた愛と友情を引き裂き、彼らの人生を狂わせていく…。

音楽をこよなく愛し、マンドリンを背中にしょって島にやってくるコレリ大尉の陽気でのどかな占領軍は、島の人々に憎しみなどみじんも感じていない。ノーテンキな占領軍に、島民も毒気を抜かれ、敵味方であることをしばし忘れてしまうほど。無秩序なイタリア軍兵士をうっすらと軽蔑するドイツ軍将校との間にも友情が芽生え、あたかもひとときのバカンスのようだ。さらに、ペラギアを愛する想いが、コレリの音楽家としての才能をも開花させていく。

この映画で描くのは、ギリシャの孤島という閉鎖的な舞台で、ドイツ軍が、昨日までの同盟国のイタリア軍を惨殺したという、あまり知られていない史実。占領軍のイタリア人と敵のギリシャ人の間に、ほのかな友情が芽生える一方で、同盟国同士が目先の利害を巡って、殺しあう。この残酷で愚かしい場面には、人と人とが争う戦争には、実に様々な側面があるのだと考えさせられた。

人物描写も丁寧で何気なく描かれていて好感が持てる。島の医師であるペラギアの父は、娘が本当に愛するのは島の青年マンドラスではなく、敵であるイタリア人アントニオ・コレリであることを知り、密かに二人の恋を応援する。この父親医師が鋭いのは、まだ、コレリが現れる前から、娘とマンドラスの仲がうまくいかない事を見抜いているところだ。このことを感じているのはマンドラスの母親も同じ。ペラギアに好意は抱いているが、彼女がいずれ別の男に惹かれることを知っている。この母親役を演じるのがギリシャを代表する大女優イレーネ・パパス。久しぶりに見たが、存在感のある演技は健在だ。

戦争という人災にも、戦後、ケファロニア島を襲った大地震という天災にも、希望を失わず、強く前向きに生きる島の人々。どんな悲劇に見舞われようとも、明日も変わらず、海は美しく太陽はまばゆい。イタリアやギリシャのような長く尊い文化を持つ国民は、歴史のうねりの中で抗うことと身を任せることの両方の大切さを、先祖代々身につけている。だからこそ、ラストの幸せも静かにやってくるのだろうか。

□2001年 アメリカ映画 原題「CAPTAIN CORELLI'S MANDOLIN」
□監督:ジョン・マッデン
□出演:ニコラス・ケイジ、ペネロペ・クルス、クリスチャン・ベール、他

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ブロウ

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◆プチレビュー◆
70年代のカルチャーが満載。デップとペネロペとは、意外な組み合わせだ。

1970年代に麻薬売買でアメリカ裏社会に君臨した実在の男ジョージ・ユング。貧乏を嫌い、友人とカリフォルニアに移り住む。恋人バーバラの紹介で麻薬の小売業を始めた彼は、すぐに商売の才覚を発揮し、みるみる麻薬市場を牛耳るようになる。何度も逮捕されながらも、裏社会で上り詰めていくジョージ。しかし、その彼も、最初に愛した女性を癌で失い、仲間の裏切りや、両親との亀裂に悩む。運命的に結ばれた妻マーサや子供のため、必死で守ろうとした家庭も崩壊、ついには失墜していく…。

麻薬というダークな題材を通してはいるが、これはれっきとしたホームドラマだ。それもとびきり悲しい家庭劇。実在する伝説の麻薬王を描くというから、社会性や緊張感、メッセージ性やサスペンス風の物語を期待して観るとハズレる。この作品で描かれるジョージ・ユングは、70〜80年代の麻薬のほとんどが、彼を通して流れたと伝えられるのが嘘のような、ごく普通の人物。とりあえず、自分が扱う商品であるコカインのテイスティングはするものの、麻薬に溺れてボロボロになるわけではない。彼にとって麻薬は単なる商売品なのだ。

ほんの小遣い稼ぎのつもりでやり始めた麻薬売買が、70年代というドラッグ文化全盛の時代とぶつかり、大当たりしたおかげで大金を手にするジョージ。特に、映画の前半はノリのいいテンポで彼の栄光が描かれる。頂点まで上り詰めて、金や名誉や、愛までも手に入れた彼自身の本当の願いは、幼年時代の自分とは縁遠かった、温かい家庭を築くこと。彼に冷たい母親とは異なり、父親との愛情の絆は深く、それだけにやるせない。あんな家庭だけはイヤだと、なんとかがんばるジョージだが、うまくいかず、妻マーサとの溝は深まるばかり。愛する娘とも引き裂かれる。麻薬という間違った商売道具を選んだことが、誤りだと解っていても、もはやどうすることもできない男の苦悩とあきらめがじんわりと伝わってくる。

物語半ばでゴージャスに現れるジョージの愛妻マーサ。他人の婚約者だった彼女を奪って結婚したジョージとの、ややSMチックな夫婦生活が、おまけのようにチラッと登場するが、マーサとジョージの、人間としての絆の描き方が少し弱いのが残念。むしろ、女性キャラとしては、癌で失ってしまった、最初に愛した女性バーバラの影が残る。

40代にして懲役60年というから、ほとんど終身刑に近い刑を宣告されるジョージ。刑務所の中でむなしい日々を送る彼が、幻を見るラストシーンが素晴らしい。ハッピーエンドかと思って見ていたふやけた頭に、ガツンと一発くらうので要注意。おまけに最後には、実在のジョージの顔が登場して、悲壮感は倍増。ラストのテロップが、麻薬王ジョージ・ユングその人の人生を如実に物語る。

□2001年 アメリカ映画 原題「BLOW」
□監督:テッド・デミ
□出演:ジョニー・デップ、ペネロペ・クルス、レイ・リオッタ、他

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チアーズ!

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◆プチレビュー◆
健康的なお色気満載!単純に楽しいのがいい。

名門チアリーディング部トロスに所属する快活な少女トーランス。新キャプテンに使命され、大喜びの彼女だったが、着任早々、練習中の振り付けが前部長による他校の盗作だったことが判明。名誉挽回のため、トーランスは新しい振付で全国大会出場を目指す。

とにかく理屈ぬきに楽しい。ノーテンキといっても過言じゃないほど、元気なのだ。本物のチアリーダーたちが演じる、バク転や宙返りなど、高度な妙技が散りばめられ、健康的なお色気も満載。ストーリーはあえて説明するまでもなく、いたって単純で、高校生チアリーダーの奮闘を、笑いや熱気と共に描いていく。困難に立ちむかう主人公たちはどこまでも前向きで、少々のことではへこたれない。まさに青春映画の王道、魅力全開だ。

ミニスカートでチャラチャラと応援しているイメージのチアリーディングだが、体操の床運動のように高度な技術と、ダンスの素養やショーの要素を必要とする、れっきとした団体スポーツ競技。いつもニコニコのエアロビックスが実はハードな有酸素運動であるのと同様に、華麗で流れるようなシンクロが、実は筋肉と肺活量が勝負の競技であるように、チアリーディングという競技は、ハードで緻密なスポーツであることがよく解る。

ヒロインのキルステン・ダンストは、アンニュイなイメージが強かったが、元気でひたむきな高校生を演じさせると、本当にさわやかでかわいい。こんなに明るい役が似合うとは。ミスキャストのようで実はナイスキャスティング。このコは案外コメディもいけるかも。新しい魅力発見だ。

“トロス”の新主将に選ばれたトーランスは、連続優勝を狙おうと大ハリキリ。ところが、転校生ミッシーの報告で、チーム自慢の振り付けが、大会に出場したことのない黒人チーム“クローヴァーズ”のオリジナルを前主将が盗作したものだと判明。このままの振り付けでいくか、どうするか、チーム内で意見が分かれる。しかし、どこまでも明るく前向きな主人公に、盗作など許せるはずもなく、大会棄権ももってのほか。本番にはもちろん新しい振り付けで臨むのだ。たとえたった2週間しかなくっても!これが怖いもの知らずの10代の強みか?!

落ち込んで、立ち直り、旧BFから新BFに惚れ直し、チームメイトの裏切りに怒りながらも「あなたたちが必要なのよ。だって私たちチームでしょ」。コロコロと気持ちが変わる10代の女の子の特徴を良くつかんでいる。

高校のチアリーディング部の新キャプテンの奮闘を、元気いっぱいに描くキュートな青春映画。スカッと爽快、ハイテンションの青春ムービーは、観るだけで絶対に元気が出ること請け合いだ。ラストのタイトルロールのところも見所がいっぱいで楽しい。

□2000年 アメリカ映画 原題「BRING IT ON」
□監督:ペイトン・リード
□出演:キルステン・ダンスト、ジェシー・ブラッドフォード、他

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蝶の舌

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◆プチレビュー◆
すでに思い出の中にしか存在しない輝く夏の日々。切ない映画だ。

体の弱い8歳の少年モンチョ。恐る恐る初登校した小学校で彼が出会ったのは、優しく豊かな知識を持つ老教師グリゴリオ先生。モンチョの両親を始め、周囲から尊敬されるグレゴリオ先生に導かれ、教室や課外授業で訪れた森で様々なことを学んでいく。知識の吸収と共に、自然の営みや恋の芽生え、家族の絆を知るモンチョ。夏休みはどこまでも美しく楽しく、緩やかなリズムで大人への階段が続いていくはずだった。だが、時代はスペイン内戦勃発の激しい季節へと移り、モンチョ少年も否が応でもファシズムの嵐の中へとほうり込まれる。昨日まで信じていた価値観がもろくも崩れ、大人でも戸惑う時代。幼い少年が経験するには、あまりにも悲痛な出来事が起こってしまうのだった…。

美しい映像で綴る前半とは対照的に、後半は政治色が強い展開。軍事クーデターにより共和派の人々が次々に逮捕され、自分の身を守るために大切なことを見失っていく大衆の姿が、淡々と描かれる。「先生に服を作ってあげたことは黙っているのよ。」「でも、作ってあげたよ。先生も喜んでいた。」「ダメなの!それを言ってはいけないのよ。そんなことはなかったの!」この会話の意味を理解するには、あまりに幼すぎるモンチョ少年。

昨日まで慕っていた先生が共和派として逮捕され連行されるのを、石を投げて追う町の人々。そして周囲は遂にモンチョにも裏切りを強要する。「裏切り者!」「不信神者!」と叫ぶ人たちも明日は自分がどうなるのかも想像できない不透明な時代。その目に浮かぶのは不安と恐れか。同じ民族を2つに割る内戦は、こんなにも悲劇的なものかと思いしらされるシーンだ。

夏という季節は、輝く笑顔と同時にほろ苦い思い出を持つもの。他の季節が「やっと春が来た。」「冬将軍の訪れ」など主に始まりを感じさせるのとは違い、夏だけは終わりをも感じとることができる唯一の季節。「もう夏も終わりね。」とつぶやく時、胸に去来するのはどんな想いなのだろうか。思い出において、それは大人になるひとつのステップであることが多いものだが、このような歴史的悲劇に遭遇することで、幼年時代の終焉を唐突に迎えねばならないとは、なんと痛々しいことだろう。まるで身体の一部をもぎとられるような痛みと共に、モンチョ少年の夏は終わる。彼が最後に師に向かって叫ぶ言葉は、人間の絆とは、自由とは何かを考えさせられ、いつまでも余韻となって耳に残る。

グレゴリオ先生が口にする言葉はひとつひとつが平和へのメッセージだ。タイトルの「蝶の舌」は先生がモンチョに教えるエピソードで、物語全体の伏線となっている。内戦前夜、大人の世界をかいま見た幼い少年が経験する痛切な夏。スペイン内戦は映画や文学にもたびたび登場するが、やはりそれを経験した民族の立場から描くものには格段に重みがある。

□1999年 スペイン映画 原題「LA LENGUA DE LAS MARIPOSAS」
□監督:ホセ・ルイス・クエルダ
□出演:フェルナンド・フェルナン・ゴメス、マニュエル・ロサーノ、他

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ドリヴン

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◆プチレビュー◆
ゴールデン・ラズベリー賞ものの駄作と言われるが、けっこう楽しめるのはスタローンが脇に徹しているため。

ジミー・ブライは若き天才レーサー。有能だが情緒不安定な彼をみかねて、チームのオーナーは、自分の旧友でもあり、かつて花形レーサーだったジョー・タントを呼び戻し、ブライのコーチ役として復帰させる。ライバルや恋人を絡めながら、世界中を転戦する2人のそれぞれの成長とレーサーとしての戦いを描く。

とにかくスピード感が気持ちイイ。ノリのいい音楽も手伝って、時速400キロに迫るレーサーの視界を追体験できる映像は迫力満点。重さ1トンを超えるレースカーがスピンして宙に舞うド迫力のクラッシュシーン。真上から落下して大破するCG映像が見ものだ。シカゴの公道をレース並の猛スピードで突っ走る前代未聞のカーチェイス。観客はレーサーの目となるだけでなく、ドライバーの内面までにもひきずりこまれる。限界ギリギリのスリルをたっぷりと味わおう。

この映画、スタローン自身が脚本を書き、製作費集めにも奔走したそう。完成までに5年を要したという「ドリヴン」は、世代を越えた男たちの成長を、カーレースという豪華な世界で魅せてくれる。

アクション映画の王道を行くといっても過言ではないサクセスストーリー。起承転結をきっちり守る物語。読める展開。約束された結末。でもそれが妙に気持ちいい。スタローンも55歳、一人でがんばる主演よりも、もりたて役を楽しんでいる。それでいて、最後にはちゃんと彼の映画になってるところがスゴイ。

いろいろあっても悪い人物はいない映画だ。鼻っ柱の強い美人で、スタローンの元妻や、ジミーを裏切りそうな気配の兄さんも、最後には丸く収まる。もちろんベテランレーサーの心遣いのおかげで。こういう設定が甘く感じないのは、時速400キロで話が進むからか。ただ、スタローンの恋人役でスポーツジャーナリストの役の女優がちょっと地味なのがいただけないが。派手さをとことん追求して、見せ場も充分。結果はわかっているのに、ドキドキするクライマックスがたまらない。

モータースポーツというド派手な世界を背景に、物語の中でも外でも、ベテランと若手ががっぶりと四つに組むコラボレーション。幸いどちらかが土俵の外に投げ飛ばされることもない。「レースそのものを楽しめ。」とジミーを励まし、若いモンの恋の行方の心配もする、酸いも甘いもかみ分けたヤツ。アクションスターからの脱皮を目指すスタローンの一歩目はこの映画かも。1994年に事故死したブラジルの天才レーサー、アイルトン・セナに捧げるために、スタローンが製作、脚本、主演を兼ねた渾身の一作だ。

□2001年 アメリカ映画 原題「DRIVEN」
□監督:レニー・ハーリン
□出演:シルベスター・スタローン、キップ・パルデユー、エステラ・ウォーレン、他

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ファンタジア

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ミッキーマウスが指揮者兼魔術師となり、8つの時代を、クラシックの名曲にのせて描くアニメーションの傑作。

“音の魔術師”レオポルド・ストコフスキーが指揮するフィラデルフィア管弦楽団の演奏によって描かれるのは、まったくストーリーのない音楽的映像表現。セリフもわずかな解説をのぞいては用いられない。目的は、クラシック音楽の印象をアニメーションで表すという野心的なものだ。制作日数3年、1000人以上のスタッフ、原画は100万枚以上。奇抜なアイデア、チャレンジ精神、芸術性と、すべてのおいて突出している。

最初は実写でオーケストラと指揮者が登場し演奏がスタートする。使われる楽曲は、「トッカータとフーガ」「くるみ割り人形」「魔法使いの弟子」「田園」「春の祭典」「時の踊り」「禿山の一夜」「アベマリア」。

この、音楽の映像化への挑戦は、実験的でありながら、商業的にも大きな成功を収めた点が特筆だ。革新的なアニメーションはこの映画を抜きにしては語れない。しかも、この超大作が作られたのが第二次世界大戦中だというから、つくづくアメリカの国力と映画芸術の底力を感じてしまう。現代のアニメーションを語る上で、絶対に落とせない作品。それが「ファンタジア」なのだ。

(製作:ウォルト・ディズニー)
(1940年/アメリカ/監督/原題「Fantasia」)

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王は踊る

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◆プチレビュー◆
全身に金粉を塗って踊るルイ14世。皮膚呼吸が心配?!歴史ものは欧州映画に限る。

陽王と呼ばれた若き日のルイ14世は、政治の実権を母親に握られていた。当時の貴族の必須の教養であるダンスを通して人々の崇拝を獲得するルイ。同性愛者の音楽家リュリは、そんな王を心から愛し、権力と愛を得るため、自分の人生の全てを注ぎ込む…。

華麗な時代絵巻の中、権力者に捧げた人生の悲哀を描いた本作は、本物のベルサイユ宮殿で行われたという撮影を始め、音楽、踊り、衣装は、全てこだわりの美しさで目をみはる。バロック・ダンスは解読された舞踏譜によって忠実に再現されたもの。コルビオ監督は歌舞音曲をテーマとしたコスチュームものが得意で、「カストラート」に続き、絢爛豪華な世界を描いている。また楽曲の演奏技法も、古楽として見所(聴き所?)が多い。

希薄な家族愛のせいか、ややナルシスト気味に芸術を愛するルイ14世が物語の核となる。一方、リュリには、音楽という芸術を生業にしながらも、他人を基準に生きるしかなかった人間の悲哀を強く感じる。最初は無力でも、宮廷内の権力闘争の中で政治の実権を握り、真の指導者となっていく王と、最後まで王を基準に自分の人生を歩むリュリ。妻を傷つけ、友を裏切ってまで捧げ続けた愛は、きまぐれな権力者の前では存在しないに等しい。

イメージ戦略のためか「王と音楽家の禁断の愛」などと宣伝されているが、これはこっけいな片思いに過ぎない。最初から王に愛などないのだ。そのことに気付かずに、音楽という「ひ弱」な武器で太陽に接したリュリは、はたから見れば、政治的センスの乏しい愚か者にしか見えない。

これに対してチェッキー・カリョ演じる劇作家モリエールは、リュリの策略に落ちながらも最期まで自分の演劇に対するスジを通した。人を心底笑わせるその才覚は、危険分子といえども王を魅了してやまない。舞台で血を吐きながら息絶える姿は、妥協せずに戦った芸術家そのもの。リュリと始めた、喜劇、音楽、踊りを合体させたコメディ・バレは画期的な舞台芸術で、「町人貴族」「タルチェフ」などの傑作を生む。言葉という強い武器がモリエールの才能と世相に味方した。音楽家リュリの名前は知らなくても、劇作家モリエールの名はたいていの人が知っている。芸術家としてどちらが高みにいたかは歴史が証明してる。

虚実を巧みに織り交ぜながら、歴史の中の秘められた出来事を大胆に美しく映像化するジェラール・コルビオは、自分の得意分野を持つ職人的監督で、ますます期待。きっとこれからもおもしろい解釈で歴史をひもといてくれそうだ。

□2000年 ドイツ・フランス・ベルギー合作映画 原題「Le Roi danse」
□監督:ジェラール・コルビオ
□出演:ブノア・マジメル、ボリス・テラル、チェッキー・カリョ、他

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スウィッチ

Switch (1991) スウィッチ(字幕)
◆プチレビュー◆
男時代の癖が抜けないE.バーキンの演技が見もの。入れ替わりもののコメディとして良くできている。

女性にさんざんひどい事をしてきたスティーブが、恋人達に殺される。あの世の入り口で神様に直談判し、戻りたいと訴えるスティーブ。生き返るために神様たちがスティーブに与えた課題は、彼に真実の愛を捧げる女性を探すこと。但し、スティーブは女になってこの世に戻されたから、さあ大変。果たして、女の「彼」を本当に愛する女性とは…?

この話、多少つじつまは合わなくても、とにかく楽しい。とりわけ、中身は男のセクシーな美女アマンダを演じるエレン・バーキンのにわか女ぶりが笑える。徹底した男性優位主義者のスティーブが、この世に戻って、自分を殺した恋人のマーゴからいろいろ「女のやり方」を教えてもらうものの、とにかく難しい。自分の身体を眺めながら「ナカナカだな」とニンマリしつつも、ハイヒールでよろよろし、下着のボディスーツの脱ぎ方も判らない。商談ではパンツ丸出しで膝を組み、レズの女性からせまられて失神し、自分に色目を使う通行人をはりたおす。中身は男のアマンダが、通りがかったナイスバディの美女をみて、男性時代の親友のサムに思わずつぶやく。「見ろよ、あのオッパイ。一発ヤリたいと思わないか?」このセリフに心では頷きながら、あきれるサム。「それが、女のセリフか?!」おまけにサムとは、うっかり一夜を共にしてしまう始末。

コメディの世界では、中身が入れ替わるストーリーは結構あって、楽しいものが多く、私は密かに「入れ替わりモノ」と呼んでいる。ここでこのテの映画の特徴を、5W1H風にまとめてみよう。

まず、いつ。これは、ある日突然と相場は決まってる。次に、どこで。こちらはたいてい、大都会。そりゃ、田舎でこんなことが起こっちゃパニックだ。街中ならめだたないし、少々突飛なことが起こっても誰も驚かない。では、誰が。この荒業ができる人物といえば、力量からいって、神サマか悪魔しかいない。魔法使いもOKか。お次は誰に。映画の主人公に決まっている。最後は、何をするか。これにはさまざまなバリエーションが用意されていて、子供が大人になったり、息子とパパが入れ替わったり、犬が人間になったりして、笑わせてくれる。最近では、女性の声が聞こえるようになるという変り種もあった。

では、なぜこの「スウィッチ」がおもしろいかというと、多くの映画ではうやむやにされていることが、この作品では非常にはっきりしてるのだ。つまり、どうしてこーゆーことになったのか?男が女になってしまう事には、女を弄びバカにしてきたスティーブに下された罰という明白な理由がちゃーんとある。おまけに女性から愛されなければ元に戻れないという規則もあり、さらには、女にされてしまうというペナルティ付き。

「スウィッチ」には実に上手いオチもある。女のアマンダを心から愛する女性もきっちりと現れる。もちろん同性愛者じゃない。男性の心理も女性の気持ちも分かるようになったスティーブは、立派な天国の住民になれるのは間違いなし。あぁ、よかった。これで神様たちもご満悦。めでたし、めでたしのハッピーエンドはコメディのお約束なのだ。

□1991年 アメリカ映画 原題「Switch」
□監督:ブレイク・エドワーズ
□出演:エレン・バーキン、他

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A.I.

A.I. [DVD]A.I. [DVD]
◆プチレビュー◆
この映画、結局はピノキオじゃないか?!まばたきをいっさいしない演技のオズメントは凄い。原題の「A.I」とは、Artificial Intelligence 人工知能の略。

近未来のアメリカ。子供を亡くし、失意の夫婦のもとに、限りなく人間に近い少年ロボット、ディビッドがやってくる。彼は愛をインプットされた、意思を持つ子供のロボットだ。母親モニカは、そんな彼を心の底から愛することができない。ある日、医学の進歩で奇跡的に息子が蘇り、ディビッドは不要の存在に。本当の人間になれば、ママに愛してもらえる。途中で知り合ったラブ・ロボットのジゴロ・ジョーと一緒に、廃墟となったNYをさまようディビッド。自分を人間に変えてくれるブルー・フェアリーを探す旅に出るが…。

謎に包まれた話題作が遂にベールを脱ぐ!とさんざん気を持たせておいて、こうくるか?!マザコンの「ピノキオ」を映画化するのに極秘はないだろう。観始めてすぐに解った。数年前の凡作SF「アンドリュー」と同じではないか。

ロボットが意思を持ち、愛されたいと願う。この発想自体は決して悪くない。むしろ美しいとも言える。近未来SFというジャンルで人が思いつくことは、しょせん似たり寄ったりだし、同じようなストーリーが生まれるのもしかたがないこと。問題はそれを映像化するタイミングだ。

時がたてば発想の新しさは失われる。ここに近未来SFの難しさがある。意思を持つロボットが主役の「A.I.」を観ても、これといった新鮮味を感じない原因はここだ。SF映画の重要な要素のひとつは「斬新さ」なのだから。愛情をインプットというアイデアも安直すぎる。ママへの愛だけじゃすまされないでしょう、この世の中は。母親モニカの気持ちの掘り下げ方も何とも中途半端。「愛」の定義がますます曖昧になっている今だからこそ、きちんと描かなくてはいけない部分だったのでは?

2時間26分はそもそも長すぎる。海底に沈んで祈り続けるところで終わってくれれば、まだ“余韻”を感じたかもしれないが、“それから2000年…”とたった1行ですませる強引すぎる展開には、あきれてものが言えない。愛は2000年の時を越えるというのは、こういう越え方だったのか。氷河期後のストーリーを見つつ、頭に浮かぶ二文字は「蛇足」。ラスト30分は「お願いだから早く終わって」と祈る気持ちでいっぱいだ。感情移入できない映画を観るのは、なんとゆううつなことよ…。しかし、ハーレイ・ジョエル・オズメント少年は本当に上手い!限りなく人間に近い少年ロボットを演じる彼には、貫禄さえ感じた。

キューブリック本人のコメントがぜひ聞きたい。これでいいのか!スタンリー?!

□2001年 アメリカ映画 原題「A.I」
□監督:スティーブン・スピルバーグ
□出演:ハーレイ・ジョエル・オズメント、ジュード・ロウ、他

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◆映画ライター、映画評論家
◆こんなお仕事やってます:
新聞、雑誌、インターネットで、映画評、映画コラム、DVD紹介などを執筆。他にも、映画コメンテーターとしてラジオ出演、大学での公開講座や企業主催の映画セミナーなど、映画に関する幅広い仕事をこなしながら活動中です。
◆青山学院文学部史学科卒業。西洋史が専攻で、卒業論文はベネチア史。学んだことを生きている間に有効に活かせるのだろうか…と、かなり心配。
◆エトセトラ:
古今東西の映画をこよなく愛す、自他ともに認めるシネフィル(映画狂)です。時に苦言を呈すこともあるその映画批評の基本は、映画へのあふれる愛情と自負しています。どんなダメ映画でも必ずひとつはあるイイところを発見するのが得意技。大のサッカー好きで、欧州リーグからJリーグまでTPOに合わせて楽しんでます。
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