蝶の舌 [DVD]蝶の舌 [DVD]
◆プチレビュー◆
すでに思い出の中にしか存在しない輝く夏の日々。切ない映画だ。

体の弱い8歳の少年モンチョ。恐る恐る初登校した小学校で彼が出会ったのは、優しく豊かな知識を持つ老教師グリゴリオ先生。モンチョの両親を始め、周囲から尊敬されるグレゴリオ先生に導かれ、教室や課外授業で訪れた森で様々なことを学んでいく。知識の吸収と共に、自然の営みや恋の芽生え、家族の絆を知るモンチョ。夏休みはどこまでも美しく楽しく、緩やかなリズムで大人への階段が続いていくはずだった。だが、時代はスペイン内戦勃発の激しい季節へと移り、モンチョ少年も否が応でもファシズムの嵐の中へとほうり込まれる。昨日まで信じていた価値観がもろくも崩れ、大人でも戸惑う時代。幼い少年が経験するには、あまりにも悲痛な出来事が起こってしまうのだった…。

美しい映像で綴る前半とは対照的に、後半は政治色が強い展開。軍事クーデターにより共和派の人々が次々に逮捕され、自分の身を守るために大切なことを見失っていく大衆の姿が、淡々と描かれる。「先生に服を作ってあげたことは黙っているのよ。」「でも、作ってあげたよ。先生も喜んでいた。」「ダメなの!それを言ってはいけないのよ。そんなことはなかったの!」この会話の意味を理解するには、あまりに幼すぎるモンチョ少年。

昨日まで慕っていた先生が共和派として逮捕され連行されるのを、石を投げて追う町の人々。そして周囲は遂にモンチョにも裏切りを強要する。「裏切り者!」「不信神者!」と叫ぶ人たちも明日は自分がどうなるのかも想像できない不透明な時代。その目に浮かぶのは不安と恐れか。同じ民族を2つに割る内戦は、こんなにも悲劇的なものかと思いしらされるシーンだ。

夏という季節は、輝く笑顔と同時にほろ苦い思い出を持つもの。他の季節が「やっと春が来た。」「冬将軍の訪れ」など主に始まりを感じさせるのとは違い、夏だけは終わりをも感じとることができる唯一の季節。「もう夏も終わりね。」とつぶやく時、胸に去来するのはどんな想いなのだろうか。思い出において、それは大人になるひとつのステップであることが多いものだが、このような歴史的悲劇に遭遇することで、幼年時代の終焉を唐突に迎えねばならないとは、なんと痛々しいことだろう。まるで身体の一部をもぎとられるような痛みと共に、モンチョ少年の夏は終わる。彼が最後に師に向かって叫ぶ言葉は、人間の絆とは、自由とは何かを考えさせられ、いつまでも余韻となって耳に残る。

グレゴリオ先生が口にする言葉はひとつひとつが平和へのメッセージだ。タイトルの「蝶の舌」は先生がモンチョに教えるエピソードで、物語全体の伏線となっている。内戦前夜、大人の世界をかいま見た幼い少年が経験する痛切な夏。スペイン内戦は映画や文学にもたびたび登場するが、やはりそれを経験した民族の立場から描くものには格段に重みがある。

□1999年 スペイン映画 原題「LA LENGUA DE LAS MARIPOSAS」
□監督:ホセ・ルイス・クエルダ
□出演:フェルナンド・フェルナン・ゴメス、マニュエル・ロサーノ、他

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