魔王 [DVD]魔王 [DVD]
◆プチレビュー◆
名匠シュレンドルフの映画なのに公開スタイルが冷遇されたのが残念。地味だが深い作品だ。原題のogreとは、絵本の中の悪魔として親しまれているキャラクターで、人食い鬼の意味。ベネチア国際映画祭ユニセフ賞受賞。

フランス人孤児のアベルはいじめられっ子で、しかられ役の内向的な少年。大人になってもうまく人とつきあえず、子供と一緒にいる方が心地よい。そんなアベルは、少女の残酷な嘘のせいで、無実の罪で前線に送られる。ドイツ軍の捕虜となったアベルは、その素朴さがドイツ軍の高官に気に入られ、ゲーリング元帥の狩猟館の下働きに、更に幼年学校に移ってからは、未来のドイツ軍兵士となる少年の発掘係に任命される。彼はいつしか子供をさらう“鬼(ogre)”と呼ばれ、恐れられる存在に…。

ナチスドイツ、陰鬱なプロイセンの森、子供をさらう鬼、となんだか暗そうな要素が揃っているが、これは人間の善と悪の二面性を見事に描いた、寓話的で重厚なお伽噺。かつ骨太の文芸作でもある。ナチスドイツの高官ゲーリング元帥を滑稽な存在として描いているところが、フランスで青春時代を過ごしたシュレンドルフらしい。

アベルとは聖書に出てくる人物で、楽園を追放されたアダムとイブの間にできた子供の一人。兄弟カインによって命を絶たれる悲しい運命。残酷さと純真さを併せ持つアベルを演じるマルコビッチは、やはりスゴイ。彼なくしてこの映画は存在しないと監督に言わしめるのが納得。焦点が合っていないのに、そのくせ鋭いあの目つき。表情だけで物語る。子供の心を持つ大人というだけなら、ロビン・ウィリアムズでもOKだが、善と悪の二面性という複雑な役をやらせたら、現在マルコビッチの右に出る俳優はいない。幼い少女の嘘で、ある日突然無実の罪で逮捕されるシーンは、一見すると不条理な展開のように思えるが、アベルが将来犯すであろう罪をもしや彼女は知っているのか。少女はアベルを刑務所へ、そして戦争へと追いやるが、何が無垢で何が残酷なのかは映画ははっきりとは区別しない。ものごとの善悪を区別しないのと同じように。

捕虜のアベルが収容所をこっそりと抜け出してはくつろぐ小屋での、盲目の大鹿との交流のシーンは、幻想的で、特に心に残る。炎と音楽で荘厳に演出するナチスの訓練から、一転して燃え落ちる城。「運命は残酷だが、それでも、いつも僕の味方だ。」アベルの確信はラストでの彼の行動を暗示する。騎馬戦で始まる冒頭のシーンが、主人公の背負うさだめを物語る。運命に守られながら、アベルは凍った沼を進んでいく。

ナチス支配下の激動の時代を背景に、子供の心を持ったまま大人になってしまった男の宿命の旅を描く叙情詩「魔王」。アベルの進む先には光があると信じたい。

□1996年 フランス・ドイツ・イギリス合作映画 原題「The ogre」
□監督:フォルカー・シュレンドルフ
□出演:ジョン・マルコビッチ、アーミン・ミューラー・スタール、マリアンネ・ゼーグブレヒト、他

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