エトワール デラックス版 [DVD]エトワール デラックス版 [DVD]
◆プチレビュー◆
美しさの影に血と汗と涙がある見事な生き様。ダンサー達の姿に感動。

300年の歴史を誇るバレエ界の名門パリ・オペラ座に初めてカメラが入り、ダンサーたちの過酷な生存競争や血の滲むような努力の日々、華やかなステージの舞台裏を、丁寧に追う秀作ドキュメンタリー。世界最高峰のダンサーたちのインタビューも盛り込み、人生とバレエの狭間で揺れる心情と悩みを浮き彫りにしていく。

バレエというと一般の人にはなじみが薄い世界。しかも伝統と格式のオペラ座を舞台に描くこのドキュメンタリーは、日本で言うと、歌舞伎や相撲の舞台裏を映画にしたようなものだ。めったに目にふれることのないバックステージものと言ってもいい。

ダンサーたちの情熱と、人間味にあふれる姿をとらえている本作では、バレエそのものが人生という特異な世界に生きる人たちが主人公。その過酷な競争社会や自己管理は、想像を絶する。タイトルの「エトワール」とは、5階級に分かれたオペラ座のダンサーの最高位で、その地位を巡って、厳しい生存競争が繰り広げられる。エトワールを頂点に、プルミエ・ダンスール、スジェ、コリフェ、カドリーユで構成される階級社会。同僚のアクシデントは即自分のチャンス。閉鎖された世界に長い間一緒にいる人間関係。同じメンバー=ライバルという中で過ごすため、心からの友人などいない、本当は孤独なんだとつぶやくダンサーもいた。その一方で、14〜15才で入団し、定年が40〜45才、つまり30年近く同じ顔ぶれの中で生きていくこの小社会を、「友人であり、ライバルであり、家族でもある」と捉えるものもいる。

ダンサーの超人的な美技や華麗な舞台だけではなく、群舞のダンサーが汗まみれで踊る姿や、肩で息をし、「苦しい」と叫びながら舞台の袖に倒れこむ姿も映しだす。足のマメがつぶれて、抗生物質を飲みながらも晴れやかな笑顔で舞台に立つ。何が彼らをそこまでさせるのか?「バレエを愛するという表現では弱い。バレエを生きているの。」ここに答えがある。

世界中のバレエ・ダンサーたちの憧れの頂点を極めた天才たちが、ふとひとりの若者に戻る瞬間が興味深い。バレエへの熱い想いと冷めた視点が同居する。16年もエトワールを務めるマニュエル・ルグリは、「エトワールという言葉に特別の意味はない。僕の夢はただ踊るだけ」と話す。また、元エトワールで現バレエ教師のギレーヌ・テスマーは「ここに弱者の居場所はない。特殊で厳しい世界。」と言いきる。ダンサーたちが営むストイックな生活と自己管理は、バレエへの情熱と、競争、加齢、けがへの不安から。しかも、オペラ座の組織そのものが、このダンサーの不安や恐怖心をも組み込んだシステムになっているところが驚愕だ。

人間関係、栄光と挫折。ステージに立つその瞬間がダンサーたちの人生のハイライト。各シークエンスの最後には、画面を静止させ、同じ場面を写したキメの粗い白黒画面を挿入、そのシーンはドガの絵画を連想させる映像美で、目に焼きついた。

人間としての資質や力に限って言えば、人は平等ではない。だからこそ、競争という考え方も生まれてくるし、そこに美しさや達成感も見出せるのかもしれない。バレエ・ダンサーの真実を、温かく尊敬の眼差しを持って、しかし容赦なく映し出したこのドキュメンタリー。一つの道を極める人間の姿とは、なんと気高いものだろうか。エトワールとはフランス語で“星”の意味だ。

□2000年 フランス映画 原題「Tout pres des etoiles」
□監督:ニルス・タヴェルニエ
□出演:マニュエル・ルグリ、ニコラ・ル・リッシュ、モーリス・ベジャール、他

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