バーバー【廉価2500円版】 [DVD]バーバー【廉価2500円版】 [DVD]
◆プチレビュー◆
スタイリッシュなモノクロ映像。粒子も細かくソフトな画面で技術も高い。

1949年、北カリフォルニア。無口な床屋エドは漠然と人生に不満を抱いて暮している。ある男の持ち込んだ怪しげな儲け話に乗ったのも「何か」を変えたいと思ったから。早速妻の浮気相手に脅迫状を送り大金をせしめるが、思いもよらない事件が起こり、彼の運命は狂い始める…。

カラー映画が出始めた頃は、費用の問題で、低予算の映画は白黒と相場が決まっていたらしい。しかし現代においては、白黒映画はむしろ贅沢品。陰影に富んだスタイリッシュな映像はアート系の監督に好まれる。

この映画の主人公エドは、漠然とした不満を抱きながらも、来る日も来る日も髪を刈り続ける毎日を送っている。そんなエドがふと耳にした儲け話は、資金1万ドルで始めるドライ・クリーニングという、まったく新しい清潔産業。どう考えても怪しげな話なのに、エドがフラリと乗ってしまうのは、この時代のアメリカが高度成長期の真っ只中だったから。幸せさえもお金で買えると信じても不思議はない時代だった。エドの頭にぼんやりと浮かぶ明るい未来。「これでオレの人生が変わるかも…。」という希望的観測が、彼に妻の浮気相手への脅迫状を書かせる。それから先に起こる出来事は、時にはそんなバカな!と思うような偶然も手伝って、悲劇と喜劇が渾然一体の不条理で滑稽な犯罪劇へと昇華していく。とりたてて不幸なワケではないけれど、幸せも感じない平々凡々な小市民が持ったささやかな野心が、事態を悪い方へ悪い方へと導く。ギリシャ悲劇なみの運命の歯車で、主人公ががんじがらめになっていく様子は“さだめ”というしかない。

主人公エドの淡々とした独白で進む物語。まるで他人事のように事態を語る。詐欺に不倫に恐喝、複数の殺人、誤認逮捕や自殺、交通事故と、濃い要素がてんこもりなのに、いわゆる犯罪映画とは違う趣なのは、犯人探しではなく、犯人の人間像に重点をおいているから。犯人に“されてしまう”瞬間に漂う人々のあきらめのムードが、いかにも罪を隠し持って生きる小市民らしくて泣けてくる。人間の愚かしさや切なさが、ジワッと滲み出る世界に、人生の深淵を覗かせるコーエン兄弟の作品は、孤独と悲哀を知っている大人向け。皮肉なユーモアと乾いたタッチは、一市民の夢のはてと転落を冷淡で滑稽に描いている。

ゆるやかでセンチメンタルなベートーベンのピアノソナタ「悲愴」の調べにのって流れていく物語は、意識的にスローな映像が強調されている。小道具の質感が上手く表現されていて、ハラハラと舞い落ちる切った髪、ビシッとひびがはいるガラス、宙を飛ぶ車や空気中にフワ〜ッと拡がって消えるタバコの煙など、丁寧な描写が光る。テンポがスローになればなるほど、アイテムの描写が生理的で丁寧なほど、エドの心の空虚さと孤独が浮かび上がる。

人はときとして自分の分相応以上の夢を持つ。自分の実力を武器に良い方向に進めば、それは成功への道になるけれど、夢を買う手段がヤバい方法だと、途端に運命のしっぺがえしをくらうことに。平凡な人生を生きるものの一人としては、笑いごとではない。

平凡な床屋がささいな欲を持ったために辿る、皮肉な運命の悲喜劇を描く本作。ブラックな味わいが冴える悲劇と喜劇の合体に、人生の不可思議を見る。原題は“存在しなかった男”の意味だ。

□2001年 アメリカ映画 原題「The Man Who Wasn't There」
□監督:コーエン兄弟(ジョエル・イーサン)
□出演:ビリー・ボブ・ソーントン、フランシス・マクドーマンド、他

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