ノー・マンズ・ランド [DVD]ノー・マンズ・ランド [DVD]
◆プチレビュー◆
反戦映画として視点がすばらしい。白旗を振っても味方の軍にさえバカにされる、シャレにならない状況をどう打開する?!

1993年、対立するボスニアとセルビアの中間点の塹壕に、両軍の兵士が取り残される。敵対する兵士チキとニノ、そして負傷して身動きがとれないツェラの背の下には地雷が仕掛けられていた。武器を奪い合う緊迫した状況下で、時折心が通い合う瞬間も生まれるが…。塹壕を一歩出れば両軍からの攻撃が待っている。無力な国連軍、スクープを狙うマスコミ。何のために戦うのかという答えさえも知らない彼らを、一体誰がどうやって救うのか?!

戦争映画といっても、勇壮な戦闘シーンもなければ、銃弾の雨や瓦礫の山も出てこない。もちろん登場人物に国の命運をにぎるミッションなどあるはずもない。晴れた日には、のどかに鳥が鳴き青空が広がる緑の野原。そこに、セルビアとボスニアの両軍がにらみあう場所ノー・マンズ・ランド(中立地帯)がある。物語の大半はこの中立地帯の塹壕の中で進行し、シニカルな笑いと不条理さを呼び起こす。

ついこの間まで同じ国民として暮らしていたもの同士がいつのまにか憎みあう状況は、気が付けば隣合わせの人間と殺し合っていたという恐ろしくも耐え難い狂気に等しい。両国の兵士たちはプロの軍人などでは無論ないし、もし戦場ではなく街中で出会っていれば友達になったかもしれないのだ。

敵同士で運命共同体となってしまった彼らに出口は全く見えず、救助を待つ間にも事態は刻々と変わり混迷を極めていく。塹壕の中のユーモラスなやりとりで笑わせると同時に、彼らをとりまく状況も皮肉をこめて痛烈に描いていく。両軍の中間地点で起きた珍事件に慌てふためき、仲裁もできず役に立たない国連軍。事なかれ主義の官僚組織に、仏人兵士が憤りを覚えるものの、彼も結局、上官の命令に背いてまでの行動は起こせない。特に日本では国連は絶対的な価値観とも言えるので、この描写はかなりショッキングだ。国連軍への失望感だけでなく、スクープを狙って右往左往するマスコミも笑い飛ばし、戦争に関わるすべてを批判する。

“ご近所戦争”とも揶揄される旧ユーゴの泥沼の内紛。戦争という重いテーマを日常的に描くことで、ごく普通の人間が昨日までの友人を憎み殺し合う狂気を、存分に表現しており、この若い監督の力量を感じ、また強い思い入れが伝わってきた。ユーモアによってさらに緊迫感を高める演出も素晴らしい。

あらゆる戦争に対して異議を唱えるこの映画の脚本は、時間と場所と登場人物が限定されていることで舞台劇化も可能と思われるほど優れていて、完成度の高いもの。無駄な登場人物やお涙頂戴のサイドストーリーが、一切ないところがいい。のっぴきならない状況をどう収めてくれるのか?思いがけない方向に展開してしまった途端に響く銃声。見る者にとって、あまりにもやるせない結末の密度は、限りなく濃い。

泣ける映画ではないし、勧善懲悪を感じるわけでもない。「傍観することは加勢することと同じ」という劇中の印象的なセリフは、誰が悪いのかという責任追及や、誰が始めた戦争なのかという分析にかこつけて、結局は何もしない罪を世界中に問うもの。

地雷の上に寝転んで、そこからみえる青空はいったいどう見えるのだろうか。外交よりも暴力が優先されたときに戦争は起こる。周囲の思惑が食い違う時には、多少の犠牲を生んで当然というご都合主義をも生む。この映画では、誰一人勝者はいない。ラストに残る深すぎる余韻は、このところ観た戦争映画では突出した出来栄えで、観客は真実とともに取り残されてしまうことだろう。

□2001年 フランス・イタリア・ベルギー・イギリス・スロベニア合作映画
□監督:ダニス・タノヴィッチ
□出演:ブランコ・ジュリッチ、レネ・ビトラヤツ、フィリプ・ショヴァゴヴィッチ、他

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