ダスト [DVD]ダスト [DVD]
◆プチレビュー◆
静謐な物語が寓話のように展開する。マケドニアの名匠マンチェフスキーの名をもっと知ってもらいたい。

現代のニューヨーク。黒人青年エッジが空き巣狙いでアパートへ押し入る。ところが、住人である老婆に逆に銃で脅され、彼女の奇妙な昔話を聞く羽目に。それは、20世紀初頭に生きたひと組の兄弟の物語だった。始めは老婆の隠す金貨欲しさに話を聞くエッジだったが、次第に一人の女を愛した兄弟の物語に魅せられていく。しかし、彼女は話の途中で心臓発作を起こしてしまう。慌てて病院に運ぶエッジ。老婆は助かるのか?そして彼女の語る物語の結末は…?

M.マンチェフスキー監督の7年ぶりの長編は、ストーリーが時空を越えて自在に行き来する。「ダスト」のテーマは、“物語る”こと。現代のNYで黒人青年エッジが無理に聞かされるのは、20世紀初頭のアメリカ西部から動乱の欧州マケドニアへ渡った兄弟の物語。現代劇のコソ泥と老婆、西部劇のガンマン兄弟の話が変幻自在に同時進行。子供の頃お話を聞かせてもらって、次にどうなるの?とドキドキしながら聞き入るようなそんな趣のあるこの作品。そこで展開するのは基本的にウェスタン・ムービー。ウェスタン・イン・マケドニアだ。

タイトルの“ダスト”とは塵の意味で、人間の遺灰のことを指す。聖書の中にも多く登場する言葉で、“土は土に、灰は灰に、塵は塵に”とある。劇中では、人間そのもののことを指すようなニュアンスで使われ、描かれる。全体に宗教観が色濃く漂っていて、激しく対立する兄弟はまるでカインとアベルのよう。弟イライジャのセリフはほとんどが聖書からの引用だ。但し、この物語の中心は、あくまで兄ルーク。映画全編を通し登場し、最後には償いと和解へと向かう。善悪を併せ持つルークの複雑なキャラクターが、映画を奥深いものにしている。

老婆の語る物語が進むにつれて、謎が少しずつ解けていく。縦横に時間と場所を往復するユニークな構成で、現代と過去、NYとマケドニアの間の100年の隔たりを、マンチェフスキー監督は軽々と飛び越える。現代のNYでの語り部の物語と、西部とマケドニアでの兄弟のドラマが錯綜するが、映像の色と音楽の効果的な使い方で、観客を混乱なくナビゲートする演出。そして予想外のクライマックスへと私たちは導かれる。

劇中の残酷描写は、独特の美学に彩られ、詩的な映像と殺戮シーンが同時に存在する、サム・ペキンパーばりの緊張感溢れる映像。円柱型のトルコ帽をかぶった羊、飛び散る血とつぶされたスイカの赤の色、青空を横切る飛行機、銃を構えるシルエットと、計算されたカメラワークも素晴らしい。さらにマケドニアの民族衣装が独特の雰囲気を醸し出し、時空の隔たりを際立たせる一方で、100年前の残虐行為と現代の暴力を対比させる巧みな演出も見せる。

汝は塵なれば塵にかへるべきなり。神が塵から作った人間は死ねば塵に戻っていく。人間の存在を「しょせん塵にすぎない」と考えるのはニヒリズムに通ずるが、このバルカン風ウェスタンが現代とどう結びつくかをラストに見た時、人は塵になっても物語は残るのだと判った。そこには確かに希望が存在する。物語が語り継がれる限り、その人間の魂は永遠に消えない。語り部の命をも織り交ぜながら継承されて、生命の軌跡を描いていく。民族紛争の歴史を生きるマケドニア人の血をひくマンチェフスキー監督の世界観が、ラストに結実・昇華され、文字通り空を飛び空間を越えていく。独特で奥が深い叙事詩「ダスト」。それは生と死を語り継ぐ物語だ。

□2001年 イギリス・ドイツ・イタリア・マケドニア合作映画 原題「Dust」
□監督:ミルチョ・マンチェフスキー
□出演:ジョセフ・ファインズ、デビッド・ウェンハム、エイドリアン・レスター、他

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