イン・ザ・ベッドルーム [DVD]イン・ザ・ベッドルーム [DVD]
◆プチレビュー◆
クライマックスまでずっと緊張しっぱなし。米インディーズ映画の底力を感じた。

ニューイングランドの港町。開業医の夫マットと合唱団の指揮をする妻のルースは、大学から夏休みで帰省中の一人息子のフランクが年上の女性ナタリーと交際中なのが気になっている。そんなある日、別居していたナタリーの暴力的な夫リチャードが現われ言い争いに。響く銃声とともに悲劇が起こったのはその直後だった…。

これほど息苦しい映画を観たのは久しぶりだ。地味で静かなこの物語は、全編に異様な緊張感が漂っていて、一瞬も気を抜けない。実力派俳優の競い合う演技と先が読めない展開に、一種の金縛り状態になる。登場人物たちの痛みを感じ続けると、ラストに癒しが待っているのかと思いきや、後半はなんともスリリングなサスペンスなのだ。

マットとルースのファウラー夫妻はいわゆる“普通の夫婦”。経済的に恵まれ、知性と教養ある理性的なカップルで、毎日、穏やかに過ごしている。物語の前半は、フランクとナタリーの恋とともに、この夫婦の平凡な日常が描かれる。しかし、よく見るとこの二人の間のほころびの部分を暗示するような伏線があちこちに張ってある。見て見ぬふりと男女の感覚の違いもあり、微妙にすれ違う日常生活。

そんなある日、フランクがナタリーの暴力夫に撃ち殺される事件が発生。誰よりも愛していた息子を失い、幸せな夫婦は一転、不幸のどん底にたたき落とされる。それでも、このベテラン夫婦は特別取り乱すことはなく、今まで通りの生活を送ろうと務めるが、二人の憤りと絶望感が静かに蓄積されていく様が痛々しい。セリフの少ないブツ切り風の映像を次々に見せて、夫婦の喪失感と悲しみの深さを表現していて、実に上手い演出だ。表面上は穏やかにしている二人の怒りが、いったいどこで爆発するのかと、ジリジリと緊張感が高まるのもこの部分。

悲しみを押し殺しながら、犯人に刑罰が下されるのを信じていた夫婦だが、息子を殺した男の判決は、アメリカの刑法の現実で、それほど重くない刑な上に保釈。夫婦はこれに耐えられない。おまけに小さな町だから、偶然に顔を会わせたりするたまらなさ。ルースの心の痛みが頂点に達したのはこんなときだった。ここで夫婦は息子の死以来、初めて自分たちの本心をさらけ出す。これが凄い。

今まで触れずにいた傷口から一気に血が噴出すかのごとく、お互いの本音を叫び合うマットとルース。互いを傷つけあい、葛藤し、怒りと悲しみをぶつけるこの夫婦喧嘩のシーンの迫力は、その後のサスペンスに加速度をつける引き金になる部分で、出色だ。過去の事まで引き合いに出し、罵り合った後で、ふと我にかえって許しを請う二人。絆を取り戻した彼らは、互いに同じ痛みを持つ魂を認め合い、自分たちが何をすべきか、どうしたいのかを無言で悟る。そして、罵声と沈黙の果てに夫が選んだ究極の選択は、決して安堵でも解放でもない、その後の人生で新たな重荷を背負うもの。静かな人間ドラマから唐突な暴力シーンへの移行が妙にリアルだ。

アメリカンインディーズの映画の実力を見せつけられた気がした本作。劇中でルースが牧師に言うセリフ「静かなのに、とてもうるさいの…。」文字通り、抑制の効いた演技と無言のシーンから、登場人物の心のざわめきが聞こえてくる。今どき珍しいくらい、正攻法の深い演出で、ヒリヒリする痛みが観客に伝わってくる。

この映画の問いかけるものは、許しなのか報いなのか。答えは観客に委ねらる。愛や正義という“単純”な言葉では表現できない、ひと組の夫婦のやるせない心情と、暴力の本質が見える物語。善悪の判断とは異なる感情が余韻として残る。本当に大切に思っている人を失った時、私たちははたして平静でいられるだろうか。この映画は、重すぎる問題を正面から提起している。

□2001年 アメリカ映画 原題「In the Bedroom」
□監督:トッド・フィールド
□出演:シシー・スペイセク、トム・ウィルキンソン、マリサ・トメイ、他

人気ブログランキング用バナー

←この記事が気に入ったら、ポチッとクリックしてもらえると嬉しいです\(^o^)/