マーサの幸せレシピ [DVD]マーサの幸せレシピ [DVD]
◆プチレビュー◆
凄腕シェフ自身が食べることに無頓着?!また、人間的に欠陥の多い人物が、一流の厨房のスタッフをまとめることが出来るのかも疑問。でも、そんなささいなツッコミを忘れさせるのが、孤高の天才ジャズピアニスト、キース・ジャレットの素晴らしすぎるメロディだった。

ハンブルグの一流レストランのシェフであるマーサは、料理には人一倍の自信と誇りを持っているが、私生活では不器用な30代の独身女性。彼女は、姉の事故死で8歳の姪リナを引き取ることに。心を開かないリナと、勤め先の料理店に新たに入ってきたイタリア人マリオの2人は、マーサの生活に少しずつ変化をもたらしていく…。

サンドラ・ネットルベック監督はこの作品が長編デビュー作となる。ドイツ映画でグルメものというのは意外だが、女性監督ならではの繊細な視点に溢れる佳作だ。ストーリー自体はありがちで、目新しさはないのだが、その分自然で、予想通りに展開する心地よさを感じてしまう。ドイツ人とイタリア人の気質の対比の設定も定石。だが、“食事は愛する人と食べると幸せになれる。愛がなくては美味しくない。”このメッセージは単純なだけに、強く迷いのない世界なのだ。

マーサは生真面目で誇り高い。完璧主義は彼女の武器で、仕事への情熱が本能を閉じ込める。バランスを保つために、彼女はしばしば厨房の奥にある食料貯蔵庫に一人で閉じこもるのだが、篭城中の彼女の心の城に、姪のリナと陽気なマリオという異分子が乱入。まるで自分自身を見るかのようなリナと、自分とは正反対のマリオだが、結局彼らは、マーサと“幸せ”との仲介者になる。

8歳のリナは母親の死のショックで拒食症に。一方、マーサも料理は作るが自らは食べることに興味がない。この二人が物語が進むにつれ、どのような形で食べ物を口にするようになるかを、彼らの心の変化と共に描くのが上手い演出だ。そこでは、一流レストランで出される色鮮やかで洗練された一皿よりも、スタッフのまかない食や、フライパンから直接食べる行儀の悪さが、なぜか魅力的に映る。

愛する人と一緒に食事をし、共に語らうひと時は最も幸せな瞬間のひとつ。マーサとマリオの食材当てのシーンは、ちょっとエロチックな場面だ。マーサの誇る絶対味覚は、彼女が見ようとしなかった愛情や心のふれあいを何よりも知っていて、彼女がそれを欲していると語る。人生のレシピに欠けていた、ひとさじの調味料か。

残念なのはマーサ、リナ、マリオ以外の人物の人間描写が中途半端なこと。マーサの勤める店のオーナーが彼女をセラピーに通わせるのは、マーサの本質を理解しているから。だからこそ、彼女を街で2番目のシェフと呼ぶのだが、そのオーナーが結局は彼女を助けることもなく、決別を匂わせる形で終わるのが、ストーリーとして腑に落ちない。また、マーサのアパートの階下に住む男性は結局どうなったのか?もっと効果的な役割があっただろうに。

仕事や私生活で既に確立している価値観を変えるのは大変なことだ。映画は、人生の転機を向かえ、自分の小さな世界から出て、現代生活に欠けている愛情や人間らしいコミュニケーションの大切さに気付くヒロインを、優しい視点で描写する。几帳面な性格や仕事ぶりは変わらないだろうが、自分と違う生き方を認める心の柔らかさが、マーサを幸せな人生に導いた。あくまでも小品なのだが、観終わって何とも気持ちのいい作品で、心がほっこり。こんな気分を味わうために、私は日々映画を観ている。

□2001年 ドイツ映画 原題「Mostly Martha」
□監督:サンドラ・ネットルベック
□出演:マルティナ・ゲデック、セルジオ・カステリット、マクシメ・フェルステ、他

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