戦場のピアニスト [DVD]戦場のピアニスト [DVD]
◆プチレビュー◆
放置されたピアノの調律は狂っているだろうし、食うや食わずの暮しでは指もなめらかに動かないはず…と、頭では判っていても、あまりに素晴らしい演奏シーンにただただ涙だ。想像上の鍵盤で演奏するシーンが泣ける。

第二次世界大戦下のポーランド。ピアニストのウワディスワフ・シュピルマンとその家族は、ユダヤ人居住区に強制移住させられる。隣人や友人が虐殺され、家族が収容所に送られる中、シュピルマンは奇跡的に救われるが、死と隣り合わせの逃亡生活を続ける彼にも危険が迫る…。

ユダヤ系のポランスキー監督が、ついに自身の過去と向き合い、原体験と重ね合わせたリアリズムで描く本作は、押えた演出ながら説得力と執念がにじみ出て、非常に完成度が高い。出演俳優の演技力と、CGとセットを駆使した光景、深遠な人間描写など、見応えも充分だ。巨匠ポランスキーが満を持して放つ、渾身の一作と呼んでいいだろう。

シュピルマンが生き延びる姿は、捕らわれるも地獄だが、生き残るも地獄と思わせるほどで、ただ一人で身を潜め、逃げ続ける彼の恐怖と孤独が痛いほど伝わってくる。シュピルマンにヒーロー的要素は皆無で、家族に許可証を調達したり、抵抗活動を間接的に助けたりはするが、彼自身は痛々しいほど無力だ。力仕事もこなせず、身を隠すにも不器用すぎる彼には、ピアノを弾く才能以外、何もない。まさに、奇跡的にホロコーストの狂気をかいくぐる。

前半に描かれるナチスの残虐な行為に派手な演出はなく、無表情なのは銃を頭に突きつけるナチスも殺されるユダヤ人も同じだ。あまりにも日常化した死がそこにある。一面廃墟と化したワルシャワの光景は、巨大なセットを使った上にCGを駆使したもので、奥行きといい色彩といい、出色の出来栄えだ。この無慈悲な映像を、美しいと表現するのは不謹慎だろうか。

戦況が刻々と変わる中、シュピルマンは遂に一人のドイツ人将校に見つかってしまうが、結果的にピアニストであることが幸いする。廃墟に響くショパンの旋律。妙なるピアノの調べは、シュピルマンの命の周辺で流された無数の血を思い起こさせて、言いようのない感動を生む。繊細な主人公を演じるA.ブロディの熱演と共に、ドイツ人将校役のT.クレッチマンも出番は少ないが好演だ。

人間は本来、善と悪を併せ持つ存在。被害者の悲劇や加害者の蛮行だけでなく、物語の視点が公平なのが目を引く。善悪の単純な区分けの民族主義など存在しない。あくどいユダヤ人や、音楽を愛するドイツ人を登場させるのは、ゲットーの非人間性を、実体験として知っているからこそ生まれる深い人間観だろうか。ラスト4分間に及ぶ演奏が胸を打つ、カンヌ映画祭パルム・ドールの名に相応しい傑作だ。

□2002年 ポーランド・フランス合作映画 原題「The Pianist」
□監督:ロマン・ポランスキー
□出演:エイドリアン・ブロディ、トーマス・クレッチマン、フランク・フィンレイ、他

人気ブログランキング用バナー

←この記事が気に入ったら、ポチッとクリックしてもらえると嬉しいです\(^o^)/