8 Mile [DVD]8 Mile [DVD]
◆プチレビュー◆
過激な言動ゆえに、実母や妻等から多くの訴訟を起こされ、逮捕歴もあるエミネム。そんな人物にもオスカーが渡る時代になった。日本ではPG-12指定だが、アメリカではR指定作品。ヒップホップファンでなくても楽しめると思う。

デトロイトに住む“ラビット”ことジミーは、底辺の生活を送りながらも、音楽をやろうと悩んでいる。思いつくままにリリック(歌詞)を書き綴り、週末に行われるラップ・バトルでの勝利を目指すが…。

自動車産業の繁栄と没落の両方を経験した街ミシガン州デトロイト。“8マイル・ロード”とは、ここに実在するストリートだ。都市と郊外、更に黒人と白人の居住区を分ける境界線でもある8マイルを通過することは、最低の生活を抜け出して夢に一歩近づくことと同義。無傷でこの線を越えることは誰にも出来ない。

アイドル歌手の映画デビュー作と聞くと、お気楽なサクセス・ストーリーを連想するが、本作はまったくその枠を超えている。貧困と倦怠感が蔓延し、それゆえに若者たちのエネルギーが行き場がないままくすぶる様子を、C.ハンソン監督はリアルでダーティに描き出した。切れのある映像が繊細な主人公の内面を映し出す。ボロきれのようになりながら、ラップで自己表現するジミーの姿は、見ていて切ない。

黒人が大半を占めるラップ・ミュージック・シーンで、白人であることへのコンプレックスを抱えるジミー。その日暮らしの母親との葛藤、音楽への希望と不安、信じていた友情が偽りと知り、恋人の裏切りをその目で見る。さらにライバルからの暴力を受け、身も心も傷ついたジミーは、様々に交錯する想いを胸にラップ・バトルのステージに上がる。果たして彼を待つのは、観客の喝采か、罵声か。

地下クラブでのラップ・バトルは最大の見所だ。エミネム自身も若き日に参加していたというこのラップ・トーナメントは、スポーツのように勝敗が決まり、いかにもアメリカ的で興味深い。リズムにのりながら、社会情勢、皮肉やユーモアを瞬時に韻を踏んで言葉にし、相手に挑む。ラップ・バトルとは、実はかなり知的な戦争ではないか。相当に汚い言葉が飛び交うが、実際に俗語や現地情報に通じていれば、よりそのスキルを楽しめただろうに、そこが残念だ。

音楽映画、青春映画。どのジャンルにも収まらない不思議な魅力。重厚な迫真性は社会派ドラマのようでもある。映画のラストで、ジミーは大スターになるわけでも、華やかなフラッシュライトを浴びるわけでもないが、彼がドープ(最高の)・ラッパーであることは誰もが知っている。主人公が迷いを振り切り、心の中の“8マイル”を自力で突き抜ける瞬間を、鮮やかに切り取ってみせた。

□2002年 アメリカ映画  原題「8 Mile」
□監督:カーティス・ハンソン
□出演:エミネム、キム・ベイシンガー、ブリタニー・マーフィ、他

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