少女の髪どめ [DVD]少女の髪どめ [DVD]
◆プチレビュー◆
イランでは雨が降るのは春の訪れ。だが季節感が伝わりにくいのが惜しい。イスラムの価値観なのか、道端に座る靴屋の爺さんさえ哲学的。「あなたは誰と暮らしているの?」との問いに「孤独な男の隣にはいつも神がおられる。」などと深いことを言う。

建設現場で働く17歳のイラン人の若者ラティフ。ある日、不法で働く同僚のアフガン人が怪我をしたため、その息子ラーマトが代わりにやってくる。しかし、ひ弱なラーマトは力仕事が出来ず、親方の命令でラティフがやっていた軽作業と交代するが、楽な仕事を奪われたラティフは不満。おまけにラーマトの入れるお茶や配膳の手際がいいので労働者達に好評なのもおもしろくない。何かとラーマトにやつあたりするラティフだが、ある日、彼はラーマトが実は女の子だということを偶然に知る…。

季節は冬、舞台は建設現場、セリフも極端に少ない。どうみても地味な設定なのに、見終ればまるで一篇の詩のような趣の作品なのだ。検閲が厳しいために児童映画が多く作られるイラン映画にしては珍しく、淡いラブ・ストーリー。もちろん、プラトニックだが、仕事に文句ばかり言い喧嘩っ早い乱暴者だったラティフの心に、無償の愛情を芽生えさせるほどの効力を持つのだから、なかなかの“情熱の恋”なのだ。

建設現場ではモグリで働くアフガン難民が大勢いる。現場の親方は彼らに同情的で、役人からかばいながら働かせてやっている。実際にイランには300万人近いアフガン難民が存在すると言う。過酷な労働条件や生活描写も現実に近いのだろう。わがままで乱暴者だった若者ラティフも、アフガン難民が暮らすキャンプをその目で見て、自分よりも不幸な境遇の人々の存在を肌で知る。更に、想いを寄せる少女が、凍てつく冬の川で腰まで水につかり大人に混じって作業する姿に、ただ涙するしかない。

殺風景な映像の中で効果的に用いられるのは、風だ。工事現場を吹き抜ける風にのってかすかに聞こえる歌声に導かれ、微かに揺れるカーテンの隙間から偶然見てしまったのは、鏡に映るラーマトの姿。ひ弱な少年だと思っていたその子は、長い髪をとかす女の子だった。ラーマトには最初から最後までセリフは全くない。声を出せば女の子だと判ってしまうからだが、アフガン難民が自らを語る手段と機会を持たないことをも象徴している。表情やしぐさだけの演出にも、監督の心がこもっている。

ラーマトの正体を知ったラティフが、その瞬間からどんな犠牲を払っても彼女を守ろうと決心するのは、出来すぎた話かもしれない。だが、驚きは瞬時に恋に変わり、家族を養うために男のふりまでする、けなげな“彼女”を守り抜く決意となる。愛を知ることで、人はここまで劇的に変わるものなのだ。自分の1年分の給料も身分証明書も全て投げ出す。結局はその事が、少女との別れにつながってしまうのが哀しい。

原題の「バラン」とはラーマトの本名で、ペルシャ語で“雨”の意味。戦渦のアフガニスタンに帰る一家を見送るラティフ。ラティフの顔を見つめた少女は少し笑ったような気がしたが、その直後、アフガン女性が身につけるブルカを深く被ってしまう。ブルカの網目から見る少女の瞳は、感謝と誇りに満ちていた。残された足跡に雨が降り注ぐラストは、辛い別れの場面なのに温かさが漂い、何とも忘れ難い。

□2001年 イラン映画  原題「BARAN」
□監督:マジッド・マジディ
□出演:ホセイン・アベディニ、モハマド・アミル・ナジ、ザーラ・バーナ、他

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