茄子 アンダルシアの夏 [DVD]茄子 アンダルシアの夏 [DVD]
◆プチレビュー◆
縦一列の自転車の群れの疾駆が何とも爽快。灼熱の道でふと現われる日影の正体は大きな牛の看板。「なんだ、お前か…」とペペが懐かしそうにつぶやく場面が、特に気に入った。ラストの“自転車ショー歌”も最高。

世界3大自転車レースのひとつ、スペインのブエルタ・ア・エスパーニャ。ペペ・ベネンヘリは最近勝利に恵まれず、レースの真っ只中に自分が解雇されることを知る。この日のレースは、自分の生まれ育ったアンダルシアの村を通過するコース。そこでは、かつての恋人カルメンとペペの兄アンヘルの結婚式が行われようとしていた…。

原作は黒田硫黄のコミック「茄子」の中の一編。茄子が登場することを共通項に、骨太なタッチと陰影が独特の漫画で、大変な人気を誇る。映像化が難しい絵柄と、自転車レースというこれまたアニメ映画として困難な題材を上手くまとめて、密度の濃い作品となった。上映時間も47分と、“短くも美しく燃え”るスタイルだ。

自転車のロードレースは、9人編成のチームで勝利を目指すが、勝者は一人だけで、残りの8人はその一人のために、給水、風よけ、他チームの牽制と、徹底して協力する。ひどく階級社会的なようだが、本場欧州ではエース以外の選手の実力も正統に認知し、拍手を送るとか。但し、プロなら誰もが一度は主役を目指すだろう。監督自身がトップレベルの自転車レーサーである本作では、レースの様子が実にリアルに描かれているのが特徴。主人公ペペは捨て駒のアシストの一人だ。

レースの最中に無線で聞いてしまった自らの解雇にショックを受けるペペだが、思わぬアクシデントでレースは予期せぬ方向へ。灼熱の太陽の下でペダルをこぎ続ける彼の脳裏に様々な思い出と複雑な感情がこみ上げる。単調になりがちなレースを、心象風景と過去の出来事を織り交ぜて描写し、メリハリをつける演出が上手い。「遠くへ行きたい。」このひと言にペペの気持ちが凝縮されている。兄アンヘルと奪いあった二つの“もの”。それは1台の自転車と恋人のカルメンだった。

故郷を捨てた男の夢と焦燥。プロとしての厳しさ。忘れ去りたいはずの故郷で輝くことは、いつまでもどこかでわだかまる自分の心の殻を破る手段だ。勝利よりも自分自身の存在を確かめるために走る。その先に見える遠い世界を信じながら。解雇を知りながら、捨て駒としての自分の役割をまっとうしようとするペペの男気には胸が熱くなる。自転車ってこんなにカッコいいものだったのか。ママチャリや通学のイメージは、ひとまず忘れてしまおう。

映画のアニメはすっきりと仕上がっているが、ゴールする瞬間の場面には、原画の持ち味を活かした荒々しい線になる。クライマックスの興奮は必須。レースの後、兄たちへの強がりの言葉が爽やかで、アンダルシア名物の茄子漬けを食べる姿は、忘れたいはずの故郷としっかり対峙しているように見えた。自転車ファンやアニメファンだけに独占させるのはもったいない完成度の高さ。無駄な場面など一箇所もない。ジャパニーズ・アニメはやっぱり凄い!と胸をはろう。Venga PePe!(行け、ぺぺ!)

□2002年 日本映画  英語原題「Nasu:Summer in Andalusia」
□監督:高坂希太郎
□出演:(声)大泉洋、小池栄子、筧利夫、他

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