英雄 ~HERO~ スペシャルエディション [DVD]英雄 ~HERO~ スペシャルエディション [DVD]
◆プチレビュー◆
久しぶりに故国に凱旋したJ.リー。初めて彼を“美しい”と感じた。ただ、中国全国武術大会総合優勝の実力を誇る彼が、ほとんどワイヤー・アクションで演じているのは、ちょっと残念。地に足をつけて闘っても強いというのに。

7つの国が覇権を争う紀元前の戦乱の中国。後に始皇帝となる秦王のもとに謎の刺客“無名”が謁見に現われる。各国が放つ刺客の中でも最強の3人を倒したというその男は、秦王に問われるままに、どのように彼らと対峙したかを語り始めた…。

一つの真実に対して証言が食い違い、謎が深まっていく物語展開を黒澤明監督の傑作「羅生門」に敬して羅生門スタイルと呼ぶが、本作もまさにこの形を踏襲している。無名の報告、秦王の推理、無名による真相告白と推移し、幾重にも謎が広がって、最後になされる選択へと導くミステリー仕立てだ。始皇帝の暗殺では、実在の荊軻が有名だが、本作はさしずめ“始皇帝暗殺・外伝”と言えよう。

槍の名手の長空と棋館で闘う場面は黒、恋人同士の刺客、残剣と飛雪を嫉妬を利用して倒した物語では赤。更に、青、緑、白とそれぞれの場面をテーマカラーで統一し、極彩色で壮麗に展開。オペラの演出も手がけるイーモウ監督の色彩へのこだわりは、「紅夢」「菊豆」などの、初期の情念溢れる作品群にも表れていた。ここではそれを更に飛躍させ、あきれるほど手が込んだ舞台セットとロケを用いて画面の隅々まで芸術の香りを漂わせている。大金を投じたであろう物量作戦で、弓矢の雨は空を黒く染め、黄金色の銀杏は瞬時にして真紅に染まる。シビれる映像美だ。

C.ドイル、ワダエミ、T.ドゥン、鼓童など、出演俳優陣だけでなく、アジア各国からエキスパートを集めた上に、アクションは「マトリックス」のCGスタッフによるVFX。中国映画の世界進出の決意表明のようなメンバーだ。彼らを束ねるには、中国政府に批判的な作品で国際的知名度のイーモウ監督しかいない。近年はハートウォーミングな作風だっただけに、初のアクション映画ではワイヤーアークのやり放題。そんなバカな…の連続のハジケッぷりに、もしや長年たまっていたものでもあったかといらぬ心配までした。しかし、さすがは撮影監督出身。東洋的美意識に基づき、リアリティよりビジュアルに比重をおいた作りで、舞踏のようなアクションは、すこぶる情緒がある。

無名の語る武勇伝の矛盾を秦王がつく度に物語は二転三転し、少しずつ真実へと歩み寄る。残忍なイメージの始皇帝を、諸国を統一し民の平和を願う人物としてアプローチしているのが新鮮だ。この設定には中国本国では非難が多いと聞くが、物語は歴史フィクション。紀元前のことで、いちいち言い掛かりをつけているようでは、映画は楽しめない。ただ、秦王が立ち回りを演じる場面には疑問が残った。語られる武勇伝の中、刺客のアクションの“動”に対し、秦王の“静”が素晴らしい対比をなしているのに、王自らが暴れてはせっかくの効果が弱まってしまう。

武侠映画でありながらギリシャ古典劇を思わせる演出で、色彩のパズルの中に登場人物の感情を埋め込んでいる。現代にも通じる真理を最後に配し、全体に薄いドラマ性とのバランスをとって平和へのメッセージをも込める趣向は、イーモウ監督らしい。この作品でチャン・イーモウという監督を再認識した人も多いだろう。彼自身の映画のテリトリーも広がり、次回作が大いに楽しみである。

□2002年 中国映画  原題「HERO/英雄」
□監督:チャン・イーモウ
□出演:ジェット・リー、トニー・レオン、マギー・チャン、他

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