永遠のマリア・カラス [DVD]永遠のマリア・カラス [DVD]
◆プチレビュー◆
オペラの映画で、オープニングにロックをぶつけてくるセンスはなかなか意表を突く。ちなみに、カラス唯一の映画出演は、イタリアのパゾリーニ監督の古典劇「王女メディア」。残念ながら歌わない。

伝説的歌姫のマリア・カラスはパリで隠遁生活を送っていたが、旧知の音楽プロモーターから、新企画を持ち込まれる。その映画の内容は、現在のカラスの演技に全盛期の彼女自身の声をかぶせるという、屈辱的なものだった…。

20世紀最高のソプラノ歌手がマリア・カラスであることに異論をはさむ人は少ないだろう。美貌と実力、また海運王オナシスとのスキャンダルなどが彼女を死後も有名にしているが、晩年のパリでの隠遁生活と53歳の若さで世を去った事情はあまり知られていない。この映画は、カラス本人を良く知るゼフィレッリ監督が“もしこんなことがあったなら”という仮説のもとに編み出した物語だ。

加齢による声の衰え、破綻した恋愛、日本公演のステージでの失敗などが、カラスを世捨て人にさせていたが、屈辱的な新企画を一度は断りながら、いざ仕事に取り組むと、カラスの芸術家魂に火がつく。劇中劇の「カルメン」は素晴らしい出来栄えで、全編を通して見たいと思うほどだ。ファニー・アルダンはカラスがのり移ったかのような熱演で素晴らしい。身にまとうシャネルの華麗な衣装が話題になりがちだが、むしろ、声をパントマイムで演じる際の、顔の緊張や肉体の動きに注目してほしい。アルダンのプロとしての真摯なアプローチがにじみ出ている。

自身の声とはいえ全盛期の歌声の採用は、現在の生の声との決別を意味し、オペラ歌手への残酷な行為だ。ゼフィレッリがカラスをどう追い詰めるか、どう救うかが映画の見所となる。青春ものや古典が得意なゼフィレッリ監督だが、本国イタリアではオペラの演出家として知られている。劇中には、崇高な歌姫の姿だけではなく、ステージへのこだわりで激昂する様子や陽だまりでくつろぐ表情など、意外な描写もあり、親しい友人としての包み込むような視線を感じることが出来る。

最高の演技と最高の声を結び付けたいという願いは、舞台演出家の本音だろう。CG等駆使すれば技術的には可能なはずだ。ただ、選ばれた天才に対して許される錬金術なのかという思いもよぎる。オペラファンにとっては、再びマリア・カラスに会える嬉しい映画であると同時に、彼女の実力を知れば知るほど、辛い思いを抱く物語なのではないか。また、ゼフィレッリの師匠であるL.ヴィスコンティは、カラスの当たり役の「椿姫」を演出し、彼女を世に出した人物。ヴィスコンティならこの映画をどうさばいただろうかと考えずにはいられない。いずれにしても、F.アルダンの渾身の演技と共に、オペラとは縁が深いイタリア映画界らしい興味深い作品に仕上がった。

□2002年 イタリア・フランス・イギリス・ルーマニア・スペイン合作映画 
□原題「CALLAS Forever」
□監督:フランコ・ゼフィレッリ
□出演:ファニー・アルダン、ジェレミー・アイアンズ、ジョーン・プローライト、他

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