Etre et avoir ぼくの好きな先生 [DVD]Etre et avoir ぼくの好きな先生 [DVD]
◆プチレビュー◆
子供の卒業や先生の退職などで“泣かせる”演出は何もなく、淡々としているところがいい。ロペス先生には教師は天職。この天職に巡りあったということが何より羨ましい。実はドキュメンタリーが大好きなので、昨今のブームは非常に嬉しい。作り手の苦労の割には報われる部分が少ないのが残念だ。

フランスのオーベルニュ地方にある小学校。そこでは3歳から11歳までの13人が一つのクラスで一緒に学んでいる。先生は55歳のロペス先生。個性溢れる生徒たちと、ベテランの教師。彼らの生活はゆったりとした時間の中で流れていく…。

空前のドキュメンタリーブームと言っても過言じゃない昨今。音楽もの、社会問題を扱う問題作、有名俳優や監督の一生を綴るものなど、様々なスタイルの作品が生まれている。N.フィリベールは長らく自然や人物を主体とした記録映画を撮り続け、その手腕が国際的に高く評価されている監督だ。

年齢が異なる子供がひとつのクラスで学ぶ複合学級は、特殊な教育形式だ。小さい子供と大きい子供は互いに協力し合い、ロペス先生はゆっくりと、根気強く彼らを指導する。教壇の上から講義はせず、生徒の横に体を低く曲げて寄り添い、静かに話しかける。厳しいが誠実なその態度から、生徒たちは自分たち一人一人が気にかけてもらっている親しい空気を感じ取ることができるだろう。

子供たちはカメラを意識することは殆どない。優れた記録映画の基本である、作り手と対象の信頼関係が築かれている証拠だ。年齢や、体力・知力にバラツキがある子供たちの共同体は、すなわち、異なる価値観を持つもののコミュニティ。先生は、掛け算や書き取りを教えながら、ケンカは話し合いで収め、約束を守ることの大切さを時間をかけて学ばせるのだ。時には皆でクレープを焼き、ソリ遊びをする楽しいひと時も。一方で、父親がガンを患う生徒には、「人生には病気はつきもの。病気と一緒に生きていくんだよ」と諭す。気休めではなく、現実的な言葉の中に、例え相手が子供でも真摯に接する本物の優しさがあった。

ロペス先生のスタイルは、いささか古風で、都会では通用しないだろう。教育現場が実際に抱える問題を思えば、絵空事にさえ感じる。だが、このフィルムに映る生徒たちの生き生きとした表情と溢れる温かみは何なのか。中学校へ進学する子供の不安に細やかに対応し、生徒の家庭の問題に心を砕く姿に感動を覚えるのはなぜなのか。それはこの小さな教室に、寛容さと信頼関係という理想を見るからなのだ。その理想が私たちの現実とはあまりに遠いことを知っているからなのだ。何気なくあたりまえの日常を切り取っただけのこの映画に感動的するのは、この風景がもはやあたりまえではなくなっている現状があるからに他ならない。

美しい四季と子供たちの自然な姿は詩情に溢れている。他者を他者として認めることの重要さが彼らの暮しの中には確かにあった。こんな環境なら、子供も親も教師も素直になれる。羨ましさばかりが募る罪な映画でもある。明日から夏休みという終業式を終え、映画も幕を閉じる。学校を去り難いと感じる子供たち。安堵と寂しさが入り混じる教師の表情。学び、成長することの喜びと難しさを、今一度考えたい。

□2002年 フランス映画  仏語原題「Etre et avoir」
□監督:ニコラ・フィリベール
□出演:ロペス先生と3歳から11歳までの13人のクラスメイトたち

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