フォーン・ブース [DVD]フォーン・ブース [DVD]
◆プチレビュー◆
怖いのは、都会型の偏執狂(アーバン・パラノイア)なのだ。米映画の中では呼び出しが出来る公衆電話の機能を上手く使う場面が多い。最後にチラリと登場する電話の声の主の存在感も抜群。山椒は小粒でもピリリと辛い。

スチュはNYで活躍する自称一流パブリシスト。今日も忙しぶりながら携帯電話を駆使して、情報をやりとりする。女優の卵をくどこうと結婚指輪をはずし、電話するために入った公衆電話でふいにベルが鳴る。反射的に受話器を取ると、見知らぬ男の声が告げた。「銃でお前を狙っている。電話を切ったらお前の命はない」…。

面白い。電話ボックスというごく限られた空間に主人公を閉じ込め、見えない犯人によって彼を追い詰めていく設定の見事さ。主人公スチュの背景や性格を、最初の数分でテンポ良く見せる演出の手際の良さ。観客はスチュがどれほどいけすかないヤツなのかを冒頭で知らされるため、彼の虚飾に満ちた生き方を攻撃する犯人の言動を、スムーズに受け入れることが出来る。例え犯人の意図は不明だとしても。

場所を特定したドラマの場合、しばしば舞台劇のような趣をかもすが、この物語はあくまで映画的空間の中で進行する。クルクルと変わるカメラの視点と、エスカレートする犯人の要求。状況を見守るしかない観客は、恐怖と不安に怯える主人公と、彼を狙う犯人の目線の両方を疑似体験する仕掛けだ。限定空間ながら人間模様も非常に濃く、見応えたっぷりである。

通行人が行きかう大都会にあるガラスばりの電話ボックスは、開放的でありながら人間を閉じ込める相反した性質のスポット。携帯電話が主流の今では、特殊な空間にさえ見える。主人公は、突然過酷なゲームに放り込まれ、スナイパーという“神”から公衆の面前で一枚一枚虚勢をはがされていく。愛人の存在を妻に告げ、邪険にしていたアシスタントに謝罪。電話ボックスは、ここでは大衆に公開された懺悔室と化すわけだ。薄っぺらな人物のスチュは自己の内面と初めて向き合い変化する。

スチュを演じるのは今最もノッている俳優のコリン・ファレル。傲慢で平気で嘘をつく嫌味なギョーカイ人ぶりが上手いが、理由も判らず命を狙われた人物のとまどいを熱演。一人芝居といってもいいほど出ずっぱりなのに、演技の緊迫感が持続するので全く飽きさせない。生意気でゴシップの方が先行する俳優だが、女癖の悪さもこれほど演技が上手ければ許してしまいそうになる。

大都会NYでは勝ち組こそ正義。大勢の人間が、自分の利益にならない者を切り捨て他人の情報を売り買いしながら肥え太っていく。そんな風潮を、映画という法律で裁いているのだろうか。主人公が体験する81分を同時進行で観客も味わえる。低予算ながら名人芸の技が冴える一流のエンターテインメント作品だと感心した。

□2003年 アメリカ映画  原題「PHONE BOOTH」
□監督:ジョエル・シューマカー
□出演:コリン・ファレル、フォレスト・ウィティカー、ケイティ・ホームズ、他

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