殺人の追憶 [DVD]殺人の追憶 [DVD]
◆プチレビュー◆
ステレオ・タイプのサスペンス映画とは全く違うスタイルが新鮮で、2003年の東京国際映画祭で大旋風を巻き起こしたのも納得。だが、謎解きを期待して見ると肩透かしをくらうから要注意。

1980年代の韓国。ソウル郊外の農村で連続殺人事件が起こる。勘を頼りに足で捜査する田舎のパク刑事と、資料から冷静に推理する都会から来たソ刑事は反発しあいながらも、事件の解明に力を尽くすが、犯人を挙げることはできない。二人は徐々に追い詰められ苦悩するが、ついに犯人と思われる男を捕らえる瞬間がくる…。

この映画の基となった華城殺人事件は、1980年代に実際に起きた猟奇的な連続殺人事件。計180万人の警察を動員し、3000人にも及ぶ容疑者を取り調べたという。今も未解決という事実から判るように、この物語は通常のサスペンス映画のような謎解きに主眼を置いていない。得体の知れない事件に翻弄され、神経を蝕まれていく二人の刑事の心理を描く、緊張感に溢れたドラマなのだ。脚本が緻密で、抜群に上手い。

前半のユーモアと後半の緊張感の対比は、二人の刑事を最終的に逆転させる。冷静なはずの刑事は逆上し、血気盛んな刑事は困惑で沈黙してしまうのだ。常軌を逸した事件は、それに関わる人間の人格を破壊してしまう。映像は比較的淡々とした描写で当時の事件現場や捜査の状況の再現は、ドキュメンタリーのようなタッチをも醸し出していた。

未解決の事件とは、誰もが容疑者に、そして被害者になる可能性を示唆している。事件は決まって雨の夜に起こるが、雨の他にも、赤い服、ラジオにリクエストされる同じ曲、柔らかい手などのキーアイテムを巧みに使いながら物語を引っ張っていく。ほんの一瞬だけ姿を見せる犯人の映像には背筋が凍った。クライマックスのトンネルの闇は、事件の行く先と、心に傷を負った二人の刑事の挫折感を表していて、見ている観客もたまらない。

事件の残忍さや猟奇性もさることながら、二人の刑事の執念と、手の中からすり抜けたかのような事件への悔恨が、いつまでも消えない染みとなって胸に残る。追憶とはやり場のない思いの別名なのだ。それは、今はもう事件から離れた刑事たちにつきまとい離れようとしない。韓国が戒厳令を解かれ、時代が平和になっても事件は終わっていない。このように決して終わらない事件はきっと世界中にあるのだというところまで観客の余韻を広げる、印象深いラストだった。

ベタなお涙頂戴もの、南北分断の悲劇、超絶技のワイヤー・アクション。これらが従来の韓国映画のイメージだが、韓国新世代の映画のパワーと質の高さには驚かされるばかりだ。当分の間、韓国映画の勢いは止まりそうにない。ジャンルを特定できないところが、本作の最大の魅力と言えよう。

□2003年 韓国映画  原題「MEMORIES OF MURDER」
□監督:ポン・ジュノ
□出演:ソン・ガンホ、キム・サンギョン、パク・ヘイル、他

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