赤目四十八瀧心中未遂 [DVD]赤目四十八瀧心中未遂 [DVD]
◆プチレビュー◆
作家崩れの主人公は原作者の分身だと考えると、結末の意味は生への帰還か。キツネにつままれたようなラストは、余韻に浸りたい人にはピッタリだ。

生きる目的を失い、この世に居場所がない生島は、尼崎に流れ着き、アパートの一室で来る日も来る日も臓物を串にさす毎日を送っていた。尼崎の住人は、彼の住まいと仕事を世話した焼鳥屋の女主人や、凄腕の刺青師など、ワケアリの人々ばかり。そんな場所で、生島は綾という女と出会う…。

歌舞伎を思わせるこの映画のタイトル「赤目四十八瀧心中未遂」は“あかめしじゅうやたきしんじゅうみすい”と読む。映画の中身もいいが、まずこの印象的な題名に惹きつけられた。時代は、神戸の震災の後と見受けられるが、場所や時代を特定できない印象を持つのは、この物語が、あの世とこの世の境界線を描いているからだろう。

掃き溜めのような街でうごめく人々は、ただならぬ迫力を醸し出す輩ばかり。彼らは皆、人生の敗北者なのだ。流血沙汰や大事件は何も起こらないのに、画面に常に緊張感を漂わせる。特に、内田裕也演じる、彫り師・彫眉は妖気と殺気を匂わせて凄い。生島の現す疎外感と、綾のあきらめが混ざりあい、至福の時を生んだ後、二人は赤目の瀧へ死出の旅に向かう。薄幸顔の寺島しのぶが演じるファム・ファタルは、背中に迦陵頻伽(かりょうびんが)の刺青を背負い「この世の外」へ生島を導く。

監督の荒戸源次郎は、鈴木清順や阪本順二などの作品を手がけてきた実力派のプロデューサー。監督としては2作目となるが、6年の歳月をかけた彼の思い入れが見事に結実している作品だ。映像の美しさも絶品で、生島と綾の赤目の瀧への道行きは、観客を異世界へと誘うだろう。原作者の車谷長吉(くるまたにちょうきつ)は、最後の私小説作家と呼ばれるが、その彼をして映画の方が素晴らしいと言わしめたのは、この美しいカメラワークによるところが大きい。

謎めいたラストは、観客に解釈をゆだねる形だ。生の喜びと死の誘惑は同じ顔をしているのだろうか。荒戸監督が製作した映画「ツィゴイネルワイゼン」の中で、大楠道代が“桃は腐りかけが一番美味しいのよ”と言うセリフがあった。境界線ギリギリの場所に立って初めて味わうことが許される緊張感と至福。2時間半を越えるこの力作は、まさにそういう趣の映画である。

□2003年 日本映画
□監督:荒戸源次郎
□出演:大西滝次郎、寺島しのぶ、大楠道代、他

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