シルミド/SILMIDO [DVD]シルミド/SILMIDO [DVD]
◆プチレビュー◆
韓国では主人公たちを重犯罪者として描いたことに不満の声があったらしいが、封印されてきたこの事件に陽が当たり、事件そのものに興味を持って歴史を紐解く人々が少しでもいれば、映画を作った価値は十分にある。

60年代後半、北朝鮮の工作員による韓国の政府要人暗殺未遂事件が起こる。このことに危機感を抱いた韓国政府は死刑囚を密かに無人島のシルミ島(ド)に集めて684部隊として軍事訓練を施した。目的は北朝鮮に潜入して最高指導者の金日成を暗殺すること。しかし朝鮮半島の政治は常に流動しており、緊張していた状態から融和政策へと路線を変更した。このことにより、秘密裏に計画された軍事暗殺は中止、さらに部隊を極秘の内に抹消するように厳命が下される…。

非常にやるせない話である。実話と聞くとなおさらだ。映画は政治に利用された人間が国家から見捨てられていく悲劇を描くと同時に、このような事件を何十年も封印してきた韓国の歴史に告発の声を上げている。映画「オアシス」で迫真の演技を披露したソル・ギョングが強靭な精神力で訓練に耐え、684部隊のリーダーとなる人物カンを演じている。物語は父親が北朝鮮に亡命したため、ヤクザものとしてしか生きる術がなかったカンと、最初はカンに敵意を持っていたが次第に心を通わせるハン、さらに彼らを訓練する軍人のチェ准尉を中心に描いていく。

実話といっても映画化にあたり脚色はなされている。軍事訓練を受ける集団は死刑囚だが、実際は様々な職業の人々の寄せ集めだったらしい。劇中では、社会のはみだし者が何かを成し遂げ世間から認めてもらおうとする希望や、仲間との友情など、随所に盛り上げる要素があり、映画としての道筋を作っているようだ。しかし、ひとつだけ大きな疑問が頭から離れない。暗殺計画の中止を知り、政府側の裏切り行為を薄々感じた彼らが、島を脱出して向かう場所が、韓国の大統領府だということだ。なぜ無理やりにでも北朝鮮を目指さないのか?そのためだけに地獄の訓練を耐え、北への潜入を体に叩き込まれた特殊部隊じゃないか。エリート軍人ならともかく、底辺で生きてきたはずの彼らが権力者に何を訴え何を期待するというのか。北に亡命した父を持つ男という設定もこれでは全く活きない。ソウルへ向かったのは事実なので納得するしかないが、物語として辻褄があってないように思う。

決断を下すことを放棄し結局は誰のためにもならない“行動”をしてしまう隊長を演じるのは韓国の国民的俳優アン・ソンギだ。彼は部隊の男たちにとって父性の象徴ともいえる。目上の者や両親を尊敬する韓国社会の定義が、70年代初めにして既に崩壊していたと解釈できる。

戸籍を奪われたことを知りつつ自らの名前に誇りを持って最期の時を迎える684部隊。情緒的な音楽にのって涙を誘う演出は、韓国エンタテインメントの十八番だ。硬派な素材なのに“いつもながらの”演出スタイルに少々辟易しないでもないが、自国の歴史の最もさらしたくない部分に光をあてて骨太の映画に仕上げ、興行的にも成功してしまうところは今の韓国映画界の勢いそのままだ。珍しく恋愛部分が全くないのでむさくるしいが、男のドラマを描くのも韓国映画の一大潮流なのである。

□2003年 韓国映画  原題「SILMIDO」
□監督:カン・ウソク
□出演:ソル・ギョング、アン・ソンギ、チョン・ジェヨン、他

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