わが故郷の歌 [DVD]わが故郷の歌 [DVD]
◆プチレビュー◆
反戦のメッセージは控えめだが、何よりもクルドの人々の生活の情景が記憶に残る。喜びや悲しみを分かち合うように歌うクルドの音楽についてもっと知りたいと思う。声だけで姿を現さないハナレの役を演じているのは監督の実の母親だ。

クルド人なら知らぬ者はいない大歌手ミルザは元妻のハナレから1通の手紙を受け取る。それは助けを求める内容で、切実なものを感じたミルザは、同じミュージシャンの二人の息子を無理やり引き連れて、民族音楽を奏でながら平和なイランから戦禍のイラクへと旅立った…。

デビュー作「酔っぱらった馬の時間」でもイラン・イラク国境で暮らすクルド人の過酷な現実を描いたパフマン・ゴバディ監督。2作目に当たる本作でも、同じ地域を舞台に選んだ。クルド人は、国家を持たない“世界最大の少数民族”。監督自身、イラン映画界初のクルド人監督なのである。

物語は妻を探して旅をするロード・ムービーの形式をとっている。その旅を魅力的なものにしているのは、本職がクルド音楽のミュージシャンである俳優たちが演奏するクルドの民族音楽だ。太鼓や縦笛を使った素朴でありながら情熱的なメロディ。イラク国境に近づくにつれ、空には爆音が響くのだが、彼らはそれすら音楽と捉える。難民キャンプや平和な村での結婚式をはじめ、さまざまな場所で3人の歌声と演奏は人々の心を癒していく。旅の前半はユーモア溢れる珍道中だ。

イラン・イラク国境の山は深い雪。ここから物語は一気に悲劇へとなだれこむ。山をひとつ隔てただけでそこは地獄の世界なのだ。大規模な爆撃、クルド人の大虐殺、化学兵器の使用、集団墓地で家族の遺体を捜す女たち…。観客は、苦痛と不幸はクルディスタンでは日常生活の一部であることを知らされる。悲劇はミルザが探すハナレの身にも降りかかっていた。

映画はクルド人の悲惨な現状を訴えるとともに、ミルザの二人の息子たちを使って、中東世界を象徴する男性優位主義をも笑い飛ばしている。7人も妻を持ちながら息子に恵まれないアウダは爆音の中で解決策を見出し、バラートは旅の途中で出会った美声の娘と再会する。元妻のハナレも歌手だったが戦争が彼女から歌を奪った。それでも、希望を捨てない強さを持つハナレ。人間から尊厳を奪うことは誰にも出来ない。

詩情に溢れ、ゆったりとした演出は観客に考える余裕を与えてくれる。ラストには意外な真実が待っているが、それぞれの登場人物は異なった形の希望を手にすることになる。クルド民族のアイデンティティー、厳しくも美しい自然描写、そして作り手の強いメッセージ。極めて地味なこの映画には、多くの魅力が溢れていることを知ってほしい。ハナレとはクルド語でザクロの意味。現実のクルディスタンは、多くのハナレで満ちているのだ。

□2002年 イラン映画  原題「Gomshodei dar Araq」
□監督:バフマン・ゴバディ
□出演:シャハブ・エブラヒミ、アッラモラド・ラシュティアン、ファエグ・モハマディ、他

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