父、帰る [DVD]父、帰る [DVD]
◆プチレビュー◆
ビリー・ボブ・ソーントン似の父親にハーレー・ジョエル・オズメント似の二男。長男を演じたウラジーミル少年は撮影後、不慮の事故で亡くなったそうだ。合掌。似た主題の作品で「パパってなに?」というロシア映画もあるので見比べて見るのも一興。

アンドレイとイワンの兄弟の前に、家を出ていた父が12年ぶりに帰ってくる。家長然とする父に、母や祖母も何も言わない。父はまた、突然、兄弟と車で湖まで小旅行をすると言い出す。力強い父親を恐れながらも慕う兄と、反抗する弟。横暴な態度を取り続ける父は、この旅で兄弟に何を伝えようとしているのか…。

芸術作品を重視するベネチア映画祭でグランプリ受賞の、謎めいたこのロシア映画。鑑賞時には十分に覚悟が必要だ。何しろ説明らしきものは殆どない。12年ぶりに帰ってきた父親が何をしていたのか、何故帰ってきたのか、そもそも本当の父なのか。観客の私たちは二人の兄弟と同じ謎を突きつけられたまま物語に付き合うことになる。父親の過去、電話の相手、箱の中身。映画は何も答えない。

旧ソ連の巨匠タルコフスキーを彷彿とさせる映像は、水を意識し、寒色系の風景を印象的に用いている。森、湖、雲。静謐という言葉がふさわしい映像で、しばし見惚れる。ただし、本作はサスペンス仕立てなので、タルコフスキー映画のようにヒーリング感覚にひたるわけにはいかない。監督のズビャギンツェフは映画界では全くの新人だが、TVやCMの製作出身。現代ロシアの息吹を感じさせるのは、物語をロード・ムービーにしたことでもうかがえる。

劇中で多用されるのはキリスト教のモチーフだ。父と神が同義で捉えられているのが象徴的。ロシア正教が男性主権であることも無関係ではないだろう。父は命令という形で教育を施すが、粗野で横暴で、威圧的なこの父が、同時に魅力的なのは事実だ。映画は彼の存在を許さないが、それが神や父の否定にはつながらない。強さを前にした人間のあり方を問うている。ここがこの作品の奥行きだと思う。

小旅行から戻った兄弟は以前と同じ少年ではいられない。少年時代は終わったのだ。今やロシアだけでなく国家規模で世界を覆う感覚が、父親、すなわち絶対的な権力の不在だ。何の説明もなく不親切とも思えるこの作品に、無視できない深みを感じるのは、そのせいかもしれない。全てを明確に説明する映画を好む人には不向きだが、映画に真剣に向き合う気概がある人には勧めたい。

□2003年 ロシア映画  原題「VOZVRASHCHENIE」
□監督:アンドレイ・ズビャギンツェフ
□出演:ウラジーミル・ガーリン、イワン・ドブロヌラヴォフ、コンスタンチン・ラブロネンコ、他

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