春夏秋冬そして春 [DVD]春夏秋冬そして春 [DVD]
◆プチレビュー◆
驚異的に美しい映像は、撮影監督ペク・ドンヒョンの力によるもの。小動物を寓意的に用いるのが常だが、今回は残酷描写が少なくてホッとした。

緑深い山中の湖に浮かぶ小さな寺に、年老いた僧侶と少年が住んでいる。いたずらから生命の尊さを知った少年は、やがて成長し同年代の少女との恋と欲望を経験して、寺を出奔。彼女の裏切りを知って殺人を犯し、再び寺に戻った頃には壮年となっていた。そして季節は再び巡り来る…。

世の中には、例えそれが物理的な機能を成していないとしても尊重すべき存在があるらしい。この映画の中で、それは“扉”だ。水中に浮かぶ大門と、寺の内部の小さな扉。どちらも周囲に壁はなく、空間を遮るものは何一つないのだが、その扉を通るのは、人間の基本的な礼儀と思える。少年僧が道を踏み外すとき、彼は扉を通らない。このようにキム・ギドク作品では、セリフは少ないが物語を導くシンボルがすこぶる印象的に登場するのだ。この監督の作品にアートを感じるのはそのためだろう。

寺の四季を人生の四季になぞらえていく手法が誌的である。無邪気な殺生から重荷を背負う春、恋と欲望に目覚める夏、裏切りと罪の苦しみを知る秋を経て、悟りの冬へと向かう。そして季節は再び春になり、同じ過ちが繰り返される。人はそう簡単に解脱できるものではないようだが、それでも生の営みは愛おしい。

儒教社会の韓国では仏教は少数派だ。歴史上、弾圧されたこともあって、仏寺はほとんど山奥にある。山中の寺で起こる出来事はまるでこの世ならぬ神秘的な雰囲気さえ漂わす。映像はオリエンタルな美の極地で、さぞかし西欧でウケるだろうと思われるもの。私は何度も映像に見惚れたが、湖上の寺がゆっくりと動く場面の美しさは格別だ。漢字を解する日本人には、文字の美しさと同時に意味まで理解できるので、ちょっと優越感も。

今までのキム・ギドク作品が残酷描写や性描写で挑発的な作風だったことを思えば、本作はまるで方向を変えた癒しの映画のようにも思える。しかし、静謐な画面の中で紡がれる物語は結構生々しいもので、随所に“らしさ”が伺えた。現在、世界中から高く評価され、飛ぶ鳥を落とす勢いのキム・ギドク監督。私にとって、次回作が最も期待される監督の一人である。

□2003年 ドイツ・韓国合作映画  英語原題「Spring,Summer,Fall,Winter… and Spring」
□監督:キム・ギドク
□出演:オ・ヨンス、キム・ジョンホ、ソ・ジェギョン、他

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