ヴェラ・ドレイク [DVD]ヴェラ・ドレイク [DVD]
◆プチレビュー◆
貧乏と不幸に社会批判を込めるのは英国映画の十八番。「善意」の意味を考えさせられた。マイク・リーの映画の俳優たちは、地味な不幸顔だが演技力は抜群だ。

1950年、ロンドン。労働者階級が暮らす街に、ヴェラ・ドレイクという名の女性がいた。働き者で、明るく、家族思い。誰からも好かれるヴェラは、貧しいが、毎日を精一杯生きている。しかし、そんな彼女には誰にも言えない秘密があった。それは、望まない妊娠をした女性たちに、無償で堕胎の手助けをしていることだったのだが…。

暗くて、重くて、悲しい映画だ。それでもこの映画は見る価値がある。何しろ、主演女優イメルダ・スタウントンがすごいのだ。ヴェラ・ドレイクというヒロインの魂が乗り移ったかのような迫真の演技。前半の、赤ら顔でほがらかな表情と、後半の苦悩にゆがむ涙の顔には、この決して派手ではない女優がいかに役を深く理解しているかが表れている。英国の舞台女優の底力とは、きっとこういう演技を言うのだろう。

物語の中心には、当時違法だった「堕胎」という大きな問題が横たわる。だが、映画はこのことに関する善悪は問わない。困難に直面したときの家族の絆と、傷を抱えながら積み重ねる人生がテーマだ。口数が少ないヴェラの夫のスタンの毅然とした態度が頼もしい。地味で内気な娘のエセルの、似た者同士の婚約者レジーが、一家をいたわる短い言葉にも、法や社会、宗教とは別の価値観が見えて泣けてくる。

前半で、貧しいが前向きな家族のささやかな日々を丹念に描くことが、後半の悲痛な空気をより際立たせる。強く子供を切望する義妹のジョイスと、小さな命を抹殺する手助けをするヴェラ。この対比も効果的だ。マイク・リーの描く世界は、常に物事の多面性を語る演出で、観客にひとつだけの答えを掲示することは決してない。そのことが、彼の映画を奥深いものにしている。

□2004年 フランス・イギリス・ニュージーランド合作映画
□監督:マイク・リー
□出演:イメルダ・スタウントン、フィル・ディヴィス、ピーター・ワイト、他

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