クィーン<スペシャルエディション>クィーン<スペシャルエディション>
◆プチレビュー◆
ダイアナ元皇太子妃の事故死がもたらす英国王室の混乱ぶりを、現役女王を軸に描く異色作。見る人によって全く違う見方が可能な秀作だ。 【80点】

1997年8月、パリでダイアナ元皇太子妃が事故死した。すでに離婚していたこともあり、英王室はいっさいのコメントを避けたが、今も国民に大人気のプリンセスに対し、冷たい王室との非難を受ける。国民と女王を和解させようと奮闘する若きブレア新首相。女王はこの事態をどう受け止め、対処するのか…。

ダイアナの死。この素材なら普通は“悲劇のプリンセス・ダイアナ”の路線でいくところだ。だが、この監督は生存者たち、とりわけ現役の英国女王の視点で描いた。物語はあくまでフィクション。しかし観客はまるで実話のように感じるだろう。映画を見る前は、現役の女王を非難するに等しい作品をよく作れたものだと感心したが、実際に見てみると、女王の苦悩や、時には欠点にも映る高貴さが、愛すべき描写に換算されている。最終的には誰もが英国女王その人に感情移入してしまうという、非常に巧妙な作りの映画なのだと分かった。

開かれた王室のイメージを体現し積極的に活動した若きダイアナは、王室にとってムチャばかりする困った嫁でもあった。露骨にダイアナを嫌う皇太后やフィリップ殿下のセリフが、英国らしい皮肉とユーモアにあふれ、笑わせてくれる。自分のためにセッティングした葬儀のセレモニーをダイアナ用に先に使われ、ふくれる皇太后が傑作だが、この人ももはや故人だという皮肉。仮に、日本で皇室を舞台に映画を作ったとして、こんな鋭い笑いのセンスがあるだろうか?!やっぱり日本では絶対に制作不可能な作品だ。「よくぞ作った!」とほめたい気持ちになる。

劇中、最も印象深いのは、狩りに出て一人で迎えを待つ女王が、大鹿に遭遇する場面。「なんて美しい」と思わずつぶやき、鹿が逃げのびることを望む愛に満ちたまなざしが心に残る。野生の鹿に、自分にはない自由を謳歌したダイアナを重ねて見ているが、慈しみと同時に、しょせん動物程度にしか思っていなかったようにも取れる秀逸なシーンだ。ラストに女王が首相に言うセリフも上手い。この映画を作ったフリアーズ監督、さぞ制作時にさまざまな圧力で苦労したと思うが、映画のところどころに観客に自由な選択を与える描写を織り交ぜ、実に抜け目がない。この映画は、客観的に見ると、ダイアナ擁護でも女王賛美でもないのだ。誰も知らない、でも本当は知りたい王室の本音を知るという野次馬的な興味を、格調高いベールで包みつつ、英国そのものに観客の視線を集めることに成功した賢い映画なのである。

(シネマッシモ評価:★5つが満点)よくぞ作りました!度:★★★★☆

□2006年 英・仏・伊合作映画 原題「The Queen」
□監督:スティーヴン・フリアーズ
□出演:ヘレン・ミレン、マイケル・シーン、ジェイムズ・クロムウェル、他

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