殯の森 [DVD]殯の森 [DVD]
◆プチレビュー◆
情報不足を不親切と否定するか、高度な表現のひとつと肯定するかが評価の分かれ目。自分のスタイルを確立し揺るぎない映画を作る姿勢に好感が持てる。 【75点】

真千子は新人の介護福祉士。彼女が赴任した奈良の山間部のそのグループホームには、33年前に亡くした妻・真子の死を受け入れられずにいる認知症の老人しげきがいた。事故で愛児を亡くし、自分を責める真千子は、そんなしげきと次第に心を通わせるが、ある日二人で出かけた森の中で道に迷ってしまう…。

河瀬直美監督は故郷の奈良にこだわり続ける人だ。しっかりと大地に足をふんばって定点観測するのは、自分の周囲の平凡な人とその家族。時には崩壊する家族だが、それでもかけがえのない絆がある。だが、映画は声高にメッセージを発することはない。そっけないほどの情報不足がこの監督の持ち味だ。つまり万人にウケる作品でも監督でもないということ。まずはこのスタイルを無条件に受け入れられるかが鍵になる。与えられた映像を見ていれば全員が同じ場所にたどり着くフラットな映画と違い、この作品は、観客自らが物語の世界に積極的に足を踏み入れ、意味を探る作業を強いている。カンヌ映画祭の審査員特別大賞という派手な装飾付きの話題作だが、かなり手ごわい映画だ。

殯(もがり)とは、敬う人の死を惜しみ、しのぶ時間、またその場所のこと。「喪あがり」で喪があけるという意味をかけた言葉でもある。映画は、子供の死と妻の死に縛られる2人の人間が、どうやって再び自分を取りもどすかを描いていく。死は全てを奪う悲劇なのか、遺されたものは悲しみだけを背負うのか。そんな問いに太古から生き続ける森が答えてくれる。襲いかかる自然と向き合い、互いのぬくもりを必要とする真千子としげきの姿は、人生そのものだ。さまざまな洗礼を受けながら、しげきの妻の墓にたどり着いたときには、二人には確かなつながりが生まれている。その絆は、目に見えない命の結びつきを感じあえたものだけが持てるものなのだ。

ただでさえ少ないセリフは極めて聞き取りにくいが、言葉ではなく映像から感じたものを素直に追ってみよう。冒頭の弔いの場面でガッツリと映画につかまれる。次に緑のシャワーのような映像にジンワリと癒される。最後には、原始の深い森が物語の精神性をグンと高める。生と同じ自然な思いで死をとらえることは、決してネガティブな感覚ではなく、むしろ穏やかなぬくもりに似ていた。死は全ての終わりではない。これが映画のメッセージだ。この作品は他の誰にも真似できない完全な河瀬ワールド。背伸びもしなければ媚もしない。ぶっきらぼうな顔をしている。でも、手を伸ばせば誠実に答えてくれる映画だ。

(シネマッシモ評価:★5つが満点)評価が分かれるでしょう度:★★★★☆

□2007年 日本・フランス合作映画
□監督:河瀬直美
□出演:うだしげき、尾野真千子、渡辺真起子、斉藤陽一郎、他

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