夕凪の街 桜の国 [DVD]夕凪の街 桜の国 [DVD]
◆プチレビュー◆
被爆者の心と体の消えない傷を、何気ない日常の中で描く新感覚の原爆映画。どこかの政治家に「しょうがなかった」なんて絶対に言わせない! 【80点】

昭和33年の広島。皆実(みなみ)は原爆で生き残ったことに負い目を感じながらも同僚からの愛を受け入れようとする。それから半世紀後、現代の東京で暮らす皆実の姪の七波(ななみ)は、挙動不審の父を追って広島へと旅をする。2つの物語でつづる被爆者の悲しみと生きる希望とは…。

どこか寂しげな表情の麻生久美子の入魂の演技が素晴らしい「夕凪の街」は、原爆症発症におびえるあまり愛に臆病になる皆実の物語だ。近年、懐かしさと楽しさで描かれがちな昭和30年代だが、こと広島(と長崎)は復興の気運の裏側に癒しがたい傷があったのだと思い知らされる。若くして死を迎える皆実の運命に、多くの人が涙するだろう。だが、この映画の真の求心力は現代から被爆を考える七波の物語「桜の国」にこそある。現代っ子らしい、はつらつとした七波を演じる田中麗奈の、麻生久美子と同じくらい深い演技を見てほしい。七波は旅を通して、父親の秘密や自分のルーツ、今も感じる原爆の影を知る。その過程で、彼女と同様、戦争を知らない私たちの中で、広島はヒロシマになる。被爆2世、3世の体に居座る原爆の痕跡と、何気ない日常のいとおしさの対比に、平和の尊さが見えた。皆実から七波へ、白い髪飾りが受け継がれるように、過去と現在の二つの物語はやがて一つに溶け合っていく。

また、この物語は原爆を直接的に描かない。これが現代に生きる私たちと共有できる視点を与えてくれた。原爆投下直後の地獄絵は、予算の都合もあったのだろうか、実写ではなく印象的な「原爆の絵」が使われる。自らの体にケロイドの跡を残しながら原爆のことには口をつぐむ人々。この深い悲しみとあきらめも、ナレーションでさらりと語る。さらには、被爆者が同じ被爆者を差別する実態は、原爆投下時だけを描いていては決して発見できない歪んだ哀しみだ。忘れてはいけない。向き合って、受け入れて、生きねばならない。原爆を単なる歴史上での出来事ではなく、今もこれからも、途切れることのない悲劇として描くこと。これは、立ち位置を“現代”において初めて可能になる。

この作品は、皆実と七波という二人の若い女性を通して、戦争への憤りを浮き彫りにするが、決して女性特有の視点ではない。戦争は知っていても原爆を知らない人々の目線、また広島に生きる人も含め全ての現代人の目線で見る映画だと思う。「原爆は落ちたんじゃのうて、落とされたんよ」、「生きとってくれて、ありがとうな」。心に染みる言葉が多かった。時折挿入されるコミカルな場面は、ふんわりとした灯火(ともしび)のように温かだ。ラスト、瞳に涙をためながらも、堂々と前を向く七波から、生きる喜びを教えられた気がする。

(シネマッシモ評価:★5つが満点)アプローチの良さ度:★★★★☆

□2007年 日本映画 
□監督:佐々部清
□出演:田中麗奈、麻生久美子、藤村志保、堺正章、他

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