シッコ [DVD]シッコ [DVD]
◆プチレビュー◆
大企業の悪と政治の罪をあぶりだすムーア得意の戦法だが、かつての毒気は薄め。口に出して言いたくない邦題に苦笑する。5点】

あまりにも国民に背を向けたアメリカの医療制度の実態を、インタビューや体験談、さらに英・仏・加の制度を比較しながら、監督のマイケル・ムーア本人が暴いていく様子を記録した映画である。

医療制度は、病気や怪我をして初めて深く知るものだ。この映画のテーマは、アメリカの医療制度の矛盾。まず、保険に加入するのがいかに大変か。また運よく加入できても保険を適用させて妥当な金額を受け取るのがいかに困難か。いや、ほとんど不可能に近い。なぜなら、医療現場と保険会社がガッチリ癒着しているのだから。患者たちの悲惨な実態と金儲けしか頭にない保険会社の狡猾な手口、その保険会社からの多額の献金で潤うがゆえに黙認する政府。悪しき医療制度を導入した政治家ニクソン本人の声のテープは、戦慄ものの歴史の暗部だ。説得力のある構成は、さすがにムーアの上手さを感じさせる。あぁ、恐ろしきかな米国社会!である。

アメリカの医療制度のヒドすぎる実態を描く前半では、治療費を払えない低所得者の患者を他の施設の前に“捨てる”映像がショッキングだ。米国では健康と命は金で買うもので、持たざるものはこういうメにあう。では他の国はどうかと、映画中盤ではイギリス、フランス、カナダに取材を敢行。これらの国では全員が無料医療、国民皆保険制度だ。米国と比べると夢のような世界ではないか。だが、この部分がどう見てもフェアじゃない。医療費ゼロを支える税金制度の説明は一切なし。また米国では低所得者中心の取材なのに、他の国では明らかに中流以上の人々が対象だ。英・仏・加がバラ色の国と単純に思う観客はいないとしても、これでは公正を欠く。権力者相手の毒気も過去の作品に比べてかなり少ない。

誤解を承知で言えば、本作は米国医療制度の一方的な批判を“楽しむ”娯楽作として作られている。ただし、安心できる医療保険制度がほしいという万人共通の願いが基本なのが強みだ。映画の終盤で、キューバのグアンタナモ基地が登場するが、ここは米国の領土で唯一医療費がかからない場所、そして9.11テロの主謀者たちが収監されている所だ。ムーアは、9.11テロの救済活動の後遺症に苦しみながらも医療制度から見捨てられた人々を、グアンタナモに連れて行く。この奇抜なアイデアは、凡人には浮かばない。基地からは拒否されたものの、患者たちにキューバで手厚い看護を受けさせることに成功したのだ。挑発的であざといまでのムーアのスタイルに嫌悪感を持つ人も、彼が選ぶ素材の求心力は認めるだろう。企業や政治家など、巨大権力の前では我々庶民は無力に近いが、何か行動を起こすことによって小さくて意外な突破口が開けるかもしれない。まだその可能性はある!と信じたくなる作品だ。

(シネマッシモ評価:★5つが満点)突撃取材度:★★☆☆☆

□2006年 アメリカ映画 原題「Sicko」
□監督:マイケル・ムーア
□出演:マイケル・ムーア、他

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