パンズ・ラビリンス 通常版 [DVD]パンズ・ラビリンス 通常版 [DVD]
◆プチレビュー◆
現実と妄想が美しくも残酷に交錯する。どぎつくて甘美なビジュアルで描くダーク・ファンタジーの傑作。85点】

1944年のスペイン。内戦で父を亡くしたオフェリアは、冷酷な義父のビダル大尉から逃れるため、屋敷の近くの謎の迷宮に足を踏み入れる。そこで出会った牧神パンはオフェリアに、あなたは本当は魔法の国の王女の生まれ変わりだと告げるのだが…。

12歳の少女が試練を乗り越えて成長するこの物語は、ビルドゥングス・ロマンの系譜に連なるものだ。だが本作は、明るい要素とは無縁。輝く未来、同年代の仲間、可愛い動物たちなど、一切登場しない異色のファンタジーだ。ダークな映像で語られるのは、人間の醜さと強さの本質である。奇怪な姿の牧神パンは、オフェリアに3つの恐ろしい試練をクリアすれば、本当の両親の待つ幸せな魔法の国に帰ることができると言う。この提案に、本好きで夢見がちなオフェリアは、怖さと同時に嬉しさを感じてしまう。なぜなら、現実はあまりにつらいことばかりだから。物語の世界に逃避しがちな彼女は、ことあるごとに母親から「人生はおとぎ話じゃない」と叱られるが、オフェリアの空想世界は不気味な魔物がうごめく迷宮だった。ファシストの義父がいる現実に負けず劣らず恐ろしい世界なのである。映画には血生臭い残酷描写も登場し、時には目を背けたくなることも。この逃げ場のない恐怖の二重構造の構成が巧みで、少女のピュアな心を浮き彫りにさせる。現実と空想の世界はなぜか地続きになっていて、チョークで壁に描いた扉から異世界に行くなど、つなぎのセンスが抜群にいい。

この映画を堪能するためには、ヒロインの持つ特権性を理解しなければならない。オフェリアは大人への入り口に立つ無垢な少女だ。無謀さと好奇心がごちゃまぜになって、粘着質の巨大ガエルの唾液にまみれ、手のひらに目がある怪物に近づいていく。ウネウネと気味悪く動く植物の根に、優しく話しかけたりもする。おぞましいものに触れながらも、自分はそんな汚れた存在になどなりはしないと信じるのが少女特有の潔癖さ。そしてこれが彼女の冒険の原動力なのだ。夢見るのは優しい両親に愛される、光に満ちた世界。グロテスクな迷宮で、勇気をもって試練に立ち向かい、懸命に幸福をつかもうとするオフェリアがけなげだ。ヒロインを演じる新人のイバナ・バケロは、どこかシャルロット・ゲンズブールに似た顔立ちで、繊細な表情とけれん味のない演技が魅力的である。

イマジネーションあふれる独特の映像が話題だが、現実と空想がリンクするエモーショナルな物語にこそ魅了される。ゲリラ側の人間が敵にとどめをささなかったり、大尉が軍人としてスキがあることなど矛盾点もあるが、独裁政権末期の山間部のゲリラ戦など、理詰めでは理解できない矛盾だらけの世界だったに違いない。義父の魔の手を逃れ、生まれたばかりの弟を抱いて逃げるオフェリアの運命は?終盤の展開はサスペンスフルで目が離せない。そして、唐突にやってくる悲痛な運命。痛ましさに胸が張り裂けそうになるが、少女がたどりついたその場所は、さらなる高みへ昇華した金色の理想郷だったと解釈したい。オフェリアの存在こそ、人類の希望ではなかろうか。この映画に、キリスト教的教義を見るもよし。少女の成長物語として見るもよし。はたまたレジスタンス映画として鑑賞するのもいいだろう。いずれにしても、ハリウッド産のファンタジーとは全く違うテイストで、こってりと濃厚な映像世界はまさにラテン系。映画ファンなら絶対に見逃してはいけない。

(シネマッシモ評価:★5つが満点)残酷童話度:★★★★★

□2006年 メキシコ・スペイン・アメリカ映画 原題「EL LABERINTO DEL FAUNO/PAN'S LABYRINTH」
□監督:ギレルモ・デル・トロ
□出演:イバナ・バケロ、ダグ・ジョーンズ、セルジ・ロペス、他

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