キングダム/見えざる敵 【プレミアム・ベスト・コレクション\1800】 [DVD]キングダム/見えざる敵 【プレミアム・ベスト・コレクション\1800】 [DVD]
◆プチレビュー◆
政治的な内容を、ハリウッドらしい演出で描いた社会派娯楽映画。テロの真犯人に迫る終盤の展開は手に汗を握る。70点】

 サウジアラビアの外国人居住区で大規模な自爆テロ事件が発生。同僚を亡くしたFBI捜査官フルーリーら4人は、現地での調査を主張し、半ば強引にサウジに渡る。状況のすさまじさに愕然としつつ、僅か5日という期限付きの調査を開始するが…。

 キングダム(王国)とは、石油による莫大な富によって王一族が支配する絶対君主制の国サウジアラビアを指す。国王の命令イコール法律、憲法すなわちコーラン、外国メディアの取材は許されず、メッカ巡礼以外の観光は不許可という特殊な世界だ。映画の最初に、サウジと米国との関係を、概略で説明してくれるのがありがたい。サウジが近隣諸国のテロ組織に密かに資金を提供し、それを米国が黙認している事実や、米国の敵イラン・イラクへの微妙な思惑、米国の軍事力や科学技術に依存する半面、介入を嫌がるサウジの空気などを頭に入れておくと、この映画がより楽しめるだろう。特に、民意を無視した国家間のあやふやなかけひきが、結局はイスラム圏をテロの温床にする点は、見逃せない。映画の冒頭、むごたらしい自爆テロの場面に驚かされるが、平和な日常のすぐ隣にテロの恐怖があるのが、ジハード(聖戦)という考え方が浸透する中東の実態なのだ。監督はピーター・バーグだが、製作はマイケル・マン。硬派な作風で、闘う男の美学を追求する。

 本作は社会派作品だが、ハリウッドの常で、虚実混合はもちろんある。資料によると、サウジ国内で女性やユダヤ系の人間が、堂々と捜査に加わるというのは考えにくいらしい。法医学、爆弾処理、情報分析を専門とするFBI捜査官たちが特殊部隊並みに活躍するなど、無理な設定もある。だがそのことを気にするよりも、政治的で複雑な内容をエンターテインメントとして見せた力量を評価したい。報道管制により情勢を把握するのが難しいサウジを舞台に選んだチャレンジは、今後、米映画界がこの国を無視できないと認めている証拠だ。映画は、圧倒的に不利な捜査状況で成果をあげるために、現地サウジの国家警察のガージー大佐という強い味方を配している。はじめは反発しあうガージーとフルーリー捜査官の間に、次第に目的を同じにするプロフェッショナル同士の絆が芽生えるところがいい。たとえそれが悲劇の中のひとときの慰めであれ、殺伐としたこの物語の中で、唯一の人間らしいパートが、異文化の彼らの間に生まれる友情なのだ。

 手持ちカメラを駆使したドキュメンタリー・タッチの映像は、サスペンスフルな終盤へと観客を引きずり込む。怒り、不安、緊張。カメラはそのまま観客の目だ。クライマックス、テロ事件の首謀者と狙いを定めていた、サウジ基盤のアルカイダ幹部アブ・ハムザの懐に飛び込んでの死闘は、迫力満点で圧倒されてしまう。拉致された人質の描写など本物の映像のように恐ろしい。そんな中、激しい銃撃戦に怯える少女にお菓子を差し出した女性捜査官ジャネットが、少女の小さな手からお返しの品物をもらう。その途端にテロの真相が目の前にこぼれ落ちる瞬間は、背筋が凍ってしまった。そして、リーダーのフルーリーが、同僚の死に涙ぐむジャネットの耳元でささやく言葉と、アブ・ハムザが孫に伝える言葉が符号となることを知ったとき、きれいごとではない人間の本質を見た思いがする。暴力と憎しみの連鎖を突きつけられ、やるせない。だがそれは、この作品が世界の現状を冷静に描いているということなのだ。敵が見えないのと同じくらい、正義もまた見えない。怖い作品だ。

(シネマッシモ評価:★5つが満点)娯楽アクション度:★★★★☆

□2007年 アメリカ映画 原題「The Kingdom」
□監督:ピーター・バーグ
□出演:ジェイミー・フォックス、クリス・クーパー、ジェニファー・ガーナー、他

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