ヘアスプレー [DVD]ヘアスプレー [DVD]
◆プチレビュー◆
太めの女の子が主人公の、にぎやかで痛快なミュージカル映画。個性的なキャラが魅力的だ。85点】

 1962年のボルチモア。ぽっちゃり太めの女の子トレーシーは、歌と踊りが得意な、元気いっぱいの高校生。ひょんなことから大好きなTV番組コーニー・コリンズ・ショーに出演して人気者に。だが彼女を快く思わない母娘が様々な妨害を企てて…。

 もともとは80年代のカルト・ムービー。それがブロードウェイで大ヒット、再び映画として帰ってきた。今回はかつてのマニアックな味付けではなく、あくまでも明るく楽しく、万人ウケするミュージカルを目指している。意表をつくのは、豪華な脇役の笑える役柄だ。ビッグ・サイズのママを演じるのは、なんと女装したジョン・トラボルタ。冒頭にチョイと出てくる露出狂のおじさんは、オリジナル映画の監督の、鬼才ジョン・ウォーターズその人である。物語では、公民権運動のうねりが高まる60年代らしく、人種差別や体制への抗議などが描かれるが、重さはみじんもない。作品のテーマは、広義での既成概念の打破だ。黒人がなぜ差別されなければいけないのか?いうシリアスな問いは、太めの女の子がダンス・ショーに出てなぜいけないの?という表層的な疑問と、いつしか同じレベルに思えてくる。人種や容姿が人と違っていてもかまわない。歌い上げるのは、そんな居直り系ポジティブ・メッセージである。

 ダンスシーンは全てがエネルギッシュで、見ているこちらまでハジケそうだ。主要キャストから脇役まで見事なパフォーマンスだが、とりわけQ.ラティファのパンチの効いた歌声が圧倒的である。天下一品のハマリ役は、オーディションで選ばれたトレーシー役、ニッキー・ブロンスキー。邪気のない笑顔が超キュートだ。おチビちゃんだが、いったん歌い踊りだすと、プヨプヨの体からものすごいオーラを発する。おしゃれなファッションと二の腕の太さ!もう釘付けだ。彼女が朝っぱらから声を張り上げて歌うのが、ボルチモアへの愛というのも実は深い。そこは南北戦争の昔から、異なる価値観がせめぎあう場所だ。トレーシーは人種差別反対のデモに参加し、そのことで大ピンチになってしまう。だが、正しいと思うことにはまっすぐにトライするのがトレーシーだ。それは、翌1963年のワシントン大行進の最初の一歩にもなろう。

 差別や不正がはびこるミス・ヘアスプレー・コンテストは、トレーシーたちによって痛快なフィナーレへ。観客を興奮の頂点に連れて行く。実際、この映画のテンションの高さといったらインド映画並みだ。高揚感みなぎる群舞で、スクリーンは60'sの極楽浄土と化していく。天真爛漫なヒロインを好きにならずにいられない。こんなにラブリーな作品はめったにない。だけど、この映画の人工的な明るさが逆にシニカルに見えるのが、現代という時代の哀しさである。差別は、表面的な行為や言葉では無くせても、昔のような露骨さがない分、より巧妙に意識下に浸透している。最高に楽しんだ後にゆっくりと立ち上ってくるのは、ノーテンキなエンタメ映画の枠組みからにじみ出る、ウォーターズ作品とは別種のニヒリズムなのだ。

(シネマッシモ評価:★5つが満点)前向き度:★★★★☆

□2007年 アメリカ映画 原題「HAIRSPRAY」
□監督:アダム・シャンクマン
□出演:ニッキー・ブロンスキー、ジョン・トラボルタ、クイーン・ラティファ、他

人気ブログランキング用バナー

←この記事が気に入ったら、ポチッとクリックしてもらえると嬉しいです\(^o^)/