マイティ・ハート/愛と絆 スペシャル・コレクターズ・エディション [DVD]マイティ・ハート/愛と絆 スペシャル・コレクターズ・エディション [DVD]
◆プチレビュー◆
パキスタンで誘拐・殺害されたジャーナリストとその妻を描く実録社会派映画。アンジーの熱演が見所。 【70点】

 2002年、パキスタンのカラチで取材中のウォールストリート・ジャーナルの記者ダニエル・パールが誘拐される。妊娠中の妻マリアンヌと友人たちは、地元警察やFBI捜査官らと共に、全力で捜査を開始するが…。

 数々の話題作を配給してきたUIP映画。メガヒット「JAWS/ジョーズ」、名作「レインマン」、最近では、華麗な「ドリームガールズ」や大ヒットSF「トランスフォーマー」などで洋画を牽引してきた存在だ。大作のイメージが強いが「ユナイテッド93」のような小規模な秀作もUIP映画の作品である。この伝統ある配給会社は、2007年末で日本での37年の歴史を閉じる。前置きが長くなったが、同社の最後の配給作品になるのがこの「マイティ・ハート/愛と絆」だ。ブラッド・ピット製作、アンジェリーナ・ジョリー主演と聞けば華やかだが、作品は意外なほど地味で硬派な社会派映画である。英国の実力派マイケル・ウィンターボトム監督は、記録映画のような生々しさと、叙情的な美しさを作品に込めながら、アルカイダと推察されるテロリストによる誘拐事件を、夫の無事を信じ続ける妻の強い愛情を中心に演出した。

 映画の最大の魅力は、マリアンヌを演じるアンジーの、静かな熱演だ。平和活動家でもある彼女には、思い入れの強い役柄だろう。映画製作中にアルカイダから脅迫状が幾度届いてもそれに屈せず、作品を世に出した勇気と、恋愛もアクションもない地味な作品に、損得抜きで全力投球した熱意は本物だ。マリアンヌは、夫が誘拐された時、妊娠5ヶ月。どれほど不安だったか想像もできない。心身ともに極限状態にありながら、決してあきらめない意思の強さは並み外れたものだ。彼女を支えたのはおなかに宿る小さな命。子どもの存在は、それだけで女性を何倍も強くするのだと改めて思う。だが、そんなマリアンヌが、心がくじけそうな時「南無妙法蓮華経」とお題目を唱えるシーンは、感動していた気持ちに水を差した。日本と欧米における創価学会のイメージの差異はひとまず脇に置くとして、実際、宗教はこの誘拐事件を必要以上に複雑にしている悪しき要素なのだ。パキスタンは国民の大半がイスラム教徒。そこにはアルカイダの極端なジハード思想も存在する。おまけにダニエルは彼らが忌み嫌うユダヤ系だ。当時の国際情勢も、インドと敵対するパキスタンの思惑や、アメリカとの関係性など、一筋縄ではいかない。宗教と政治がからみついた時、歴史は常に悲劇を引き起こしてきた。なるほどパール家では、異なる人種や宗教が共存するが、それはごく小さな特殊な世界のこと。神頼みするほどの窮地なのは分かるが、この事件の渦中でジャーナリストが宗教にすがる心情は納得できない。

 どこかスッキリしないこんな思いを一気に吹き飛ばすのが、物語後半に登場するマリアンヌの2つの叫びだ。まず、夫の命が遂に尽きたと知ったときの身を絞るような慟哭(どうこく)。言葉にできない悲しみがスクリーンににじみ、結果を知っていても涙を誘う。もう一つは出産時の生みの苦しみの叫び声だ。激しさは同じだが、死と生、絶望と希望が、表裏一体で呼応している。共にジャーナリストであったダニエルとマリアンヌのパール夫妻は、危険な取材には何度も遭遇しているだろう。色々な意味で、覚悟がなければ務まらない職業で、マリアンヌは今もフランスでこの仕事を続けている。憎しみに負けなかった一人の女性を通して映画が語ったのは、混迷の時代を生きる難しさだ。だが、同時に見えるかすかな希望を私たちは見失いたくない。

(シネマッシモ評価:★5つが満点)母は強し度:★★★★★

□2007年 アメリカ映画 原題「A MIGTHY HEART」
□監督:マイケル・ウィンターボトム
□出演:アンジェリーナ・ジョリー、ダン・ファターマン、アーチー・パンジャビ、他

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