エンジェル [DVD]エンジェル [DVD]
◆プチレビュー◆
強い上昇志向でセレブの仲間入りを果たした女性の成功と転落。華やかな映像が美しいが、オゾンらしさは薄い。 【65点】

 20世紀初頭のイギリス。貧しい生まれのエンジェルは、上流社会への強烈なあこがれを基に小説を書き、作家としてデビューする。大成功を収めた彼女は、豪邸を購入し貴族出身の画家エスメと結婚するが、やがて夫の驚愕の事実を知ることに…。

 男性なのになぜか女を描くのに長けた監督がいる。温かに、ユーモラスに、時には意地悪に。女性の長所も短所もちょっと冷めた目線で捉えるのが共通点だ。複雑な女心を巧みに描く監督は、例えば日本の成瀬巳喜男、米国のゲイリー・マーシャル、スペインのペドロ・アルモドバルあたり。若き巨匠の風格を漂わせる仏人監督フランソワ・オゾンもそんな映像作家の一人だ。モラルを無視した独特のストーリーテリングと、人間の深層心理を深くえぐる演出がこの人の身上である。観客の口をポカンとあけさせたり、謎を残したままジンワリと終わってみたりと、説明し難い微妙な余韻が楽しみで、ファンは彼の新作を待っている。だが、はたして本作は?これが何ともまっとうな作品だった。主人公エンジェルは自称天才の勘違い女だが、彼女が望むのは冨と名声と愛。いたって普通の願いではないか。

 エンジェルは大衆にウケるロマンス小説を書いてベストセラー作家となるが、批判にはいっさい耳を貸さない。その態度は、不遜というより天然に近い。根拠のない自信こそが彼女の武器だ。エンジェルは貧しい出生を隠し通すために自分の人生を嘘で脚色していく。父は貴族、母は名ピアニストと語り、夫の死因を捏造するその姿は、滑稽で哀れだ。小説と現実はいつしか混同し、それが彼女を本当の幸せから乖離させる。そんなヒロインの性格設定を効果的に表すのは、往年のハリウッド映画のような色彩だ。豪奢な衣装が数多く登場するが、エンジェルが一人で自分と向き合うときは白い服であることに注目したい。彼女は何色でもなく、油断するとすぐにくすんでしまう脆い存在だ。認めたくない現実を封じ込めるには、たとえ不吉であろうと時代遅れであろうと、強い色が必要なのである。終盤、主人公は、人生のどんでん返しを味わうことになるが、そこで効いてくるのは売れない画家の夫エスメがエンジェルに言った「君には真実がない」という言葉だ。ヒロインは空想の世界に逃げ込み、決してそこから出ようとしなかった。幼い頃からあこがれた豪邸“パラダイス”が、彼女を縛る牢獄に見えてしかたがない。私たちは、映画を見ながら、成功へと駆け上ったエンジェルが、どういう風に転落していくのかを興味津々で見守ることになろう。

 観客が共感できない傲慢な主人公に、オゾンはいつも特別な罰と辛辣な慰めを与えてきた。だが、この作品では、ヒロインにそっと寄り添い、オゾン流の優しさを見せている。エンジェルを軽蔑する編集者の妻シャーロット・ランプリングに「小説は認めないけれど、大した女性だわ」と言わせるのがその証拠だ。ちなみに、この映画の主人公は、今は本国イギリスでも忘れられた、当時の流行作家をモデルにしている。自分が生きている間に成功を収めるエンジェルは時が経てば忘れられる商業作家。一方、夫エスメは死後に画家として評価が上がる孤高の芸術家だ。アーティストとして、人間として、どちらが幸せか。そしてこの映画「エンジェル」は、永遠に映画ファンの記憶に残る作品か。そんな疑問が映画監督オゾンの脳裏をよぎったに違いない。この物語では、いつになく同情混じりの穏やかなまなざしでヒロインをみつめている。

(シネマッシモ評価:★5つが満点)毒気度:★★☆☆☆

□2007年 ベルギー・英・仏合作映画 原題「ANGEL」
□監督:フランソワ・オゾン
□出演:ロモーラ・ガライ、サム・ニール、シャーロット・ランプリング、他

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