その名にちなんで (特別編) [DVD]その名にちなんで (特別編) [DVD]
◆プチレビュー◆
アメリカで暮らすインド人家族の絆の物語は、不思議な温かさと深みがある。名前に込められた父の思いとは? 【80点】

 インドのコルカタで列車事故に遭ったアショケは手にした本のおかげで九死に一生を得る。その後、料理と英語が得意な美しい娘アシマと見合い結婚し、NYで暮らし始める。だが、米国生まれの子供たちとはカルチャー・ギャップが生じてしまい…。

 自分の名前に込められた両親の深い愛情が、やがてアイデンティティーの確立へと結びつく。あるインド人移民家族の絆を描くこの物語は、とても普遍的だ。異国の地で暮らす夫婦が、小さな喧嘩や習慣の違いを乗り越えて確かな信頼を築いていく様子が好ましく、いつしか共感を覚えてしまう。二人を固く結ぶのは遠く離れても決して忘れない故郷インドの存在だ。一方、アメリカで生まれ育った子供たちは、インド人でありながら考え方は米国そのもの。親も戸惑うが、自分の拠り所に確かなものを見出せない子供たちのやるせなさも理解できる。世代と文化の溝に悩む家族の物語の原作は、ピュリツァー賞作家ジュンパ・ラヒリのベストセラー小説だ。

 この映画で初めて知ったが、インドでは生まれてからしばらくの間、名前を付けなくてもOKらしい。ただしアメリカに住むインド人夫妻の子供は名無しというわけにはいかない。そこで息子に付けた名が、ロシアの文豪ニコライ・ゴーゴリから取った“ゴーゴリ”だ。この小説家は天才だが、皮肉屋で変人、一生のほとんどを異国の地で暮らした孤高の人である。米国生まれのインド系なのにロシア人の名の息子は、自分の名前が大嫌いだ。この名のせいで、からかわれてきた彼は、米国風の名前に変えたがる。最初は息子の希望に「好きにすればいい」と言った父だったが、ある時、自分は若い頃、列車事故に遭って、ゴーゴリの「外套」の切れはしを握り締めていたおかげで救出されたのだと息子に語って聞かせる。命が助かったことに次ぐ奇跡が、子供の誕生だったという父の思いが息子に伝わり感動的だ。ゴーゴリは名前の由来を聞いてから、それまで疎ましく思っていた自分の名に誇りを持ち、両親が自分に託した希望を感じ取る。アメリカナイズされたはずの彼が、自らのルーツであるインドを強く意識し始めたのはそれからだ。家族の死、恋人との別れ、結婚と離婚。節目にさしかかるたびに、故郷インドとの再会があった。

 原題は“他人の名をとって名付けられた人”の意味。ひとつの名前からスケールの大きな家族の物語をつむぐ構成が素晴らしい。また、最初は父のアショケ、次は母のアシマ、それから息子のゴーゴリと、次々に視点が変わるのに、物語はまったくブレることはない。最も大きなウェイトを占めるのはアシマだが、登場人物のどの位置からもストーリーの道筋が見える。まるでとうとうと流れる大河のようだ。時にその流れは、両岸の堆積物や浮遊物を取り込み、でも方向を見失うことなく、ゆったりと進んでいく。人生も同じだ。楽しいこともつらいことも理解できないことも起こるが、どんな時も愛する人の手をしっかりと握っていれば怖くない。国際的に活躍する女性監督ナーイルは、ストリート・チルドレンや若者の結婚観からインド社会をみつめてきたが、そのまなざしは決して告発調ではなく、どこか楽観的で温かい。この人の中では、西欧とアジア、伝統と革新は対立せず、渾然一体で存在している。ましてや優劣を競うものではないのだ。母アシマを演じる女優タブーの驚くほどの美しさ、インド特有の華やかな祝祭の高揚感。この映画には、母性にも通じる大らかさがある。見終われば、アショケとアシマ夫妻の大きな愛情に包まれたかのような幸福感を覚えた。

(シネマッシモ評価:★5つが満点)家族愛度:★★★★★

□2006年 アメリカ・インド合作映画 原題「The Namesake」
□監督:ミーラー・ナーイル
□出演:カル・ペン、タブー、イルファン・カーン、ジャシンダ・バレット、他

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