ジェシー・ジェームズの暗殺 特別版(2枚組)
◆プチレビュー◆
西部開拓時代の伝説の無法者と彼を殺した男の心理劇。ゆったりとした時間の中で叙情的な映像が流れてゆく。 【65点】

 南北戦争終結後の米国。強盗ジェシー・ジェームズは、犯罪者ながら、世間からは義賊と崇められていた。カリスマ性を漂わせるジェシーに憧れる手下のロバートは、ジェシーの活躍をつづった大衆誌を宝物にするほど彼を崇拝していたのだが…。

 米国史上、最も有名な無法者ジェシー・ジェームズは、日本での知名度は低いが、ハリウッドでは何度か映画化されている。徹底的にジェシーを美化した「地獄への道」(39)、凡作西部劇「アメリカン・アウトロー」(01)などの作品がそれだ。なんとか鑑賞に堪えられるのは、刹那的な生の煌きを描いたウォルター・ヒル監督の「ロング・ライダーズ」(80)だろう。それでは本作はどうか。義賊とも英雄とも、単なる犯罪者とも異なる、複雑なジェシー・ジェームズ像がそこにある。さらに、今までジェシーを背中から撃ち殺した裏切者としか認識されなかったロバート・フォードの人間性に光を当て、ジェシーとロバートという二人の男の心理ドラマとして構成している。

 「卑怯者ロバート・フォードによるジェシー・ジェームズの暗殺」という長い原題だけで、結末やキャラクターの性格付けまで説明可能だ。なのに上映時間は2時間40分。長い。だが、霧のような煙の中からジェシーが現われる冒頭の部分から、この作品の時間経過は、現実とは全く違う速度で進むのだと分かった。ざわめく風、虫の声、草に触れる指先のその感覚まで、細かいサウンド・デザインが施され、テレンス・マリック作品を思わせる詩的で荒涼とした映像が、ジェシーを歴史の彼方からゆっくりとスクリーンに呼び戻す。この有名な暗殺劇のポイントは、彼らが生きた19世紀末が、鉄道や電話、新聞が普及しはじめたインフラ整備の時代だったことだ。安価な三文小説ダイム・ノベルが大流行し、ジェシーはメディア操作の格好の素材となる。南軍所属の哀切を背負う甘いマスクのジェシーが夜間に列車を襲うたびに、鉄道会社の非道に苦しむ大衆は、彼にロビン・フッドを重ねて伝説を創った。ジェシーの本当の姿など誰も求めていない。映画はそんな主人公を逆光でシルエット化し、彼が虚像であると教えてくれる。虚ろな影に手を伸ばしても決して届かない。このことがロバートの純な憧れをくすぶる憎悪に変えた。背後からジェシーをみつめる彼の瞳が痛切である。

 猜疑心が強く静かな狂気を秘めるジェシーをブラッド・ピットが怪演に近い名演。特に他者への無関心が浮かぶ表情は、屈指の演技と言える。冷めた兄フランクを演じるサム・シェパードもさすがの貫禄だ。だが、ロバートを演じたケーシー・アフレックはその上をいった。彼に対して“ベン・アフレックの弟”という形容は今後は必要ないだろう。臆病者だがうぬぼれが強く計算高い、歴史の敗北者。こんな難役をこなせる役者はそう多くはいない。何者になりたいのかさえ分からなかった若者ロバートは、自分もジェシーと同じ形の死を心の中で願っていたのではないか。この映画に漂うのは、西部劇の痛快ではなく、アメリカン・ニュー・シネマの哀愁なのだ。

(シネマッシモ評価:★5つが満点)壮快感度:★☆☆☆☆

□2007年 アメリカ映画 
原題「THE ASSASSINATION OF JESSE JAMES BY THE COWARD ROBERT FORD」
□監督:アンドリュー・ドミニク
□出演:ブラッド・ピット、ケイシー・アフレック、サム・シェパード、他

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