スウィーニー・トッド フリート街の悪魔の理髪師 特別版 (2枚組)スウィーニー・トッド フリート街の悪魔の理髪師 特別版 (2枚組)
◆プチレビュー◆
バートン印のグラン・ギニョール劇は哀しい復讐の物語。ミュージカル初挑戦のデップの歌声が見事だ。 【75点】

 19世紀のロンドン。天才理髪師スウィーニー・トッドはフリート街に店を構える。彼は、15年前に自分を無実の罪で投獄した上、妻子まで奪ったターピン判事への復讐の機会を狙っていた。パイ屋のラベット夫人はそんな彼にある提案を持ちかける…。

 人間というのは本来残酷なものが大好きな生き物なのではなかろうか。それを見抜き、見世物にした娯楽が19世紀末から20世紀半ばまでパリに存在した大衆芝居グラン・ギニョールだ。アブノーマルな登場人物が演じる、荒唐無稽で血生臭い物語。けれん味たっぷりの演目を、人々は大いに楽しんだ。「スウィーニー・トッド」はもともとは大人気のブロードウェイ・ミュージカルだが、鬼才バートンは自分の波長に合わせてグラン・ギニョール風に映画化してみせた。倒錯的でおぞましい物語に、独特の“間”を与えるのは、今までミュージカルとは無縁だった俳優たちの力強くて美しい歌声だ。人気と実力がパーフェクトに結びついた俳優ジョニー・デップが、異様なルックスで初めて歌を披露するが、これが実に魅力的なのである。映画は、残酷描写が満載なので万人向けではないが、完成度はかなり高い。

 物語の主人公は剃刀で喉をかき切る殺人鬼で、人間を殺した上にその肉を加工してパイに詰めて売りさばくというからすさまじい。だが、猟奇的な話を、どこかポップでコミカルにするのがバートンとデップのゴールデン・コンビの得意技だ。そして根底には愛を仕込む。映画の両輪は、妻子を奪われた男スウィーニーの狂気と、彼を秘かに愛するラベット夫人の妄想だ。殺人の共犯者でありながら全く心が通じ合わない関係性は、物語の重要なメタファーとなる。この二人のズレが小さな秘密を生み、大きな勘違いとなって、取り返しの付かない悲劇へとつながる仕組みだ。映像はすべて殺伐としたグレートーンで統一され、ただならぬ雰囲気を醸し出している。ただし、幸福な過去の回想シーンは美しい花園のような色調で、その対比が絶妙だ。美術はフェリーニ作品を多く手掛けたイタリアの名手ダンテ・フェレッティによるもので、主人公の心理を雄弁に物語るビジュアルは、作品のレベルを確実に上げている。

 実在したとも伝説とも伝えられるスウィーニー・トッドの物語から立ち上ってくるのは、肥え太った近代都市への強烈な嫌悪感だ。時代はまさしく産業革命の渦中。スウィーニーの愛用する特製の回転椅子よろしく、世の中の価値観は逆転した。人々は他人に無関心になり、物の生産はスピードと規格と効率のみを追求するようになる。理髪店の椅子で命を断たれ、ズルリと階下に落ちた死体はあっという間に処理され、パイの中身になって店頭へ。ロンドンで一番マズいラベット夫人のパイ店はたちまち大繁盛というわけだ。鮮血に染まったスウィーニーの陰惨な合理主義に、人間性など無用なだけである。しかし、復讐とはすこぶる人間的な行為ではないのか? これが主人公の運命のパズルの最後のピースだ。デップの優れて有機的な演技は、私たちにこの都市伝説の皮肉と哀しみとを語りかけてくる。

(シネマッシモ評価:★5つが満点)流血度:★★★★☆

□2007年 アメリカ映画 
原題「SWEENEY TODD:THE DEMON BABER OF FLEET STREET」
□監督:ティム・バートン
□出演:ジョニー・デップ、ヘレナ・ボナム=カーター、アラン・リックマン、他

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