アメリカン・ギャングスター [DVD]アメリカン・ギャングスター [DVD]
◆プチレビュー◆
実在の麻薬王と熱血刑事を描いた実録犯罪劇。ワシントンとクロウの骨太の演技は見応えたっぷりだ。 【75点】

 70年代のNYハーレム。フランクはベトナム戦争を利用して麻薬ビジネスを拡大、暗黒街の陰のボスとして君臨する。目立たず行動し、決して尻尾をつかませない彼に目を付けたのは、腐敗した警察組織で奮闘する刑事リッチーだった…。

 暗黒街でのし上がるキレ者と、不器用なやさぐれ刑事(デカ)。この構図で思い浮かぶのは「イヤー・オブ・ザ・ドラゴン」だ。マイケル・チミノが怒りと私怨の壮絶な暴力を描いてみせたのに対し、リドリー・スコットのこの実録映画は、派手な撃ち合いやアクションとは無縁。追う男と追われる男は、2時間37分の上映時間の終盤近くまで顔さえ合わせない。だが、時にその静けさが凄みとなる。

 物語の軸のフランクは、いわば暗黒街のニューカマーだ。まず黒人であること、次に、産地直送で麻薬を密輸し“良心的な値段”で売る新しいビジネスを築いたこと。私生活では表立つようなマネはせず、豊かだが地味な暮らしぶりだ。明らかに従来のマフィアとは価値観が異なる。一方、無骨な刑事リッチーは、正義感は強いものの生活はだらしがなく、家庭は壊滅、女癖も悪い。汚職が当たり前の警察組織に嫌気がさしており、弁護士を目指している。法曹界が清いわけではないが、米国の警察組織の桁違いの腐敗ぶりは「セルピコ」でも描かれている通りだ。ギャングと刑事。立場も性格も真逆だが、二人とも古い体制を壊し、現状打破を目指す点が共通している。

 コインの裏と表のような男二人の世界が、ゆっくりとひとつに交わる構成が緊張感を醸し出して、映画の世界に引き込まれてしまう。スコット監督得意のスタイリッシュな映像は封印されているが、おかげで登場人物の生き様が見事に際立った。特にフランクという男の強烈なカリスマ性は魅力的でさえある。それは、彼を演じるワシントンの上品なたたずまいが、悪の向こうに美しさをにじませるからに他ならない。本来は善人の役が似合う美形黒人スターは、どんな役でも観客の感情移入を誘ってしまうのだ。実在の人物を演じてそれは顕著になる。

 そんなワシントンが演じるフランク・ルーカスは、実はこの作品にアドバイザーとして名を連ねている。殺人を重ね、監獄にいるべき男が、映画制作に携わるとはどういうワケなのか? その答えは、ラストのテロップで明かされるので、映画を見て確かめてほしい。終盤、リッチーがフランクを追い詰め物語はクライマックスに。だが、この実話の高ぶりは二人のその後の行く末にこそあるのだ。遂に対決となるその時、スクリーンには賛美歌アメイジング・グレースがドラマチックに流れだす。この曲は葬儀で頻繁に使われる一方で、寿ぎの場でも歌われる、懺悔と許しの曲だ。アメリカの犯罪の系譜は、勧善懲悪で語れるほど単純ではない。フランクとリッチーはともに変革者で、清濁併せ持って生き抜く術を知っている。この人間像はそのまま国家の姿にも当てはまる。この国の矛盾は個の矛盾を映すものだ。正義と同様、悪のエッセンスも貪欲に利用して生きるアメリカのしたたかさを見る思いがする。

(シネマッシモ評価:★5つが満点)男の美学度:★★★★☆

□2007年 アメリカ映画 原題「AMERICAN GANGSTER」
□監督:リドリー・スコット
□出演:デンゼル・ワシントン、ラッセル・クロウ、キューバ・グッディング・Jr、他

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