ヘンダーソン夫人の贈り物
ヘンダーソン夫人の贈り物 デラックス版
実話に基づいたこのイギリス映画は、軽やかながら、静かな反戦の思いが込められた、上質のバックステージものだ。
第二次世界大戦前夜、富豪の未亡人ヘンダーソン夫人が、ロンドンの劇場を買い取り、女性のヌードを見せる奇抜な興行を打ち出して、大当たりするお話である。劇場オーナーのヘンダーソン夫人を名女優ジュディ・デンチが可愛らしさとユーモアたっぷりに演じ、彼女と常に対立しながらも名コンビを組む支配人ヴァンダムをボブ・ホスキンスがこれまたハマリ役で名演する。
自由な空気がまかり通る仏のパリならいざ知らず、劇場で女性のヌードを見せるなどもってのほか!というのが20世紀初頭のお堅い英国ロンドンの空気だ。その中で、ヌードレビューがお上(かみ)の検閲をくぐりぬけたのは、美術館の絵画のように、ステージのヌードも背景や舞台のセットと同様に「静止」すればよいという、ちょっと笑えるような理屈。お役人の顔もたち、新しい興行としてもOK、観客も大喜びという、本音と建前が同居したイギリスらしいエピソードである。
様々な小道具でステージの上のヌードの女性をうまく演出するが、特に印象的なのは美しく装飾された「扇子」だ。扇子はもともと日本生まれ。平安時代に京都で誕生した檜扇(ひおうぎ)が最初とされる。涼をとるための夏扇が代表だが、婚礼の場で使われたり(式服扇子)、舞踊の小道具として使用されたり(舞扇)する。美しい絵柄は時に芸術品になる、洒落た魅力の小道具だ。日本生まれの扇子は海外へ渡り、18世紀にはヨーロッパの貴族の間で大流行。上流階級の婦人は競って美しい扇子を身につけた。
この映画ではステージ上でヌードの女性たちの体の一部を隠したり、大きな羽で飾られたカラフルな扇子を女性の周囲で揺らしながら華やかな登場を演出したりする。だが本当に劇中で上手く使われるのは、ヘンダーソン夫人が劇場の暗い控え室で、一人でステージ用の大きな扇子を広げてみせる場面。胸の前でそっと広げて鏡に自分を映すその姿は、年老いてもいつまでも美しくありたいと願う女心と、彼女が人知れずしまい込むつらい思いを隠すしぐさでもある。能や歌舞伎では扇子の所作でさまざまな意味を表現することができるように、映画の中でも、扇子は、言葉を使わずに感情表現を伝える小道具なのだ。
扇子で隠すヘンダーソン夫人の胸のうちとは? 映画は終盤、自由かっ達な性格で、裕福なヘンダーソン夫人が、なぜヌードレビューの上演を考え実行したかが明かされる。それは亡くした息子への、母として女としての精一杯の愛情だったのだ。
(2005年/スティーヴン・フリアーズ監督/原題「MRS HENDERSON PRESENTS」)![]()
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