2008年02月23日

映画レビュー「いつか眠りにつく前に」3

いつか眠りにつく前に
◆プチレビュー◆
死を目前にした母が胸に秘めていたのは娘たちが知らない悲恋。豪華キャストで描くしっとりとした女性映画だ。 【65点】

 人生の最期を迎えた老婦人アン。母の枕元の二人の娘が聞いたのは、自分たちが知らない男性の名前だった。夢とも現実ともつかない意識の中で、若かった日々を振り返るアンの脳裏によぎった過去の過ちとは…。

 豪華女優競演で話題の徹底した女性視点の作品である。派手さはないが、人生を振り返ることができる年齢の大人に、静かな感動を届けるドラマに仕上がった。見終われば、入り江を染めて沈む美しい夕日のように、穏やかな余韻を残してくれる。

 脚本は、原作者のスーザン・マイノットと、「めぐりあう時間たち」の作者マイケル・カニンガムによる共同執筆だ。映画は回想形式で、現代と過去を頻繁に行き来する。どちらの時代の女性たちも悩みを抱えていて、人生の決断を迫られている。

 老いたアンは、自分の過去を振り返り、死を前にしても心が休まらない。歌手になって成功したかった。愛する人と結ばれたかった。もっと良い妻、良い母でいたかった。中でも親友ライラの結婚式で出会ったハリスとの短い恋は、アンの中で大きな傷となった。ある青年の死を招いたこの悲恋は、老いてなおアンの悔恨の思いとして疼いている。だが映画はその“過ち”を決して責めない。

 ライラとアンは、この不幸な事件以来、疎遠になってしまう。終盤、封印されたも同然だったライラがアンを見舞う場面は静かなクライマックスだ。出番は少ないが印象的に現れるメリル・ストリープのオーラがすごい。老いたライラ役の彼女がアンのベッドにそっと横たわり、人生を悔やむ彼女を癒す。この場面は、若きアンが結婚を迷うライラとベッドの中で語り合う場面と対になっていて、抜群の効果を上げている。歳を重ね、顔にシワは刻まれたが、この時の二人の美しさは比類がない。アンの一生分の胸のわだかまりを、短い会話と味わい深い演技で一気に昇華させる展開が見事だ。映画の醍醐味とは、目を見張るアクションでも高度なCGでもなく、こんな風に、役者の演技によって時間と空間を越え、人間の生きてきた姿を映し出すことだと思う。

 俳優たちはみな丁寧な演技で好演だが、注目したいのは、二組の母娘の女優たちの共演だ。ヴァネッサ・レッドグレイブとナターシャ・リチャードソン。メリル・ストリープとメイミー・ガマー。それぞれが母と娘、若き日と老いた日という役柄を演じ、物語に説得力を与えている。彼女たちが渡す演技のバトンは、映画の中でも、母娘二代をつなぐ人生の線になった。

 自分の選択を悔いることは人間なら誰でもあるだろう。過ちを含めて人生を肯定するには、勇気と経験が必要だ。人生の最期というシチュエーションは想像するしかないが、ある年齢に達すれば、つらく悲しい記憶は、時間という名の雪が降り積もって浄化されるものなのか。もしそうなら思うようにならない人生も頑張って生きていける気がする。幸せになろうと努力してと娘を励ますアンのような満ち足りた表情になれるなら、その人の一生は完璧なものと思えてくる。

(シネマッシモ評価:★5つが満点)女性映画度:★★★★★

□2007年 アメリカ・ドイツ合作映画 原題「EVENING」
□監督:ラホス・コルタイ
□出演:クレア・デインズ、ヴァネッサ・レッドグレイヴ、メリル・ストリープ、他

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現代と50年代をまたぐ物語。死期迫る病床の主人公アンにヴァネッサ・レッドグレイヴその親友ライラにメリル・ストリープ50年代と若き日のアンをクレア・デインズ。若き日ライラはメリル・ストリープの実の娘メイミー・ガマーアンの長女にヴァネッサ・レッドグレイヴの実の...
この記事へのコメント
1. Posted by やまたく    2008年02月25日 02:02
まち子さん、こんばんはー。
人生を深く描いた映画だと思いました。
悔いも、あやまちも引っ括めての人生。
それすら豊かさの一部だと思えたら幸せななのもしれませんね。。。
2. Posted by まちこ    2008年02月25日 10:11
やまたくさん、おひさしぶりです〜。
コメントとTBをありがとうございます。

この映画、アメリカでは女性には好評、男性には不評で、ネット上で大論争になってるそうですよ。ケンカになるほどの派手さはどこにもないんですけどねー(笑)。明らかに女性映画ですが、男女というより、年齢によって評価が分かれる作品だと思います。

監督が撮影監督出身だけあって美しい映像を堪能できる、ヒューマン・ドラマでした。人間描写が丁寧な映画には好感が持てます。
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