バンテージ・ポイント コレクターズ・エディション
◆プチレビュー◆
8つの視点で繰り返される大統領暗殺の真相は多重構造。スピーディな映像は一瞬も目が離せない。 【80点】

 シークレット・サービスのバーンズはスペインで首脳会議に出席する米国大統領の警護に当たる。だが、群集が集まる会場広場で大統領が何者かに狙撃される。パニック状態の現場には、それぞれの位置から事件を目撃した8人の異なる視点があった…。

 大人気スターこそいないが、渋いキャストで活写する斬新な作品だ。ひとつの事実を視点を変えて描く形式は、羅生門スタイルと呼ばれる。もちろん出典は黒澤明の名作「羅生門」。ただ「羅生門」は、目撃者が誰もいない深い森の中での事件を当事者が自分の都合のいい解釈で語るもの。一方、本作は、公衆の面前で起こった大統領狙撃で粉々になったパズルを、周辺に飛び散った8個のピースの意味を問い直しながら再構築していく。映画は、広場に居合わせた様々な人間の思惑を示しつつ、狙撃の瞬間の前後数十分という短い時間を繰り返すことで、緊張感をグイグイと高めていく。脚本は実によく練られており、屈指の知的アクション・サスペンスに仕上がった。

 バーンズは、優秀なシークレット・サービスだが、過去に身を挺して大統領を救った時に撃たれたトラウマから精神的に立ち直っていない。狙撃事件はそんな不安定な彼の心理状態を表すかのように、次々に新事実を提示して核心に迫っていく。バーンズの他に、ビデオカメラ片手の観光客、TV局クルー、地元警察官、テロリスト、さらに幼い少女と母親など、キャラクターの配置もメリハリが効いている。米国大統領狙撃という世界中を揺るがせる大事件を、一般人の数分を繰り返す小さな世界で解決に導く秀逸な対位法。その旋律は八度のカノンとなって奏でられる。

 注目したいのは、真相に迫る決定的な手助けとなるのが、複数の機材を駆使するTVカメラの映像であること。これは、市民を監視する目の代理品だ。管理社会の是非を問う声は大きいが、一方で犯罪防止への道も切り開くのが映像メディアの特質なのだ。どれほど周到に準備しても必ず生じる不確定要素を、冷静に記録するカメラの前では、テロリズムも崩れ去る。だが、映っている出来事が真実かどうかを確かめる術(すべ)は、最終的には人間だけが持っている。終盤の激しいカーチェイスと銃撃戦はハリウッド・アクションのお約束で、平凡な演出ではあるが、アメリカと対テロ戦争への批判のまなざしは、強い問題意識を感じさせるものだ。

 この映画では、世界を救う行動がある家庭の崩壊をくい止め、さりげなく希望を提示してくれる。だが、米国大統領一人のために大勢の命が軽々しく危険にさらされる実態は決して物語ではなく、歴史に何度も登場し、現在も戦争という形で進行形の出来事ではないか。大統領暗殺は、未遂も含めると何も珍しいことではない。時には大統領の命が“首尾よく”奪われることもある。多くの流血の塊の上に立っているのが世界一の大国アメリカの指導者の正体だ。この映画の視点の一つは、そんな大統領さえ、8分の1に平等化して権力の絶対性に疑問を突きつけることを忘れない。上映時間は1時間30分と短いが、キリリと締まった秀作だ。

(シネマッシモ評価:★5つが満点)スピード感度:★★★★★

□2008年 アメリカ映画 原題「Vantage Point」
□監督:ピート・トラビス
□出演:デニス・クエイド、フォレスト・ウィテカー、ウィリアム・ハート、他

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