つぐない [DVD]つぐない [DVD]
◆プチレビュー◆
格調高い恋愛ドラマの終盤には静かな驚きが用意されている。英国の実力派俳優の演技が見事。 【85点】

 戦争の影が忍び寄る1930年代のロンドン。上流階級の令嬢セシーリアは、屋敷の使用人の息子ロビーと強く惹かれ合っていた。だが、幼く多感な妹ブライオニーの嘘により、ロビーは無実の罪をきせられ戦場へと送られてしまう…。

 事の発端はひとつの嘘。13歳の妹が姉の恋人への幼い恋心から嫉妬する。それに性への恐れや無知による誤解が加わって、彼女は言った。「いとこのローラを襲っていたのは彼よ。私はこの目で見ました」。少女時代特有の残酷さと言ってしまえばそれまでだが、ブライオニーが作家志望という設定が実に効いている。彼女が嘘をつくのは運命と言っても過言じゃない。小説家というのは、物語という嘘を紡ぐ職業なのだ。例えその嘘が、一組の若いカップルを破滅へ導き、作家自身が罪の重さを背負って生きることになろうとも。

 ストーリーは恋人たちの運命を狂わせた妹と戦争の悲劇の中でも強く愛し合う恋人たちのメロドラマとして堂々と進む。それぞれの時代のブライオニーを演じる3女優に共通の青い瞳のおかげで、時間の流れがとても自然に感じられるのは、この作品の大きな長所だ。かなり複雑な物語を、破綻なく描いてみせた監督ジョー・ライトの手腕は相当なものである。英国上流階級の、麗しいが特権的な階級意識を盛り込むのも巧みなら、ダンケルクの戦場の地獄絵図の迫力も見事。驚異的な長回しの映像は目を見張る。運命の波に翻弄されるドラマのスケールに酔いながら、誰もが引き裂かれた恋人たちの再会を願うだろう。

 映画はブライオニー、ロビー、セシーリアと、時には過去に遡って物事の源流を見せながら、視点を次々に変えていく。事実をあらゆる方向から語ってくれているかのようだ。そして再びブライオニーを登場させる。大作家となり老いたブライオニーはTVのインタビューで、小説「つぐない」は自分の遺作、韻も装飾も抜きで真実を語りたいと言う。その直後、今まで追ってきた物語が最後の最後で激しくスピンし、大きな感動は静かなサプライズに変わった。騙された驚きと崇高なカタルシスが同時に押し寄せる。このどんでん返しはあまりに鮮やかで哀しい。

 深い余韻と共に、見終わって耳に残るのはタイプライターをたたく古風な音だ。劇の脚本を書く少女、ほんのいたずらで淫らな手紙を書いてしまう青年、小説を自らの贖罪とする作家。タイプライターは20世紀初頭という時代背景を端的に表す小道具だが、現代のパソコンと違い一度文字を打ったら書き直しはきかない。そのことを踏まえて考えると“書く”という行為は、何と美しく罪深いことだろうか。すべての運命は書き手に委ねられる。神と同じ力と責任を背負う覚悟が作者にあるかどうかは別として、何かを書き残そうとするのが人間の悲しい業だ。なぜなら人は生きていくのに物語を必要とする。残酷な真実も優しい嘘も、すべて含めて“生きる”ということなのだから。

(シネマッシモ評価:★5つが満点)サプライズ度:★★★★☆

□2007年 イギリス映画 原題「ATONEMENT」
□監督:ジョー・ライト
□出演:キーラ・ナイトレイ、ジェイムズ・マカヴォイ、シアーシャ・ローナン、バネッサ・レッドグレーヴ、他

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