映画レビュー「フィクサー」
フィクサー [DVD]
◆プチレビュー◆
俳優の演技合戦がたっぷり楽しめる大人の映画。硬派なジョージ・クルーニーが魅力的だ。 【80点】
マイケルは大手法律事務所の弁護士。しかし彼の仕事は不祥事を陰で処理するフィクサー(もみ消し屋)だ。重宝はされるが昇進もなく、私生活でもトラブルを抱えて行き詰っている。そんな中、巨額の薬害訴訟担当の同僚弁護士アーサーが企業の悪事の暴露を企て、マイケルが事態を収拾することになる…。
社会の不正の中で自分は何をすべきか。ふと心がピュアになった瞬間にその分水嶺は見えた。裏稼業専門のマイケルは、野生馬の姿に心を奪われ立ち止まる。“美しさに感動する心”を彼がまだ持っていたこと。これが主人公を変えた。映画は、冒頭に車の大爆発という派手な場面を用意し、それから過去へと遡って、いったいなぜ彼が命を狙われたかを解き明かしていく。これは、綺麗事ではすまない現実の中で、個人の立場を問うスリリングな意欲作だ。
物語は社会派サスペンスと人間ドラマの両面を持つが、いくらでも娯楽作になる題材を、あえて地味なスタイルにした点に、作り手の本気度が見える。キャスティングもしかり。硬軟演じ分ける実力派で人気スターのクルーニー、演技派のウィルキンソン、クセ者女優スウィントンと聞けば、映画ファンなら誰もがうなるだろう。
三人三様の個性は静かな火花が散る演技合戦となり、非常に見応えがあるが、役柄の内面性という点では、スウィントンが抜きん出る。仕事に誇りが持てないマイケルの焦燥も、良心に目覚めたアーサーの苦悩も、巨大農薬会社の法務部本部長で、企業の利益のためなら手段を選ばないカレンの、パニック寸前の精神状態に比べれば、まだ救いがあるとさえ思えた。鏡に向かって何度もインタビューの練習を繰り返す異様な姿。脇にはびっしょりと汗。引きつった笑顔。保身のために理性を無くしたことさえ気付かない人物を、冷徹さと脆さの両方をにじませて演じたスウィントンの表情は、見事なものである。
監督のトニー・ギルロイは脚本家出身だけあって人物描写が非常に丁寧だ。だが丁寧すぎて前半がダレるのが惜しい。主人公の家族を登場させ人物像を掘り下げるが、マイケルが暗い地下室でギャンブルに興じる場面とその憔悴しきった顔だけで、彼がのっぴきならない状況にあることは、完璧に理解できる。フィクサーとその同僚、そして女性企業弁護士。崖っぷちにいる3人の関係性こそがこの映画の黄金率だ。それに絞って物語を語るべきだったと思う。
それでもこの極めて地味な作品は単なるサスペンスに終わらず、人間の最も弱い部分を炙り出すことに成功している。誰かが誰かに勝利するのではない。追い詰めるのは他でもない自分自身だ。ここにこの映画の質の高さがある。自分を見失っていた男が人生の軌道を修正するストーリーは、手垢がついたものかもしれないが、ラストの主人公の行動には胸がすく思いだ。劇中で2度登場する野生馬の姿は、厳しい現実の中にもあるべき人間性の象徴なのである。
(シネマッシモ評価:★5つが満点)大人向け度:★★★★☆
□2007年 アメリカ映画 原題「Michael Clayton」
□監督:トニー・ギルロイ
□出演:ジョージ・クルーニー、ティルダ・スウィントン、トム・ウィルキンソン、シドニー・ポラック、他![]()
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>劇中で2度登場する野生馬の姿は、厳しい現実の中にもあるべき人間性の象徴なのである
あの馬の意味がよくわからなかったのですが、人間性の象徴だったのですか。
息子が読み、トムも読んでいた「王国と征服」に何か関連があったのか?と思っていましたが・・・
DVDが出たら確認しなくては。
映画を見たくなりました。
>ふと心がピュアになった瞬間にその分水嶺は見えた。
人はこの瞬間の積み重ねで生きています。どの方向へ向うかは人それぞれですが、生きる醍醐味ですね。
映画を楽しみにさせていただきます。
野生馬を人間性の象徴と思ったのは、あくまでも私の解釈です。確かに「王国と征服」も重要なモチーフでしたね。これ、本当にある小説かと思ったら、監督やスタッフが考えた、映画のためのオリジナルの創作ファンタジー小説ですって。ただ「王国と征服」は主人公マイケルよりも、ryokoさんご指摘のようにトム・ウィルキンソン扮するアーサーに、より影響を与えていました。劇中で、この小説は、真実と正義を表すものという位置付けです。つくづくこの映画、隅々まで気を配った作りなんですね。
また遊びにきてください。コメントもお気軽にどうぞ。
私のレビューで「映画を見たくなった」とのお言葉、何よりも嬉しいコメントでした!この作品、非常に地味で専門用語も多く、少々手強いんですが、見応えありの秀作ですよ。
ご覧になったらぜひ感想を聞かせてくださいね。
3本立てですか!お疲れ様でした(笑)。
「フィクサー」は、企業の訴訟や法律用語が難しいので、最初はセリフに少しとまどいますが、物語そのものは、非常に分かりやすいですよね。少々ヒネリはありますが、勧善懲悪ものと言っていいと思います。
ティルダ・スウィントンは役作りのために体重を増やしていますが、実際はとてもおしゃれで知的な女優。イギリス映画では、デレク・ジャーマンをはじめ、かなりマニアックなアンダーグラウンド映画で活動していたこだわりの役者なんですよ。オスカーをとって、今後はひっぱりだこでしょうね。

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