ゼア・ウィル・ビー・ブラッド
◆プチレビュー◆
ダニエル・デイ=ルイスがド迫力の怪演。石油という権力を追い怪物になった男を描く暗い力作。 【90点】

 石油ブームに沸く20世紀初頭のカリフォルニア。一攫千金を狙うプレインビューは、幼い息子を連れて採掘を行いながら土地を安く買い占めていた。やがて石油を掘り当てるが、自らの欲望に囚われ常軌を逸していく…。

 映画は、プレインビューの人間性をいきなり観客に叩きつける。冒頭、彼が黙々と採掘作業をする場面がそれだ。この約20分のシークエンスにはいっさいセリフがない。誰の助けも借りない。誰も信じない。暗い穴の底にいるプレインビューは狂気そのものだ。どす黒い血“石油”が「人に対して好意を抱けない」と言う彼を主人と決めたとき、油井で大火災が発生し、欲望の雄たけびが響きわたる。毒にまみれながら破滅の道をいく男。それがプレインビューだ。

 こんな怪物を演じられるのは、なりきり俳優ダニエル・デイ=ルイス以外にいない。目つきからして完全にイッている。劇中で見せる笑顔や泣き顔が、これまた怖い。この俳優の発するパワーは桁違いだ。さらに彼の気迫は、共演のポール・ダノにも波及した。本作で彼が優れた役者だと気付く人は多いだろう。

 そのポール・ダノが演じる若きカリスマ牧師イーライとプレインビューは、宿敵にして分かち難い分身だ。二人の確執が物語の核となる。イーライは福音伝道師だが、根っこの部分は金で動く俗物。彼の権力欲はプレインビューのそれと少しも変わらない。土地買収のために屈辱的な洗礼さえ受けるプレインビューは「私は罪人だ!」と何度も繰り返すが、彼にそう言わせる偽善者イーライも、最後には神を裏切る言葉を吐くことになる。二人のあまりに破壊的な行為に寒気がした。同時に宗教の欺瞞への糾弾にエキサイトする。

 主人公の並外れた人間不信と神への憎悪の源は何だろう。私は彼の一風変わった肉親愛が気になって仕方ない。息子を道具として使い、邪魔になったらサッサと遠ざけるのに、どこか屈折した愛情を感じる。それは弟と“決別”するときに流す涙にも混じっている。本能のレベルで血縁を求めた結果、裏切られたことが、彼を怪物にしたのではないかと思えるのだ。

 意外なのは、このすさまじい欲望の物語の作り手が、ポール・トーマス・アンダーソン監督ということ。今までのどこかポップな作風をがらりと変え、荒々しく重厚な大河ドラマで絶望を描ききった。ただ、音へのこだわりは健在。ノイズのような不穏なサウンドが革新的で、物語をグッと後押しする。

 プレインビューは富と権力にとり付かれたモンスターだ。こんな人間が現在のアメリカを創ったのかもしれない。強国アメリカは石油という黒い血で肥え太ったが、物語は最後に赤い血を流して果てる。欲望の源流はまだ枯れてはいないようだ。口あたりのいいお気楽な物語を好む人には勧めない。だが、本物の映画の迫力を感じたいなら、この作品だ。疾風怒濤の158分に魂が震える。

(シネマッシモ評価:★5つが満点)音響効果度:★★★★★

□2007年 アメリカ映画 原題「There Will Be Blood」
□監督:ポール・トーマス・アンダーソン
□出演:ダニエル・デイ=ルイス、ディロン・フレイジャー、ポール・ダノ、他

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