2008年04月26日

映画レビュー「ゼア・ウィル・ビー・ブラッド」

ゼア・ウィル・ビー・ブラッド
◆プチレビュー◆
ダニエル・デイ=ルイスがド迫力の怪演。石油という権力を追い怪物になった男を描く暗い力作。 【90点】

 石油ブームに沸く20世紀初頭のカリフォルニア。一攫千金を狙うプレインビューは、幼い息子を連れて採掘を行いながら土地を安く買い占めていた。やがて石油を掘り当てるが、自らの欲望に囚われ常軌を逸していく…。

 映画は、プレインビューの人間性をいきなり観客に叩きつける。冒頭、彼が黙々と採掘作業をする場面がそれだ。この約20分のシークエンスにはいっさいセリフがない。誰の助けも借りない。誰も信じない。暗い穴の底にいるプレインビューは狂気そのものだ。どす黒い血“石油”が「人に対して好意を抱けない」と言う彼を主人と決めたとき、油井で大火災が発生し、欲望の雄たけびが響きわたる。毒にまみれながら破滅の道をいく男。それがプレインビューだ。

 こんな怪物を演じられるのは、なりきり俳優ダニエル・デイ=ルイス以外にいない。目つきからして完全にイッている。劇中で見せる笑顔や泣き顔が、これまた怖い。この俳優の発するパワーは桁違いだ。さらに彼の気迫は、共演のポール・ダノにも波及した。本作で彼が優れた役者だと気付く人は多いだろう。

 そのポール・ダノが演じる若きカリスマ牧師イーライとプレインビューは、宿敵にして分かち難い分身だ。二人の確執が物語の核となる。イーライは福音伝道師だが、根っこの部分は金で動く俗物。彼の権力欲はプレインビューのそれと少しも変わらない。土地買収のために屈辱的な洗礼さえ受けるプレインビューは「私は罪人だ!」と何度も繰り返すが、彼にそう言わせる偽善者イーライも、最後には神を裏切る言葉を吐くことになる。二人のあまりに破壊的な行為に寒気がした。同時に宗教の欺瞞への糾弾にエキサイトする。

 主人公の並外れた人間不信と神への憎悪の源は何だろう。私は彼の一風変わった肉親愛が気になって仕方ない。息子を道具として使い、邪魔になったらサッサと遠ざけるのに、どこか屈折した愛情を感じる。それは弟と“決別”するときに流す涙にも混じっている。本能のレベルで血縁を求めた結果、裏切られたことが、彼を怪物にしたのではないかと思えるのだ。

 意外なのは、このすさまじい欲望の物語の作り手が、ポール・トーマス・アンダーソン監督ということ。今までのどこかポップな作風をがらりと変え、荒々しく重厚な大河ドラマで絶望を描ききった。ただ、音へのこだわりは健在。ノイズのような不穏なサウンドが革新的で、物語をグッと後押しする。

 プレインビューは富と権力にとり付かれたモンスターだ。こんな人間が現在のアメリカを創ったのかもしれない。強国アメリカは石油という黒い血で肥え太ったが、物語は最後に赤い血を流して果てる。欲望の源流はまだ枯れてはいないようだ。口あたりのいいお気楽な物語を好む人には勧めない。だが、本物の映画の迫力を感じたいなら、この作品だ。疾風怒濤の158分に魂が震える。

(シネマッシモ評価:★5つが満点)音響効果度:★★★★★

□2007年 アメリカ映画 原題「There Will Be Blood」
□監督:ポール・トーマス・アンダーソン
□出演:ダニエル・デイ=ルイス、ディロン・フレイジャー、ポール・ダノ、他

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& POWERinTheSPEECH。
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富の誘惑と権力欲の行き着く果て。
15. 「ゼア・ウィル・ビー・ブラッド」  [ 或る日の出来事 ]   2008年05月08日 07:15
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13. ゼア・ウィル・ビー・ブラッド  [ I N T R O ]   2008年05月06日 08:06
『変わることのできない男の悲哀』 / ポール・トーマス・アンダーソン(PTA)監督と言えば、個人的に奇を衒った仕掛けや才気走った作風によって、専ら「気鋭」と評されることが多い監督という印象を持っていた。5年ぶりの最新作となる本作は、しかし意外にもそうしたイメージ...
12. ゼア・ウィル・ビー・ブラッド  [ eclipse的な独り言 ]   2008年05月05日 07:51
 これはなんという映画でしょう!「映画」を観た!という気持ちが一杯です。ネタばれ
11. ゼア・ウィル・ビー・ブラッド  [ 映画のメモ帳+α ]   2008年05月04日 00:45
ゼア・ウィル・ビー・ブラッド(2007 アメリカ) 原題   THERE WILL BE BLOOD   監督   ポール・トーマス・アンダーソン   原作   アプトン・シンクレア 『石油!』    脚色   ポール・トーマス・アンダーソン       撮影   ロバート・エ...
10. 【映画】 ゼア・ウィル・ビー・ブラッド  [ Coffee and Cigarettes ]   2008年05月03日 23:32
今回は、映画「ゼア・ウィル・ビー・ブラッド」 一攫千金を夢見るダニエル・プレインヴューは、幼い1人息子を連れて石油の採掘を行っていた...
9. ゼア・ウィル・ビー・ブラッド  [ ☆彡映画鑑賞日記☆彡 ]   2008年05月03日 20:11
 『欲望と言う名の黒い血が 彼を《怪物》に変えていく…。』  コチラの「ゼア・ウィル・ビー・ブラッド」は、4/26公開となった欲望にとりつかれた人間の悲喜こもごもを描いたPG-12指定のヒューマン大河なのですが、観て来ちゃいましたぁ〜♪  NY、LAの批評家協会賞で...
8. ゼア・ウィル・ビー・ブラッド  [ パピ子と一緒にケ・セ・ラ・セラ ]   2008年05月03日 16:24
3 20世紀初頭のカリフォルニア__ひとりの男が、石油によって一攫千金の夢を叶える。 だが、突然の富と権力は彼の魂を毒していく。血塗られた破滅の予感を、密かに漂わせながら・・・。 一攫千金を夢見るダニエル・プレインヴューは、不屈の精神だけを武器に石油を掘り...
7. 『ゼア・ウィル・ビー・ブラッド』  [ Sweet*Days** ]   2008年04月29日 18:18
監督:ポール・トーマス・アンダーソン CAST:ダニエル・デイ・ルイス、ポール・ダノ、ディロン・フレイジャー 他 アカデミー賞主演??.
6. ゼア・ウィル・ビー・ブラッド  [ アートの片隅で ]   2008年04月29日 17:12
「ゼア・ウィル・ビー・ブラッド」の試写会に行って来ました。 2時間半という長さが苦にならない映画でした。 「ノーカントリー」「つぐない」「フィクサー」とアカデミー作品賞にノミネートされた作品を観て来ましたが、この作品が作品賞であれば余り批判は起こらなかっ...
5. 真・映画日記(1)『ゼア・ウィル・ビー・ブラッド』  [            ]   2008年04月29日 16:03
JUGEMテーマ:映画 4月26日(土)◆787日目◆ 朝5時にイベント「t.k.night」が終了。 そのまま打ち上げに参加。30人前後はいたんでは? 7時半前に一足お先に撤収。 9時過ぎに帰宅。 少し休んで10時半前に再び家を出る。 なんとか12時半からの『ゼア・...
4. ゼア・ウィル・ビー・ブラッド  [ 利用価値のない日々の雑学 ]   2008年04月27日 23:33
久しぶりにハリウッドらしい、そして骨太で、ストーリーをはじめ、監督や脚本、役者は勿論のこと、音楽や美術、効果、編集に至るまですべてにおいて「気合の入った」作品を観せて貰った。総合芸術としての「映画」という名に相応しい、そしてまた、余韻を残さないラスト...
3. 「ゼア・ウィル・ビー・ブラッド(THERE WILL BE BLOOD)」映画感想  [ Wilderlandwandar ]   2008年04月27日 23:03
アカデミーでダニエル・デイ。ルイスが主演男優賞を受賞した作品。「ゼア・ウィル・ビー・ブラッド」(原題 THERE WIL
2. 「ゼア・ウィル・ビー・ブラッド」  [ クマの巣 ]   2008年04月27日 19:33
「ゼア・ウィル・ビー・ブラッド」、観ました。 158分!! 長いよ! 殺す気か!(知らずに観てしまいました。おまけに上映館少ねえ〜) ??..
1. ゼア・ウィル・ビー・ブラッド/THERE WILL BE BLOOD  [ 我想一個人映画美的女人blog ]   2008年04月27日 18:00
アカデミー賞作品賞にノミネート、 ダニエル・デイ=ルイスが主演男優賞を獲得し注目の本作は PTAこと、ポール・トーマス・アンダーソン監督の久々の新作{/ee_3/} The Dirk Diggler Story(88) Cigarettes and Coffee(93) ハード・エイト【Sydney】(96) ブギー・...
この記事へのコメント
1. Posted by 朝顔   2008年05月01日 22:51
4 いや〜凄かったです。「パンチドランク・ラブ」の主人公も随分な奴でしたけれど…プレインビューは、「金があれば幸福は買える」とは考えないんですね。目的の為に選ばなかった手段が全てになっている…。
2. Posted by まちこ   2008年05月02日 00:06
朝顔さん、コメントをありがとうございます。

3本立てで、しかもそのうちの2本が「フィクサー」と「ゼア・ウィル・ビー・ブラッド」ですか!濃いラインナップですね〜(笑)。

この作品はダニエル・デイ=ルイスの迫力に尽きると言っても過言じゃないでしょう。主人公が求めるものは幸福ではなく、欲望を満たすこと。ポール・トーマス・アンダーソンの新境地の作品です。21世紀の「市民ケーン」と評されてますが、それも納得の力作でした。
3. Posted by 朝顔   2008年05月02日 00:47
そういえばロバート・アルトマンに献辞を捧げてありましたが、作品そのものはアルトマン的群像劇から大きく変化していましたね。
4. Posted by まちこ   2008年05月02日 09:50
朝顔さん、コメントをありがとうございます。

確かに「ゼア…」は群像劇ではありませんね。
ただPTA(ポール・トーマス・アンダーソン)は、故ロバート・アルトマンの一番弟子だったんですよ。アルトマンの遺作「今宵フィッツジェラルド劇場で」の製作時には、アルトマンに“もしも”のことがあった時にそなえてPTAがいつでも監督を引き継げるように待機していたくらいですから。アルトマンが亡くなってから初めてのPTA作品ですので、献辞を捧げているんでしょう。

PTA作品では「マグノリア」がアルトマンを彷彿とさせる見事な群像劇でしたね。
5. Posted by あげは   2008年05月04日 19:18
観て来ました。小さなスクリーンだったのが不満でしたが、上映されただけ幸せと思わなくてはねぇ。
成り上がったダニエルが豪華な屋敷に住んでるのに、満足そうでなく、なじんでるようにも見えず、孤独と空虚さがただよってましたね。
ラストの「終わった」と言う言葉、自分の影のような存在のイーライを切ったことで、自分の人生も終わったと言ったように感じました。ダニエルのその後がすごく気になりました。たぶんうつろな日々を過ごしたような気がします。
まだ頭のなかが整理されてないのですが、とりあえずの感想です。
6. Posted by たんぽぽ   2008年05月04日 23:23
5 今日、見てきました。
こちらでオススメでしたので、迷わず選択しました。
なんというか、毒気に当てられて、放心状態です。
一風変わった不協和音の音楽も、内容を守り立てていましたね。
今風に、「映画力」なんていう言葉があるとすれば、まさに、これが当てはまると思いました。
7. Posted by まちこ   2008年05月04日 23:52
あげはさん、コメントをありがとうございます。

この映画、どういうワケか非常に冷遇されてるんですよ(涙)。オスカーがらみの秀作ですから、もっと大々的に公開してくれればいいのに…。もっとも、配給会社のディズニーの印象とは激しくかけ離れてはいますね。裸は出ませんが、血は出ますので…(爆)。

ラストの決めゼリフ「終った」は、私もとても印象的でした。こんなことをして自分の人生はもうお終いだ、という思いと、宿敵のイーライとの対決をついに終らせて自分は勝った、との思い。両方が交じり合って、見ている私たちを呆然(ぼうぜん)とさせる強烈なひと言でした。だいたい自家用ボーリング場で、ピンで殴り殺すなんていう設定、初めて見たような気がしますよ。一歩間違えば、ギャグですよね。何だか、久しぶりにスゴいラストシーンを見たっていう印象です。
8. Posted by まちこ   2008年05月04日 23:57
たんぽぽさん、コメントをありがとうございます。

放心状態。判る気がする。大丈夫ですか(苦笑)?
この映画、長さも含めてかなりインパクトがありますからねぇ。何しろダニエル・デイ=ルイスのなりきり度がスゴいので、それだけでも強烈です。
そして、たんぽぽさんご指摘の通り、音楽の力がすさまじい!私はこの映画を思い出すとき、今でもあの不安を煽るメロディが頭の中で鳴り響いてしまい、困っています(←マジ)。

「映画力」。まさしく!ユルい純愛ものばかり見てると脳がフニャフニャになりますので、そういう時は、こんな映画でガッツリいきましょう!
9. Posted by j.f.s.   2008年05月30日 00:39
はじめまして!当地の公開で最近この映画を見ました。映画はとても面白かったのですが、聞いていた話と随分違って思えました。
公には酷い言われ様してますが(笑)、自分には潔癖すぎる主人公の物語だと思えました。映画見て以来、彼、誤解されてるなぁと、ずっと本気で気になり続けてます(笑)。
プロの方々とまるで違うことを書いていて恐れ多いのですが、主人公の弁護(!)としてどうかトラックバックさせて下さい。
「音」がとても不気味でした。個人的には黒ずくめのイーライ君の迫力に「賞」あげたいです!
10. Posted by まちこ   2008年05月30日 23:49
j.f.s.さん、はじめまして。コメントとTBをありがとうございます。
貴ブログを訪問しましたが、現在TBは受け付けてないようなので、TB返しは行っていません。ご了承ください。

「ゼア・ウィル・ビー・ブラッド」はとてもいい映画なんですが、公開劇場が少ないのがツラいところです。映画の評の内容や評価が違っていても全然OKですよ。プロだろうがアマだろうが一緒である必要なんてないし、ご自分の感じたままでいいと思います。

イーライ役のポール・ダノ、上手かったですねぇ。私も彼の演技には何か賞をあげたいと思ったほどでしたが、何しろダニエルがあの通り驚異的な迫真演技だったのでちょっとソンしたかも…ですね。

また遊びにきてください。コメントもお気軽にどうぞ。
11. Posted by j.f.s.   2008年05月31日 02:17
>まちこ さま 
いきなりのTB&コメントにご丁寧なご返信、ありがとうございました!
多くの人の心を捉え得る、魅力的な物語世界を持つ映画だと思います。せっかく劇場にかけられながら、この映画が観客と充分なコミュニケーションがとれているのか、見て以来そのことがずっと気にかかり続けています。もし載せていただいたTB目にして、もう一度この映画の世界に近づいてみようかと思ってくださる方が1人でもいらっしゃれば、映画を楽しんだ者として幸いです。
『Mr.ブルックス』記事読ませて頂いたら、見てみたくなりました〜♪
12. Posted by まちこ   2008年05月31日 21:39
j.f.s.さん、コメントをありがとうございます。

この映画は口コミが勝負の秀作。
上映時間はちょっと長いですが手応えのある1本でした。
TB、コメント共に、これからもお気軽にどうぞ。
「Mr.ブルックス」も、ご覧になったら感想をお待ちしています。

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