ペパーミント・キャンディー
ペパーミント・キャンディー
韓国映画「光州5・18」では、光州事件の全貌が描かれている。この事件は、1980年5月18日から27日にかけて、韓国の光州市で発生した民主化運動弾圧事件。韓国の歴史の中でも特に悲劇的な傷跡を残す出来事と言っていい。
光州事件を、初めて“正面から”描いた「光州5・18」だが、それ以前にもさりげなくこの事件について触れている映画は、いくつかある。その中の1本が、イ・チャンドン監督、ソル・ギョング主演の「ペパーミント・ジャンディー」だ。
物語の主人公は、全てを失くして自殺しようとする男ヨンホ。病床にある初恋の女性を見舞う3日前に遡るのを発端に、ストーリーは、時間を逆行するというユニークな構成で描かれる。事業では成功するものの妻の浮気を知る。警察が国家に隷属していると知りつつ刑事になる。苦く痛烈な思いをする徴兵時代。愛する人と未来に対して輝く夢を語った20歳の頃。これは、自殺寸前の中年男が、最後に希望に満ちた若者へと変わる皮肉な仕掛けだ。
主人公が人生の敗北者であることは、映画冒頭ではっきりと分かる。なぜこうなったのかということを時間を遡って語っていくのだが、主人公ヨンホの人生を狂わせるきっかけになったのが、徴兵時代に経験した光州事件という設定だ。一兵士だったヨンホは、戒厳令下の中、暗闇の中で負傷し、誤って発砲。不可抗力で女子高生を射殺してしまう。平凡で前向きな青年だった彼の心に、この出来事は、大きな傷となって残ってしまい、その後、自暴自棄の人生をおくることになってしまうのだ。
「光州5・18」は民衆の側に立ったドラマで、何の説明もなく丸腰の市民や学生に発砲した軍は、匿名性の強い無個性な人間たちとして描かれる。だが「ペパーミント・キャンディー」の主人公のように、何が何だかわからないまま命令を受けた若者も大勢いたに違いない。事実、当時の軍事政権によって、厳しいマスコミ統制が行われていたため、一部の例外を除いて、外国メディアはおろか、韓国国民にも事件について詳しく説明されることはなかった。長い間、光州市民は暴徒と考えられていたというから、まさしく悲劇だ。両方の作品を見ると、いかにこの事件と時代が不当なものであったか理解できる。
主人公が徴兵される前に勤めていた工場で作っていたのがペパーミント・キャンディー。純粋さと希望の象徴に思える。時間を遡るという個性的な演出法が印象に残る作品だったが、事件を正面からとらえた「光州5・18」が世に出た後ならば、逆に本作の演出意図も伝わりやすくなろう。一人の男の人生を語る形で、韓国の近・現代史をたどり、同時に現代へとつながる民主化への苦い流れを検証しているのだ。
ちなみに本作は、日本のNHKと韓国の共同制作で、韓国の日本文化開放後、両国が最初に取り組んだ記念すべき作品だということも付け加えておきたい。
出演は、ソル・ギョングほか、ムン・ソリ、キム・ヨジン、他。
(1999年/日本・韓国/イ・チャンドン監督/原題「Peppermint Candy」)
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